軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

串揚げのポイント

「ポイントとなる部分は口にするよ。気になるところは遠慮なく聞いてね」

調理スペースには屋敷の厨房にあった魔道コンロが移されている。

つまみを動かして点火すると、鍋にたっぷりと入っているコーン油を温める。

「では、早速質問を。アルフリート様は串揚げに適切な油の温度はどのくらいだとお考えで?」

いきなり油の温度を聞いてくるとは、ベルナードはわかっている。

揚げ物は油の温度が大事だからね。

「百七十度から百八十度だね」

温度が低過ぎるとベタつき、高過ぎると表面だけ焦げて中が生焼けになる。

また串を入れ過ぎると、油の温度が下がるため、一度に揚げ過ぎないようにするのもポイントだ。温度が下がったら少し待ってから次を揚げるなどの調整が必要になる。

などと軽い補足をすると、若い料理人が鬼気迫る表情でメモを取り出した。

これはやりづらいなぁ。

でも、こうやって教えるのが今回の務めなので我慢するとしよう。

「最初はならし揚げだね」

「ならし揚げとは?」

「油の温度を測り、安定化させるんだ」

パン粉を少し油に入れて温度の確認をする。

百四十度だと衣が底まで沈む。ひと呼吸おいてからゆっくり浮き上がってくる。

百六十度だと衣が底まで沈み、すぐに浮き上がってくる。

百八十度だと衣が底まで沈まない。中ほどまで沈んですぐに浮き上がる。

二百度だと衣が軽く沈むだけ。油の表面でぱっと散るように広がる。

「そのようなわかりやすい指標があったのですね」

「他にも菜箸を使ったわかりやすい指標もあるから適当に探ってみて」

スロウレット家では当たり前の知識だけど、ミスフィード家の料理人では知らなかったらしい。俺が密かに取り出した菜箸の便利さにも気づき、ミスフィード家でも導入することを検討しているようだ。

さて、油が百八十度になった。

「最初は比較的短時間で揚がるものから始めるよ」

「やはり、串揚げには揚げる順番があるのですね?」

「うん、最初は水分が少なくて火が通りやすいものかな」

うずらの卵、チーズ、ししとう、ヤングコーンなどの食材をそっと油にくぐらせると、シュワッと小さな泡が立ち上がった。

油の音を聞きつけて、歓談していた招待客が一斉に振り向くのがわかった。

好奇心旺盛なラーちゃんが一番に近づいてきた。

「わあー! アル、これが串揚げ?」

「そうだ――いや、そうですよ。ラーナ様」

「……アル、言葉遣いが変」

慌てて言葉遣いを正すと、ラーちゃんが神妙な顔で見上げてくる。

「ラーナ様、今は公式の場ですから」

「ぶー」

メイドのロレッタが嗜めるも、ラーちゃんはいつもの会話ができないことに不満げな様子だ。でも、今はいつもの面子以外の人がいるからしょうがない。

急かしたところで串揚げは早く揚がらないものだ。

じわじわと衣がきつね色に染まっていく。

熱された油が具材を包み込み、パン粉がふっくらと膨らんでいった。

菜箸でそっと転がすと、油が弾け、パチパチと軽快な音を立てる。

「具材を串に刺して、衣を纏わせてから高温の油で熱しているのね」

アレイシアも近づいてきて鍋の中を覗き込んできた。

俺は咄嗟に無属性魔法を発動し、鍋の前方と観客側を仕切るようにシールドを展開した。

突然、魔法を発動したことでリムが動こうとしたが、アレイシアが手で制した。

「失礼。アレイシア様やラーナ様の美しいドレスを汚さないために仕切りを展開させていただきました」

「そうだったのね。気遣ってくれてありがとう」

金貨五十枚以上はしそうなドレスに油が跳ねることを考えると、おちおちと揚げることもできないからね。

「アルフリート、串揚げはまだか?」

気が付けばギデオンが目の前にきて直立不動の体勢になっていた。

その後ろではシューゲルがバルナークやグレゴールを引き連れてきている。

ノルド父さん、エルナ母さんは既に串揚げを食べたことがあるのでフローリアと歓談を続けている。

気が付けば、会場のほとんどの人から視線を向けられている。

非常にやりづらい。所詮は七歳の子供なんだ。もっと優しい視線を向けてくれ。

食材の水分が僅かに蒸発し、きめ細かな泡へと変わっていく。

周囲に香ばしい匂いが漂い、衣がこんがりとした茶色へと変化したら、そっと油から引き上げた。

余分な油を切りながら熱を逃がさぬうちに皿へと盛り付けた。

ミスフィード家の料理人たちがお皿にソースを乗せてくれる。

「どうぞ」

給仕が素早くお皿を渡すと、第一陣の串揚げが全員に行き渡った。

「熱々の内に食すのがアルフリート殿や料理人への礼儀だ。短い言葉になるが、皆楽しんでくれ。乾杯」

シューゲルが乾杯の音頭を取ると、皆がグラスを掲げながら唱和した。

助かる。ここでの挨拶が長いとすっかりと串揚げが冷めちゃうからね。

「美味しい!」

最初に感想を口にしたのは好奇心旺盛なラーちゃんだった。

口の周りにソースをつけながら満面の笑みを浮かべている。

「外の衣がサクッとしていて香ばしいな。高温の油で熱するだけで食材の甘みや旨みがこんなにも増すのか……」

次に感想を口にしたのはギデオンだった。

お好みの魚介系ではなく、ヤングコーンを口にしていたが、その美味しさは想像以上だったのか目を見張っていた。

にしても、意外と食レポが上手なんだな。

口下手なので美味いとだけ言って終わるタイプだと思っていた。

「アレイシア様、串から具材を外して切り分けましょうか?」

「いえ、このまま頂くわ。今日の試食会の趣旨は串揚げを美味しく食べるための催しだもの。それは野暮でしょ?」

リムからの申し出にアレイシアは首を振り、小さな口を開けて頬張った。

目の前でサクッという軽やかな音が鳴るのが聞こえた。

「あら、美味しいわ。外はサクッとしているけど中の卵の黄身はとろってしている。どうして?」

「先にうずらの卵を茹でておいて半熟にするんです。その状態でやや高温の油でサッと揚げると、外はサクサク、中はとろっとした半熟のうずら揚げができます」

うずらの卵はしかりと揚げると、黄身が固まってしまう。

それでも十分に美味しいんだが、俺は半熟気味の方が好きなのでひと手間を加えさせてもらった。

傍にいるベルナードが感心したように頷き、若い料理人が必死にメモを取っている。

ああ、ちょっとした応用技を教えてしまった。

まあ、これくらいはサービスってことでいいか。

「…………」

ラーちゃん、ギデオン、アレイシアの様子を眺めていると、その少し後ろにいるシェルカが呆然としているのが見えた。

「シェルカ様はいかがでしょう? お口に合いましたか?」

「ま、まあまあね!」

おずおずと声をかけると、シェルカが我に返ってそんなツンデレ台詞を吐いた。

「とかいって、お姉ちゃんもう全部食べてる」

「こ、これは量が少なかったからよ!」

ラーちゃんに指摘され、シェルカが顔を真っ赤にして否定する。

最初に四種類もの串揚げを盛り付けており、大人を含めても一番に完食しているのはシェルカだけだ。

気に入って食べていたのは明白だけど、これ以上追及してやるのは可哀想というものだ。

「む、これは本当に美味しいな。衣の香ばしさと素材の旨みが口に広がる」

主催者であり、試食を望んでいたシューゲルが串揚げを頬張った。

その反応を見る限り、串揚げの感触は悪くないようだ。

「串揚げも美味いが、このソースも美味い」

「醤油のような香りもするが果物のような甘みも感じますな」

「ああ、この甘みと酸味が油っこさと和らげ、後味をすっきりとさせている」

バルナーク、グレゴールも串揚げを口にして目を見張っている。

こちらの二人はソースの美味しさが特に気になっているらしい。

「フローリア様、串揚げはソースだけでなく、塩で食べるのも素材そのものを味わえていいですよ」

「レモンを絞るのもオススメです」

「あ、私はこちらのあっさりした方が好みです。教えていただきありがとうございます」

ノルド父さん、エルナ母さんは食べた経験があるのでフローリアに味変をレクチャーしていた。彼女はあっさり派なので肉類は少な目にして魚介や野菜を多めに提供してあげた方が喜ぶかもしれない。

「次は魚介類を揚げるよ」

こっちも比較的火が通りやすいので早めに揚げてやるのがいい。

「魚介類の串揚げは衣が剥がれやすいのですが、何か対策はご存知でしょうか?」

串を投入しようとすると、ベルナードが尋ねてくる。

とてもいい質問だ。

「下処理の時に塩を振っておいて余分な水分を取り除き、薄く小麦粉をまぶすといいよ。さらに溶き卵、パン粉をつけたら、しばらく冷蔵庫で休ませるかな。衣が馴染んで剥がれにくくなるから」

「な、なるほど。勉強になります」

ベルナードが畏敬の眼差しを向け、若い料理人が凄まじい勢いでペンを走らせる。

なんだか自分がとても偉い人になったと錯覚しそうだ。

あくまで俺は前世の知識や経験を元に話しているだけなのでまったくすごくない。

だけど、他の皆にはそんなことは伝わらないんだろうな。