軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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僕らは控え室を出て、「月下美人」の廊下を早歩きで進んでいた。向かっているのはラルクが寝起きしていたという部屋だ。

歩きながらアバさんが言う。

「実は……彼女には勲四等が与えられることになっていた」

「四?」

四、というのはおかしな気がした。最前線の維持はほとんどラルク頼みだったと聞いていたし。

「ああ、いや、功績としては勲一等相当なのだが、彼女は一度『月下美人』を盗んでいるから……それと相殺されて勲四等なのだ」

「ということは、そちらの罪状はもう清算されたということですか?」

「そうだね」

ほっ、とする。大丈夫だろうとは思っていたけれど、ラルクが魔導飛行船を一度は盗んだのも事実だし、それでこの国は大騒ぎになっていたとも聞いていたし。

「だけど、罪を犯した彼女が表彰されることに不快感を示す高官も多くて、前線で戦闘が行われている間も議論が行われていたのだ。たぶん、彼女はそのことを知っていたのだろう」

「そんな……褒賞が与えられることは?」

「決まったのは昨日だよ。彼女は知らなかったと思うね。彼女は自分が疎んじられていると感じ、あるいは訴追されることを恐れて姿を消したのだと思われる」

「…………」

違う、と僕は気がついた。

僕に内緒で姿を消すほどのことじゃない。

ラルクが気にしていたのは帝国のことではなくて——。

「キースグラン連邦」

「!?」

ぎくり、としてアバさんが足を止める。

「キースグラン連邦がラルクを要求したのではありませんか?」

「……な、なぜレイジくんがそれを」

やっぱり。

あの国はラルクが使っている【 影王魔剣術(シャドウキング) 】が、「 六天鉱山(シックスマイン) 」から出土したものだと気づいている。さらにはラルクが、鉱山から逃げ出した奴隷であることも。

「キースグラン連邦は事情を説明しましたか?」

「いや……ただ、『黒の空賊』がキースグラン連邦の国民であり、 保護したい(・・・・・) ので速やかに身柄を引き渡すようにと……」

「……なるほど」

キースグラン連邦は鉱山での出来事を隠したいのだろうか? それよりも単純に、事を荒立てず手っ取り早くラルクの身柄を押さえたいということか。

彼女が暴れれば多くの死者が出るから、油断させ、一気に天賦珠玉を抜く……。

「急ぎましょう、アバさん。ラルクの部屋になにかがあったんですよね?」

アバさんは僕からも情報を聞きたそうにしていたけれど、ラルクを探すのを優先したいのか、すぐに彼女の部屋へと案内してくれた。

「——ここが」

その部屋はおそらく他の部屋とも大きく変わりのない部屋だった。ただ、場所の限られた飛行船内にしては大きいなと思えるくらいで。

生活感がないホテルのような一室で、わずかにベッドのシーツが乱れているだけだ。

「これを」

サイドテーブルには紙とペン、それにインク瓶が置かれてあった。

紙には下手くそな文字で——だけれど、それなりにちゃんと読める程度の筆跡でこう書かれてあった。

『弟くんへ

あたしはどうやらそう長くは生きられないみたいだ

でももう少しあがいてみる』

彼女と長い別れになったアッヘンバッハ公爵領の領都で見た書き置きよりは、だいぶ上手になっていたことが、時の流れを感じさせた。

「……どうして!」

僕はラルクが天賦を使いすぎて、生命力を削っていることを知っていた。だからなんとしてでも、これ以上天賦を使わせず、できれば天賦珠玉を抜き出すことを納得させようと思っていた。

なのに、その矢先にラルクがいなくなってしまうなんて。

「レイジくん」

ミミノさんの手が僕の手首に添えられて、ハッとした。紙を持つ手がぶるぶる震えていて今にも破ってしまいそうだったのだ。

「よく見るベな……『もう少しあがいてみる』って」

「……はい、でもそれが……」

「彼女は生きようとしてる」

「!」

ミミノさんの言葉が、すっ、と胸に入り込んできた。

そうだ、ラルクは生きようとしている。どうにかして生きようとしている。

「捜そう。レイジくんにとって大切な人なんだべな?」

そうだ。ミミノさんの言うとおりだ。

ラルクがいなくなってしまったのなら捜せばいい。

「——ダンテスさん、ノンさん」

僕がふたりを振り返ると、

「わかってる、皆まで言うな」

「はい。……私は教会が戻ってこいと言ってくるまでですけど、お付き合いしましょう」

僕が言うまでもなく、そう言ってくれた。

……こんなに僕は、よくしてもらっていいんだろうか、なんて思ってしまう。

クルヴァーン聖王国で4年振りに再会し、僕のワガママでルルシャさんに会いにここレフ魔導帝国へとやってきた。それからは想定外の連続で——僕の身分のことまで気にしてもらって、その上でまたラルクを追うことをお願いしてしまっている。

それなら、いっそ僕ひとりのほうが——。

「レイジ。ひとりで捜しに行こうなんて考えるんじゃあないぞ」

「!?」

「顔に書いてある。それくらいすぐにわかるさ。——ひとりの手は2本しかねえが、ふたりなら4本、4人なら8本あるんだ。ゼリィのヤツも合流したら、アイツはこういうときによく働くはずだぞ」

「……ダンテスさん、ありがとうございます」

「おう」

ニッ、と笑って親指を立てるダンテスさんがイケメン過ぎる。

「レイジくん、追うなら早く動いたほうがいいでしょうな。身分については今日、遅くとも明日には公文書を発行します。もうひとつの『望み』はしばらく検討に時間が掛かるでしょうから——」

「はい、落ち着いたらここの冒険者ギルドに確認の連絡を入れるようにします」

「それがいい」

「あ……それと」

僕は、もうひとり、会わなければいけない人がいることを当然覚えていた。

さすがになんの挨拶もなく出て行くわけにはいかないだろう。

「——ラルク様が出て行ってしまわれたというのはほんとうですか!?」

ちょうどそのタイミングで部屋に飛び込んで来たのは——深い紫色のワンピースを着た少女。

長い金髪はラメをまぶしてなくとも十分に光を放っていて、瞳の赤は美しい宝石のよう。

彼女は、

「お嬢様……しばらくぶりですね」

エヴァお嬢様は、その場ではたと、立ち止まった。

「レイジ……」

僕が幻ではないのか、これが夢ではないのか、単純に見間違いではないのか——それを確認するようにつぶやいた、お嬢様は、

「レイジ!」

改めてもう一度、声を上げた。