軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

折り紙~舞い散る彼岸花

エリノラ姉さんがいつもの如くノック無しで俺の部屋へと入ってきた。

「アル、あんた何やってんのよ?」

ドアノブに手をかけたまま、床に座っている俺と紙を見てこの言葉。

あの女王様にとってこの屋敷は全てが自分の部屋。ノックなんて必要ないのだろう。

今さら俺達がノックをしてと訴えても生返事が返ってくるだけだ。

「紙を折っているんだよ。折り紙」

俺が折りかけの紙を見せるとエリノラ姉さんは、怪訝そうに端正な眉を寄せる。

「折り紙? 何をやっているのかは知らないけど、紙だって無料じゃないのよ?」

何だか凄く馬鹿にされている気がした。俺が無意味に紙を浪費しているとでも思ったのだろうか。だとしたら心外だ。

「いやいや、無駄に紙を浪費してるんじゃないからね? これが面白い物になるんだよ?」

「……はあ?」

ふむ、剣バカのエリノラ姉さんには見せる方が早いな。

まずは簡単なものでも作ってみよう。

折りかけの紙を端に寄せて、丁度良いサイズにカットされた紙を引き寄せる。

とは言っても、色なんてものはついていないので白で通用するものになるのだが。

白で通用するとなると兎や白鳥、魚、少しインクを使えば牛とかか。

シルエットさえわかれば、目を少し書いてやるだけで可愛く見えるはずだ。

本当は派手にお花とか犬とか狐とか折ってやりたかったけど、白一色ではわかりづらいからなぁ。

ひとまずは可愛い兎さんでも作るか。あれならわかりやすいだろうし。

そうと決めたら手を動かす。小学校の頃に作った記憶と実物をすり合わせるようにして折っていく。

エリノラ姉さんは俺が何かするとわかったのか、ドアノブから手を離して俺の目の前へと座る。

エリノラ姉さんが座る時にふわりといい香りが漂ってきた。エルナ母さんと似た匂いだ。

「……あんた相変わらず器用ね」

「んーまあねー」

意外と覚えていたのか手が止まる事無く進み、最後にちょろちょろっと顔を描いてやれば、

「できた! 兎の顔!」

兎の顔の完成である。顔だけだ。胴体がある方は折り方を知らなかったんだ。

完成したものを手渡すと、エリノラ姉さんが感嘆の声を漏らしながら耳を触ったり裏返したりする。

「へー、本当に兎の顔みたいじゃない。ちゃんと耳もあるし可愛いわね」

そりゃ、兎の顔になるように折りましたから。

エリノラ姉さんが眺めている間に、牛や白鳥、ボート、跳ねる蛙ことゲコ太などを作っていく。

ちょっと地味めな作品だが、色が白しかないので勘弁してほしい。

「ねえ、これ貰っていいかしら?」

その中でもエリノラ姉さんがお気に召したのは跳ねるゲコ太。お尻の方を指で押してあげればぴょんと飛んでいく奴だ。

エリノラ姉さんは、綺麗な赤い瞳を輝かせながら手の平にちょんと乗せたゲコ太を見つめている。

緑色じゃないのが大変残念ではあるが、俺の描いた丸いお目めが随分と可愛らしい一品になっている。

そう言えばスリッパの時もえらくゲコ太を気にいっていたよな。

確かにゲコ太は可愛いけど、トン吉も可愛いと思うのだが。

ちなみにあれからエリノラ姉さんの分も作らされて、こうして今でもエリノラ姉さんの足に装着されている。俺の部屋はよく寝転がるためにカーペットが敷かれているので、今は端に寄せられているが、エルナ母さんとお揃いで履いている姿は微笑ましいものだ。

「ピョンピョンゲコ太が気に入ったのならあげるよ」

「ちょっと待ちなさい! そのピョンピョンはどこからきたのよ?」

「ちょっと貸して――」

俺が説明の為に手の平からゲコ太を取ろうとすると、エリノラ姉さんが体を捻って遠ざける。何ですかその可愛い仕草は。

「いや、借りるだけだから。俺はいつでも作れるし」

「本当!? じゃあ、あと五つくらい作りなさいよ!」

そんなに気に入っていたのか。

「はいはい」

俺が頷くとエリノラ姉さんは笑顔でゲコ太の乗った手を差し出す。

俺はゲコ太を丁寧な手つきで掴み、床に置く。

それから人差し指をゲコ太のお尻部分に当てて離す。

するとゲコ太がピョンと跳ねた。

「は、跳ねたわね」

それから俺は連続してピョンピョンと跳ねさせると、エリノラ姉さんは「わっ! きゃっ!」と可愛い声を漏らした。

いつもとは違う、エリノラ姉さんお可愛らしい姿が見れて、思わず頬が緩む。

エリノラ姉さんはすっかりピョンピョンゲコ太が気に入ったようで、ピョンピョンと跳ねさせてそれを追いかけるように自らも蛙のようにピョンピョンと跳ねて追いかける。

「これいいいわね! あと十個くらい作りなさいよ!」

教えてあげない方が良かったかもしれない。

エリノラ姉さんがピョンピョンゲコ太を気に入って遊んでいるのを横目に、俺は鶴を折る。

紙飛行機と並ぶ代表格と言えばやっぱりこれであろう。

折り紙と言ったら、日本人なら小学校の頃に一度くらいは作った事があるはずだ。

小学校の行事やら何やらで。

最初は「何だこれ? 紙を折っただけでこんな物ができるのかよ!?」と驚いたものだ。

それから複雑怪奇な説明を聞いて、恐る恐る折って不恰好な鶴を完成させたものだ。

折り紙の中で紙飛行機の次くらいに慣れたものなので、よどみない動作で折っていく。

そして最後に翼を広げて完成だ。

「それは何なの? 鳥?」

気が付けばエリノラ姉さんが俺のすぐ隣にいた。

「そうだよ。鶴っていう鳥」

「よく紙を折ってこんなものが作れるわね」

「覚えれば簡単だよ。ちょっとやってみなよ」

できるようになってハマれば自分でゲコ太を折ってくれるだろうし。

打算十割だったが、エリノラ姉さんは素直に紙を手に取った。

「それじゃあやってみるからよく見ててね」

俺が紙を三角に折ると、エリノラ姉さんも真似をして折る。

うわー、ガサツだな。それじゃあ後で困るんだけど。

「何よ? 合ってるじゃないの?」

俺の表情を見て察したのか、エリノラ姉さんが不満げな声を上げる。

「いや、もっと端っことか合わせてよ。端っことか無駄にはみ出してるじゃないか」

「……細かいわねー」

俺がピシッと合わさった三角を見せてやると、エリノラ姉さんは凝視した後に文句を言いながら折り直した。

最初からこれでは先が思いやられる。

それから半分に折ると、エリノラ姉さんも続く。今度はキッチリと角を合わせてくれた。

よしよし、この調子なら難しそうだが何とか――

「ちょっと待ちなさい! 今のどうやったのよ!?」

ならなかった。現在三番目の内側を広げて潰し、四角い形にするところだ。

そこでエリノラ姉さんは躓いた。

「だからここをこう!」

「こう?」

「違う!」

「ここを広げるんだってば!」

「広げる? ちょっと意味がわからないんだけれど……こうね?」

「違う! それは戻しているだけ! まだ三番目なのに躓くだなんて!」

「意味わかんないわよ。私はあんたみたいに気持ち悪く指が動くわけじゃないのよ?」

何たる言い草だ。人が折る姿を見て指が気持ち悪いと言うだなんて。

剣の稽古の時は「こんな事もできないの?」とか平気で言う癖に!

そんな言葉が喉まででかけたがグッと堪える。

相手はエリノラ姉さん。理不尽な事を言うのはいつもの事じゃないか。

前世を合わせ、ここは先輩である俺が冷静になるべきだ。

そもそもいきなり鶴を作ろうというのが難しかったのだ。

エリノラ姉さんにそんな事を言った俺が悪いのだ。これではエリノラ姉さんと同じ過ちをしている事になる。

もっと簡単な奴にしよう。

「何かその表情ムカつくわね」

エリノラ姉さんが目を細めて不機嫌になりかけたところで、入口から声がかかる。

「二人共さっきから楽しそうにしているけど、何してるんだい?」

シルヴィオ兄さんがいい所に来てくれた。本当にナイスタイミング。

エリノラ姉さんがドアの閉めないでいてくれたお陰だ。

「折り紙よ。折り紙」

「折り紙?」

オウム返しで答えるシルヴィオ兄さんに先程作った白鳥などを見せる。

すると、シルヴィオ兄さんは興味深そうに入ってきて白鳥を手に取った。

ちなみに今日もピョン吉のスリッパを履いていた。

「へー、これは鳥かな?」

「そうだよ」

「紙を折るだけで作ったのか。上手いもんだねー。僕にもできるかい?」

こういう物に興味があったのか、単なる好奇心か意外と乗り気だ。

「うん、シルヴィオ兄さんならできるさ」

どっかの誰かさんとは違って丁寧で器用だし。

「ならって言うのが気になるわね」

「気のせいだよ。ほら、エリノラ姉さんも一緒に。次は簡単で遊べる奴だから」

「ちょっとアルの癖にあたしを子供扱いしないでよね」

とか言いながらも「遊べる」っている言葉につられたのか素直に寄ってくるエリノラ姉さん。

それにしても、その「アルの癖に」というのを度々耳にするのだが、冷静に考えてみると酷い気がする。

確かにこの屋敷内で俺の地位は低いのだが、納得いかないな。事実なのだけれど。

「で、次は何を折るのよ。さっきの鶴は嫌よ?」

エリノラ姉さんはさっきので懲りたのか、鶴へと忌々しそうな視線を送る。

「さっきのも凄かったけれどこっちも凄いね」

「じゃあ次は簡単に作れて遊べる手裏剣を作りまーす」

「「しゅりけん?」」

エリノラ姉さんとシルヴィオ兄さんから怪訝な声が同時に上がる。

紙飛行機を作っても良かったがアレは最後のお楽しみなのだ。

「また広げるとか訳のわからない奴じゃないでしょうね?」

「違うよ。ちょっと入れ込むのがこんがらがるけど簡単だから」

俺は早速シルヴィオ兄さん、エリノラ姉さんに二枚ずつ紙を渡す。

シルヴィオ兄さんは初めてなので爽やかな笑顔だったが、エリノラ姉さんは二枚渡した時点でジト目になった。

枚数が増えたからって難しくはなりません。

「じゃあ、まずは半分に折ってね――」

「ちょっと合わないじゃないの!」

「だから両方とも同じように折っちゃ駄目って言ったじゃん!」

この姉は俺の話の何を聞いていたのだろうか?

俺達の目の前には両方とも同じ方向に折ったせいで、噛み合わなくなった紙の塊が転がっていた。

「できたよ。何だか星のような不思議な形だね?」

一方、人の言う事にきちんと耳を傾け、素直なシルヴィオ兄さんはキッチリと完成させていた、勿論歪みなんてものはなく、端っこまで丁寧に合わさっている。

「シルヴィオ兄さんはちゃんとできているよ?」

「うるさいわね! 逆にすればいいんでしょ!」

「アル、これはどうやって遊ぶものなんだい?」

エリノラ姉さんが紙を解いて、折り直しているとシルヴィオ兄さんが尋ねてきた。

「投げるんだよ」

「えっ? 投げるの」

シルヴィオ兄さんは投げると予想していなかったらしく、戸惑っている様子。

「そう! こうやって摘まんで投げる!」

俺が廊下に出て、見本として投げると隣のシルヴィオ兄さんの部屋を超えて、エリノラ姉さんの部屋の前まで飛んでいった。

距離としては六メートルくらいだろうか。

「結構早く飛ぶんだね。えいっ!」

シルヴィオ兄さんの投げた手裏剣は壁に当たり、ぺたりと落ちた。

最初はこんなもんでしょ。

「コントロールが難しいね」

シルヴィオ兄さんは特に気にした様子もなく、爽やかな笑顔で手裏剣を拾いに行く。

「あっ、俺のも取ってきてー」

「できたわ!」

俺がシルヴィオ兄さんに声をかけると同時にエリノラ姉さんが立ち上がった。

それからエリノラ姉さんは廊下に出てくると、俺の手裏剣を拾いに行くシルヴィオ兄さんへと狙いを付けた。

ま、まさか?

「えいっ!」

「シルヴィオ兄さん! 危な――」

俺の善意による警告はシルヴィオ兄さんをこちらに振り向かせてしまい――

「ふえっ?」

忍者もびっくりなフォームで綺麗に投げられた手裏剣は、シルヴィオ兄さんの額へと刺さった。

――スコン。そんな音が聞こえた気がした。

「シルヴィオォォォォ!」

倒れ込んだシルヴィオ兄さんを俺は抱き起す。

「……あ、アル。結構痛いよ……しゅり……けん」

「シルヴィオォォォォ!」

これがもし、本物の鉄製の手裏剣なら間違いなく額を抉っていたであろう。

それ程見事な投擲だった。エリノラ姉さんは本当に、こういう運動方面だけは無駄に得意なのだから。

「……これ使えるわね。鉄で作ったらいい武器になるんじゃないかしら?」

隣では何か物騒な事を呟く姉がいる。

当然シルヴィオ兄さんの事は気にしていない。

彼女には倒れる弟が路傍に転がる石のように見えているのではないだろうか。

それにしても平和な遊び道具を武器に転用しないで欲しい。