軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

07 秘密の野菜畑

そーっと扉を開けて、廊下を窺う。

辺りに人はいなさそうだ。

侍女さんたちが食事時以外、私に寄りつかないのが功を奏した。

ここからはどうしよう?

厨房に行って料理長に直談判するべきか。

それとも館の外へ出て、食材探しをするべきか。

この手の大きな建物の場合、厨房って普通はどの辺りにあるんだろう。

まったく見当がつかない。

広い館の中で、厨房を見つけ出すのはかなり難しそうだ。

うろうろしていたら、誰かと鉢合わせするリスクもぐんと高くなる。

外へ出る扉が一階にあることは、棺桶で運び込まれた時に確認済みだ。

運よく厨房を見つけ出せても、例の料理長を説得できるかどうかは怪しい。

厨房を借りて、温かいご飯を作れたら最高だけれど、ここは欲張らず食材探しに向かうとしよう。

そう決断した私は、慎重に廊下を進んでいった。

床に敷かれている絨毯はふわふわしていて、私の足音を飲み込んでくれる。

その時、不意に廊下の先から人の話し声が聞こえてきた。

この声は、侍女さんたちだ。

やばいやばい。

大慌てで隠れる場所を探す。

ちょうど廊下に飾られている立派な鎧の影が死角になっていたので、その裏側にしゃがみ込み、なんとかやり過ごした。

掃除用具を抱えている彼女たちが通り過ぎると、また廊下はしーんと静まり返った。

もしかして使用人の数がかなり少ないのでは?

そういえば、食事のときに現れる侍女さんたちもいつも同じメンバーだ。

こんな大きな館なのになー。

離宮って言ってたから、少人数でも管理できるものなのかな。

なんにしろ、おかげで今の私は助かっているわけだけど。

そんなことを考えながら廊下の角を曲がった私は、ついに目的のものを見つけ出した。

大階段だ。

間違いない、棺桶で運ばれてきたときに見たものだ。

この階段は確か、建物のメインエントランスへ通じている。

見つからず階段を下っていければ、外に出られるはずだ。

ゴールが見えてきたことで、気持ちが急いてくる。

でも、ここで見つかったら元も子もない。

慎重に辺りを見回しながら、できるだけ急いで階段を下りていく。

下った先には、予想したとおり見覚えのある大理石のエントランスがあった。

身を潜めるものがないので、ここはいっきに駆け抜ける。

最後に両開きの扉をグッと押して開けると――。

外だー!

思わず心の中で叫んでしまった。

ついに館を抜け出すことができた。

もっと早く試せばよかったと思いながら、辺りに人がいないかを再確認する。

うん、問題ない。

噴水のある前庭と、青い空を目にした私は、小躍りしたいような気持になった。

十日間も閉じこもっていたから、解放感がすごい。

まるで二徹明けのあと、会社を出た瞬間みたいに気分がいい。

久しぶりの外は、実に気持ちのいい快晴だった。

雲一つない空の下、ひだまりはポカポカと暖かく、体感としては初夏くらいの気候に感じられた。

深呼吸をすると、胸いっぱいに清らかな空気が吸い込まれるのを感じられた。

棺桶で運ばれている時には気づかなかったけど、空気がめちゃくちゃおいしい。

遠い日に行った遠足を思い出して自然と頬がゆるんだ。

館を見上げると、広大な植林を背負うようにして建っているのがわかった。

ここ、王宮内なんだよね?

敷地に林まで持ってるのか。

さすが王族、規模が違う。

林でなら、食べられる木の実や、野イチゴを発見できるかもしれない。

期待に胸を膨らませながら、そちらの方に進んでいった。

建物が大きいから、館の裏に行くだけでも結構な距離がある。

十日もまともに食べていないせいか、息が切れてきた。

やっぱり当面の目標は、栄養をちゃんと取って、体を丈夫にすることだな。

浅い呼吸のせいでふうふうなりながら、林の中に入っていく。

木々は鬱蒼と生い茂り、緑や土の濃厚な香りがする。

この林にいる限り、ちょっとやそっとのことじゃ見つからないだろう。

やっと警戒心を解くことができた。

時々立ち止まって、呼吸を整えつつ、休み休み進んでいく。

柔らかな風が吹くたび、木々が軽く揺れ、明るい木漏れ日が躍った。

小さな小鳥の鳴き声が、近い場所や遠くのほうから聞こえてくる。

視線を動かして声の主を探してみれば、枝の上を走っていくリスの姿が目撃できた。

野生のリスを見たのなんて、生まれて初めてだ。

やっぱり外に出てよかったと、また思った。

今日のお天気もあいまって、とっても清々しい気持ちだ。

マイナスイオンを感じるし、この体にもよさそうだ。

もうちょっと元気になったら、ゆっくり散策したいな。

乾いた落ち葉を踏みしめながら、そんなことを考えていると、突然開けた場所に出た。

「えっ。なにこれ!?」

林の中にぽっかり現れたエアーポケット。

そこには小さな畑が広がっていたのだ。

手前側左手には、手ごろな大きさのきゅうりがなっている。

まさに今が収穫時という感じの瑞々しさだ。

お、おいしそう……。

無意識にごくりと喉を鳴らしてしまった。

でも、まさか管理された畑から野菜を盗むわけにはいかない。

この畑を管理しているのは誰なのだろう。

多分、これって厨房で使う野菜だよね?

分けて欲しいと言っても、前回の時のように断られてしまうだろうか。

こんなおいしそうな野菜が目の前にあるのに……。

そんなことを考えながら、畑の周りを回ってみると、立て看板がかけられているのに気づいた。

そこに書かれていた文字は――。

『ご自由にお食べください』

……え!?

まるで有名な児童書に出てくるような文言を前に、眉根を寄せる。

この立て看板、鵜呑みにするのはさすがにやばいのでは……。

食べ物を探して外に出たら、旬の野菜がなっている畑を見つけたうえ、自由に食べていいなんて。

「うーん。これはいくらなんでも、ご都合主義な展開すぎるでしょ……」

警戒心を抱いた私は、浮かれていた気持ちを抑えながら周囲を見回してみた。

相変わらず鳥や動物たちの気配しかしない。