軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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森での生活はどこかのんびりしていて楽しかった。一口に「森」と言っても道はある。街道ではない、狩人や商人が使う秘密のルートがいくつもあるようだ。

ハーフリングであるミミノさんは方向感覚に極めて優れていて、地図もない森をすいすいと進んでいく。

(ほんとうに合ってるのかな……)

と僕はいぶかしんだけれど、パーティーメンバーの誰も疑っていないので問題ないみたいだ。まあ信じる以外に僕にできることもないけど。

食事は森で獲れたものが中心で、そこでは僕も活躍した。食べられる果実やキノコ、野草は【森羅万象】で全部わかるからね。あと薬草類が生えているとミミノさんに教えて採取してもらう。「よく知ってるべな〜」と褒めてもらうのは楽しい。ミミノさんは知らないけれど【森羅万象】は知っているという草も、とりあえず集めておいた。売れるかもしれないしね。

ただ香辛料や塩、それにお酒はなくなってしまう——ダンテスさんはお酒が好きみたいで、ちびりちびりと酔わない程度に毎晩呑んでいる。

そんな生活必需品の補給は、林道で出会う商人から購入できた。

彼らもまた街道を使わない、あるいは 使えない(・・・・) 商人だ。どこか後ろ暗い過去がありそうな男だったり、猫の獣人だったり。身体よりもずいぶん大きなリュックを背負った行商人の彼らは数人単位で動いていることが多く、ミミノさんやダンテスさんが交渉して商品を手に入れていた。

ただ——こののんびりとした森での生活が、ずっと続くわけではなかった。

そもそも「銀の天秤」のメンバーには目的地がある。

光天騎士王国だ。ダンテスさんの石化を治すために。

目的地へ急ぐ意味もあって「銀の天秤」のメンバーは森を進むのが早かった。僕の体力がついていかず、ちょくちょくダンテスさんに背負ってもらうことになったけれど、数日で僕の身体もついていけるようになったんだから僕も成長しているのです(ドヤ顔)。

「もう、父のおんぶは必要ないのですか?」

「はい! だいぶしっかり歩けるようになりました」

「そう、ですか……」

僕が胸を張ると、ノンさんはなぜか悲しそうな顔をした。

な、なぜ……もしや小さい子どもがおんぶされている姿に興奮する特殊な性癖の持ち主とか? ——とか死ぬほどどうでもいいことを考えていると、ノンさんは理由を話してくれた。

「……石化の呪いは他者に 伝染(うつ) りません。ですがまるで伝染病であるかのように忌み嫌う人も多いのです」

つまり僕が、石化のことなんてなにも気にせずダンテスさんの背中におぶさっていることがうれしいみたいだ。いや、うん、そういうことですよね。わかってた。

(ん。ってことは……そうか)

僕は気がついてしまった。

「獣人」「ハーフリング」という亜人要素だけでなく、ダンテスさん自身もまた差別されかねない対象だったんだ。

(……僕の髪のこと、なにも言われない)

黒髪に黒目、親や公爵からあんなに嫌われたのに——憎まれるほどだったのに、誰もなにも言わないのは、彼ら自身が差別されることの恐ろしさを知っているからだろう。

僕は、彼らがとても温かな人たちなのだということを改めて知った。

僕はとても恵まれているんだ。

願わくば…… 姉(・) のラルクにもこんな素敵な出会いがあらんことを……。

「……みんな、今日は街に入るべな」

明くる日の早朝、たき火がくすぶって白煙を立ち上らせているそこでミミノさんが言った。

みんなが神妙な顔でうなずく。やっぱり、彼らにとってヒト種族の多い街に入るのは覚悟が要ることなんだろう。

「レイジくん。わたしらといっしょにいたら君までなにか言われるかもしれないけどな……どうする?」

「もちろんいっしょに行きます」

「ん……そっか」

「というか目的地もありませんしね……。今はミミノさんたちにしていただいたことへ、恩返しをしなきゃってそれくらいだけで。それには、街に行かないとですし」

僕の人生の目的なんて今はないに等しい。

できれば、ヒンガ老人のお孫さんに会って老人の最期について伝えなきゃとは思うけど。まだ 燐熒(りんけい) 魔石は道具袋に入っている。

それと……ラルクだ。

彼女にもう一度会いたい。これだけは、絶対に。

とはいえそれもこれも、僕がこの世界で独り立ちできるようにならなきゃどうにもならないんだよね。とりあえず、生活を安定させるのが第一だ。

「わたしらのことなんて、気にしなくていいんだよ?」

「そういうわけには……」

「でも、そう言ってくれるのはうれしいべなぁ」

ミミノさんがにっこりとしているが、そこへ、

「おいミミノぉ、いい加減ちゃんと話しとけよ。俺たちゃ街じゃ『嫌われモン』なんだってよ」

「ちょっ、ライキラ!」

ライキラさんの言葉にミミノさんは焦るけれど、僕はそこについては重々承知だ。

「どーせ遅かれ早かれバレんだ。はっきりさせといたほうがいいだろーが。それにこのガキだって……」

「ええ、わかっています。僕の黒髪も、いろんな人に嫌われて、殺されそうになったことも何度かあるので、街でも同じことが起きるかも」

ミミノさんは僕の言葉に、石でも呑んだように固まった。彼女だけでなくノンさんもだ。ダンテスさんはいつもよりもずっと渋いお茶を飲んだような顔で、ライキラさんは苦しそうに顔をゆがめた——ああ、この人はやっぱり、意地悪なことを言いながらも僕のことを気にしてくれてる。

「銀の天秤」はパーティーそのものが「目立つ」のだ。ヒト種族の街ではね。だから僕の「黒髪黒目」にもまた注目が集まってしまうかもしれない。僕ひとりで行動していればそうはならないかもしれないのに……と、そう考えてくれているのだ。

この人はなんて不器用なんだろう。でも細マッチョ獣人のツンデレはノーサンキュー。

「僕は大丈夫ですけど、逆に迷惑を掛けたらすみません」

ぺこりと頭を下げると、大きな手のひらがそっと差し出されて僕の額を押し上げた。

「子どもが心配などするな。大人の傘に隠れていればいいんだ」

ダンテスさんだった。

「……レイジくん。君は……わたしが絶対に守るからね」

ミミノさんは頬を紅潮させ、目を潤ませながらそう言ってくれた。この人もまた僕に負けず劣らず涙もろいようだ。

「泣いてんじゃねーよミミノぉ。朝からシケた顔すんなや」

「こっ、これは煙が目にしみたからだべな!」

ごしごしと袖で目をこすって、

「よし、行こう!」

「銀の天秤」は一路、アッヘンバッハ公爵領の領都である「ユーヴェルマインズ」を目指したのだった。