軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

後日談(後)

* シャルロット=フレーズ *

フレーズ侯爵家は、目立たない。

貴族社会において侯爵家ともなれば高位に違いないのだけれど、フレーズ家はとことん目立たなかった。

舞踏会ではダンスに誘われず、お茶会に参加しても話を振られず——その後の手紙などで「フレーズ家の方は参加されなかったようで、お会いできずに残念です」などと書かれるのだから始末が悪い。

ゆえに、侯爵家令嬢であるシャルロットは幼いころからこう心に決めていた。

「私は私! 貴族社会で花開くのよ!」

笑い方も研究した。

「おほほほ!」

しかし入れ知恵しているメイドのセンスが古すぎたせいか、

「お嬢様、手の甲をアゴに当て、高らかに『お〜っほっほっほ』です!」

「お〜っほっほっほ!」

「もう一度!」

「お〜っほっほっほ!」

「すばらしいですわ! 次はお化粧です!」

どんどん間違った方向へと傾いていった。化粧をし、ストロベリーブロンドの髪を縦ロールに巻いたりもした。

ただ悪目立ちはするので、貴族の子どもたちが集まっても、

「あらぁ? あなたってばどうしてそんなに野暮ったい服を着ているのかしら?」

(本音:ウチに遊びに来てくれれば上等な服を見繕ってあげるのに!)

高圧的な物言いに、みんなドン引きだった。

そんな中、唯一残ったのが、

「うちにはこんなものしかないから。辺境には商人も来ないんだぁ」

ミュール辺境伯家のミラだった。

ミラは辺境でのびのび育てられたのでキラキラしたものに弱い。子どもなのに化粧をしているミスマッチ極まりないシャルロットでさえミラにはキラキラして見えた。

「そ、そうなの、それはお気の毒……じゃなかった。お〜っほっほっほ! ならばフレーズ家の御用商人を辺境伯家に向かわせますわ!」

「えっ、いいのぉ!?」

「それくらいたやすいことですわ!」

高笑いしていたのはシャルロットだけで、この話を後日聞いた御用商人は顔色を青ざめさせた。それほどまでにミュール辺境伯領は遠いのである。しかし、

「は、イヤなのか? まさかウチの娘をウソつきにする気ではあるまいな?」

シャルロットを目に入れても痛くないほどに可愛がっているフレーズ侯爵にメンチを切られ、御用商人は泣く泣く辺境伯領に通うこととなった。

このことが、辺境伯領に新たな商品流通をもたらし、その後の冒険者流入とダンジョン攻略による大発展時代を導くのだが——それはまた何年も後のお話。

そんなシャルロットの、「大人デビュー戦」である「新芽と新月の晩餐会」は——彼女的には「大失敗」に終わった。

「—— 目立てなかった(・・・・・・・) !」

なんか恐ろしい覆面が攻め込んでくるし、次には毒がなんとか言って、保護されるように会場から連れ出されるし、

「クルヴシュラト様とほとんどお話もできなかった!」

シャルロットは泣いた。化粧が崩れるほど泣いた。

だがチャンスはまだあった。その後にお茶会が開かれたのだ——クルヴシュラトは来なかったけれど。それでも、公爵家とつながりが持てるのはよかった。なにせ6大公爵家はこの聖王国で絶大な権力を持っており——そのせいで公爵家の下にある侯爵家は目立たないのだが——彼らといっしょにいれば、自分もまた目立てるではないか。

「ぬぬう……」

しかし、問題は——明らかに自分より目立っている存在、スィリーズ伯爵家の令嬢エヴァがいることだ。

「……あの女より私が目立つにはどうしたら……」

「どうしたのですか、シャルロット嬢?」

「みにゃあ!?」

変な声を上げてしまった。

そこにいたのは、彼女の数少ない友人であるミラである。

「お、驚かさないでくださいまし!」

「ごめんごめん」

ぽへ〜と笑うミラを見て、ため息ひとつ。この子は脳天気でだんだん自分とのやりとりでも遠慮がなくなってきている。さらにはエヴァ嬢に一目惚れして——深い愛情ではないとシャルロットは信じたいけれどこの大好きっぷりを見ていると自信がなくなってくる——すわ敵かと警戒しつつある。

「あなたねえ、もうちょっとしっかりしなさいな。あなたのお父様はもう辺境伯領に帰ったのでしょう? あなたひとりで立ってても全ッ然目立たなくてよ!」

「あ、パパのこと知ってたの? ありがとう、心配してくれて! でも私、ひとりでも強いから!」

「そういう心配じゃなくってよ! あなたの家の、これ以上ない悪目立ちしてる辺境のシンボルがいないことを言っているの!」

「あはは。シャルロット様がパパのこと褒めてたって言っておくね」

「褒めてなくってよ!」

話が通じなくてイライラしてくるシャルロットである。

「……授与式のショックとか残ってないみたいだね」

ぽつりとミラが言った言葉は、シャルロットには聞こえていなかったようだ。

天賦珠玉授与式で起きた事件は、参加した子どもたちにショックを与えていた。今年の授与式は行われなくなったので子どもたちは各家でそれぞれ天賦珠玉を受け取っていた。

ちなみにミラは【近接格闘術★★★★】で、シャルロットは【美髪★★★】である。親の趣味がよくわかる。【美髪】はレア中のレア天賦珠玉であり、他国から取り寄せているあたり、フレーズ侯爵の親バカっぷりがうかがえる。おかげでシャルロットのストロベリーブロンドは今日もつやっつやで、縦ロールはびよんびよんだ。

「ん、あれは?」

ふたりが今いるのは、「第1聖区」内の会議棟にあるロビーだった。先日の天賦珠玉授与式でなにが起きたのか——それにウワサでは6大公爵家にも異変があったらしく、その内容の発表が行われる。子どもたちが本来聞くべきことではなかったが、授与式に関しては当事者なので、シャルロットたちが呼ばれている。

シャルロットが気づいたのは、会議棟の廊下の先、柱の陰になっている場所にいたスィリーズ家令嬢のエヴァと、おそらく当主のヴィクトルのふたりだ。

「あっ、エヴァ様。話しかけましょ——もごっ」

「お黙り。こっそりと進みましょう」

「えぇ……盗み聞きをするの?」

「言い方。私たちは足音を立てずに歩いていたらたまたまお話が耳に入ってしまうだけよ」

「それを盗み聞きって言うんじゃ……」

幸いシャルロットとミラの護衛たちは数人で話に盛り上がっている。腹立たしいほどに護衛たちは仲がいい。顔採用のシャルロットの護衛はなよっとしているが、話し上手なので他の護衛たちもワハハと笑っている。

エヴァのほうへと進んでいくと、声が聞こえてきた。

「——お父様。それでは『災厄の子』に関する記述は何百年も…………特徴は『黒髪黒目』ということなんですね?」

「——ああ。過去に滅びた国もあり…………」

「——わかりました。ありがとうございます」

「——引き続き調べよう。それでいいかい?」

「——はい、もちろんですわ。——あら?」

シャルロットとミラに気づいたエヴァが、こちらを向いてふわりと笑う。

「っ!」

それは、女性のシャルロットが見ても思わずドキリとしてしまうような笑顔だった。無論のこと、ミラはぽーっとして、「かわ、か、かわわ……」と語彙レベルが1歳児にまで落ちている。

(なななんなのよも〜〜〜〜〜! いきなり大人びちゃっても〜〜〜〜〜! も、もしかして想い人でもできたのではなくって……!? でなければこんなふうに大人びたりすることはなくってよ!!)

父と小さく別れを告げたエヴァはこちらに歩いてくるが、スィリーズ伯は名残惜しそうな顔をしつつも離れていった。仕事もできる(らしい)、さらには美形の父がいるというのもまたシャルロットのジェラシーポイントである。

「ごきげんよう、エヴァ様」

「ごきげんよう、シャルロット様、ミラ様」

「かわ……」

「それはそうとエヴァ様」

ミラがこんなんなってるのはいつものことなので、スルー耐性がついているふたりである。

「ずいぶん雰囲気が変わりましたのね?」

「? ……そう、ですか?」

「もしや想い人でもできたのではなくって!?」

ずばり切り込んで、動揺する顔のひとつでもおがんでやろうと思ったシャルロットだったが——案に反してエヴァは小さく、困ったように微笑むだけだった。

「……そんなふうに言えたら、よろしかったのですけれど。わたくしではまだまだ、あの方の横に立つには足りませんわ」

それは、「想い人がいる」と認めたも同然の発言だったけれど、それ以上にエヴァが「足りない」だなんて言ったことにシャルロットは驚いた。

とそこへ、チリンチリン、と小さなベルが鳴った。

『——お集まりの皆様、これより聖王陛下名代による説明が行われます。室内へといらっしゃいますよう御願い申し上げます』

何人もの神官が現れ、ベルを鳴らしながら貴族たちを誘導していく。

「あら、時間のようですね。それでは皆さん行きましょう」

「あ、は、はい……あら、エヴァ様」

そこでシャルロットは気づいた。彼女の護衛についているのはガチムチのオッサン——マクシム隊長である。

「護衛が変わりましたのね」

するとエヴァは、今度はとてもいい笑顔でこう応えたのだった。

「はい。—— 今のところは(・・・・・・) 、ですが」

この日、貴族たちに説明された内容は彼らのみならず聖王国全土に激震をもたらした。

聖王家の義務——人身御供をしていたという過去が明らかになった。

次に今代の聖王がその座を降りることとなり、今後はグレンジード公を名乗るとした。次の聖王は第1聖王女が継ぐことがきまり、第1聖王子以下の王子たちは王位継承権をこれまでどおり保持しつつ、第1聖王女に子ができるまでは聖王子を名乗り続ける。

最後に、6大公爵家の一角であるリビエレ公爵家の取り潰しが決まった。しかしながらその所領はあまりに広く、一度聖王家直轄としつつもゆくゆくは領地を持たない貴族に分配されるとした。リビエレ公が「公爵家廃止」を 求めた(・・・) という理由が説明されたが、これをまともに受け取る貴族はいなかった。公爵家の人間は市井の人となる。海運で事業を興したので、その事業はリビエレ家が引き継ぐようだ。ただし、現在10歳の第3聖王子との婚姻は破棄されたので多くの貴族がこれはチャンスとばかりに聖王家へ売り込みを始めた。

その筆頭が、シャルロット=フレーズ本人なのだが——この恋(?)が実るかどうかは、定かではない。