軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

アルのプレゼン

「人形劇とは、人形を使って物語を演じる舞台芸術の一種です。操り手である人形師が人形を動かし、声を吹き込む声優が感情を演じることで観客に物語を伝えます。ここまでは問題ないでしょうか?」

「ああ、理解はできる。だが、魔法で人形を動かすというのがイメージできないのと、声優とやらの感情表現がよくわからない」

「それに関しては直接お見せした方がわかりやすいでしょう」

目配せをすると、グレゴールが俺の意図を察したのかティクルを呼び寄せてくれた。

グレゴールが抱えていたゲコ太をそっとテーブルの上に置くと、俺はサイキックを発動させた。

人形に魔力を浸透させると、俺はゲコ太の体を震わせた。

静かだったゲコ太がゆっくりと首を傾げた。

「ゲコ?」

「――ッ!?」

動きに合わせてティクルの声が吹き込まれると、吸い寄せられるように見ていたバルナークが息を呑むような反応を見せた。

彼女の声に合わせて俺が的確に風魔法を発動させたので、バルナークにはゲコ太から声が発せられているように聞こえただろう。

人形師による技と声優による声の魂が重なった瞬間だ。

もはや、それは布に覆われた人形ではない。そこには確かに命があった。

ゲコ太を身じろぎさせると、俺はこの瞬間に受けた生の喜びを表現するように元気良く跳ねさせた。

「ゲロッ! ゲロッ、ゲロッ!」

ゲコ太の軽快な喜びの声が響き渡る。

先程と発している言葉が同じだが、そこに込められた感情はまったく違っていた。

さすがはティクル。人形師としても腕を磨きながら声優としての演技も研鑽を積んでいたようだ。

ゲコ太は円を描くようにジャンプすると、やがてバルナークの前で立ち止まった。

「はじめまして、バルナーク様! オイラはゲコ太! よろしく!」

ティクルが人の物怖じしないゲコ太らしい挨拶をしてみせた。

「し、信じられん。これが魔法と声優による合わせ技なのか?」

「はい。私がサイキックでゲコ太を動かし、ティクルが声を吹き込んでくれました」

「む? そこのメイドが声を吹き込んでいたのか?」

「は、はひ! 人形劇のご説明とはいえ、無礼な挨拶をしてしまい申し訳ありません!」

「こ、声音がまったく違うではないか……」

ティクルが頭を下げて謝罪をすると、バルナークが呆然とした顔になった。

彼女の素の声とゲコ太の独特な濁声は似ても似つかないからね。無理もない。

俺も初めて聞いた時は、喉のどこからそんな声が出ているのかと思ったし。

「いかがでしょう、バルナーク様?」

「あ、ああ。人形が動くイメージは十分にできた」

「それはよかったです」

ティクルと一緒に実演した甲斐があったものだ。

「私は人形劇という舞台芸術を王国に広めたい。そのためにバルナーク様の歌劇場で公演させていただきたいのです!」

グレゴールがここぞとばかりにその熱量を訴えた。

「……いくつか気になるところがあるのだが尋ねてもいいだろうか?」

「なんなりと」

バルナークの好意的な反応にグレゴールが前のめりになる。

「この脚本を見る限り、登場する人形はかなり多いようだが人形師の数は足りているのか?」

「ティクルをはじめとした人形師の数は五名ほどです。足りているとは言えません」

あの脚本の劇を成立させるには最低でも十名は必要だ。

一日に複数の公演をこなすことを考えると、交代できるようにその二倍の数は欲しいところだ。

「しかし、グレゴール領では昨年の秋から無属性魔法の使い手を募集しており、続々と人材は増えております」

「公演を目指して既に動き出しているのだな」

入念な計画を元に動いていると知り、バルナークが感嘆の声を漏らした。

「はい。今はまだまだ人形師の数は足りませんが、シューゲル様の協力もあり、魔法学園から優秀な生徒を紹介してもらう手筈になっております。来年度には人形師の数がかなり増えるでしょう」

「なんだ。シューゲルも関わっているのか? そうであれば、言ってくれれば良いものを」

「私がそう言ったところで確実に公演枠を空けてくれるわけでもないだろう?」

バルナークが驚きの声を上げると、シューゲルが笑いながら話しに加わってきた。

「そうだな。俺は俺が面白いと思ったもの以外はやらせん」

「最初から色眼鏡無しに見定めてもらおうと思ってな。どうだった? 二人の提案した人形劇は?」

「画期的な提案だ。とても面白い。俺としては準備が整ったら是非ともやってもらいたい」

「おお、それでは……っ!」

「ただし、人形劇は大衆にとっても未知のものだ。いきなりこれだけの大作をやるにはリスクが大きい」

「そうですね。この脚本を劇にするとなると、恐らく一時間半はかかるでしょうから」

「ぐぬぬぬぬぬ……」

最初に執筆したゲコ太の冒険に思い入れがあるのか、グレゴールが焦れったそうな唸り声を上げる。

気持ちはわかるけど、いきなり大作を発表したところで人々はついてこない。

「まずは短めの演目をこなしていき、人形劇というジャンルを王都の市民に浸透させるのはいかがでしょう?」

「そうしてくれると助かるな」

まずは人形劇というものがどういうものか知ってもらうのが大事だ。

短めのものを楽しんでもらい、そこから徐々に大作を受け入れるだけの土台を作る。それが大事だ。

そのことをグレゴールに伝えると、彼は悔しそうではあったが最終的には納得して頷いた。

「では、そのような形でお願いさせていただきたい」

「わかった。いつ頃に見せることができる?」

「今年の秋には」

「よかろう。では、来年の秋にスロウレット家の収穫祭で披露してもらうことにしよう。その出来栄え次第で王都の歌劇場で公演できるかを判断する。問題ないか、アルフリート殿?」

……え? 問題ありありです。なんでそうなるの? 普通に王都の歌劇場のホールを貸し切って、そこで審査すればいいじゃん。

そんな抗議をしたいところであったが、ここまでトントン拍子にいっているのだ。水を差すような真似はできない。

「……問題ないとは思いますが、念のために父に確認させてください」

「ああ、お願いする」

バルナークの力強い視線がこちらに突き刺さる。

その視線の意図するところは「くれぐれもよろしく」といったところだろうか。

王都の有力な伯爵家の当主からのお願いなんだ。実質拒否なんてできない。

俺はその視線から逃れるようにノルド父さんとエルナ母さんのいるテーブルに向かった。

「……何かあったのかい?」

俺が傍にやってくると、ノルド父さんが不安そうな眼差しを向けてくる。

「えっと、今年の秋の収穫祭で人形劇を披露したいんだって……」

バルナークたっての強い希望であることを告げると、ノルド父さんが空を仰ぎそうになった咄嗟に堪えた。

「なんでそうなったの?」

「バルナーク様が二人のファンだからじゃない?」

多分、ドラゴンスレイヤーである二人が治めている領地がどんな場所か気になっているんだろう。作品のファンが聖地に訪れたくなるような感覚じゃないかな。

「確かにそういう気はあったけど、社交辞令じゃなかったのね」

おっと、どうやら肝心の二人はバルナークの強いファン心に気付いていないようだ。

挨拶の時からあんなに厚意的だったのに。

ノルド父さんが爵位を貰った頃に声をかけたってことは、平民である冒険者時代からのファンだ。相当、二人のことが好きだぞ。

「どうする?」

「グレゴール子爵が人形劇を披露してくれるのであれば、領民たちも喜ぶはずだわ。ここはポジティブに捉えましょう」

「そうだな。歓迎しますとお伝えしてくれるかな?」

「わかった」

ノルド父さんから正式に許可を貰うと、俺はバルナークたちが待ち受けるテーブルに戻った。

「どうかな?」

「父も問題ないとのことです」

「それでは決まりだな」

仕事にかこつけてスロウレット領に遊びに行くことができて、バルナークは実にご満悦そうだ。

……いいな。俺も仕事という大義名分を得て、自由に遊びに行ってしまいたい。

「バルナーク、ここだけの話だがな。私たちは人形劇を土台として、さらに大きな事業をやろうと思っている」

「ほう? それは聞かせてくれるのかな?」

「もちろんだ」

人形劇への道筋が固まってきたところでシューゲルが共同事業の概要をバルナークへと話した。

「……随分と面白そうなことを考えているじゃないか、シューゲル。それだけ大がかりな事業は前代未聞だぞ?」

「建国時代から遡っても貴族同士が手を結んだ事業で、ここまで大規模なものはない」

なんていったって王都にどでかいテーマパークを作ろうとしているんだからね。

建国時代まで遡ってもそんなふざけた催しを計画した人はいないようだ。

「まあ、すべては形になればの話だ」

シューゲルの言う通りだ。

グレゴールの人形劇が上手くいかなければ、テーマパークにとって重要なキャラと世界観の構築ができないからね。

まずは王都で人形劇を浸透させ、確かな人気を確立させないと話にならない。

「ミスフィード家、グレゴール家、スロウレット家が組んでいるんだ。成功する未来しか見えないな」

今はまだ机上の空論だと俺は思っているが、バルナークは確実に為すことのできる未来だと睨んでいるようだった。