軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

3

ミュール辺境伯のお屋敷は広々としていたけれど、王都のお屋敷と比べるとやはり質素というか、質実剛健というか、無骨な感じがした。

応接間には巨大な熊の剥製が飾られていて、今にも襲いかかってきそうな迫力だ。これを見たらふつうの人は腰を抜かすんじゃないだろうか……というかいいの? こんなもの応接間に置いておいて?

のっしのっしという足音とともに部屋の扉が開くと、そこには僕の記憶と違わないバーサーカー……じゃなかった、ミュール辺境伯の姿があった。

「レイジィ! ほんとうに我が領に遊びにくるとはな! いいぞ。どこへ行く? ダンジョンか? 荒くれ者の冒険者どもを一斉に締め上げるか? それとも前人未踏の秘境へ——」

「お、お父様、ご自分の希望ばかり述べないでくださいませぇ……」

横にちょこんとついてきたのはミラ様だった。

エヴァお嬢様といっしょにいたときの印象では「素朴な田舎のお嬢様」という感じだったのに、なんだろう、ちゃんと貴族令嬢っぽさがにじみ出ている。

ああ——そうか。

「パパ」呼びしていたのを止めたり、所作振る舞いが洗練されてきたからか。

「お、おぅ……そうだな。遠いところをわざわざありがとうな。それで? どういう用件でここに来たんだ? お前、聖王都でいろいろやらかしたからしばらくは聖王国にいねえと思ってたんだが。まあ、聖王都は今隣国のことで忙しいみたいだが」

それを聞いて僕はピンときた。

この人は、レフ魔導帝国でなにが起きたのかほとんど知らないのだ。

「——まずは急な来訪にもかかわらず、お目通りがかないまして光栄です。ミュール辺境伯」

「んな堅ッ苦しいこたァ——」

「レイジ様は当主が直々に認められたお客様ですわ。いつでもお越しいただいて構いませんのよ」

ミラ様は右手を胸に当てた簡単な貴族の礼を返してから、きろりと隣にいる父をにらんだ。バーサーカーは怯んだ。

ミラ様がいれば辺境伯領も安泰だな。

「今日ここに参りましたのは大きなお願いがひとつと、それとレフ魔導帝国で起きた出来事に関するご説明です」

僕が切り出すと、娘にたじたじだった辺境伯の目の色が変わった。

「……お前、アレに関わってンのか? そうかい、そんなら話を聞かなきゃならねえだろうな。座れ——ウチの家臣団も呼ぶ」

広々としていた応接間も、ムキムキの男女が5人追加されるといきなり狭く感じられる。だけれど僕の話が一通り終わると誰も彼もが黙りこくってその内容を考えていた。

僕が話したのはすべての経緯と、アーシャのことや盟約回りの詳細ははしょったけれど「裏の世界」のこと、それにこれからやってくるダークエルフ、地底人たちの受け入れだ。

「……レイジ、まずお前の『お願い』についてだが、これは問題ねえ。なんせここにゃ土地があまってっからな」

「閣下。しかし、領内の食料はさほど裕福とは言えませんぜ。ここに数千人追加されちゃあ——」

「ちょい待て」

辺境伯は手で制する。

僕の懸念は、「お願い」が受け入れてもらえるかどうかということだった——それは法律的な問題もそうだし、辺境伯領に十分な食料があるのかという問題もある。

もし難しいのなら、一時的に食料を買わせてもらって、他の土地を探すことも考えていたのだけれど。

「レイジ、お前の話じゃぁ、そのダークエルフとやらの戦闘力はクソ高けぇんだよな?」

「……ええ、まあ」

あ、これはなんかよくない方向に話が行く気がする。

だって辺境伯の目が爛々としてるんだもの。

「それじゃあよ、そいつらにモンスターを狩りまくってもらえや、肉は問題ないわな。んでアレよ、我が辺境伯領でも名産があれば多少は金になるじゃねえか」

「お父様。モンスターの肉を加工して輸出するということをお考えですか?」

「それよ、それ。辺境だ辺境だとバカにしてる連中に、美味い肉を食わしてやろうじゃねえか」

するとミラ様以外の家臣からもあーだこーだと意見が出る。

どうやら辺境伯領は生き物が多い割りにあまり手がつけられていないらしい。というのも強い冒険者たちはダンジョン攻略や希少なモンスターや植物を狙うため、「安定的にモンスターを狩る」ということをやらないのだ。

辺境伯領の兵士たちは領内の町が危険になるとそのたびに出兵するが、往復の時間が掛かるために「安定的にモンスターを狩っている」とは言いがたい。

その「安定的にモンスターを狩る」という仕事をダークエルフたちに任せたいようだ。

僕は手を挙げた。

「ええと、一応言っておきますが、ダークエルフたちは喜ぶと思います。地底人種族も一般的な兵士より戦闘力は高いので役に立てるのではないかと」

地底人は天賦珠玉なしで「裏の世界」の凶悪モンスターと戦ってきたのだから、そりゃ強い。 ダーク(マッチョ) エルフたちが異常に強いというだけで。

だけど僕は余計なことを言ったようだ。

「閣下。さすがにこの 子ども(・・・) が言うことを鵜呑みにしすぎじゃあありませんか?」

家臣の人たちがじろりと僕を見てきたのだ。

「話にゃ聞いてましたけどね、どこからどう見ても子どもでしょうよ。これが強いとは全然思えませんぜ」

ぽつりと「レイジさんが子どもなら私はどうなるの……」と2歳年下のミラ様が言った気がするがカッカしている家臣たちは気づかない。

「そうですぜ。大体、聖王陛下といっしょの場所で戦えたってだけでクソうらやまし……じゃなかった、特別待遇なのに、なにもそれ以上やってやる必要もねえでしょう」

「子どもが見た『強い』なんて言葉で判断できませんぞ」

そうだそうだ、と声が上がる。

「……だ、そうだが? レイジ?」

にやり、と指鉄砲みたいな形を作ってそれをあごに当てた辺境伯が聞いてくる。

ほら、イヤな予感がしたんだ。

「ミュール辺境伯。僕は先ほどから申し上げておりますとおり、時間がないのです。ダークエルフ、地底人種族の受け入れを承諾いただければすぐにもレフ魔導帝国へ行きたいと思っています」

「おお、おお、そうだったなぁ」

わざとらしく辺境伯はポンポンと膝を叩いた。

なんだなんだ。

「ミラ。あ〜、聖王都からの 定期便(・・・) はいつだったかな?」

するとミラ様はハッとしたように、

「2日後、明後日でございます」

「そうだったそうだった。——レイジ、明後日にな、聖王都とここ辺境伯領を行き来する魔導飛行船が飛んでくる。貨物を載せる旧式ではあるがよ、それに乗れば、馬で行く半分の時間で聖王都に行けるぞ」

「!」

ここからレフ魔導帝国まで、最短距離の街道を馬で走っても2か月かかるらしい。

それが、聖王都経由になったとしても魔導飛行船を使えば1か月ほどで到着できる。

「使ってもよろしいので?」

「構わん。だが、今日と明日は、お前手が空くよなぁ?」

今度は僕がハッとする番だった。

「そんじゃあ、手合わせ願おうか」

むくつけき男女6人が指や首を鳴らしながら立ち上がると、ミラ様が顔に手を当てて海より深いため息を吐いた。