軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

22

僕は翌日1日掛けて、脱出のための準備を整えた。

食料が心許なかったので、痩せた森で食べられる木の実を集めていると、見知らぬモンスターをまたいくつも見かけた。

(もしかしたら「表の世界」にもいるのかもしれないよな)

緑色の甲殻を持った軍隊アリは僕の身体よりも大きい。

腕が4本あるテナガザルはすさまじい速度で木から木へと飛び移り、結局攻撃をしてくるでもなく僕を警戒しつつ遠ざかっていく。

【森羅万象】があるおかげで擬態を見破ることができた人食いキノコは毒性が高いので触らずに見送る。

(生態が全然違う)

日中は地底都市の周囲を確認し、「表の世界」では聖王都がある方角も一応見ておいた。

そこは——一面の荒れ地だった。

草すら生えない、土壌が露出した荒れ地には身を隠す場所がほとんどなく、毒の沼地が点在していた。

(このことをお嬢様に言っても、信じてもらえないだろうなあ)

僕は一通りの調査をしつつ、必要な物資も集めると地底都市へと戻った。

この都市は外界への出入りがほとんどないらしく、また地底都市が「絶対に見つからない」という自信でもあるのか見張りもないので、侵入がバレる心配もない。

ここで問題が1つ。

レフ人たちを逃がすための準備はおさおさ怠りなく完了した。あとはみんなの寝静まる頃合いを見計らって脱出作戦を決行するだけだ。

では問題とはなにかと言えば——副船長とやらが何者なのか、だ。捕まっていた曹長の話ではとんでもないクズ野郎みたいだけど。

僕はこの目で確認しておきたかった。だから、消灯前に戻り遠目で副船長が出てこないかを確認しようと思った。

わざと悪人の皮を被って仲間を助けるような好漢かもしれないじゃないか。

すると——いた。

消灯まであと30分というところで、地底人の軍人3人に囲まれるようにして外をぶらついているレフ人が。

「いっひっひっひ。いや、申し訳ありませんねえ! こうして私めもお酒をいただけるなんて!」

「飛行船の技術を調べるのに、お前が必要なのは間違いねえからな。他の竜人は口が固くていけねえよ」

「あー! アイツらは、もうね、堅物なんですよ、堅物! 頬でも2、3発張ってやればいいですよ!」

「お前は……いや、まあいいわ。お前がしゃべってくれんならそれでいい」

「いっひっひっひ! 楽しみだなあ、ここのお酒……」

わざと悪人の皮を被って仲間を助けるような……好漢……かも……しれない……よね? 可能性はゼロじゃないよね?

消灯時間になって僕は副船長含む4人が入っていった居酒屋へと向かう。炊事の時間が終わっているからだろう、煙突から煙は出ておらず、余熱で温めた食事を提供しているようだ。

「——わっはっは! 飲めや飲めや!」

「——おいおい姉ちゃんよお、こっちでいっしょに飲めや!」

「——てめえ、肩が当たったぞボケェ!」

……やたらハイテンション、というかガラの悪い声が聞こえてくるな。

僕はマイカ茸を栽培している屋上から屋根裏へ続くフタ扉を開いた。ハシゴを伝って下りると、床板の隙間からフロアの様子がよく見える。

さほど広くない店内に、所狭しとテーブルとイスが並べられている。酔っ払った地底人は見事なまでに肌が真っ赤になっていた。

剣呑な場の空気に気圧されたのか、副船長は縮こまるようにしながらも、それでもジョッキに注がれたお酒——おそらくエールらしきものを美味そうに飲んでいた。

「おう、副船長さんよ。お前、まァだ自分が『レフ魔導帝国』の出身だなんて言うのかィ?」

横に座った30代半ばくらいの男が、腕を伸ばして副船長の肩を抱く。

「は、はあ……そのとおりでして」

「俺たちゃよォ、誰もそんな国のことなんざ知らねェンだ。まさか——俺のことナメくさってンじゃァねェだろうな?」

「ブホッ、そそそんな!」

エールを噴き出しながら副船長が首を横に振っているが、男の太い腕が副船長を拘束して離さない。

「他の搭乗員も私めと同じことを言ってますでしょ!?」

「そォなんだよ……そこが怪しい」

「へ!?」

「口裏合わせてンじゃね?」

「そんなことありませんよ! 勘弁してくださいよ、百人長様」

百人長……って確か、部下が100人いる階級の人か。あのガラの悪い人——いやまあここにいる大半の地底人はガラが悪いんだけど——は結構な上官だ。

確かに、いっしょに来ている部下らしき2名は油断なく副船長が脱走しないよう確認してるもんな。

「だがなァ、証拠がねェ」

「証拠……証拠ですか」

副船長は暗い目で笑った。

「ではこうしたらどうでしょう? 搭乗員のうち1人を拷問に掛けてください。そうしたらウソか誠かわかるでしょう?」

「……おィ、お前なかなかおっかねェこと言うな?」

「ですがそうでもしなきゃ、私めの潔白は証明できませんからね。誰でもいいですよ。私めのことをバカにしていた連中ですからねえ……」

いや、いやいやいや、ダメでしょこの人!

なに簡単に仲間を売っちゃってるんだよ!

曹長だってあなたのことを嫌いながらも「ぶん殴る」くらいしか言わなかったのに——あなたは「拷問してもいい」だって?

(……この人は、ダメだ。寝返ったフリじゃない。仮に地底人がその言葉を鵜呑みにしたら、ほんとうに誰か捕虜を拷問に掛けるかもしれないじゃないか。そうしたら傷が元で死ぬことだって十分あり得る)

僕はここで「ぶん殴る」どころか魔法をぶっ放したい欲求に駆られたけれど、ぐっとこらえた。

(それなら、こっちはこっちで12人の脱出計画を実行するだけだ。もう行こう)

これ以上ここにいたら、聞きたくないことまでいっぱい聞くことになりそうだ。

去ろうとした僕の耳に、百人長の言葉が聞こえた。

「お前さァ、自分が助かろうとしてるのはわかるし、こっちとしてはすっげェありがたいンだがなァ……いかんせん飛行船とやらの知識、足りねェンだよな。それじゃあ、 あの方(・・・) への手土産とするにゃァしょぼいンだよ」

副船長は首を縮めて恐縮していた。

「……やれやれ」

僕は、ハシゴを伝って屋上へと出た。

ほんとにもう、作戦を始める前からどっと疲れた気分だわ。

あの副船長がたったひとりここに残ってどういう扱いになるかはわからないけど、そこまで気にかける必要はない。

さあ、作戦実行だ。