軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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アーシャの荷物はあまりなく、すぐに準備は終わった。

「あの……レイジさん。でもこんなことしたらよくない、ですよね……?」

アーシャはさすがに気が引けるようだ。それはそうだろう、彼女は自分でこの地に戻ってきたのにこんなふうにこっそりと抜け出すことになるのだから。国に迷惑を掛けるだけなのではと思うのはしょうがない。

でも、アーシャは昨日の陛下の話を聞いてないからそう思うのであって——。

——そして君を好いておる。さらわぬ理由などなかろう。

アーシャが僕を……。

「? レイジさん?」

「あ、い、いえ、あのー、アーシャはまだ、公式的にはレフ魔導帝国の人ですから、とりあえず帝国の決定が下るまでは国がどうのとか考えるの止めましょうよ、ね!」

ダメだ。ダメダメ。アーシャが僕をどう思っているかなんてアーシャが知っていればいいことで、陛下の思い違いだという可能性も十分にあるじゃないか。余計なことは今は考えるのを止そう! うん。

「でも……まだ、秘薬を……」

そうか。アーシャはラルクのためにここに戻ってきてくれたのに、その目的を果たしていないのも気がかりだよな……。

「いいんです。これはラルクの問題であって、アーシャの問題じゃない。ラルクだってきっと同じことを言うと思います」

「…………」

「それにこれは僕が好きでやることですから」

「え……?」

「僕は自分が『そうしたい』からあなたを連れてこの国を出るんです。アーシャももっと自分に素直になっていいんです」

「……レイジさんが、私を連れて出たいから……」

「はい。他の誰でもない、あなただからです」

「!」

アーシャの顔が赤くなって、ボッ、とカーテンのような炎が周囲を包む。暑い暑い。【風魔法】ですぐに散らした。

「そ、そ、そういう言い方はッ……!」

「アーシャ、そろそろ行きましょう」

「あ、うー……はい」

僕はアーシャのバッグを持つと、アーシャは僕の後ろについて出てきた。

廊下には誰もおらず好都合だった。

「アーシャ、窓から飛び降りるよ」

「は、はい」

こちらは屋敷の裏側に面していて、昨日の日中は人気が少ないのを僕は知っていた。窓を開き、アーシャの手を取る。

「声を出さないで」

「は、はひっ」

アーシャがもう片方の手で口を押さえたのを確認して、ジャンプした——2階から1階までの高さなので僕の【風魔法】でも十分勢いを殺すことができる。

ふわりと着地すると、「ふー」と手を離してアーシャが息を吐いた。

(こんなふうに出て行かなきゃいけないのは……やっぱりよくないのかな)

自分で連れ出しておいてなんだけど、こそこそと夜逃げでもするみたいに出て行くことに、ほんの少し僕は心が痛んだ。

だけれどアーシャを見て、気持ちが変わった。

「レイジさん、行きましょう」

晴れがましいほどの笑顔で、そう言ったんだ。

「……はい!」

僕はアーシャの手を取って走り出す。大木の切れ目にやってくると、また飛んだ——身体が宙に浮き、眼下の森がすぐそこに迫る。【風魔法】でスピードを殺しながら、枝の切れ目を狙うけれど、それでもぴしぱしと木の葉が身体に当たる。

大地に着地したときには結構強めの魔法が必要だったけれど、魔力量が増えた僕にはたいしたことはなかった。

そこは森林の奥深くで、ハイエルフのお屋敷を支える巨木がある以外は、しんと静まり返った森だった。

「……ここは、エルフたちの暮らす町からは遠いんですか?」

「はい。歩いて1時間ほどの距離があります」

広く、踏みならされた道ができているけれど人通りはなかった。

静まり返った森を、僕とアーシャは手を取り合って進む。

方角的に北へ進めば森の外に出られることはわかっているし、草原に着けば見晴らしもいいので街道や町を見つけるのはさほど難しくないはずだった。

できれば町には近づかず進んでいきたい——そう考えるのは当然のことだろう。

「……アーシャ、止まって」

走り出してから30分ほどして、僕は立ち止まった。

「囲まれてるね」

わざと、ここまで来させられたのだろう——陛下から命令が出ていたからだろうか。僕らに手を出すなと。だからわざわざここまで移動した?

彼らはここで初めて姿を現した。

枝の上に、木の陰に、身を潜めていたのはシークレットサーヴィスの制服。

向こうからゆっくりと歩いてきたのは僕も知っているエルフだった。

「ポリーナさん。僕らの見送りは必要ありませんよ」

「あなたへの見送りが必要ないことはわかっていますが、アナスタシア殿下にはそうはいきません」

10メートルほど離れたところでポリーナさんは立ち止まる。

「今すぐアナスタシア殿下を解放すれば、あなたは死なずに済みます」

それを聞いて、思わず笑ってしまった。

「死なない程度にはボコボコにするってことじゃないですか。イヤですよ」

「当然でしょう。ただでさえヒト種族のあなたが、王族の皆様と接点を持っていることも許しがたいのに、こうしてこの国から連れ出そうとするとは……!」

ポリーナさんだけでなく、僕らを囲んでいる20人ほどのシークレットサーヴィス全員から怒気が発せられた。

参ったな……尾行を見抜く力とか、見られていることに気づく力とか、そういうのが僕には足りなさすぎる。天賦に頼りすぎているからかもしれない。これでも【森羅万象】を外してトレーニングとか結構やってるんだけど、戦う能力ばかりに偏りすぎていたかもしれない。

察知能力を学ぶなら……ゼリィさん? いやー、それはないな(即答)。

「……なにをニヤついている?」

「別に。用がないならどいてください」

「このッ!」

ポリーナさんが僕に目がけて【土魔法】のストーンバレットを飛ばしてくる。僕が首だけひねってそれをかわすと、

「なにィッ!?」

上から降ってきた男の一撃は、【風魔法】で吹っ飛ばしてかわした。男が錐もみしながら飛んでいく。

姿さえ見えていればたいしたことはない。

「アーシャ、離れていてください」

「私も戦えます!」

「それはわかってます。でも、今日くらいは君を守らせて欲しいんです」

「!?」

ボッ、とまた小さな火が飛んだけれど、

「い、いつもレイジさんは、私のことを守って……くれて、ますけど……でも、無理はしないでくださいね!」

「もちろん」

アーシャが離れていくと、シークレットサーヴィスたちがざわついた。

「バカなのですか? アナスタシア殿下から離れたら私たちは全力を出せるのですよ」

「ポリーナさん、それは僕も同じですよ。ああ、密かにアーシャに手を出したりしないでくださいね——そうしたらさすがにアーシャも魔法をぶっ放すと思いますよ」

「…………」

ハイエルフ王族の魔力量についてはシークレットサーヴィスたちもよくわかっているのだろう、動き出そうとしていた数人がぴくりと止まった。

「さて……それじゃ僕からも警告を。国王陛下が僕に、アーシャを連れていっていいと許可をくださいました。その僕を襲うということはあなたたちがこの国の反逆者になるということです。それをわかった上で掛かってくるように」

「我々は! 全エルフのために行動しているのです! ヒト種族の甘言に惑わされることはありません!」

「そうですか。それじゃあ、どうぞ——」

僕が言っている途中に5方向からシークレットサーヴィスたちが襲いかかってくる。武器はナイフ、ショートソード、斧と様々だったけれど、それらは金属ではなく石を切り出して作られている。

「——人の言葉を遮らないでください」

僕は右手に【火魔法】を5つ、左手に【風魔法】を5つ展開し、小さめの 火炎嵐(フレイムトルネード) をそれぞれにぶっ放した。