軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二王女クーデリア

アレイシアの黒い笑みと共に投げかけられた言葉を丁寧に否定していくと、一応は納得したのか口撃は収まった。

それにホッと息を着いていた時だった。

会場を彩る音楽団の音色が大きくなる。

木製の弦楽器が心地よい音を奏でた後に、入口の扉から声が投げかけられる。

「クーデリア王女殿下のご入場!」

その声と共に扉が二名の付き人によって開かれて、一人の少女が入って来る。

金髪の髪を腰まで伸ばしており、毛先になるとクルリとカールしている。

絹のような長い金髪が歩くたびにパタパタと揺れて、幾筋もの軌跡を空中に描く。

瞳の色は透き通った空のような青。顔立ちは少女と女性の狭間にいるかのようであり、綺麗と言うよりは可愛らしい。

その身には赤を基調としたドレスを纏っており、フリルの所はピンク色。薔薇のような刺繍やリボンは彼女を一層華やかに彩ってくれている。

アレイシアの歩みとはまた違った、気品と威厳が溢れる動作。

あれがノルド父さんが言っていた、クーデリア第二王女か。見たところではお転婆そうには見えない人だけれど。

そう思い、眺めているとクーデリア王女はその首をキョロキョロと振り、とある人物を見つけてと顔をぱあっと輝かせた。

いきなりかけ出した王女様だが、護衛の女騎士が予想をしていたかのように追従する。

つまり、いきなりそういう事をする女性なんだろう。

「ノルドー!」

「これはクーデリア王女殿下。ご機嫌うるわしく――」

「もー、お堅い言葉なんてやめてよー。ノルドにまでそんな態度をされたら私も疲れてしまうわ」

慇懃な態度で挨拶の言葉を述べようとしていたノルド父さんだが、それはクーデリア王女の辟易した声に遮られる。

「いえ、そうは言われましても」

「もー!」

「では、この場ではクーデリア王女と」

「うーん、本当はクーデリアでもいいんだけれどー」

「……姫様」

腰に手を当ててそう呟いたところで、後ろに控えていた女騎士が窘めるように言う。

「こんな風に怒られちゃうから、それでいいわ」

一応砕けてはいるが、それなりに聞き分けは良いらしい。

まあ、それでも王女にしては軽すぎるとは思うが。

「それよりノルド! またお話しを聞かせてよ! 最近は領地の方が順調らしいじゃない」

「……姫様。他の貴族とのご挨拶が……」

「あー! わかっているわ! 後で必ずするから」

女騎士の言葉にクーデリア王女はうるさそうに手を振る。

未だ俺達の近くにいたアレイシアを見ると苦笑していた。

どうやらこれはいつもの事らしい。

「ちょっとあなた達邪魔よ」

クーデリア王女が一睨みしてそう言うと、ノルド父さんの周りにいた貴族の子供達がそそくさと退いていく。その様はセリア食堂に入り浸る村の男達が、セリアさんに追い出されるようであった。

なんて女王様。いや、王女様だったか。

さすがの貴族達も王女の所に割って入る事はできないらしく、少し離れた所からそれとなく眺めたり、諦めて散っていく。

それからクーデリア王女はノルド父さんと楽しそうに談笑を始めた。

「あれが第二王女様ねー」

「まあ、いつも通りだな」

「いつもあんな感じなの?」

俺とエリックが何気なく会話をしていると、アレイシアが口を挟む。

「今日はノルドさんがいるから随分マシよ。普段はもっと我がままで退屈そうにしているわ」

「へー、よく知っているね」

「まあ私は公爵家だし年も近いから、一緒にお茶をしたりもするのよ」

なるほど。公爵家のご令嬢ともなれば王女様でも気軽に話す事はできそうだ。

「……それでも私といる時でもあんな顔はしないけれどね」

俺の思考を補足するようにアレイシアが苦笑して言う。

確かに見てみると本当に楽しそうに話している。というかちょっと距離が近くないだろうか? 何かしなだれかかっているような。

これエルナ母さんに怒られないだろうか。

そう心の中で思いエルナ母さんの方を見れば、案の定冷たい目でそれを眺めていた。

あーあ、今日はノルド父さん宿に帰ったらエルナ母さんのご機嫌取りをしないといけないだろうな。べたべたとノルド父さんに触れるから、エルナ母さんはクーデリア王女の事をあんまりよく思っていなかったんだな。

俺が呑気にそれを眺めている間にも爆弾は投下される。

「ノルド! それなら妻も私に乗り換えてみない? 私の方が若いわよ?」

パリーン。

「お怪我はございませんでしょうか!?」

何かが割れる音とメイドの慌てた声がエルナ母さんの方から聞こえてくる。

「ええ、大丈夫、大丈夫。まだ新しいから」

エルナ母さんは割れたグラスを手に、そんな事を呟いていた。

あのグラスって下の掴むところが結構太かったよね? 握るならともかく(普通の女性ならまず無理)摘まむ力で砕いてしまうだなんて……。

どうやらエリノラ姉さんのアイアンクローはエルナ母さん譲りらしい。

俺の頭もああならないように気をつけなければ。

それからしばらくしてクーデリア王女が他の貴族のところへと挨拶しに行くと、ノルド父さんは必死にエルナ母さんへと言い訳をしていた。

一体どういう会話をすればあんな言葉が出てくるのだろうか。いや、俺も昨日に似たような事があったしな……。昨日の俺もあんな感じだったのだろうか。

俺はこれ以上見てはいられないとばかりに視線を逸らしたのだった。

× × ×

それからしばらくすると、突然エリックに声が投げかけられた。そう、エリックにだ。断じて俺にでは無い。

「おい! そこの間抜けな顔をした田舎貴族!」

「「おい、エリック(貴様)呼ばれているぞ」」

「「………………」」

俺とエリックは無言で睨み合う。

「おいエリック間抜けな顔って言われているぞ。お前の事だろうよ」

「いーや、この会場にお前以上に間抜けな顔をしている者など他にはいないぞ。アルフリート」

俺とエリックは超至近距離から睨みつけ合う。

「おい! 無視をするな! アルフリートとかいう奴」

「言い間違えだろ!? 訂正なら早くしろ!? 本当はエリックなんだろ?」

ここで俺はようやく声をかけて来たやつの顔を初めて見る。

なんだこの偉そうな奴は。それが目の前でこちらを見下ろしている少年への第一イメージだった。茶髪の髪に黒のスーツ。年は十歳前後であろうか。自尊心の高そうな目をしている。

「はっはーん。まあ当然の結果だな」

俺の顔は間抜けな顔なんかじゃないんだぜ? とばかりにニヤニヤと笑うエリック。

傍らではアレイシアも堪えきれないとばかりに肩を震わせていた。

「……この野郎! それとお前は誰だ!? いきなり人を間抜けな顔呼ばわりとは失礼な!」

「よく聞いてくれた。俺の名はブラム=バームラル。誇り高きバームラル家の者だ!」

「ああん? 誰それ?」

高々と名乗りを上げたブラムだが、生憎俺の記憶にはそんな貴族はいない。昨日の挨拶回りの時にもいなかったはずだ。

「知らない奴だな」

エリックへと視線で問うてみるも同じ反応だった。

一方それを知っていそうなアレイシアは、先程の出来事がツボに入ってしまったのか、未だに肩を震わせている。ぽつぽつと間抜けとか聞こえてくる。酷くない?

俺達の言葉を聞いたブラムは肩をすくめる。

「これだから田舎の貴族は困る。王都近郊の街を治めるバームラル伯爵家を知らんとは」

最初から伯爵家って言っておけよ。聞いても知らないが。

「それでバームラル伯爵家のお方が何の御用でしょうか?」

俺はこのいかにも貴族っぽい感じの面倒くさそうな奴を、追い返す為に話を進める。

こういう奴は放っておくと、勝手に自分の領地自慢をしてくるというのは昨日の挨拶回りで嫌と言う程理解した事だ。

「本当の本当に知らんのか!?」

「知りません」

俺の毅然とした態度を見て、何故かブラムが焦る。しかし、本当に知らないのできっぱりと答えた。

「エリノラから話とか聞いていないのか?」

おどおどと想定外の事が起きたとばかりに尋ねてくるブラムの言葉に、俺は頭を抱えそうになった。何故コイツからエリノラ姉さんの名前が出てくるのだろうか。

――もの凄く嫌な予感がする。

「えっと、私は姉から何も聞いておりませんが?」

俺がそう答えるとブラムは「えっ? まじ!?」と一人呟く。

それからブラムは仕切り直しとばかりに咳払いをし、細い瞳を一層細めてから告げた。

「率直に言おう。俺と決闘をしろ」

「嫌です」

「よし、それなら今すぐ――何故だ!? エリノラは二つ返事で受けてくれたぞ!?」

「何故だって、俺には決闘をする理由がありませんよ!」

「貴様には無くとも、俺にはあるのだ。貴様を倒さなければ俺はずっとエリノラと勝負することが出来ないではないか! それができなければ俺はあいつと婚約ができんではないか!」

前半の言葉は理解できなかったが、最後の言葉を聞いて俺は確信した。

「あっ! 思い出した! エリノラ姉さんに言い寄って返り討ちにあった男か!」

「その言い方はやめろおおおおおおおっ!」