軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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それ(・・) の接近には、海にいた僕はまったく気づかなかった。

僕とゼリィさんだけでなく、少し離れたところにあった魔導船や軍船までも覆うような大きな影——魔導飛行船はその高度を下げて徐々にこちらに近づいていた。

「な、な、なんなんです、坊ちゃん、あれは!? 新手の敵ですか!?」

「ゼリィさん、よかったですね」

「なにが!?」

「僕らはどうやら助かったみたいですよ」

魔導飛行船の甲板から身を乗り出した人物は、僕がよく知っている人だった。あんなふうにしたら危ないっていうのに、なんだかだんだん行動が大胆になってくる気がする。

「——レイジさん!」

手を振っている ハイエルフの王族(・・・・・・・・) を見て、僕は思った。

「アーシャ! 魔法を!」

海坊主は空を脅威だと感じたらしく、光を空へと向ける。

どうしてここにアーシャがいるのか、あの魔導飛行船——見たことのない旗印の魔導飛行船がなんなのか、それらは全然わからないけれども今はこの状況を突破するのが先だ。

「——あれを倒せばいいのですね?」

「え……」

僕はその瞬間、背筋に悪寒が走った。それは海坊主がもう1体現れたときとは比べものにならないほどの悪寒だ。

「ゼリィさん!! 逃げて!!」

「へ? あの飛行船が倒してくれるんじゃ……」

「いいから!!」

あわててもう一度【水魔法】を使って水流を生み出す。

「 巻き添え(・・・・) を食らいますよ!!」

バランスなんてどうでもいい、スピード最優先の魔法ブーストによって僕らの身体は前に押し出されるけれど、それはぎりぎり 間に合わなかった(・・・・・・・・) 。

海坊主が空へとレーザー光を放った。

同時に、アーシャも魔法を放った。

アーシャが生み出した炎の槍は、どんな城壁や城門すらも貫通しそうなまでに巨大だった。

そのふたつは正面から激突する——激突の衝撃波が上から僕らを叩きつけるように襲いかかってくる。

「がぶぼっ!?」

僕とゼリィさんは海中に沈んでいくが、空中で起きた衝突による、すさまじいまでの光は海底深くまで照らし出している。

死んだほうの海坊主が光のカーテンの中で揺らめいて、幻想的ですらあった。

「がほっ——うわああ!?」

海面に戻ってくると現実が僕らを待ち受けている。

海はうねり、僕らの身体を前方へと押し出し、すさまじい熱量が周囲の水を蒸発させて視界は一気に悪くなる。

どうやらレーザー光と炎の槍はぶつかって消滅したらしいけれど、飛び散った炎が周囲に落ちてジュワワッ、ボンッ、と海面に弾けている。

「ゼリィさん!」

「ぼ、坊ちゃん……ご無事で……」

「気をしっかり。なるべく早く逃げよう」

「…………まだなにかあるんで?」

「次にアーシャが魔法を撃ったら周囲は熱湯風呂になるよ」

「逃げますううううう!!」

ゼリィさんが抜き手を切って泳ぎだした——こいつ、僕を置いていく気満々だな!? 僕も泳げる程度には回復してきたので、急いでその後を追う。

「——全然見えません。ですが、海の敵には炎が有効ですよね、レイジさん!」

上から、恐ろしい言葉が降ってくる。

だけどアーシャを止めれば海坊主の触手が襲ってくるし、止めることはできない。

できることと言えば、

「アーシャ! なるべく、なるべく範囲を狭めてお願いします!!」

「——わかりましたわ!」

霧の掛かったような向こうに現れたのは先ほどと同じ炎の槍。

違う違う、そうじゃ……そうじゃない!

僕の脳裏に黒いサングラスの顔が浮かぶ。

そんなこと考えている間に、

「——レイジさん、今助けます!」

今日いちばんの僕の脅威である炎の槍が、海面に突き刺さった。

「も、申し訳ありませんでした……」

肩をすくめて小さくしているアーシャは本気で反省しているようだった。

ここは町長のお屋敷であり、ハイエルフの王族であるアーシャはここに迎え入れられた。

あれから——僕が本気で命の危険を感じた海坊主戦からは、1日が経っている。ラルクは体力を使い果たしたという感じで眠りこけていた。

「……海坊主を倒せたということはすばらしかったですし、被害もレイジ殿とゼリィ殿だけでしたから大丈夫ではありませんかな……?」

町長も困ったように言った。

アーシャの【火魔法】によって2体目の海坊主も死に、というか、形も残らないほど木っ端微塵になり、周囲一帯の海水温は異常に上昇した。

僕はとっさに「潜れ!」とゼリィさんに叫んだおかげで爆発や熱湯に巻き込まれることもなく、まあ、ぐちゃぐちゃになった水流に巻き込まれて海の深くまで誘われてさすがに死神の顔が目の前をよぎったけれど、素数を数えて落ち着きを取り戻してからはなんとかかんとか海面まで戻ることができた。

海面には湯気が立っていて、爆発に巻き込まれた魚がぷかぷか浮いていたりとなかなかの地獄絵図だった。魔導船や軍船はかなり遠くに流されていたので、泳いでそちらに行くのではなく、微弱な【光魔法】でチカチカやって僕は救助を待った——。

「大丈夫じゃないっすよ!? 危うく死にかけましたよ、ねえ、坊ちゃん! あー、これはアレですわ、しばらく仕事もできませんわ、そのぶんの補填はしていただかないと——あ痛っ!?」

当たり屋みたいなことを言い出したチンピラさん……じゃない、ゼリィさんの後頭部にチョップを入れて、僕は、

「アーシャが来なかったら僕らだって海坊主に殺されていたので、それを考えればアーシャのしたことは間違いではなかったと思います」

「レイジさん……!」

ぱぁぁ、と叱られていた子どもがいきなり褒められたような目でアーシャがこっちを見てくる。

「……でも、魔法の加減ができるようにならないと、ダメですね」

「はぃぃ……」

しゅん、と叱られた子犬のようにしょんぼりする。忙しい人だ。これくらい感情が豊かになってくれたのはうれしいんだけど。

「それで——アーシャはどうしてここに? それにあの魔導飛行船は誰の……というか、そちらの方々は?」

アーシャが座っているその背後に、3人のエルフが立っている。同じ、緑色を基調とした戦闘服だ。足元は編み上げの革のブーツで、それもおそろいである。

そのうちのひとりは、僕も見覚えがあった。

「……ひとりは、ポリーナさんですよね」

そう、僕らと初めて出会ったのは、彼女がパーティー「黄金旅団」に加入していたとき。

ダンテスさんとミミノさんがかつてパーティーを組んでいたレオンのパーティーにいた、エルフ。

だけれど彼女はレフ魔導帝国に入国するためだけに「黄金旅団」に加入していたらしく、最後に僕が彼女を見たのは、僕がアーシャを「しゃべれる」ようにするために彼女の部屋に忍び込んだとき。

僕を賊だと勘違いして麻痺毒を盛られたのだ。

【森羅万象】がある僕には、あのときのことをはっきり覚えている。

——アナスタシア殿下を襲うとは、どういうつもりですか。

弓で狙いを付けながら僕に問いかけ、

——レイジさん、あなたが殿下に手を出さないのならばそれでいい。しかし、次に近づくことがあったら容赦しない。

最後にはそう言い捨てて去ったのだ。

どうも「密命」でも受けてそうな雰囲気だよな、とは思ったものの、レッドゲート出現からかれこれ姿を見ていないのでどこに行ったんだろうという感じだったのに——まさかここで再会するとは。