軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第67話:ギルド会議と今後の予定

――都営冒険者ギルド本部。その最上階に近い一角にある特別会議室は、外界の喧騒が一切届かない静寂に包まれていた。

磨き上げられた黒檀のテーブルを挟み、三人の男が席に着いている。

一人は、鋭い眼光を崩さない龍崎教官。

一人は、激動の渦中にいる結城カイト。

そしてもう一人は、この部屋の主であり、東京……いや、日本の冒険者社会を支える重鎮。

皇(すめらぎ) 慈円( じえん)。

白髪を完璧に整え、隙のない仕立てのスーツを纏ったその老紳士は、ただ座っているだけで周囲の空気を鎮めるような、圧倒的な魔圧と品格を漂わせていた。かつて国内屈指の盾士として伝説を残した男の眼差しは、厳格でありながら、同時に孫を見るような柔和さを孕んでいる。

「まずは急な呼び出しに応じてくれたこと、感謝するよ。結城カイト君。君のような若者の貴重な時間を奪うのは、年寄りとしては心苦しいのだがね」

皇が穏やかな、しかし芯の通った声で切り出した。

「いえ、問題ありません。龍崎教官からも重要な話だと聞いていますから」

カイトが落ち着いて答えると、皇は満足げに深く頷いた。こういった場で大人と話すには学生にはまだ苦だろうに、萎縮するどころか自然体でいられるカイトの精神性に、彼は改めて確信を持つ。「この少年は、既存の古びた枠組みで縛ってはならない」と。

「では、本題に入ろうか。龍崎からも聞いているとは思うが、ギルドは近く『複合上級職』の存在を公に発表する。これは冒険者界の歴史を塗り替える、極めて重大な転換点となるだろう」

皇は卓上のタブレットを操作し、カイトのこれまでの戦闘ログやステータスの推移を表示させた。

「不遇と言われ、誰もが見向きもしなかった職業。それを積み重ねることでしか辿り着けない『究極の派生』がある。それを知れば、今後の冒険者としての人生が変わっていく者も多いだろう。……そこで、カイト君。君にお願いがある」

「……メディアへの露出、ですか」

「察しがいいね。その通りだ。どれほど言葉を尽くしたところで、実証がなければ世間は信じない。メディアを集めた公表の場で、君に新職業の証明――つまり、スキルの実演をしてほしいのだ。もちろん、君が不利益を被らないよう、ギルドとして最大限のバックアップ、そして相応の報酬を約束する」

皇の言葉には、一片の嘘もなかった。彼は本気で、カイトという才能を守りつつ、その力を世界のために役立てようとしている。

カイトはしばし沈黙した。窓の外を流れる雲を見つめ、自身の目指すべき場所と、今置かれている状況を天秤にかける。やがて、彼は真っ直ぐに皇の目を見返した。

「分かりました。メディアでの実演、お引き受けします。……ただ、僕からも条件が二つあります」

隣で聞いていた龍崎の眉がぴくりと動いたが、皇は楽しそうに目を細めた。

「ほう、条件かね? ぜひ聞かせてもらおう。君の未来を守るためのものであれば、私は全力で検討するつもりだ」

「ありがとうございます。まず一つ目は……メディアに公表するまでに、最低でも一ヶ月の猶予をください」

「一ヶ月、か。理由を聞いても?」

「理由は二つあります。一つは、まず家族にその件について話をしなければなりません。そもそも私は学生の身で親を無視して話を進めるなどできませんから。もう一つは二つ目の条件に付随することですね」

皇は感銘を受けたように吐息を漏らした。名声に浮か足立つことなく、むしろ自身の研鑽と日常の平穏を優先するその冷静さ。

「賢明な判断だ。確かに親御さんへの確認は必須だろうね。分かった、一ヶ月の準備期間を認めよう。それと親御さんにはこちらから書類を用意するので書面で今回の件を確認していただきたい、必要ならば、私自ら話をしよう。……それで、二つ目の条件は?」

カイトはそこで言葉を切った。その瞳には、この先の展望を見据えた眼差しが宿っていた。

「二つ目は――」

会議が終わり、本部の重厚なエントランスを抜けて外に出ると、既に夕闇が街を包み始めていた。

駐車場へ向かう道すがら、龍崎教官がカイトの隣を歩き、短く息を吐く。

「……お前という奴は。皇ギルド長を相手にあんな条件を突きつけるとはな。あの方は納得されていたようだが、普通の人間なら腰を抜かしているぞ」

「そうですか? ギルド長は、むしろ歓迎しているように見えましたけど」

「……まぁ、あの人はああいう気骨のある若者が好きだからな。だが、お前が背負うことになる注目は、今とは比較にならないものになる。覚悟はしておけ」

龍崎は自身の愛車のキーを回した。

「このまま家まで送ってやる。今日は演習時間も移動で潰れたし、お前も疲れただろう」

「いいんですか? お言葉に甘えて、お願いします」

カイトが助手席に乗り込むと、車は静かに滑り出した。

都会の夜景が窓の外を流れていく。煌々と輝くビル群の明かりを見つめながら、カイトは会議室での話を思い出していた。

それは、いろんな人の可能性を広げる話。

そして、自分が連れているイストやティロフィという「魂の相棒」たちが、敵ではなく、誇り高き仲間であることを世界に認めさせるために必要な行動、今のままではダンジョン内で他の冒険者とあったときに攻撃されかねない。

「……カイト」

ハンドルを握る龍崎が、前を見据えたまま静かに口を開いた。

「皇ギルド長は、お前を守ると決めたようだ。だが、最後にお前を支えるのは自分自身の力だ。一ヶ月、死ぬ気で励め」

「はい。分かっています、教官」

カイトは力強く頷いた。

学園に戻り、仲間たちと笑う日常。その裏側で、世界を揺るがすカウントダウンが今、始まった。

一ヶ月後。

結城カイトという名が、世界に轟くことになるその日まで、彼はただ、牙を研ぎ続ける。

帰路を急ぐ車の中で、カイトはそっと目を閉じた。脳裏には、主を信じて待つ白の騎士と、灰色の竜の姿があった。

『現在のジョブ:調教師(Lv.21)』

『使役モンスター:イスト(Lv.11)、ティロフィ(Lv.7)』