軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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「銀橘亭」へとやってきた僕は、朝食の買い出しに行こうとしていたダンテスさんと出会った。

「よう、思いのほか早く来たな? ん、そっちのは……」

ダンテスさんの様子がほんとうにふだん通りだったことに僕はなんだかホッとするのを感じながら、ゼリィさんを紹介した。

「こちらはゼリィさん。ライキラさんと同じ『闇牙傭兵団』に在籍していた獣人で、僕といっしょにキースグラン連邦脱出に付き合ってくれた人です」

「どもーっす」

「ライキラの……」

ダンテスさんはなにか考えるように眉根を寄せたが、すぐにまた笑顔に戻った。

「とりあえず一度宿に戻るか。驚くぞ、ミミノもノンも。レイジが来るのは早くても5日とか10日後だろうと思っていたからな。お貴族様のスケジュールはなんとも遅くてかなわん」

「え、一応昨日も来たんですが……」

「ノンは『あの様子ではしばらく無理でしょうね』と言っていたんだ」

なるほど、ノンさんは僕が伯爵家で働く道を選ぶと思っていたんだな。

僕らが「銀橘亭」へと入り、ダンテスさんたちが泊まっているらしい部屋へと向かう。なんでも女性ふたりとダンテスさんとで別の部屋に分かれているのだとか。ノンさんと同じ部屋じゃないのかな、と思ったけれど「……親父はイヤなんだとさ……」と寂しげに言われたのでそれ以上突っ込んではいけない話題なのだと僕は知った。

ダンテスさんは僕に人差し指を立てて「しーっ」とウインクしてから、女性部屋をノックする。

「——誰?」

「俺だ。ちょっと開けてくれ」

「——お父さん? ずいぶん早いじゃないですか」

キィ、とうっすらドアが開くと、ダンテスさんは顔だけ部屋に突っ込んで、

「おお、実はまだ買い出しは済んでなくてな……そこで誰に会ったと思う?」

冗談めかして言った言葉に、ミミノさんとノンさんが息を呑む気配がある。

「——とか言ってお父さん。先月みたいにほんとうにしょうもない『飲み友だち』だったりしたら本気で怒りますよ」

「——禁酒一カ月じゃ温いべな」

ダンテスさん、なにやってるんだよ……。

「坊ちゃんが石化を解いた方でしょう? 元気になったせいで悪さまでするようになったクチですねぇ。まったく、しょーもな」

それをゼリィさんが言いますかね? 酔っ払って路上で寝てたこともありましたよね、あなた?

「こ、今度は冗談じゃない。正真正銘、俺たちの仲間——フゴッ」

ダンテスさんが突き飛ばされて、ドアがバァンッと開いた。

「「レイジくん!?」」

ミミノさんとノンさんのふたりが飛びだしてきた。

「よく来てくれたなぁ! うわあ、それ、わたしが繕ってあげた服じゃないの!」

「え、え、レイジくん、もしかして伯爵家を辞めちゃったんですか?」

「はい」

わーわー言いながら僕をぺたぺた触ったりしてくる。

僕は笑顔で——このふたりのこんな様子を見たら、笑顔にならないわけがなくて。

「これからまたご厄介になります」

と言ったのだ。

それから僕たちは一度宿を出て、屋台で朝食を買ってから広場のベンチで食事をしながら話をした。

僕の事情はほとんど洗いざらい全部話したので——お嬢様との「約束」とかは話してないけど——1時間以上掛かってしまった。

「……なんというか、その、大変だったな……」

ダンテスさんが絞り出すように言った。

「ええ、まあ。でも結構楽しかったですよ」

「大変じゃ済まない、あまりにもひどいべな!? この国の貴族は、恩を仇で返すようなヤツしかいないの——もごっ」

「はい、はい、ミミノさん、ちょっとお静かにお願いしますね〜。公衆の面前で貴族批判とかトラブルしか生みませんからね〜」

憤るミミノさんの背後からノンさんが口を押さえつける。ノンさんグッジョブ。

「それじゃ、今日中に聖王都を出るか。長居するだけ面倒ばかりだろ」

「え……でも、お父さん。ギルドで受けてた依頼がいくつかありますけど」

「キャンセルだ」

「……そうですね」

冒険者ギルドの依頼ってキャンセルできるものなんだろうか。僕がちらりとゼリィさんを見ると、

「皆様方は確か『銀の天秤』の方々ですよね?『 純金(ゴールド) 級』の」

「ああ」

「それじゃあ、依頼のキャンセルペナルティはかなり重いんじゃあないんですかい」

え、そうなの!? ていうか、

「『純金級』!?」

「そうなんだよ。レイジには言ってなかったが、ランクが1つ上がってな……まあペナルティで下がるだろうが、構わん」

「そんな……」

「どのみち昨日、ギルドで暴れてペナルティ食らうのは確定だったからな」

なにやったんですか、ダンテスさん……。アレですか、ノンさんが言ってた「俺たちがヨソ者だからとナメた口利いてくるヤツらには、一度わからせてやる必要があるよな」っていうヤツですか!?

「ちなみに灰銀以下は全勝で、ここの『純金級』とは引き分けだった。いやあ、やっぱ強ぇヤツはいるもんだな!」

「ダンテスさん……なんだか脳筋化してませんか?」

「そうなんです。レイジくんにはお父さんをこんなふうにした責任を取ってもらわないと」

「僕ですか!?」

「そうだべな。レイジくんのせいだべな」

「ミミノさんまで!?」

話は脱線したけれど、みんな、依頼のキャンセルについては「しょうがないな〜」って感じらしい。

「ありがたいけど、申し訳ないです……」

「いいんだべな。レイジくんもいてようやく『銀の天秤』になるんだからな!」

そうかなぁ。そこまでしてもらっていいのかなぁ。

なんだか厚遇されすぎていてうれしいやら申し訳ないやら。

もじもじしている僕の横で、ダンテスさんが、

「それはそうと、アンタは『隠密猫』と呼ばれるゼリィさんか?」

「えっ」

ゼ、ゼリィさんにそんな二つ名が……!?

「ぬっふっふっふ。坊ちゃん、驚きましたか? なんとあーしは、二つ名を持つ——」

「めっちゃカッコ悪い!」

「なんですとぉー!?」

ゼリィさんが驚愕してるけど、「隠密猫」ですよ。カッコ悪いでしょ。どっちかっていうと猫カフェにいる特定の猫につけられたあだ名みたいな感じでしょ。ゆるキャラの部類でしょ。

「と、とりあえず……坊ちゃんは早いとここの聖王都を出てったほうがいいってのは、あーしも同意見っすわ……」

なんだかダメージを受けているゼリィさんだけど、そう落ち込まないでよ。二つ名なんてなくったってゼリィさんの能力の高さと、人間的にダメな部分は僕がちゃんとわかってるから。

「そうと決まれば行動開始だ」

僕のせいで予定が大幅に変わってしまうというのに、ダンテスさんはそんなものを感じさせないくらい明るい声で言った。

「レイジ、そんな顔をするな。俺は今、猛烈に幸せなんだよ。身体も健康そのもので、ひとり娘と、長い仲間だった薬師と、それに大恩人であるお前と旅ができるんだ。これ以上を望んだらバチが当たるってもんだ」

「……ダンテスさん」

ああ、寝ていないせいかもしれない。僕はなんだか泣きたい気持ちになった。

人の温かさに僕は何度も救われた。そしてその温かさの多くは、この「銀の天秤」のメンバーからもらっている。

僕は少しでも返せているのだろうか?

石化の回復はできたけれど、ミミノさんにはなにもできていないんじゃないか?

僕は、ルルシャさんに会いにレフ魔導帝国へと行きたい。その次にはラルクを探そう。そうしたらそのときは——「銀の天秤」のみんなといっしょにやりたいことを探すんだ。

「……ってそう言えば、ゼリィさんもついてくる、でいいの?」

「そんなぁ、ひどいっすよ坊ちゃん! あーしはどこまでもついていきやすぜ!」

ゼリィさんが言うと、すすすとミミノさんが僕の横に来た。

「獣人さんを差別するわけじゃないけどな、この獣人さんはなんだか教育的に悪い気がするべな。レイジくん、あまりこの人の考えを真似てはダメだべな」

「ちょっ、差別じゃないっすか、それは!?」

「大丈夫です。むしろこの人に僕がいろいろと学ばせるつもりです」

「坊ちゃん!? あーし、結構がんばってますけどね!?」

「『借金』」

「ウッ……」

お腹が痛いような格好でじりりと後じさるゼリィさんを見て僕は笑った。ミミノさんも笑っていた。ノンさんはきょとんとしていて、ダンテスさんがなにか耳打ちを——きっと冒険者によくある身の持ち崩し方みたいな内容を——ささやいていた。

それから僕らは宿に戻って荷物をまとめ、それから冒険者ギルドに向かった。ギルドに入るとダンテスさんを見た冒険者たちが青い顔をして壁際まで逃げていく……いったい全体ほんとになにをやったんですか、ダンテスさん……。

ギルド職員がため息交じりに依頼キャンセルを処理しつつ「銀の天秤」の「灰銀級」降格を告げる。だけれどダンテスさんもミミノさんもノンさんもどこ吹く風という顔だった。そこでレフ魔導帝国へと書簡を運ぶ依頼を請け負う——その依頼がないと、入国できないほどに制限の掛かっているところらしい。全然知らなかった。

ギルドを出れば、あとは馬車を探して聖王都を出るだけだった。僕の追っ手などは掛かっていなかったけれど、馬車に乗り込むときには視線を感じた。エベーニュ公爵家の手の者か、あるいは別の者か。それも、聖王都を出た後には感じなくなったのだけれど。

馬車での旅は長い。僕らはいろいろなことを話した。

ダンテスさんは「出会いも蛇なら、再会も蛇だな」と笑った。

ノンさんはやはり【光魔法】を習得していたらしく、教会としては使い手——適性を持っている人間が少ない【光魔法】なので、なんとしてでもノンさんを手放すつもりはないらしかった。

そのノンさんからは「あんなにぽんぽんと魔法を発動し、なおかつ属性の大幅に異なる2種類の魔法を同時に放つなんておかしいのですが?」とまで言われた。

ミミノさんは「レイジくんだから不思議じゃないべな」と大真面目に言われた。ミミノさんに親バカの片鱗が見えます。

ウロボロス戦でミミノさんが使ってくれた「 魔法複製薬(デュープ・ポーション) 」はやはり相当に希少な素材を使いまくってできたものらしく、なにかあったときの最終兵器に残しておいたものなんだとか。「また作らなくちゃなぁ〜」とちっとも残念そうでもなく、むしろ楽しそうに言っているので、いいのだろうか……?

ウロボロスの素材については聖王騎士団がほとんどを接収したようだけれど、いくらかは冒険者ギルドも持ち帰っていたようで、さらにはダンテスさんが、僕がショートソードで砕いた、ウロボロスの頭にあった宝玉のようなものを持ち帰っていた。「戦利品がこれだけってのも寂しいけどなぁ、まあ、ないよりはいいだろうさ」と笑っているけれど、【森羅万象】で見ると、なんだかとてつもない魔力が封じ込まれているようなんだよね……おいおい見ていきましょう。

話しても、話しても、話しても話題は尽きなかった。僕のことだけでなく、「銀の天秤」の4年間もかなり濃いものだったみたいだ。残念ながら、ラルクや【 影王魔剣術(シャドウキング) ★★★★★★】に関する情報はなかったようだけれど。

はるかに遠くから見えていた巨大都市、聖王都クルヴァーニュの姿も見えなくなり、それからまた何日も何日も僕らは馬車に揺られた。

多くの街を過ぎていくたびに、ささくれだっていた僕の心が少しずつ落ち着いていくのを感じる。

僕は聖王都でいろいろなことを間違え、あるいは正しいことができた。後悔していることもあるけれど、ひとつひとつをちゃんと胸にしまって前を向く。

きっとお嬢様もそうしているはずだ。

(……お嬢様、また会いましょう)

僕らが見上げる空は同じ空だ。同じ星が瞬き、同じ雲が流れる。

きっとまた会える。

そのときにはお嬢様も立派なレディーになっているだろうか? あるいは無茶振りをするお嬢様のままだろうか?

見た目は変わるだろうけれど、根っこの部分は変わらなければいいなと僕は思った。

お嬢様ならば、きっと、変わらないに違いない。

僕らは一路、魔術と技術の国「レフ魔導帝国」へと向かう——そこで僕の旅の目的のひとつである、ルルシャさんに会うために。

地面から立ち上る熱気混じりの風が馬車に吹き込んでくる。

季節はそろそろ夏になろうとしていた。