軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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魔導飛行船「月下美人」を出てルルシャさんの天幕へと戻る間、僕はダンテスさんたちからエヴァお嬢様について質問攻めに遭った。

クルヴァーン聖王国での出来事についてはいろいろと話していたし、「お嬢様はとても美しい御方で」くらいは言っていたのだけれど、「雇い主のことだから、まぁ」みたいな感じで話半分に受け取っていたらしい。

「お前も苦労したんだなあ……」

とよくわからない同情のされ方をダンテスさんにされ、

「はぁ〜、貴族のお嬢様って実在するんだべな〜」

とミミノさんは妙な実感を得て、

「レイジくん、障害が多ければ多いほど(恋は)燃え上がりますよね! 私、応援しますからね!」

とノンさんは明後日の方向に情熱を燃やしていた。

ノンさんはなにか勘違いしてそうだったので、

「えーっと……お嬢様は僕の雇い主だった方ですよ」

「はい。そしてレイジくんは護衛を辞めました……そう、対等の存在になるために!」

「…………」

なんか、ノンさんの目がきらっきらしている。

お嬢様はスィリーズ伯爵家の次期当主になると思うんだけどなぁ。僕は「ずっと護衛でいて欲しい」みたいなことを言われたような気がしたし、つまりは「優秀な護衛」が欲しかったんじゃないかと思っているんだけど。自分で自分を「優秀」と言うことになるのが恥ずかしいので、ノンさんには言わなかったけど。

(それ以前に……スィリーズ伯爵の監視の目をかいくぐってお嬢様と恋愛成就できるような強者はいるんだろうか?)

無理だね。

面倒なことにあの人ウソまで見抜く能力があるし。

そうなるとお嬢様は政略結婚的なことになるのかな? うーん……。

(ま、今から心配してもしょうがないな。まだお嬢様は12歳だし)

僕は気持ちを切り替えることにした。

天幕に戻るとルルシャさんはおらず、仕事に出かけているようだった。

「さあ、アバさんが言うことにゃ今日明日中にはレイジの身分証ができるってことだから、出立準備を済ませちまおうぜ」

ダンテスさんは言ったが、ばっちり決まっている首から上と、いつもの冒険者スタイルの首から下のアンバランスがすごい。

「出立って言ってもどこに行くベな?」

「レイジは心当たりないのか」

「そうなんですよね……」

あごに手を当てて考えてみる。ラルクの目撃情報がないかについてはアバさんに確認してもらっているのだけど、目撃情報がなかったら僕らはどこへ行けばいいのか。

ノンさんが簡易的な地図を出してくれる。

ここから北は「未開の地カニオン」であり、ラルクたちが行くとは考えにくい。南から東はクルヴァーン聖王国、西には光天騎士王国がある。

光天騎士王国を挟んで南にはキースグラン連邦がつながって、光天騎士王国の西とキースグラン連邦の北には大海が広がっている。

(そう言えば、ここから移動することを聖王国のミュール辺境伯に連絡しておかなきゃな)

「裏の世界」から来た人々の受け入れをお願いしているので、本来なら僕はもう一度辺境伯領に戻るべきなのだけれど、さすがに今はラルクを優先したい。

(……僕がラルクの天賦珠玉を外せば、これ以上体調が悪化することはないはずだ。それは一日でも早いほうがいい)

ラルクは身体の変調に気づいていた。

で、帝国に来て「月下美人」を盗んだ——。

「そう言えば……どうしてラルクは『月下美人』を盗んだんだろう……」

僕のつぶやきを聞いたミミノさんが、

「うーん……売るにしても買い手がいないべな。空賊をしてなにかなしとげたいことがあったとか? お仲間がいたみたいだから、彼らに生活を与えてやるとか……」

「それはあんまりラルクっぽくないなって思ったんですよね。食い扶持を与えるのに武器を渡すとは思えなくて。確証はないんですけど」

「今はレイジくんの知識が頼みの綱だから、確証はなくていいと思うよ」

「はい……。そうなると、別の目的で『月下美人』を盗んだのなら……なんでしょうね?」

「シンプルに、移動手段が欲しかったとか?」

「空を飛ばなければいけないような場所に行くってことですかね。でも、そんな場所あるのかな?」

そこまで話を聞いていたノンさんが、ふと地図に手を伸ばした。

「私、聞いたことがあります。光天騎士王国の西に海が広がっていますよね。このあたりには無人島が数多くあるのですが——」

海域の一点を人差し指でくるりとなぞる。

「——潮も速く岩礁が多くて船では近づけないそうなんです。ですがその無人島のひとつに、『賢者』が住まうと……」

「賢者?」

「薬学に精通した方で、あらゆる難病を治したと言います。ですがキースグラン連邦で迫害に遭って、弟子を連れて海へと逃げたそうです」

どきり、とした。

キースグラン連邦で迫害に遭ったのは僕も同じだからだ。

今となっては消えた鉱山奴隷の入れ墨があった手首を、思わずさすってしまう。

まさか——黒髪黒目の日本人の転生者とか?

いや、さすがにそれは……ない、と言い切れるだろうか。

この世界にはない医学の知識を持った人だったら、「賢者」と呼ばれてもおかしくはないような……。

「そりゃあ、俺も聞いたことがあるな。俺が聞いたのは賢者がひとりで逃げたって話だが」

ダンテスさんも続ける。

「……ということは、割と有名な話なんですね。それならラルクも知っていた可能性が高いです」

「ああ。レイジの姉ちゃんもそうだが、お供につけてた男どもが連れて行こうとしているのかもしれねえな」

「ラルクの仲間が、ですか?」

「ちょっと戦場で見かけたくらいだがな、あの連中はレイジの姉ちゃんに服従しているというか、心酔しているような感じがあった。だったら、レイジの姉ちゃんの命を救うために賢者に会いに行こうと言い出してもおかしくねえ」

「なるほど」

そうするとしっくりくる。

最初、自分が助かるためにラルクが飛行船を盗むようなことをやるだろうかという疑問はあったのだ。むしろ「なんか面白そうだったから盗んだ」と言われたほうが納得できる。

だけど、仲間がそれを望んだのなら。

ラルクは渋々ながらも力を使っただろう。

「じゃあ、アバさんの連絡待ちではありますが、今のところは光天騎士王国方面に行く、というのが当面の方針ですね——」

と僕が言いかけたときだった。

「——『黒の空賊』の行方をお捜しですかい? あーしに、いい情報がありますぜ……」

天幕の入口から、声が聞こえた。