軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

19

構えこそ違うけれど、放たれたショートソードの突きは聖王騎士団そのものだ。

一瞬その驚きに思考を持って行かれ、回避がわずかに遅れ、僕の腕を切り裂かれる。

「〜〜〜〜っく」

いっつうう……。傷口がジンジンする。出血量はたいしたことないけど、【回復魔法】で簡単に傷を塞いでおく。

もう怒ったぞ——って、

「——シッ」

危なっ。

次のもうひとりが眼前に迫っていた。

ひらりと身をかわすが、さらにさっきの1人目が体勢を立て直し次の突きを放ってきた。

(むう)

回避には成功したけど僕の体勢がぐらりとゆらぎ——目元だけしか出していない襲撃者だけれども目だけでわかる——明らかにニヤリとした。

追撃が来る。バランスを崩した人間には不可避の一撃が。

「——なんてね」

揺らいだ上体から僕の拳が襲撃者のこめかみにヒットする。ここもまた急所のひとつだ。瞳の焦点が合わなくなると、襲撃者はその場に崩れ落ちる。

「なっ……!?」

3人目があわてている。ふふふ、まさかあそこで反撃が来るとは思うまい。

実はこれも天賦のひとつで【ケンカ術】という。どんなに体勢が悪くとも攻撃の威力が落ちないという便利な天賦だ。

詰まるところ体幹を強化し、身体の柔軟性を上げれば【ケンカ術】を再現できる。ちなみにこの天賦は酔っ払ったゼリィさんを回収しに酒場に行ったとき、そこでケンカしていたごろつきが持っていた。

「!!」

襲撃者はこれ以上僕の相手をするには分が悪いと判断したのか、背を向けて走り出そうとして——足になにかを引っかけて転んだ。それはもう見事な前のめりの転び方で、ショートソードが落ちて床を滑っていった。

その先にいたのはハーフリングの護衛さん——襲撃者の足元にツタが絡みついているところを見るに、テーブルに飾られていた花を抜いて投げ、【花魔法】を発動させたのだろう。

そこをアルテュール様が走ってきて襲撃者を縛り上げる。

僕は、襲撃者の後頭部に向かって弾き飛ばそうと思っていた【土魔法】ストーンバレット用の魔力を消した。

(なるほど……会場にあるものはなんでも使わなきゃな)

僕は残りのテーブルに視線を送る。1つはすでに鎮圧されていたが、残り2つは分が悪いと判断したのか 逃げ出した(・・・・・) あとだった。

「…………」

魔導ランプを手にした、それぞれの家の騎士たちが駈け込んでくる。不意に会場内は明るくなったが——僕の心の違和感は拭えなかった。

(どうして「逃げた」んだ……? 暗殺任務なら死を覚悟してターゲットを暗殺するべく動くものじゃないか? それに……聖王騎士団で訓練された者の動き……まさか裏切り? 確かに、襲撃者が聖王騎士団であるのならこの会場まで忍び込めたことの説明がつくけど……)

僕はお嬢様のいるテーブルを見やった。僕の発動した【火魔法】がちょうど消えたタイミングだったけれどそこにはもう多くの騎士が集まって——マクシムさんもいた——お嬢様たちを保護しているところだった。

クルヴシュラト様は明らかにホッとした顔をしており、辺境伯はミラ様を抱きしめている。

そして聖王は、

(……見てるな、 僕を(・・) )

ただじっと見つめていた。

「——君、すごいべな」

「え?」

不意に横から声がして、目をやるとそこにはハーフリングの護衛さんがいた。

「魔法の天才かと思ったけど、近接戦もそこそこやれるみたいだな。ただ今度からこういう荒事は他の護衛に任せるベな。魔法を使えるだけで十分なサポートになるから」

「あ——」

そうか、僕がかわしきれなかったあれを「こいつ魔法はすごいけど近接戦はダメだな」って見られたってことか——じゃなくて!

「これ、傷薬。ウチの特製だから塗っとけばすぐ治るべな」

「あ、ありがとうございます……」

小さな木箱に入った傷薬を渡され——じゃなくて!

「あのっ、あなたは——」

今「べな」って!「べな」って言った! ミミノさんと同郷の人!?

……と思ったのだけれど、すでにハーフリングの護衛さんはエタン様のところへ戻っていた。そうだ——僕も護衛なのだから戻らなきゃ。

でもあとで機会があったら聞いてみよう。ミミノさん、それに「銀の天秤」のみんななにしてるかな……。落ち着いたら連絡を取ろうと思ったんだけど、国を超えちゃうと簡単に連絡なんてできないしまして相手が冒険者だったりするとどこにいるかもわからないしね。

「お嬢様、離れてしまってすみません」

「いいえ、よくやったのだわ!」

僕を待っていたお嬢様は手を伸ばしてくるが、僕は背筋を伸ばしてそれを避けた。いや、なんで? なんでこのタイミングで頭なでようとか思ったの? ひょいひょいと伸ばされてくる手をかわしていると、

「——皆の者、騒がせたな!」

突然聖王が大きな声を上げた。

ふと見ると、遅れて到着した聖王騎士によって襲撃者の 気付け(・・・) が行われている。

(え? これってまさか……)

僕はイヤな予感がした。そしてこういうときにこそイヤな予感は当たる。

聖王は楽しそうにこう宣言するのだった。

「実は今の襲撃は、 余興(・・) である!」

しん……と静まり返る会場内、ぽかんとする貴族の子女たち。

起き上がった襲撃者が黒衣を剥ぎ取って顔を出すと——そこには悪事など行いそうもない青年の顔があった。

ああ、やっぱり そういうこと(・・・・・・) か……。

「これから一人前の貴族として最初の一歩を踏み出す諸君らに、貴族社会の厳しさを知ってもらうために行った! 襲撃されることだって十分にあるのだ! そのとき、諸君らの護衛は真に頼れる者か? あるいは護衛は武器を持っていないがここにいる男子諸君は武器を持っている。それを使おうと思ったか? いずれにせよ、こういった極限の状況でこそ人の本性は現れる! 今日の自分が情けなかったのならば、明日誇れる自分になるよう精進せよ!!」

わっはっはっは、と聖王は笑っているけれど、「余興」扱いで襲撃された側としてはたまったものじゃない。放心している貴族の子女はたくさんいたし、どっと疲れたような護衛も多かった。

余興というか、これは洗礼なのでは……。

これからさきもっと厳しい社会が待っているのだぞ、なんていう。

僕はこれからのお嬢様の未来を思うと、心配と同情とがないまぜになった複雑な思いに囚われた。

「——なぁんだ、余興だったのだわ。それならレイジの動きは満点ね!」

「いえ、余興だと気づけるポイントもあったのに、むしろ大立ち回りしてしまって恥ずかしい限りです」

襲撃者は聖王騎士といっしょに退場して行くが、まだ警戒しているのかそっちをこわごわ眺めている人も多かった。この余興、刺激が強すぎるだろ。

会場の壁際に魔道具の投光器が置かれ、その光が天井に反射すると会場内は明るくなった。

「気づけるポイントがあった……の?」

とお嬢様がきょとんとすると、

「おい、スィリーズ家の護衛。お前、なにに気づいてた?」

聖王からも直々に質問を受けてしまった。

どうしよう、こういうときに護衛が発言してもいいのだろうか? テーブルの全員がこっちを見てるし。