軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

挿話【ドミニク卿の熱い春2】

数日後ようやく落ち着きを見せたパジャー子爵領で、シュンスケは子供達をぞろぞろ引き連れて、砦の庭に魔力の力業で作った芋畑へ収穫に行った。あんなに魔法を使っていたのに、まだ芋迄育てていたのか。

そうして数時間後、子供たちがにぎやかに帰ってきた。手に手に自分たちの顔程ありそうなデッカイ甘藷を誇らしげにぶら下げて。シュンスケも虎人族の公爵の息子もいい笑顔だ。

しかもみんなで満面の笑みの集合写真という精巧な絵を女神の魔道具で撮ったらしい。

「シュンスケ、この写真を、ベスティアランドへもお土産に複製してくれないか?」

「いいですよ!この際でっかくしちゃいましょうか」

「ああ!たのむ」

獣人も人間族も子供たちが仲良く笑顔で収まっている写真をみれば平和を続けられるような気がしたんだ。そう言って笑うシュンスケに頷く。

事件のすぐあと、皇帝陛下はベスティアランド王国と公爵家に直筆の手紙を早馬で届けてくれていた。そして、帝都から二十名の兵士と、揺れの少ない大きな上等な馬車を二台用意してもらって、王国の子供達を送ることになった。馬車には俺と、ボルドー殿下も同乗する。

ボルドー殿下も皇帝の名代として、王国を訪問することになった。それから侍女と。

街に着くたびに馬を変えながら、一週間で王国の国境を越えた。

「ようこそお越しくださいました、ボルドー殿下、そして久しぶりですねえっと・・・」

「ふふふ、姫はドミニク卿が若返ったのにびっくりしたのじゃない?」

からかう殿下に、彼女が思わず赤くなっていた。俺も顔が熱かったのは確かだ。

国境で出迎えてくれたのは、懐かしくも美しいホワイトタイガーだった。

「ほんとうにドミニクなの?」

冒険者スタイルの姫の出で立ちに懐かしさがこみあげてくる。

「はい、ご無沙汰しています、レイヤー姫」

ボルドー殿下の後に続いて姫の右手を右手で取ってキスを。

「本当に、右手が治ってるのね」

キスをした手で右手をキュッと握られる。

「はいおかげさまで」

「今、わが国には天使がいるのですよ」

「ボルドー殿下、それはアイツが嫌がる・・・」

「でも彼を見た人はそう思ってるだろ」

「天使?」

「ふふふ、そのうちご紹介しますよ」

「ええ!ボルドー殿下」

七年前、俺はこの国の王都のギルマスをしていた。

俺はガスマニアの貴族の末席にはいたが、丁度その時はベスティアランドとガスマニアで戦をしていた。もとはというと、虎人族の国にラーズベルト辺境伯が領地を広げようとちょっかいを出していたのだ。前ラーズベルト辺境伯は人間族至上主義だったからな。先日シュンスケが捕まえたヤーコブってやつと、侯爵のエゴンと三人が主体で二国を巻き込んで争っていた。

俺は何とか冒険者ギルドから、戦争を押さえるために奮闘していた。そんな俺を助けるためにウリアゴの親パーティーと、もともと俺のパーティーのレベッジだったメンバーもこの国に来ていた。

ある日、エゴンが大量の魔力石と爆発の魔法道具を仕入れたという情報が通信の魔道具に入ってきたので、王国側の国境を守るために皆で出かけた。

「レイヤー姫お下がりください」

「自国を守るためなのよ、冒険者は国は関係ないとはいえ、もとはと言えば敵の、ガスマニアの人たちにばかり守られるのはちょっと、虎人族として情けないでしょう?」

「しかし危険ですよ!貴方は姫なんですよ!」

ウリサの母親も叫ぶ。

「貴女こそ、子供がいるんでしょう?死んじゃ駄目よ」

「でも、情けない姿を残すわけにもいかないのです」

「子供が見てるわけじゃないんだから。貴方は冒険者なんだから、こんな戦争に参加してはだめよ」

「いたぞ、あれはレイヤー姫だ」

「白虎姫だ!彼女の首を!」

なんてことを、こんな美しい姫の首を戦争で打ち取られてたまるか。

「姫!お下がりください」

しかも姫は他の虎人族より前に出ていたのだ。

俺は恩人に言われたのだ、自国とこの国の戦争を止めてくれと!

ガスマニアの皇帝や、ヤーコブやエゴンは、第二皇子が責任をもって殺ると言ってくれていた。だから俺はこっちの王族を守らなければならないのだ。なのに彼女はどうして危険な所に出たがるのか。これが虎なのか・・・。

ヒュゥゥゥ・・・

「姫!危ない!」

南の方から飛んできた沢山の物体から姫をかばうため俺は飛んだ。

彼女の頭を抱えるように。

ドドーン

「うわぁー」

「「きゃー」」

耳元では仲間の叫び声が聞こえていた。

「うっ姫!大丈夫ですか!」

「私は大丈・・・きゃあ、ドミニク!」

彼女が俺を呼ぶ声を最後に気を失っていた。

目を覚ますと俺はベスティアランドの教会の救護所の個室に居た。うつぶせで寝かされていたようだ。

どうやら俺は背中と頭に激しい損耗があったようだ。手足はある。しかし右の手足がもぎ取られでもしたかのように感覚が無かった。痛みは無かったが。それより左後頭部と背中が燃えるようだった。

「ドミニク!」

「姫」

「ああ、気が付いたのね。良かった」

「レイヤー姫、ウッ」

「ま、まだ動いてはだめよ」

「はい。ですが俺の仲間は」

「それが残念ながらみんな・・・」

「そうですか」

とっとと帰ってあいつ等の子供達を見なければな。

「でも、ひとり、隣の軽症者の部屋にいるわ、呼んでくるわね」

姫が出ていくと、すぐに一人入ってきた。

痛みが酷くてそいつの方に頭を動かせねえ。

「よう、スゲー格好だな。ってて」

「ゲールか」

生き残ったのは、そいつだけだった。

「お前も怪我したのか?」

「俺は背中を打ち付けたみたいだ」

「そうか」

見ると胸のあたりから腰にかけて包帯でぐるぐる巻きにされていた。

クマ人族が少しミックスされた頑丈なゲールでもあんなに辛そうだ。

ただの人間族だった他の奴らはもう・・・

そしてゲールとは、お互い冒険者は廃業だなと言い合っていた。

数日後、ギルマスに無理やり復帰した俺は、痛みから脂汗を流しつつも執務をこなしていた。戦後復興に冒険者の依頼が多かったからだ。仕事の量は怪我の痛みをごまかすのに役立っていた。

そんなある日、懐かしいインパラ族に変装していたあの方が訪ねてきた。

「遅くなって済まない」

「いえ、貴方様が謝ることなんてありませんよ」

「しかし、私が頼んだことに責任を感じてこんなことになったんでしょう?」

「まあ・・・でも貴方に頼まれなくても俺はこうしてたと思いますよ」

「とりあえず痛みだけでも取り除いてあげましょう」

そういうと、麗しいハイエルフは、手のひらから白い柔らかな光を放つと俺の全身を包みだす。

痛みが引いて、脂汗も収まっていく。

「ありがとうございます」

「痛みを取り除いただけですよ。右側の麻痺はまだあるでしょう?」

「ええ、でもこれでも一応母国で魔法を習得したんです。乗馬ぐらいなら魔法で補助して乗りますよ」

「そうですか、でも無理をしてはだめですよ。人間は寿命が短いのですから」

そう言って三千年以上生きてきているハイエルフの王が俺を諭す。

彼から見たら俺なんぞは赤子のようなものかもしれないな。

翌年、約束通り第二皇子が皇帝を拘束し、エゴンやヤーコブを捕まえて、戦争が終わった。

あれから六年、俺はまたこの国の王都にやってきた。国境からは白虎の姫が馬で付いてきた。

「ボルドー殿下、王城につきましてございます」

兵士の一人が声をかけて、馬車の扉を開ける。

俺がもしもの時のために先に出る。そのあとに殿下。そうして、虎人族の子供達を降ろしていく。

「みんな手をつないでね」

公爵の三男のスタイが子供達をまとめてくれている。ガキのくせになかなかの統率力だ。将来有望な貴族だ。

王城に入り、謁見の広間に案内される。突き当りの王座にはブリング・フォン・ベスティア。この国の現国王だ。

玉座の前の定位置に着くと、ボルドーは跪いて挨拶をする。もちろん俺もそれに倣う。

「お初にお目にかかります。ガスマニア帝国第二皇子ボルドーでございます」

ブリング殿下は王座から立ち上がるとボルドーの前まで行き、しゃがみ込むとボルドーの手を取り直接立たせた。

「よく来てくれた、そして我甥を無事に連れてきてくれたありがとう」

「いえ、もとはと言えば我が国の犯罪者が起こした人攫いであったこと、国を代表し皇帝に成り代わり謝罪いたします」

そう言いながら、王の右手を取って額に当てていた。

「よし、けじめとしての謝罪はうけとった」

「有難うございます」

「さて、やっと帰国できた子供たちは早く親の元に帰りたいだろう。皆、親が待っているぞさあ!」

部屋に入った時から親を見つけてそわそわしていた子供たちがそれぞれ駆け出していく。

「うわぁ母上ー」

「お父様」

「パパー」

そして、スタイも。

「父上母上、心配かけました」

「いえいえ、私たちも少し注意が足りなかったの」

「無事でよかった」

子供たちが無事に親元に届けられて、すっと肩の荷が下りるのを実感できた。

「ほうっよかった」

俺の心を代弁するかのようなボルドー殿下の声に頷く。

「では、お二人に客間に案内いたしましょう、落ち着いたころに夕餉にお呼びします」

「わかりました」

「私が案内するわ」

レイヤー姫が侍女の様に振舞う。

「こっちよ」