軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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★ ダークエルフ樹上集落 ★

アナスタシアが考えても考えても、レイジというヒト種族は謎だった。

髪を染めているようで、夜中にひっそりとどこかに出かけていき、翌朝には髪の色が少し変わっていることがあった。

クルヴァーン聖王国で貴族の護衛をしていたというのは、年齢を考えれば「?」だったが、実力を考えれば納得だ。

(きっとそこで高度な教育を受けたのでしょうね)

とアナスタシアは思っている。

立ち回りもできて魔法も使える。そんな彼がなぜ「冒険者」になったのかについては聞いていない。

アナスタシアは冒険者稼業について詳しくなかったので、

(きっと冒険者のほうがお金を稼げるのでしょうね)

と、合っている部分もあるが根本的には間違った結論を抱いていた。

彼は恩人だ。

魔力が暴走してしまう自分の身体を治し、この世界にやってきてからは陰に日向に自分を助けてくれた。

だから——レイジが墜落飛行船を確認しに行き、さらには地底都市へ向かっている間は毎日毎日不安で、胸がつぶれるように感じられた。

レイジが戻ってきて、うれしくて、気持ちがふわふわして、なにかしていないと頭がどうにかなりそうで、それで魔力加減を間違えて浴場を熱湯にしてしまった。

あの日の夜、レイジを抱きしめた。

そこに彼がいるとわかっていても、触れてみないと確信が持てず、熱を感じないと心配で。

直後に我に返って、なんというはしたないことをしたのかとその夜は眠れなかった。

(レイジさんにそばにいて欲しいのも、レイジさんに早く帰ってきて欲しいのも、すべて私のワガママなのです……)

頭は冷静だ。

ワガママな自分を自覚している。

だけど、この感情をどうしたらいいのかがわからない。今まで生きてきて、こんなに心を揺さぶられたことがなかったから。

(ほんとうに、レイジさんに首輪をつけられたらいいのに)

竜人都市で、竜人の女たちが言っていたことを思い出す。

(黒くて細い革のベルトで、留め具は金色。ネックレスみたいに細いチェーンをつないで私がそれを握ってレイジさんとお散歩するのです。レイジさんが右に行きたいと引っ張って、私は左に行きたいと引っ張ると、ふたりで綱引きみたいな感じになって……ふふ、とても楽しそう)

アナスタシアは妄想をふくらませて右手を頬に添えてほぅと息を吐いた。

遠目に見れば美少女が悩ましげなため息を吐いているところなのだが、考えている内容は少々ブッ飛んでいた。

幼いころからエルフの森の最奥、ハイエルフ王族の住居に閉じ込められて育っていた彼女は、男女の過ごし方も、そもそも恋心なんていうのも知識不足だった。

「……一日中小屋の中にいるのも、さすがに飽きますね」

アナスタシアは「ハイエルフ様はごゆるりとなさってください」という族長に押し切られて樹上住居にいた。朝から屈強なダークエルフたちがラ=フィーツァの痕跡を探しに出払っており、夕方となる、あともう少しで帰ってくるはずではあったが、集落内の人員は少なかった。

小屋から出て行くと、遠目に族長がいるのが見え、彼もこちらに気がつくとその場に「ははーっ」と土下座をした。ほんとうに止めて欲しいのだが止めてと言っても止めてくれない。

「あら、ハイエルフ様」

「あ……ニッキさん」

近くの枝を歩いていたのは食堂の女ダークエルフだった。ここでは男も女もみんな料理ができるのだが、彼女の腕がピカイチなので厨房を任されているらしい。

名をニッキと言った。

「あのぅ、皆さん会うたびにあんなふうに頭を下げられると困ります」

「あ〜、あれねー。温度差はあるけど、やっぱりハイエルフ様はアタシらにとっちゃ伝説みたいなものだから、ああなっちゃいますよね」

「伝説と言われても……私はなにもできませんし」

「いやいや、ハイエルフ様に伝わるお歌があるじゃないですか。アタシも昨晩聞かせてもらいやしたけど、思わず目頭が潤んじまって」

腕組みをして遠い目をしたニッキは、確かに感動を思い出してもう一度目頭を熱くしていた。

「…………」

確かに昨晩、請われてハイエルフの王族に伝わる詩を歌った。

——古き森 浮かぶ油 燃え盛る命 焔のごとく

神が降り 森に住まい 8色の葉 人に与う

——初めに木の神が 次に草の神が 最後に花の神が

森を言祝ぎ 風を休め 雨を垂れ 陽を誘う

古代エルフ語で歌うと、魔力が込められてしまい炎が飛び出すので、現代の言葉に直して歌った。それでも気がつくと魔力が出そうになるのでなんとか押さえ込むので精一杯だった。

(……私が歌えば、【火魔法】になってしまう。火はエルフにとって禁忌。それを知れば、この方たちは……)

いつか言わなければいけないと思っていた。そのとき彼らが自分を嫌うだろうことは予想できたし、それはそれで仕方のないことだ。

だけど、今じゃない。

今はまず、「表の世界」へ帰ることが先決だ。

だから彼らを迷わすようなことは言わないほうがいいとアナスタシアは判断していたし、レイジも同意見だった。

(ニッキさんも、私が炎をのせて歌うことを知ったら……きっと軽蔑なさるでしょうね……)

そう思うと気が重くなった。

「ん?」

そんなニッキはふと、遠くの空を見やった。

「どうか……しましたか?」

「いえ、その、ハイエルフ様は聞こえませんでしたか?」

すると、確かにアナスタシアの耳もとらえた。

それは「キィー」というような鳴き声だ。

「あっ、あそこ!」

北の空にいくつものごま粒のような点が見えた。それらは時折降下して、また上がってくる。そのたびに大地に煙が上るようだった。

その赤い身体に、炎を纏った初夏鳥が集団となって飛来しているのだとわかるのは、それから10分後のことだった。