軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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回想しようと思ったけれど、伯爵、ヴィクトル=ドゥ=スィリーズの命を救ったという出来事はさほどドラマチックではなかった。僕が「あ、そう言えば」なんて思い返す程度の記憶だ。

そんなことより、猫系獣人のゼリィさんが意外と活躍してくれたんだよね! それがよかったです、はい。

アッヘンバッハ公爵領の領都を抜け出た僕は、ゼリィさんの手引きで光天騎士王国へと向かった。関所は確かに一か所しかなかったんだけれど、裏稼業の人が通る怪しげな裏ルートがあって、ゼリィさんはそんな裏技っぽいことを使って国境越えをした。

ちなみにこれをやるのに、お金が少々掛かる。その「少々」すらゼリィさんは手持ちがなかったので、領都で小銭を稼ぎながらしのいでいたそうだ。

光天騎士王国は騎士王が治める国で、軍隊がものすごく強化されているせいで冒険者の活躍できる場がほとんどなかったので素通りした。

その先にあるのが、クルヴァーン聖王国。

ここはヒト種族だろうと獣人だろうと関係なく暮らしている国だ。とても活気があり、一方で流れ者による犯罪も多い。いろいろな意味で懐が深い国だと僕は思う。

あと、

「聖王の威光はあまねく国中を照らす」

だとか、

「聖王は万物を平安に治むる」

だとか、聖王上げがすごい。

僕は聖王都クルヴァーニュで、当面は冒険者登録をして天賦【 森羅万象(ワールド・ルーラー) 】を磨いていくつもりだった——んだけども。

「冒険者になって、他の冒険者が戦ってるところとか見てみたい? 無理無理無理無理〜、みんな自分の手の内は明かさないっすよ。ましてや坊ちゃんは なり(・・) が小さいっすからねぇ〜、誰もパーティーになんて入れたくないだろうし。なんならあーしが冒険者で稼ぎますから、坊ちゃんは手堅いところで働いたらどうっすか?」

なんてゼリィさんが言うものだから、ぐぬぬと歯噛みしながらも「確かに……」とうなずかざるを得ないところもあったので、ゼリィさんの意見を採用した。

ここまできてもゼリィさんは僕についてくる気らしい。まあ、別にいいんだけど。なれなれしくてたまに鬱陶しい以外は悪い人じゃないし。

僕はと言えば、「聖王騎士団第18隊の掃除係」という名誉ある職にありついた。なにを掃除するのかって話だけど、精強で鳴る聖王騎士団はとにかく訓練が厳しい。騎士たちは寮に戻ると泥のように眠り、たまの休みは、お金だけはあるので街で大騒ぎするという生活をしていた。

部屋がクッソ汚かった。

あと洗濯物も異常に溜まってた。

僕は【水魔法】【火魔法】【風魔法】を組み合わせて騎士たちの部屋をピカピカにした。洗濯もそう。雨は少ないけれど、降り出すと1週間は止まないという特殊な気候の聖都で、僕は室内乾燥をすることができたので大いに喜ばれた。

騎士たちは部屋がピカピカになるとチップをはずんでくれるし、しかも時間があれば騎士の訓練の見学もできて、学習できる天賦が溜まる溜まる……。

ああ、伯爵との出会いはもう少し先だよ。

ともあれ僕は10歳にして「伝説の掃除夫」なんていう謎の二つ名をもらい、騎士たちに重宝され、お湯を出せるから食堂の調理場ではおばちゃんたちに重宝され、騎士の武具を修理する鍛冶工房もキレイにしたので出入りのドワーフたちからも重宝された。

聖都は広いので休日は観光したり、美味しいものを食べに出かけたりした。

なんていうか、聖都ライフをエンジョイしすぎだろ僕、って感じではあったね。同年代が近くにいなかったので友だちはできなかったけど。

僕のウワサは他の騎士隊にも鳴り響き、いくつもの隊を渡り歩いて掃除しまくって、変な話、騎士並の給金をもらえるようになってしまった。とはいえお金は副産物で、僕としては合法的に魔法の練習ができることで自分の中で積み重なっていく熟練度合いがうれしかった。魔力量もどんどん増えていった——けれどそれはクリスタ=ラ=クリスタを見て学習した【魔力量増大】の天賦を徐々に使いこなせるようになっていっただけのようだ。

僕は密かにトレーニングも続けた。身につけた天賦は使い込まなければ使いこなせない。そこで編み出したのが「【森羅万象】を解除して天賦を使うこと」だった。

【森羅万象】を外すと学習した天賦はすべて使えなくなるのだけれど、その記憶は頭に残っている。だから記憶を引っ張り出しながらその通りに身体を動かして熟練値を上げていくのだ。そうすると不思議なことに【森羅万象】を戻したときに天賦への理解が深まっている感じがした。

これのおかげで僕は天賦を無効化されても戦えるようになったというわけ。

さあ、そんな掃除夫ライフでお金を貯め、むしろ「あーし冒険者として稼ぎますわ〜ナハハハ」とか言っていたゼリィさんが博打にドハマリして借金まみれになり、僕が肩代わりして貯金が吹っ飛んだりしつつ3年が経っていた。

いい加減、僕も自分で行動する頃合いかと思っていた。

今は動きがわからないけれど、僕は「姉」のラルクにもう一度会いたいと思っていた。

それと、僕にいろいろなことを教えてくれたヒンガ老人の孫娘ルルシャに、会えるなら会いたいと思っていた。

それには大都市を周りながら情報を集めるべきだ。

とかなんとか考えていた矢先のこと、春先の深夜、聖都を走る馬車と護衛の騎馬が数騎あった。僕は家々の屋根の上を飛び移りながら【疾走術】と【跳躍術】の練習をしていたところ、その馬車が突然ゴウッと燃え始めた。

御者があわてて馬を停め、中にいた貴族らしき人物——まあ、これがスィリーズ伯爵だったんだけど——を救助する。だけど、そこまでだった。

飛来する矢が御者を貫くと彼は倒れ、馬車を囲んでいた騎士たちも次々に倒れる。

(うまいな。矢が黒く塗られてあるから、かわしにくいんだ)

僕は襲撃者の知恵に感心しつつ、どうしようかと迷っていた。

(これは助けるべきなんだろうか? でも、あの貴族がどんな人かもわからないし……。ひょっとしたら極悪人かもしれない)

これもまた後に、スィリーズ伯爵が「極悪人」というより「性悪男」だと判明するのだけれども、それはさておき僕は状況を観察していた。

ただひとり伯爵が燃える馬車を背に残ると、5人の暗殺者が半円状にぐるりと囲んだ。黒服に目元だけをのぞかせたマスクをつけている暗殺者たちは、なにかを伯爵に告げている。

「——覚悟は……依頼主……なるべく苦痛を感じさせて……」

僕が【聴覚強化】で耳を澄ませると、そんな物騒な言葉が聞こえてきた。

これは確実に殺されるヤツだな。でも、貴族は泰然自若としてまったく怯んだ様子もない。

僕はその貴族をじっと見つめる。

ふわりとした金髪は暗い夜道であっても美しく、憂いを帯びた赤い瞳は男の僕が見てもハッとするほどに美しい。

年齢は20代後半だろうか。

(ああ、この人は……死ぬことをなんとも思っちゃいない)

そのとき僕が思ったのは、竜を前に、仇である天銀級冒険者を殺し、本人もまた竜によって引き裂かれて死んだライキラさんのことだった。