軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

卵が消えた

雲一つない青空。辺りの景色は一面が緑で、馬車の車輪や馬のいななく声が聞こえる。

暑くもなく、寒くもないこの気温の中での旅路は最高だ。

少し馬車の揺れが気になるが、前回王都に行った時に長時間乗ったお陰か慣れてしまった。

慣れてしまえば、この揺れさえも味わいがあるのではないかと思える。この木の音や伝わる振動がいいのだ。

穏やかな風と小鳥のさえずりを聞きながらお昼寝をしていた俺だが、目が覚めると暇になった。

それは護衛である冒険者、モルトやアーバイン達も同じらしい。お昼寝ができない彼らならなおさらそうだろう。

元より、コリアット村付近は凶暴な魔物が滅多に出ないのだ。

出たとしても精々がゴブリンといった弱い魔物くらい。その程度であればBランクパーティーにかかれば瞬殺だ。俺を除いても魔法使い二人、戦士が三人もいるのだ。

ここで気を張る必要もない。

そんな魔物の魔の字も無い中、俺はモルトとアーバインと暇つぶしに興じていた。

「ここに袋があります」

俺が用意したザラザラとした手触りの麻の布を見せる。裏や表を見せて何の変哲もない袋だと見せると、モルトとアーバインは頷く。

「ここにある石ころをこの袋に入れます。そして俺が指を鳴らすと、この袋から石ころがなくなります」

そう俺が暇つぶしにしているのはマジックだ。勿論、種や仕掛けはある。石ころは道に落ちてある小さくて軽いものだ。人差し指と中指で挟めるくらいの大きさ。

「本当に?」

「嘘つけ」

モルトとアーバインが俺の言葉を聞いて胡散臭そうに反応する。

アーバインなんて鼻を鳴らしているほどだ。

そのだらけきった表情を驚愕の色に塗り替えることが楽しみで仕方がない。

二人は全く信じていないようだが俺は余裕の表情で続ける。

「じゃあ、石ころをこの袋の中に入れるよ?」

俺が指で挟んだ石ころを入れると、何だかんだ暇なのか二人は真剣な眼差しで見つめてくる。

袋の中の見えない空間で、俺は空間魔法の収納を発動。袋の中で石ころを亜空間に放り込む。

石ころが小さいのとごわごわとした材質の麻のお陰で、この程度の石ころでは袋がでっぱらない事も事前に確認済みだ。

「じゃあ行くよ? ……ワン……ツー……スリー!」

演出のために、怪しく袋の前で手を動かしてから指を鳴らす。

音を鳴らした俺は、何も怪しい素振りをすることなく袋の裏を二人に見せた。

「ほら、なくなった」

「「ッ!?」」

逆さまにして振ってみたり、念入りに裏返してみせると、モルトとアーバインの目が見開く。二人共、はあ!? というような表情をしている。

「いや、待て。石ころが小さすぎて袋の端にでもあるんだろ?」

ちょっと貸して見なと言って俺の袋を調べ始めるアーバイン。

疚しいことは何もないので俺は素直に渡した。いや、マジック自体疚しいものなのだけどね。

袋を念入りに覗くアーバイン。

「んん!?」

おかしいというような唸り声を上げて、袋を裏返したり逆さまに振ったりとしている。

「ねえぞ!?」

「そんなバカな」

目を見開くアーバインからモルトが奪うように袋をふんだくる。

しかし、結果はアーバインと同じだ。

「石ころが消えたぞ!」

クワッと目を見開いて叫ぶモルト。いい反応をありがとう。

「……実は、袋に入れてなくて隙をついて袖とかに隠したんじゃねえか? 指を鳴らす前に腕を動かしていただろ? こういう小技を使う奴は意識の隙を突くのが巧いからな」

今でも信じられないのか、アーバインが疑ってくる。

最後には自信満々な表情をしていて申し訳ないのだが。

「いや、俺半袖なんだけど」

俺の今の格好は半袖に短パンなので、隠せる袖などない。

「うっ、腕を動かした時に、足下に石ころをポイッと……」

俺が立ち上がるが、足下には石ころなんてどこにもない。

「あ、あれ?」

隠した物が小さいので、どこかに巧妙に隠したに違いないと思っているのだろう。

それも狙いでもあるが、度肝を抜いてやりたいので今度はもっとあからさまにしてみよう。

「じゃあ、もう一回指を鳴らして石ころを呼び戻してみよう。今度は指を鳴らすだけで腕は動かさないから」

「お、おう」

今度は見逃さないとばかり、アーバインとモルトが前屈みになって凝視する。

少しでも異変があれば突っ込むつもりなのだろう。

俺は右ポケットの隣で指を鳴らす。

「すると、何と右ポケットからさっきの石が出てくるのです」

「「はあっ!?」」

俺が普通にポケットの中に手を突っ込むと、そこには先程と全く同じ石ころが。

勿論、ポケットの中で小さく亜空間を開いて取り出しただけである。

「どうなってんだ!?」

「あの一瞬の間に右ポケットに石ころを入れたのか? いや、でもそんな動きは全くなかったぞ」

アーバインが石ころを眺めて驚き、モルトが俺の右ポケットをポンポンと叩いてから考え込む。こらこら、マジック中にマジシャンの身体に触れたりするのはマナー違反だぞ。目で見て楽しめ。

「しょうがないな、今度はもっと分かりやすいけど不思議なマジックをするよ」

「お、おう」

「ここに卵があります」

「「待て! どうして右ポケットから卵が出てきた!」」

いきなり二人揃っての突っ込みがきた。

「これも不思議なマジックだよ」

「俺、さっきポケットに触ったけど、卵なんて無かったぞ……?」

マジックはここからが本番なので適当に誤魔化す。まともに考えても答えはないのだが、考えてくれ。それも醍醐味だ。

「次はこの袋に卵を入れます。そしてさっきと同じように卵がなくなってしまいます」

俺は袋に卵を入れる。それから袋から堂々と卵を取り出して脇へと挟む。

「袋から卵が消えました」

「おいおい、何堂々とやってんだよ。脇に卵を挟んだだけじゃねえか」

「脇? 脇にあるのは石ころだけど?」

「「は?」」

空間魔法で入れ替えられた石ころを見て、間抜けな声を出す二人。

卵は亜空間に収納してあるのでポケットにはない。脇にちょうどの大きさの亜空間を開いたので、普通の人は気付かないだろう。

取り出す際も石ころのサイズに合わせて亜空間を開いた。

「どうなってんだ? 意味がわからねえ。けど、何か馬鹿にされてる気がするぞ」

「確かに脇に卵を挟んだぞ。というか卵はどこにいったんだ……」

唖然とするアーバインとモルト。

「もう一回だ! もう一回見せてくれ!」

「じゃあ、もう一回だけね?」

そう叫びながら詰め寄ってくるモルトとアーバイン。

意地でも見極めてやるっていう感じがひしひしと伝わってくる。

そんな中、俺は先程と同じように右ポケットから卵を取り出す。モルトが「何でまた卵が出てくるんだ……」と呟いていたが気にしない。

「ほら! また脇に卵を挟んだぞ! また石ころになるのか? それとも卵なのか?」

「はあ? 脇に卵も石ころも挟んでないよ」

「「嘘つけ! 今挟んだだろ!」」

俺がすっとぼけたように言うと、アーバインとモルトが揃って指をさす。

それに対して俺は腕を上げて脇を二人に見せた。

「あ、あれ?」

当然、卵は亜空間に仕舞っているし、石ころも取り出していないので、落ちてくる物は何もない。

俺達の馬車では、男二人が少年の脇を食い入るように見るという変態的なシーンとなっていた。

「「どうなってんだ!?」」

「お前さん、もうこれだけで食ってけるんじゃねえか!?」

おい、それ貴族にいう台詞かよ。まあ、それくらい褒められているって事だからいいけどよ。

空間魔法だけで消える系、移動系の魔法はできるし、箱からの脱出や瞬間移動までできるな。お金に困った時はマジックでお金を稼ごうかな。

「もう一回やってくれ! 次は見極めてやるから!」

「二人共さっきから何を騒いでるのよ? 後ろの方まで丸聞こえよ?」

アーバインとモルトが興奮したように叫ぶ中、後ろの馬車を護衛しているアリューシャがやってきた。

「アルフリート様がすげえマジックやってんだよ!」

「消えるんだよ! 卵が!」

「凄いマジック? 卵が消える?」

アーバインとモルトが言うと、アリューシャの訝しげな視線がこちらに向く。

俺は右ポケットから卵を次々出してはアリューシャに差し出す。

一個、二個、三個、四個、五個……。

「え? は? ちょっとアルフリート様? ポケットからどうしてそんなに卵が出てくるの?」

次々と差し出される卵を受け取り、両手が一杯になるアリューシャ。

「その右ポケットは食糧庫なのか?」

「…………意味がわからん」

人は得体の知れない出来事を見ると反応が小さくなるらしい。唖然とした様子で俺のポケットや卵を見つめている。

やがてアリューシャが持ちきれなくなり、三人で卵を四個ずつ持つようになった。

俺はそれらを一個ずつ回収して、左のポケットに収納していく。

一個、二個、三個……。うん、余裕で入るね。

「……おいおい、卵が何個入るんだよ」

「え? ええ!?」

それぞれの卵を貰って収納していく俺。

そして最後には見事十二個の卵が左ポケットに収まった。

「いやー、全部入ったよ」

「「…………意味がわからん」」

「卵がポケットの中で割れているんじゃ……?」

恐る恐るアリューシャがそんな事を聞いてきたので、俺は左ポケットを裏返して何もないことをアピール。

「卵が消えたわ!」

アリューシャが大声で叫び、この後ルンバとイリヤがやって来て再び披露することになった。