軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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……それはもう決まりなのでは? 犯人はリビエレ公爵!

「ですが、本日リビエレ公爵と面談しましたが、公爵がウソを吐いているという決定的な場面には出会えませんでした」

「え……そうなんですか? でも確かに、答え方を間違えなければウソを吐かずに済みますしね」

「どういうこと、レイジ?」

お嬢様が首をかしげるので、

「たとえば、リビエレ公爵が黒幕だったとしても『私は毒を盛っていません』と言えばそれはウソではないんです。実際に毒を入れたのは召使いですから」

「あ……」

「レイジさんの言うとおりです。さすが、あなたは知恵の回りが早いようだ」

伯爵、それは褒めてますよね?「悪知恵働くね」って意味じゃないですよね?

「もちろんそこも踏まえた上で、聖王陛下はいろいろと話をされましたが——もとより私は、リビエレ公爵が黒幕だというのは無理があると思っています」

「え……そうなんですか?」

「そもそも星5つ以上の天賦珠玉が出た——かもしれないという情報は、ほぼ出回っていませんからね」

あ、そうか。

捜査は振り出しに戻ったな……(渋い声の中年刑事風イメージ)。

「今日の 面談(・・) はほんとうに疲れましたよ」

イスの背にもたれて伯爵が長く息を吐く。

「お父様、お茶を持ってきてもらいましょう」

「ええ、そうしてください」

エヴァがベルを鳴らしてメイドを呼び、お茶を淹れてもらう。

とりあえず伯爵の話が終わったところで——今度は僕の番だ。伯爵にはきいておかなければいけないことがある。

「——疲れたのは、高位の方々に『審理の魔瞳』を使ったというそれだけではありません」

メイドが去り、僕が切り出す直前に、伯爵はティーカップを手にしてそんなことを言い出した。

「魔瞳を使ってもいいが、その代わりに……と代償を要求されました」

「代償——もしや」

僕はお嬢様を見る。彼女を嫁に寄越せという申し立てではないだろうか?

やりかねない! ルイ少年とか、パパに泣きつきそうだもん!

「そうです」

にこやかにうなずいて——うさんくさい笑顔だ——伯爵は言った。

「レイジさんをくれと」

「やっぱり! お嬢様——え」

僕?

「はい、あなたです」

僕? なにが?

横を見ると、お嬢様も「当然なのだわ」という顔をしている。

「聖王騎士団第2隊長よりも素早く動き、エベーニュ家のエタン様、護衛ですら気づかなかった毒物を見抜く。しかも天賦ナシで! まあ、天賦がないことは私も今日知りましたが、【観察眼】などの天賦を持っている厨房の人間すら見抜けなかった毒物を見抜いたあなたを、欲しがるのは当然ではありませんか?」

「…………」

マジで。言われてみると、それはそうなの? いや、どうなんだろう、僕はまだ14歳なんだけども。

「……レイジ、あなたは他家に行ってしまうの?」

お嬢様の手が、僕の服の裾にそっと添えられた。

(——ああ、今日はお嬢様を不安にさせないと思ったばかりなのに)

僕はすぐににこやかな笑みを浮かべた。

「行くわけありませんよ」

「ほんとう?」

「ええ」

「……エヴァ、レイジさんの笑顔はうさんくさいですが、話している内容はほんとうのようです」

伯爵ゥ! さらっと「審理の魔瞳」を発動しないでよォ!

「ですが、これから先、あなたも気をつけたほうがいいと思いますよ。今日は 剣聖(・・) もいましたが、レイジさんの話を聞いて目を輝かせていましたから」

うわー、聞きたくなかったなー、その情報。

いや、でも待てよ? 剣聖なんて呼ばれている人が訓練しているところを見学できたら、【竜剣術】を学べるのでは……?

(……ダメだ。止めておこう。こういうときに欲をかくと失敗する。僕はもう油断しないんだ)

僕はお嬢様へもう一度言う。

「今のところ、僕と伯爵の利害は一致していますからね。ここを離れる理由はありません」

「利害……? レイジはお父様に雇われているだけではないの?」

「そう言えばお嬢様に話していませんでしたっけ。僕は『星5つ以上の天賦珠玉に関する新しいニュース』と『ルルシャという人物を探す』という2点を伯爵にお願いしているんです」

すると、伯爵が額に手を当てた。

「……レイジさん、その内容は極秘なのでは?」

「いや別に、どうってことないですよ。むしろ大々的に広めてくださってもOKです」

「……極秘なのだと思っていたので、気を遣って調査していましたよ」

僕は伯爵にもにっこり笑って見せた。

「聞かれませんでしたので」

以前そう言われた仕返しである。

「わたくしも耳に挟んだらレイジに教えるのだわ!」

「ありがとうございます。一人前の貴族となったお嬢様にも期待しましょう」

「任せるのだわ!」

お嬢様はドンと薄い胸を叩いた。

「わたくしも、レイジと同じ目線で話せるようにがんばるのだわ! まずは——お父様」

「なんですか、エヴァ」

「今までいろいろと お膳立て(・・・・) ありがとうございましたわ。わたくしとレイジが向かった『人材斡旋所』の件、すべてお父様の息が掛かった組織でしたのね?」

ブホッ、と思わず僕はお茶を噴き出しそうになった。

いや。伯爵! なんで僕をにらむんですか!? 違いますよ、お嬢様に吹き込んでませんよ!

まあ——僕が 今から言おう(・・・・・・) としていた(・・・・・) ことでしたけど。

「……エヴァ、どういうことですか」

「お父様、今日一日わたくしは考えましたの。とても多くのことを。物事というのは往々にしてうまくいかないことがほとんどなのですわ。昨日の——聖王陛下のお考えになった『余興』は、一見うまくいきましたけれど、その後、クルヴシュラト様のソース皿から毒が発見されたことで晩餐会そのものは失敗となりました」

ああ——なんてことだろう。

お嬢様の横顔を見て、僕は驚きのあまり言葉も出なかった。

僕は、お嬢様を見誤っていたのかもしれない。

お嬢様は「護るべき存在」で「今日はとても悲しんでおられた」なんて。

「わたくしは、すべての聖王国民が生きる自由を与えられるような社会を望んでいます。ですがその一方で、国民の生活を大きく左右する天賦珠玉でも、突出して価値のある天賦珠玉については本日お父様にお話を聞くまでなにも知りませんでしたわ。調べることも、聞くこともできる立場でしたのに。心のどこかで、『貴族が持っているのでしょう』という程度の認識でしかありませんでした——それこそが、わたくしが取りやめるべき『当然のような貴族の優越』だというのに」

お嬢様はもう、ほんとうに、一人前のレディーなんだ。

自分の足によって立ち、自分の頭で考えているんだ。

「わたくしの、いつしか凝り固まっていた考えですら直すことは難しいのに、『人材斡旋所』を訪れ、『奴隷』と思わず口走った所長を逮捕せしめ、彼らに罰を与える——たった1度ならまだしも、6度も続けて簡単に成功しているのはやはりおかしいと言わざるを得ません」

「……だから、私が手配しているのだと?」

お嬢様は、「冷血卿」とも呼ばれる父の真剣な顔を見ても怯まず、うなずいた。

「わたくしは今日一日考えました。レイジがいなくて……彼がいなくなったらどうしようと心がくじけそうになったとき、レイジはレイジで戦っているのではないかと思ったんです。わたくしを守るために戦ってくれるレイジならば、たったひとりでいるときにもその時間を無駄にしないだろうと思ったんです。そうしてわたくしもまた考えた結論が、今お話ししたことです」

一人前の貴族となる「新芽と新月の晩餐会」からたった1日。

その短い時間でお嬢様は、ほんとうに一人前のレディーになったのだ。

きっかけが僕だというのなら——なんて誇らしいことだろう。

見た目の美しさは関係ない。背筋を伸ばした彼女の姿は、話した内容とその姿勢は美しいと僕は思った。

——これから天賦珠玉を選び、多くのことを学び、時に戦い、時に失敗し、時に喜び、時に苦しみながらも——貴き血を持って生まれた以上はその宿命と戦わねばならん。

貴族について聖王はそう言った。

お嬢様は、やはり貴族なのだ。その振る舞いこそが貴族であるというのならば、お嬢様こそ貴族なのだ。