軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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翌朝——眠い目をこすって僕はベッドを出た。昨日はだいぶ遅い時間まで起きていたから、正直寝不足だ……でもレフ魔導帝国の軍用飛行船を見に行かなきゃ。

身支度を整えて廊下に出ると、廊下の窓から外を凝視していたキミドリパパがハッとしてこちらを向いた。

「おおおいィ、レイジくんんんん!」

「おはようございます」

「ああ、おはよう——じゃなくてね!? なんだぬ、あれは!?」

僕が寝不足だった理由は簡単だ。

「お屋敷の裏庭を『好きにしていい』という許可をいただいたので、『大浴場』を作らせてもらったんです。建築許可は長老会から……」

「大浴場!? あれを一晩で!?」

正確には夕方から夜に掛けて、だけど。

僕とキミドリパパが外に出ていくと、すでにお屋敷の人たちが集まっていた。

25メートルプールを2つ。ほんとうは形にもこだわりたかったんだけれど、さすがに時間がなかった。

【土魔法】で掘り返し、整形。アーシャの【火魔法】で超高温に焼き上げるとガラスのような照りが出た。闇の中、アーシャの魔力を練り上げた白色の炎が地面を焼いていく様は、「すごい」を超えて神秘的ですらあった。

階段が1つついていて、深さは60センチ。左右の浴場はこれまた【土魔法】で作り上げた土壁で目隠しがしてあるけれど、屋根まで作る余裕がなくて上からは丸見えだ。

【水魔法】で大量の水をぶち込んでおいて、水漏れや水の変色がないかを確認するために夜明けまで放置しておいた——というわけだった。

「おはようございます、レイジさん。お水はどうですか?」

僕とキミドリパパがお屋敷の人たちのところに混じると、後ろからアーシャが追ってきた。

「うん、ばっちり。水漏れも変色もないみたいだ」

排水用のための排水溝も準備してある。水は、町を縦横無尽に走っている側溝にそのまま流れ込む仕組みだ。

「ほおお! こりゃすごいぬろ」

「これが『大浴場』か? しかし水は冷たいぬろ」

いつの間にか7人の長老もやってきて、気がつけば水まで触っている。いや、まだ日の出という時間帯なんだが? 老人は朝が早いんですか?

そして種族のトップらしい長老が来たというのに誰も動じず、誰も歓待しないあたり、竜人族はさばさばしている。

「こ、これは……これが魔法の力なのか……!?」

キミドリゴルンさんも騒ぎを聞きつけて起きてきたらしい。

「いやいや、これからですよ」

「これから……?」

「はい。——アーシャ、僕はそろそろ行かないといけないので、一発お願いします」

「わかりましたわ」

アーシャがずずいと前に出ると、竜人たちは道を開けた。生まれ持った血、というのか、アーシャの所作にはなんだか迫力があるんだよね。

「これだとまだ、ただのプールです。まあ水浴びをするでもいいんですけどね。仕上げはアーシャの魔法です」

左のプールの前に立ったアーシャは、両手を前にかざした。

彼女が【火魔法】を行使するのに、格式張った魔法詠唱や溜めは必要ない。

ただ念じ、声を出せばいい。

「炎よ」

彼女の両手の先に現れたオレンジ色の炎は、朝日と同じ色だった。

この世に現れたことを喜ぶように、踊り、舞う。

炎はひゅるるると放物線を描いてプールの中央に着水すると——一瞬で周囲の水が沸騰、蒸発、爆発する。

「うわっちっちい!?」

ここまで飛んできた飛沫が数人の竜人たちに当たった。僕はプールに手をつけて【水魔法】を発動し、水をかき混ぜる。

「1発じゃやっぱり温まりきらないね。あと3発くらいかな?」

「わかりましたわ」

ぽんぽんぽーんと【火魔法】が放り込まれた。竜人たちは警戒したけれど、僕も僕で【水魔法】で火球を押さえ込むように動かし、今度は飛沫は飛ばなかった。

「うん、ちょっと熱めだけどちょうどいいかも」

ゆらゆらとプールからはほんのりとした湯気が立っている。真冬だったらもわもわだったろう。

「レ、レイジ、これのすべてがお湯なのかぬ!?」

僕の隣でプールに手をつけていたキミドリゴルンさんが聞いてくるので、僕はうなずいた。

「はい。もともと温浴の習慣はなかったと聞いていますので、皆さんが気に入るといいんですが——」

「うひょっほう! これは最高ぬろ!」

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

「ジジイ、うるさいぬろ」

「あ、誰がジジイぬろォ……?」

「黄と紫の長老がやり合うぞォ!」

「外に出てやれ」

「然り」

「然り」

「然り」

いつの間にか長老たちがスッポンポンになって飛び込んでいた。一応フンドシのような下着だけはつけてるけど。

お屋敷の女性使用人たちが「キャー」と悲鳴を上げる。いや、「ギャアアア」って感じか。見たくないものを見せるなという。

「レイジ、そんなに気持ちいいのか……?」

「ええ。僕は好きですけど——とりあえずキミドリゴルンさんも試してみてください。僕らが滞在している間はすぐにできるので、好評なようなら続けようかと」

熱い風呂に入るという風習があるらしい——そんな情報はあったようだ。ただ、この竜人都市ではさすがに贅沢なことだし、竜人族は爬虫類系であるのであまり温度変化を望まなかったようだ。

でも僕の知識では、ペットのトカゲに温浴を勧める人もいたのだ。温浴をすることで脱皮が促進されるし、皮がふやけて取れやすくなるという。

「おお、おおお゛お゛ッ!? 剥ける、鱗が剥けるぞォ! こんな奥までェ!」

「赤のォ! 汚いことするんじゃないぬろ! 湯が汚れる!」

大はしゃぎの長老につられ、キミドリゴルンさんも入ると、キミドリパパやお屋敷の人たちも試しに入ってみてくれた。

こうなると朝からお風呂は大騒ぎだ。

で、

「……レイジさん、その、ねぇ? 催促するわけじゃあないんですよ? でもねぇ、男の方ばっかりで、女の私たちが入れないってことはないんぬる?」

うふふふふ、と笑いながらも有無を言わせぬ迫力で迫ってくるキミドリママと、その背後にいる興味津々という顔の女性たち。

「も、もちろんです。もう片方は女性向けでしたので」

僕とアーシャは隣のプールも急いで温めると、女性たちに開放したのだった。

だいぶ、気に入ってくれたようであるのは間違いないだろう。

ふやけきった長老たちを置いて、僕は偵察チームへと合流し、飛行船がある場所へと向かった。

大浴場はアーシャにお任せだ。

今日一日で、おそらくお湯は真っ黒になるだろう。水の追加はがんばれば井戸からでも近くの小川からでもできる。

いちばんの問題である「加熱」はアーシャができる。

——がんばりますっ。

アーシャはやる気満々だった。

この竜人都市で僕とアーシャで銭湯でも開いたら大もうけできそうだなぁ。

風呂上がりのコーヒー牛乳とフルーツ牛乳を用意しなきゃね。いや、僕はコーラ派だけど。

「……しかし、長老たちは、その『大浴場』とやらに行ったきりで見送りにもこないとは」

偵察チームのリーダーが呆れたように言う。

僕らはかなりの速度で森を走り抜けていた。

「俺も気になるっすわ。戻ったら入りたいぬ!」

「アタシもアタシも」

チームの残りメンバーであるふたりも興味があるようだ。

浴場を追加してくれ、と言われたらどうしよう……。

「そう言えば、君は違う世界から来たようだぬ?」

走りながらリーダーに聞かれる。

「ええ……突拍子もない話に聞こえると思いますが」

「いや、あれほどの船を、森のど真ん中で見たら、そういうこともあり得ると考えてしまうぬ」

リーダーは遠目に、飛行船を確認している。そしてフォレストイーターも。

「子どもの頃に聞いた物語を思い出したぬ。この世界で生きることに嫌気が差した変わり者が、別の世界へと旅立つんだぬ……」

「そんな物語が?」

「うむ。『ラ=フィーツァの旅』という名前だぬ。我らの祖先らしいがぬ」

「!?」

僕は思わず足を滑らせ、転びそうになった。

「大丈夫かぬ?」

「それ——その話!」

ラ=フィーツァ。

それはレフ魔導帝国にあった「九情の迷宮」を作った男。

「詳しく教えてください……!!」

僕はリーダーに飛びつくようにして言った。