軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

15

* アッヘンバッハ公爵邸 *

イライラとした様子を隠そうともせず、貧乏揺すりが止まらない。公爵の長男であるダニエル=アッヘンバッハは室内にいる、きらびやかな鎧を纏った騎士と、執事へと視線を投げる。

「 六天鉱山(シックスマイン) からまだ連絡はないの!?」

「はい。先遣隊はすでに到着していてもおかしくない時間ではありますが、魔導通信機の設置に時間が掛かっているのかもしれません。裏を返すと鉱山にある通信機が使えない状況だと思われます」

「そんなことはわかっているんだよ! 問題は竜と、星6つの天賦珠玉のこと!」

年齢は40を超えているというのに甘ったれた口調で言うと、ダニエルはハンカチで額を拭いた。

「坊ちゃま。鉱山兵の報告ではすでに星6つの天賦珠玉は使われ、少女が逃走しているということでした。であればどこかの街に寄らねば餓死するでしょう。そこは気を長く待つしか……」

「そんなことはわかっているんだってば! 鉱山の子どもなんて少ないだろ!? どうして見つからないの!」

「全公爵領に通達が終わったのが昨日です。そう、すぐには……いえ、少々お待ちを。確かに子どもは少ないですね……」

「ん? なになに? 執事長はなにか思いついた?」

執事はぺらぺらと手元の記録をまくっている。

「——おっしゃるとおり、鉱山奴隷で働いていた子どもは2人しかいません」

「うんうん、それで?」

「子ども同士は仲が良くなるものではありませんか?」

「そりゃ、そうだろうけど……それが?」

「もうひとりの子どもは、名前がついておりません。が、黒髪黒目という特徴があります。子どもはひとりでは行動せず、このもうひとりの子どもと行動しているのではありませんか? ラルクという逃亡奴隷は平均的な見た目ですが、黒髪黒目は探しやすいです」

「! なるほど! ——っていうか、黒髪黒目ってほんとうか?」

「……はい、事実でございます」

ダンッ、とダニエルは拳をテーブルに叩きつけた。

「『災厄の子』じゃないか……! 言い伝えはほんとうだったんだな!」

じろりと騎士をにらみつける。

「黒髪黒目も探せ! 見つけたら星6つの在処を吐かせて、なるべく早く殺すんだ!」

「……いいんですか?」

「いいに決まってる! これは公爵命令だぞ! 行け!」

「了解しました……」

明らかに気が乗らないふうではあったが、騎士は出て行った。

「くそっ。星6つを失ったことがゲッフェルト陛下に知れたら大変なことになるぞ」

騎士の元へ、「黒髪黒目の 奴隷(・・) が領都にいる」という情報が衛兵から上がってくるにはそれからあと半日ほどが必要だった。

一方の執事は魔導飛行船の発着場を整える業務に走り回った。この日の夕方、天銀級冒険者を乗せた飛行船が到着予定だからだ。

* *

僕とミミノさんが、ノンさんに呼ばれて大慌てで冒険者ギルドに——その裏手にある倉庫へと戻ると、そこには驚くべき光景が広がっていた。

「ウソだろ……」

「なんてこった……」

ちょびひげのオッサンと片腕の査定係さんが唖然としている。

「ん〜〜。これはここに運んでおいてよかったんでしたっけ? 主任」

「あ、ああ……」

「それじゃ中の書類片づけてきますわ!」

じゃ、と言って、無精ひげの「役立たず」さんはギルドへと入っていった。

つい1時間程前まではフラフラだった人が、である。

「——君!」

ちょびひげオッサンは僕へと振り返った。

「あの草、全部買おう! いくらだね!?」

「え、え?」

「二日酔いに効果てきめんじゃないですか! これからはギルドでも採取依頼を出しましょう! 私が!」

「あ、はあ……」

どうやら僕が渡した黄色の薬はばっちり効いたらしい。それはよかったのだけれど、そんなに効果があるものなんだろうか……?【森羅万象】で確認するけれど「肝臓の機能を高める」しかわからなかった。

……まあ、確かに、機能を高めるという点では間違っていない、か?

モ●ハンでも同じ「体力回復」で「大」と「小」じゃ全然違うし。

むしろその「大小」が重要なのでは……?

「!」

僕がじっと草の根を見つめていると、「肝臓の機能を すごく(・・・) 高める」というイメージが頭に湧いてきた。

できるんじゃん! そこまで! だったら最初からそうしてよ!?

いや、ちょっと待てよ。もしかしたら僕がそこまで細かく確認しようとしなかったからこうなったのか……?

「ちなみにこれはなんという草なのですかな?」

「あ、このウコンのことですか——」

言いかけて僕はハッとした。いやいや、ウコンじゃない! いや、本物のウコンがどんなのかは知らないけど!

「ほう、ウコンというのですか……」

「あ、あのですね。わからないというか、正式名称は、ただ僕が『ウコンっぽいな』と思ってウコンと呼んでいるだけというか」

「まあ、正式名称がもしわかればそれはそのときでいいでしょう」

「で、でしたらもうちょっと違う名前にしませんか?」

「ふーむ……でしたら便宜上、領都ギルドではこの草を『レイコン』と呼びましょうか」

「……へ?」

「発見者の名前にちなんだものです」

「あ、う……」

僕は迷った。異世界で間違ったウコンの名前を広めるくらいなら……いやそもそもこの世界にウコンがあるかわからないんだけど……まあ、いいのか……?

いいか。

いいよね。

きっと学術的な名称は誰かがつけてるだろうし。

「わかりました。それじゃあ、レイコンで……」

「承知しました。金額ですが、すべてまとめて小金貨1枚でよろしいですか?」

思いがけず大金になりそうだ。「生命樹の葉」を買った金額を優に超えている。やったぜ。

僕がうなずこうとすると、

「ちょ〜〜〜っと待つんだべな!」

「ミミノさん?」

「あれだけの効果がある薬を、小金貨1枚ってのは安すぎるべな」

するとちょびひげのオッサンは、

「いやいや、二日酔いは回復魔法でもある程度治療できますぞ。であればこれでも高いほうです」

「回復魔法とは違う使い方ができるでしょう?」

「違う、使い方……?」

「事前服用」

ミミノさんが言うと、オッサンは「あっ」と声を上げた。

「事後にしか使えない魔法と違って、これはあらかじめ服んでおけますね! そうなると……そうか、そうか! これはすごいことになるかも……!」

なんだかオッサンが興奮しているけれど僕にはよくわからない。

「どういうことなんですか、ミミノさん」

「ん〜、大人になるとわかると思うけど、偉い立場の人はお酒を飲まなきゃいけない場面が結構多いんだよね。でもみんながみんなお酒に強いわけじゃないべな?」

「はい」

「かといってお酒の場でいろんな取り決めや商談が決まることも多い。お酒に弱い人にとっては自分の弱みだし、強い人にとっては強みになる。酔っ払った頭で交渉なんてできないし」

「あ……なるほど。この薬を事前に服用しておけば、お酒に酔いにくくなりますね!」

「その可能性があるってところだべな。検証はこれから……」

「いえいえ。確かにお酒の前に服んでる人、結構いましたもん。だから効きますよ」

「……えっと、それは、レイジくんの故郷の話かな?」

あ、やっべ。

聞きかじりの日本の知識を披露してしまった。確かにドラッグストアに行くと「飲み会の前に」みたいなポップつきで売ってるんだよね、「ウ●ンの力」とか「ヘパ●ーゼ」が。

「わかりました」

僕がわたわたしていると、ちょびひげのオッサンはポケットから金貨を取り出した。

「連邦金貨1枚で行きましょう。これは先行投資で、これ以上はさすがに出せません。久しぶりにわくわくするような薬効を見られたのでここまで出すのです」

「十分だべな!『取引の神は公正に見ておられる』ことよ」

「『売り手よし買い手よしの取引』だったと報告しましょう」

オッサンとミミノさんが握手していた。——後になって聞いたところ、そのやりとりは商売人がよく使う挨拶のフレーズらしい。

「あ、ごめんな、レイジくん。勝手に取引結んじゃって……」

「いえいえ。僕は全然事前服用の可能性なんて考えていなかったので、ありがたかったです」

「はい。レイジくんのお金」

「あ……」

手渡された連邦金貨は、小金貨よりも大きくずっしりと重い。これで10万円ほどの価値がある。

「いい結果が出たみたいだな。ギルドの人間があわててたもので、もしかしたらマズいことになったのかと思っていたよ」

「ダンテスさん」

「知識は力です。レイジくんのもたらした知識が多くの人の利益になるといいですね」

ダンテスさんの横にノンさんがいて、そう言ってくれる。僕がどこでこんな情報を得たのかとか、そういうことは聞かれていない。気遣って、聞かないでいてくれている。

……いつか、全部話すときが来るのかな?

わからないな……。

「ん」

そのとき、僕は喚声を聞いた。倉庫の横に同じような形の建物があって、そこから聞こえてくるらしい。

「あそこはなんですか?」

「ああ。あれは訓練場だ。冒険者たちがトレーニングしているんだよ……行ってみるか?」

「行きたいです!」

「——の前に、ご飯だご飯。まだわたしらはなーんにも食べてないべな」

ミミノさんに言われて、僕はお腹に手を当てた。きゅるる、と小さく音が鳴った。