軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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「――っと、忘れるところだった。エミ、バルコニーに出ることはできるか? ちょっと見せたいものがあるんだ」

相変わらず陛下が過保護なので、私はふふっと笑ってしまった。

「もう本当に普段と変わらないから、そんなに心配しないで。でも見せたいものってなあに?」

「それは秘密。エミ、手を」

陛下が差し出してきた手にドキドキしながら手を重ねると、そのままバルコニーまでエスコートされた。

こういうことに慣れていない私の動きは悲しいぐらいぎこちないのに、ぴったりと寄り添った陛下はそれを見てもうれしそうな表情を崩さない。

本当に幸せそうに私を見つめてくるから、私のほうはそれが恥ずかしすぎて全然隣を見られなかった。

だって、まるで全身で好きだよと言われているみたいなのだ……。

「エミ、顔を上げて。バルコニーの下を見てみてくれ」

「え……?」

陛下に優しく促され、顔を上げる。

私の視界に入ってきたのは、バルコニーの眼下に広がる林と、その手前にある庭園だ。

噴水のあるその庭園を見た瞬間、私はハッと息を呑んだ。

決して狭くはない庭園を埋め尽くすほどの兵士さんたちが、きっちりと列を組んで整列していたのだ。

恐らくその数は数百人にのぼる。

上から見下ろしているせいか、兵士さんたちの間に動揺が走ったのがよくわかった。

だけど、私はそれ以上に驚いていた。

彼らは一体何をしているのだろう。

答えを求めて陛下を振り返ると、彼はわずかに眉を下げた。

「エミがあの奇跡的な栄養ドリンクの作り手だという噂が、不特定多数に広まってしまった以上、記憶を消すという方法で対処することはできないと言っただろう? しかも、ローガンが起こした事件によって、いよいよ噂の信ぴょう性が増してしまった」

そうだ。ローガンさんの身の振りや、メイジーたちのこと、自分の体調不良などもあり失念していたけれど、私にはそちらの問題もあったのだった。

「……どうしよう。噂というより、もうほとんど事実として話が広まっちゃったってことだよね……」

万が一栄養ドリンクを調べられたら――、そこに魔法が宿っていないとわかってしまったら――、私が異世界人だと知れてしまったら――。

最悪、私は命を狙われるようになる――。

悪い想像がいっきに脳裏を駆け巡り、血の気が引いていく。

そんな私に気づくと、陛下は慌てたように両手で頬を包み込んできた。

「大丈夫だから、そんな顔をするな。もう、エミを宝箱の奥に隠しておくという手段はとれなくなってしまったが、ちゃんと別の方法で守ってみせるから」

特別な栄養ドリンクを作ったのが私だとわかったからといって、そこからすぐ私が異世界からの転生者だとバレることはないと陛下は言った。

「エミが作った癒しアイテムについては、最重要機密として徹底的に管理する。それ以外にも、エミが異世界人だという事実が決して明るみに出ないよう、今まで以上に手を尽くすと約束する」

「陛下……」

陛下の言葉なら信じられる。

ひとまずホッとして肩の力を抜いたけれど、疑問はまだ残っている。

「でも、あの兵士さんたちはなんでここに……?」

「どうしてもエミに礼を言いたいらしい。噂が広まった後に、三百人全員の署名を入れた嘆願書を出してきたんだ」

「……!」

「あいつらの想いを聞いてやってくれ」

まだ驚いたまま、再び庭園に目を向けると、陛下が軽く手を上げて、そちらに合図を出した。

すると、それを受けて、軍の司令官らしき人が高々と声を上げた。

「第十二黒鷹軍団騎兵隊三〇二名! 我ら、たとえ太陽と月に背こうとも、妃殿下が為、生涯命を懸けた忠誠を此処にお誓い致す!」

朗々とした声が響いた直後、三〇二名の兵士さんたちは一斉に剣を抜き、それを青空めがけて高々と掲げた。

その迫力に圧倒され、言葉を失う。

彼らが忠誠を誓った相手が私だなんて、まったく現実味がなかった。

……だって、この私だよ……?

「エミ、どんな気持ち?」

陛下が面白がるように横から問いかけてくる。

「わ、わかんない……。なんていうかその……皆さんが息がぴったりですごいね」

率直な感想を漏らすと、陛下はきょとんとした顔で瞬きを数回繰り返した後、ふはっと笑った。

「ああ、もうエミは……。そういう飾らないところがほんと好きだ」

「……っ」

ただでさえ混乱しているのに、陛下まで爆弾を投げてくるのはやめてくれますかねっ!?

「――なあ、エミ。俺からも礼を言わせてくれ。兵士たちの命を救ってくれてありがとう」

真顔になった彼が、そう言って私に向き直る。

「あの、だけど、私、ローガンさんの望むとおりに動いていただけだよ……」

「エミのこととローガンの起こした事件は別の問題だ。エミが協力してくれたから、この国は一つの大きな危機を乗り越えることができたんだ」

「本当に……?」

「何百人もの兵士がエミを慕い、その名のもとに忠誠を誓ったと言うのに信じられないのか?」

陛下は優しく微笑むと、横から私の腰を引き寄せた。

「エミのおかげで俺自身もかなり助けられた。共にこの国を守ってくれたこと、心から感謝している。エミは俺の自慢の妃だ」

くすぐったくなるほどの甘い声で、陛下が囁きかけてくる。

少しでも陛下の役に立ちたい――、ずっとそう思ってきた気持ちが、陛下の言葉で報われたような気がした。

うれしくて微笑み返すと、間近で目が合った陛下が熱っぽい表情で瞳を細めた。

「……まずいな。兵士たちの前だと言うのに、キスしたい」

「……! ひ、人前はだめだよ……!?」

とっさにそう言い返したら、次の瞬間には陛下に抱き上げられていた。

「わかった。部屋に戻ろう」

「あ、ち、違っ……。ちょ、ちょっと待って……!? だめだってば、運ばないでーっ!?」

真っ赤な顔でそう叫んだ私の声が、よく晴れた空に響き渡る。

このあとの陛下と私がどうなったか。

――それは、また別のおはなしだ。