軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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ムゲさんに会って報告するどころじゃなかった。

エレベーターで降りていった僕らは、完全武装したレフ魔導帝国の軍隊に囲まれた。彼らは手に手にふつうの武器ではなく、魔道具が仕込まれた「 魔導武装(マジックギア) 」を装備していた。槍なんだけど、金属でできた柄の部分に魔術が仕込まれている。

「眠ってたのに叩き起こされて、すわ敵国でも攻めてきたかと思ったら……君たちが迷宮を攻略するとは思わなかったよ。チュパッ」

投光器——魔導ランプと原理は同じだけれど高価な魔石を突っ込んで光量を上げたそれが照らし出したのは、水飴を舐めているアバだった。

武装兵に囲まれてこっちも警戒したのだけれど、話したことのある人が来てくれたのはありがたい。

ダンテスさんが僕を見たので一歩前に出る。

「あの花火を見たからここに来たんですね?」

「『花火』? ああ、打ち上がった『祝福魔光』のことか。『火』の『花』とは面白いことを言うねえ。……ちなみにぼくは寝てた」

「そうですか。ともかく、僕らはお察しの通り『畏怖の迷宮』を踏破しました」

ワァッ、と声が上がった。みんなダンジョンクリアを知ってたから来たんじゃないの? とは思いつつも、実際に言葉で聞くのはまた趣があるんだろう。

僕の言葉を必死でメモってる人が数人いるんだけど、もしかして新聞記者の方ですか。

(そうか——それなら)

僕は思いついて、言葉を接いだ。

「迷宮攻略4課、ルルシャさんのおかげです」

「!」

アバがぎょっとした顔をしたけれど、記者っぽい人たちは夢中で手元の紙に書きつけつつ、

「すみません! 聞きたいのですが、迷宮攻略課と連携を取っていたのですか!?」

「はい。僕らの成功はルルシャさんのおかげと言っても過言ではありません」

おおっ、とまた違う種類のどよめきが起こる。みんな驚いた顔をしていた。

「ちょ、ちょっと待って欲しい。記者の質問は明日またしようか。君たちも疲れているだろうから、ぼくが手配した場所で休んでいただきたいんだ」

「それは……構いませんが。雇い主のムゲさんにも連絡をしたいです」

「——あなた方はヒト種族のようですが、誰に雇われたと?」

新聞記者が身を乗り出して質問してくる。

「僕らは冒険者パーティー『銀の天秤』で、リーダーはこちらのダンテス。そして『ムゲ商会』の商会主に雇われて帝国入りをしています。非常に仕事ができ、また実直で絶対にウソを吐かないタイプの商会主です——」

「ちょ、ちょっとちょっと!」

とそこへアバが割り込んできた。

ここぞとばかりにムゲさんを褒めておいて新聞記事にでもなれば、「ロロロ商会」との訴訟にも影響するのではないかと思ったのだ。

「質問は終わりと、言いましたけどね?」

怒りの込められた目でアバが僕を見てきたけれど、僕はよくわからないというフリをしておいた。

それから僕らは用意されていた魔導自動車に乗せられた。猫チャンとは比べるべくもないほどに立派で大きくしっかりとした造りで一分の隙もなく、比べるべくもないほどに愛嬌がなかった。

猫チャンは帝国兵士が責任をもって届けると言っていたので任せることにした。一応、荷台に載っているものはアバ立ち会いのもと、リストを作ってあとで盗まれたりしないかをチェックできるようにして。

この国、治安が悪いわけじゃないんだけど、ムゲさんがあまりに軽んじられ過ぎてるんだよね……。猫チャンを見た帝国兵士は眉をひそめていたし。

魔導自動車は揺れも少なく、あっという間に帝国の中心部へと到着した。

そこは——ハッとするほどに広く、しかも 平屋(・・) だった。土地のないこの国で平屋というのはそれだけで贅沢だということがわかる。

入口には小さな人造の川が流れていて、玉砂利の敷かれた庭園には魔導ランプが埋め込まれ、夜中明かりが確保されている。金箔の張られた門をくぐると、ドレスを着た女性が——残念なことにレフ人なので美醜はわからないのだけど——現れた。

「『迎賓館』へようこそ。歓迎いたしますわ」

迎賓館ときたものだ。

「……俺たちは冒険者だ。もっと安宿でいいんだが」

「そうは行かないでしょう。なに、礼儀作法などはありませんのでおくつろぎを」

アバはしれっとした顔で言ったけれど、ここに来て水飴を舐めていないところから察するにやっぱり礼儀作法は必要なんじゃないかと思われる。

「今からでも眠っていただいたほうがよいかと思いますな。目が覚めれば皇帝陛下との謁見がありますから」

アバはにやりとした。

皇帝との謁見!

ダンテスさんは目を白黒させミミノさんは甲高い声で「ひぃー」と叫びノンさんは徹頭徹尾聞かなかった振りでやり過ごそうとしゼリィさんは一足先に逃げ出そうとしたので僕は彼女の尻尾をつかんだ。

「無理だ。俺は、そういう堅っ苦しいところが昔っから無理なんだ」

宿——迎賓館の一室に通され、鎧を脱いだところでダンテスさんが顔を手で覆った。

意外なところでダンテスさんの弱点的なところを見てしまったかもしれない。

ちなみにミミノさん、ノンさん、ゼリィさんの3人はお風呂に行っている。ここには大浴場があるらしくて……うん、大浴場があるところに僕が行くと間違いが起きる可能性があるからね、ここは自重しないとね?

「ダンテスさん……それなら僕に任せてもらえませんか?」

「……レイジに?」

「僕は貴族家で護衛として働いてましたから、礼儀作法についても叩き込まれています」

「だが……いや、それが最善なのはわかるが、しかしレイジひとりに……」

僕を信用していないのではなく、僕ひとりに任せるのが悪いと思ってくれているのが伝わってきて、思わず僕は口元が緩んでしまう。

「大丈夫ですよ。適材適所でしょ? ダンテスさんにはお願いしたいこともあるので」

「なんだ、そのお願いしたいことってのは」

「ムゲさんの様子を見てきて欲しいんです。僕らが街を離れて4日になります。ポリーナさんがなにか行動していないかとか、訴訟がどうなっているのかとかですね」

「……なるほど、そっちの面倒ごともあったな」

あごをさすりながら考えていたダンテスさんだったけれど、

「わかった。それじゃあ、皇帝との面通しはお前に任せる」

面通し、って。容疑者の顔を目撃者に見せるって意味じゃないか。確かにダンテスさんは皇帝に会わせちゃいけない気がするな。

「ただ、1つ条件がある」

ダンテスさんはピンと人差し指を立てた。

「ノンも連れて行け」

★ アナスタシア ★

皇帝の住む建物の隣の区画には、迎賓館によく似た平屋の建造物があった。レフ魔導帝国ならではの直線を多用した幾何学的な形状ながら、落ち着きを感じさせるように木材や植栽が配置されている。

諸外国からやってきた賓客が長期に渡って逗留するところであるが、しばらく前からこの場所は高貴なエルフの貸し切りとなっていた。

「…………!」

レフ人の侍女からその報告を受けて、アナスタシアは思わず立ち上がった。

人差し指を立てて、お礼をするようにぺこぺこと倒す。「もう一度言って」という意味だ。

「はい。皇帝陛下からのお言葉です。本日10時より冒険者との謁見を行うと。理由は『畏怖の迷宮』攻略完了を讃えるためです。そこにはアナスタシア殿下も同席いただきたいということでした」

「…………」

昨晩すでに眠っていたアナスタシアは打ち上がった花火も、その後の騒ぎも知らなかった。

侍女の話を聞いてしばらく呆然としていたけれど、

「で、殿下!?」

次に気づいたときには、自分の瞳から一筋の涙がこぼれていた。

(……あの方は、危険を冒してルルシャが無罪である証拠のバッグを見つけてきてくださった。しかも、それを私に託し、足りなければまた探すとまで言って……私はあの方の期待に応えられなかったのに……)

バッグを皇帝に手渡し、皇帝は再調査を約束した。だがその調査はアバに一任され、その後はどうなっているのかアナスタシアには知らされていない。

(どうしてわかったのでしょうか……)

皇帝はアナスタシアにひとつの可能性を示唆した。それは、ルルシャと親しい者が——つまりは「銀の天秤」が「畏怖の迷宮」攻略に成功すればルルシャは元の通りこの帝国で生きていくこともできるだろうと。いや、それどころか出世の道もあるぞと。

でもそんなことを、あの少年に言うことはできなかった。皇帝に言われたように自分は「籠の鳥」だ。なんの権力も持たず、さえずることすらできず、ただ髪を切ってあの少年に渡すことしかできない。これ以上を望むのは厚顔無恥だと思った——。

(ほんとうは書きたかった。ルルシャのために力を貸してくださいと。でもできなくて……それを、あの方は、気がついた? どうやって……)

それは長い長い暗闇の中にいたアナスタシアにとって、まばゆいほどの希望の光だった。星明かりのような小さな瞬きは、この国で出会った多くの親切な人たちによってもたらされた。だけれど、これほどまでに、強い輝きを放つ報せをもたらされたのは初めてのことだった。

すべてをあきらめていたアナスタシアの乾いた心に、今、ぽつりと、雨が降り始めた。

(……会いに行きましょう。今、私にできることは、あの方に——レイジさんに誠心誠意を尽くして感謝申し上げることだけですから)

はらはらと涙を流すアナスタシアに、あわてふためき助けを呼ぶ侍女だけれど、アナスタシアはぐいと涙を手の甲で拭いた。

「で、殿下……?」

アナスタシアは手元の紙を引き寄せると書きつけた。

『謁見に参加します。完璧な支度をお願いします』

ほっ、としたように侍女は動き出した。アナスタシアはこの日、過去に贈り物として受け取りながらも一度として出すことがなかったきらびやかなドレスに初めて袖を通し、ハイエルフの王族であることを証明するエルフの森で作られたティアラを身につけた。

それは——いつも彼女を見慣れている侍女が息を呑むほどの、存在感と美しさだった。

その装いがたったひとりの少年に会うためだということを知る者は誰もいない。