軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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マトヴェイさんはこのまま、僕らを光天騎士王国まで送ってくれるのだという。

だけどその表情は暗い——マトヴェイさんもマトヴェイさんなりに苦労しているのだなと僕は思う。

「こんなことを言うのは差し出口かもしれませんが……」

僕はマトヴェイさんに、ユーリーさんの言葉を伝えた。彼女はマトヴェイさんを「気にかけて欲しい」と僕に言ったことを。

「気にかける? どういうことだ」

「……これは僕の想像でしかないのですが、ユーリーさんが次の女王に就任したあと、外との交流を増やすおつもりではないでしょうか?」

「外との……?」

「エルフは『 三天森林(サードフォレスト) 』を持ち、閉鎖的な暮らしをしてきましたがそれを転換するということです。エルフの新時代を始めようということです。マトヴェイさんにはシルヴィス王国に留まりながら、外部との折衝を任せたいのではないかと」

「な、なんで俺が」

「固定観念に縛られず、外部からの客——僕にも優しく接せられるような王族はマトヴェイさんしかいません。ユーリーさんは、マトヴェイさんのそうした人格を買っているのだと思います」

「……ユーリーが」

信じられない、と小さくつぶやくマトヴェイさんに、アーシャも言った。

「ユーリー姉様がマトヴェイ兄様を見る目は厳しいのですが、優しさもあったのだと私も思うのです。それは……レイジさんがユーリー姉様を『優しい』とおっしゃったからこそ気づいたのですが」

「……そう、なのか」

「きっとそうです。マトヴェイ兄様が、憎まれ口を叩きながらもユーリー姉様を尊敬しているように」

「!」

図星を指されたのか、マトヴェイさんはあわてたように、

「べ、別に尊敬なんか……まあ、アイツの魔力はすごいけどな……。ちょ、ちょっと運行状況を確認してくる!」

照れ隠しするように去って行った。

「……ほんとうのことなのですか、レイジさん。ユーリー姉様が女王に即位されたあとのことというのは……」

「推測でしかありませんが。でもそれはユーリーさんが、というより、現国王シルヴィス陛下の意向のように感じます」

「陛下の?」

「この『梟の 羽搏(はばた) き』を見てください。木材をふんだんに使っていますが、機関部分はすべて鋼鉄製。もちろん【火魔法】の類の魔術も使われています。国益には資するでしょうけれど、エルフたちから見たら、この魔導飛行船は受け入れられないものですよね?」

「……それは、【火魔法】を使う私と引き替えにしたものだから……」

アーシャが悲しげに目を伏せるので僕は首を横に振った。

「違いますよ、アーシャ。国王陛下はご自分よりも国のことを、エルフたちのことをお考えです。【火魔法】を無自覚に使ってしまうアーシャを手放したことだって苦渋の選択であったでしょう。であれば、国のためにならないものを、エルフたちが受け入れられない魔導飛行船を、その対価として手に入れたのなら、そこには重要な意味があるはずです」

「……その意味こそが、シルヴィス王国の新時代……」

僕はうなずいた。

「……少し、考えたいです」

「それがいいと思います。僕の言ったことは推測でしかありませんから」

ラウンジのソファに座ったアーシャから離れ、僕は飛行船上部へと向かった。

キースグラン連邦上空を飛ぶ「梟の羽搏き」はすでに大森林を抜けて草原の上を飛んでいる。風が強いので甲板に出ることはできないのだけれど、展望室からは後方の大森林を一望できる。

午前の陽射しが照らし出す大森林——はるか向こうに世界樹がうっすらと見え、そこにはもやが掛かっていた。

(エルフたちは「シルヴィス王国」を名乗っている。でも一方ではキースグラン連邦の一部であることを受け入れ、ここがゲッフェルト王の直轄領という扱いを受けている……。それを受け入れざるを得ない理由は、たぶんこれだ)

いくら森での戦い方に慣れたエルフたちであっても、魔導飛行船で空から来られてはハイエルフたちを守ることは不可能だ。世界樹だってまた然り。

魔導飛行船は戦争を一変させる力を持っているために、各国はこれをなんとか手に入れようとした。レフ魔導帝国が小国ながら存在感があったのは、技術的に各国をリードしていたからだ。

よくは知らないけれど、国の中枢のような場所には魔導飛行船用の対空兵器が備えられているらしい。

いずれにせよ魔導飛行船が増えてきたことを知ったシルヴィス陛下は、このまま閉鎖的な暮らしを続けることはできないと悟ったんだろう。キースグラン連邦が「三天森林」の開放を要求してくる前に、魔導飛行船を手に入れた。

(それに……もしかしたら、陛下も知っていたのかもしれない)

世界樹について、僕は陛下に言わなかった。

(あの心臓みたいな物質……天賦珠玉を改変した なにか(・・・) は、生命竜クルトゥスヴィータに つながっていない(・・・・・・・・) )

魔力を吸収し、世界樹を成長させているだけなのだ。

それは魔力の流れを見ていてもはっきりとわかった。

つまり——、

(ハイエルフの「務め」は、なんの 意味もない(・・・・・) ものなんだ)

生命竜クルトゥスヴィータが地中に埋まっているのなら、もはやとっくに死に、土に還っていることだろう。

連綿と続けられてきたハイエルフの「務め」はただ世界樹を大きくするだけの行為だった。

僕はそれを、陛下に言えなかった。

あなたの人生は——天賦珠玉を改造し、その報いを受けてきた先祖代々の国王の行為はすべて、無駄だったなんて、言えなかったのだ。

でも、新時代を導こうとしている今の陛下は、もしかしたら……この行為は無駄なのではないかと知っているのかもしれない。

(……わからないな)

それに口を出すことの無意味さだって僕は理解している。

だからユーリーさんに、話そう。彼女が女王に即位して、僕と会う時間を取ってもらったらそのときに。