軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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「わっはっはっは! 参った参った。死んだふりからの反撃があるとはなあ」

竜人都市に戻ってきたキミドリパパは高らかに笑った。

いや……笑えないと思うんだけど、右手の指を3本ちぎられたら……。

でも当の本人は大いに笑っているし、

「あらまあ、大変ねえ。それじゃあパパ、もう槍は持てないじゃない。どうしましょ。お芋の皮むきはできる?」

帰りを出迎えてくれたキミドリママも平然としていた。

「……今日はご飯要らないから」

むしろキミドリゴルンさんがいちばんしょげ返って、部屋へと閉じこもってしまった。

キミドリパパはキミドリママやお屋敷の使用人に、遠征でなにが起きたのかを話している。チョチョリゲスの巣はまだ 生きて(・・・) おり、僕は巣を残して繁殖を待ったほうがいいと提案するとすんなり受け入れられた。

チョチョリゲスという怪鳥を10羽も担いで帰ってきたので、都市内はちょっとした騒ぎになっている。

英雄の凱旋帰国みたいな感じで。

でも——一方で、キミドリパパは重傷を負ったわけで。

「まあまあ、それじゃあレイジさんのおかげで傷を塞いでもらえたの? よかったわねぇ〜。ほら、何年前だったかしら、あなたの部下の方が傷口をそのままにしてたら化膿して、結局腕を切らなきゃいけなかったじゃない」

「そのとおり! それがあったからヒヤッとしたのだがな、レイジくんがいてくれてほんとうに助かった! 魔法だぞ!? すごいよな! どうだ、レイジくん。竜人軍に——」

「あ、それは結構です」

「そうかそうか! 結構なことだろう!」

「違います。お断りしているんです」

「そうかそうか……」

そこでしょんぼりするのかよ!

僕は——お屋敷の使用人たちからもとても感謝された。旦那様のケガを治してくださってありがとうございます、と。

僕としては傷を塞ぐことしかできなくて、指を元に戻すことができないことを悔やんでいたのだけれど……そんなことはたいしたことではない、とでも言いたげな雰囲気だったのだ。

「食事までゆっくりしてくれたまえ!」

いくつも言いたいことはあったけれど、それを呑み込んだ。

僕とアーシャは交代で浴室に入り、汗と汚れを流した。なんとお屋敷の主であるキミドリパパよりも先に。

浴室と言ってもお湯を使って身体を拭くくらいのものだけど、それでもさっぱりした。

客室に戻ると窓が開いていて、夕暮れ時の竜人都市が見渡せた。

どこにいるのか虫が鳴いている。ヒグラシのようでいて、最後に「キェッ」と鳴くのでどうにも武闘派な虫だ。

涼しい風が吹き込んで、窓辺にいるアーシャの髪を揺らした。

「レイジさん……私がいなければ、きっとレイジさんがキミドリゴルン様のお父様を追っていき、お父様がケガをなさることはなかったですよね……」

不意にアーシャが言った。

「アーシャ?」

「あのとき私がレイジさんにしがみついていたから、レイジさんの動きが制限されてしまいました……それが悔しくて、ずっと……」

うつむくアーシャの肩が震えている。

ああ……僕が後悔しているのと同様に、アーシャもまた後悔していたのだ。

部屋に籠もっているキミドリゴルンさんも、きっとそうなのだろう。

「アーシャ、僕は考えていたのですけれど……お屋敷の皆さんは明るいですよね」

「えっ……はい。そうですね」

「彼らにとってケガを負うことはたいしたことではなくて、ケガをしていて前線に立てなくなったのならば別のことをしたらいいと、心の底から思っているんだと思います。お芋の皮を剥くでもいいでしょう」

僕はいまだに日本で生きていたころの価値観に引きずられ、アーシャはハイエルフの王族として生きてきたことの価値観に引きずられている。

この世界に比べれば「表の世界」はなんと恵まれていたことだろう。

種の絶滅なんてものを考えられるのは、食に余裕があるからなのだ。

「生きていられることに比べれば、ケガなんて小さなことでしょう?」

「それは……そうかも、しれません」

「僕らはこの家に助けてもらった恩がありますから、向こうの世界に帰るめどが立つまでは、恩返しをしましょう」

「恩返し、ですか? やはりモンスター討伐でしょうか」

「いやいや。アーシャにぴったりのことがあるじゃないですか」

「私に……?」

僕はにやりとしたが、そのとき部屋の扉がノックされた。

入ってきたのはキミドリゴルンさんだった。

「……レイジ、お願いがあるのだが、聞いてくれるかぬる?」

「いいですよ。協力しましょう」

「まだなにも言っていないぬ」

「魔道具についてもっと知りたいんでしょう? あと、魔法の仕組みについても」

「!? ど、ど、どうしてそれを……!?」

キミドリゴルンさんが部屋に籠もったのは、同じ後悔でも少し違ったのだろう。

あそこで勇敢に立ち向かった父や竜人たち、一方で僕はそういった動きをほとんどしなかったけれど、代わりに【回復魔法】でサポートをした。

竜人軍に入って切った張ったをやるのはキミドリゴルンさんには向いていない。だけれど彼には彼にしかできないことがなにかあるはず——そう考えたのではないかと思ったのだ。

このタイミングで「頼み事」と来れば、もうそれしかない。

「キミドリゴルンさんは、戦うことよりも、補佐することを選んだのですね?」

「……そこまで見透かされていたのか」

呆れたような顔をしていたのは、キミドリゴルンさんだけでなくアーシャもだった。

いやいや、ここで奮起しなければ男じゃないですよ。

「でもそれは明日からにしましょう。お腹が空きましたから」

夕食は、キミドリママとコックが腕によりを掛けて作ってくれたチョチョリゲス料理だった。僕が倒した1羽は竜人軍に寄付したのだけれど、せめて少しは持っていってくれと言われて引き取った部位があった。

客人におんぶに抱っこでは、竜人の沽券に関わる——とまで言われたらしょうがないよね。

「まあまあ、キミちゃんも来てくれたのね!」

食堂にキミドリゴルンさんが現れたのを見て、キミドリママがうれしそうに手を叩いた。

「さあ、今日は久々に酒樽を開けるんだぬら!」

ジョッキを持ったキミドリパパが興奮気味に言うと——いや、この人が興奮していないことのほうが少ないな——使用人が一抱えほどの樽を運んできた。

竜人都市では酒が高級品のようで、祝い事にしか飲まないらしい。今日はチョチョリゲスを仕留めたことのお祝い——ということだったけれど、

「あの、魔法で傷が塞がっていても、お酒を飲むと痛んだり開いたりする可能性があるので今日は止したほうがいいと思います」

「おお!? だが祝いの席だぬ!」

「あなた」

「おおっ……」

ゴゴゴゴゴと効果音でもつきそうな気配を漂わせながら現れたキミドリママがジョッキを取り上げると、すとん、と力なくキミドリパパは席についた。

お酒はまた今度、ということになり、酒樽はそのまま下げられていった。

「わっはっはっは! レイジくん、どんなに強いモンスターと勇敢に戦おうとも、家庭内の強敵とは戦わないに限るぞ!」

そんな、格言みたいなことを言われましても。

ちなみに使用人の皆さんも交えた食事会は非常に盛り上がりました。チョチョリゲスの唐揚げは最高にジューシーで美味しかった。