軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

浮いている妹とぼっちの兄

バタバタと立食パーティーの準備をしていると、あっという間に空は深い藍色へと沈み、夜の帳が静かに庭園を包み込んでいた。しかし、庭園が完全に闇に沈むことはない。ミスフィード家が誇る照明の魔道具が屋敷と庭園のあちこちに設置されており、柔らかく幻想的な光を放っていた。

庭園内の石畳の小道に沿って配置された水晶灯は、淡い青白い光を灯し、まるで夜露を纏った星が地上に降りたかのように輝いている。

中央にある噴水は青い光を放ち、魔道具による水流制御のよる力のお陰か時が経過するごとに水流が形を変えている。流れる水が月明かりに反射して綺麗だ。

奥にそびえる大樹には、淡く光る魔道ランタンが吊るされており、暖かな黄金の光が枝葉の隙間から漏れ、地面に影を落としていた。

「ここまで照明の魔道具を上手く扱うことができるのはミスフィード家だからでしょうね」

「これでも魔法貴族と呼ばれる家系だからな」

「ええ、魔法を扱うだけでなく、魔道具を扱うことにかけても自負がありますので」

庭園を見て零した感想にシューゲルとフローリアが自慢げに答えた。

ただ照明を魔道具で明るく灯すのではなく、客人の目を楽しませるように配置している。

照明の魔道具を多く所有している貴族は他にもいれど、ここまで芸術的に上手く扱うことができるのはミスフィード家だけだろう。

庭園には立食パーティーのために円卓が並べられ、豪華な料理と華やかな装飾が施されていた。

一応は串揚げという新料理のお披露目という名目であるが、それ以外にも気軽に摘める料理やお酒のつまみとなるものが用意されている。

端の方にはずらりと音楽隊が並んでおり、緩やかな旋律が奏でられていた。

多分、王都にあるヘタな会場を借りるよりも、ミスフィード家の庭園でのパーティーの方が豪華なんだろうな。

「アルー! ドレス、着てきたよ!」

庭園を眺めていると、屋敷の方からラーちゃんがやってきた。

「おー、今日のドレスも似合っているね」

「えへへ、ありがと!」

ラーちゃんが纏っているのは、爽やかなミントグリーンのドレスだった。

白金の髪との相性が抜群で儚げでありながら可憐な雰囲気を演出している。

「おー! ラーナ! 今日のドレスも可愛いね! 我が家の庭に天使――いや、森の妖精さんがやってきたのかと思ったよ!」

「パパもありがと!」

ラーちゃんのドレス姿を見て、シューゲルが好々爺のような表情を浮かべた。

こんなにもうざい賛美の台詞を聞かされてもドン引きしないラーちゃんは、まさしく森の妖精さんに違いない。

「まったく学園から帰ったら急にうちの庭園で立食パーティーってどうなってるのよ?」

ラーちゃんの器の広さに感嘆していると、後ろからシェルカがやってきた。

「あ、シェルカ。久しぶり」

「久しぶりって、前に顔を合わせてからそこまで日は経過していないはずだけど……」

「そうだったかな?」

賓客としてミスフィード家に滞在している俺だが、シェルカはほぼ毎日魔法学園に通っているので意外と顔を合わせる機会がない。

多分、ちゃんと顔を合わせたのは初日の晩餐会と、ギデオンとの詠唱破棄の修行中に無衝撃地雷を踏んづけた時くらい。

その程度の交流しかないことや、ラーちゃんやギデオンとの交流が濃いこともあり、俺としては久しぶりという印象が強かった。

「ちなみに立食パーティーの件については、君の父上とアレイシアの企てだからね?」

元々、俺は身内だけの食事会を提案していたんだ。

そこに自信の思惑と好奇心を上乗せしたのは、他でもないシューゲルとアレイシアである。

俺がここまでの騒ぎにしたと思われるのは心外だ。

「……ふうん、まあいいけど」

まあ、いいならどうして俺に絡んできたんだ。

不思議でならない。

「……ねえ、私には一言もないわけ?」

「え、なにが?」

俺はシェルカに言わなければいけないことがあっただろうか?

何か彼女を怒らせるようなことでも?

「あ、この前、演習場でひっくり返った時のこと? 前にも謝ったし、あれはそもそもラーちゃんが埋めたものをギデオンが――」

「違うわよ!」

地雷を踏んで派手にスカートを捲り上げてしまった事件の釈明をすると、シェルカが食い気味に否定した。

「じゃあ、なに?」

「だから、この姿を見ればわかるでしょ?」

前髪を指先で弄びながらどこか恥ずかしそうに言うシェルカ。

改めて彼女に視線を向けると、今日はいつもの魔法学園の制服ではなく、ロイヤルブルーのドレス姿であった。

さすがにそこまで言われれば、言わんとすることはわかる。

「えー? そういうのを求めるタイプなの?」

「求める求めないにしろ、パーティーで女性のドレス姿を褒めるのは男性貴族のマナーよ」

女性に出会う度にそんな言葉をかけないといけないのか?

うへー、貴族って面倒くさい。

「まあ、あなたのような辺境貴族にそんな賛美の言葉を求めるのは酷かしら?」

「シェルカ様のドレス姿を初めて拝見いたしましたが、まるで夜空に瞬く星々を纏ったかのように美しい。庭園へと舞い降りた女神のようです」

「へっ!?」

即座に賛美の声をかけると、シェルカが顔を赤くして驚きの声を上げた。

「こんな感じでどう?」

「……ふ、ふん。三十点ってところかしら」

「まあまあじゃん」

「百点満点中だから赤点よ」

「えー、厳しいな」

こういった賛美の言葉は、前世の姉たちのご機嫌を取る時のために活用していたのだが、シェルカには響かなかったらしい。

こちらの世界の女性から高得点をちょうだいするために賛美の言葉の引き出しを増やしておかないといけない。

「うふふ、アルフリート君が相手だとシェルカは遠慮なく喋るのね?」

「べ、別にそういうわけじゃないから! わ、私、飲み物取ってくる!」

フローリアの微笑ましい視線からシェルカが逃れるように退散した。

シューゲルやギデオンには基本的に強気な対応をしている彼女だが、母親であるフローリアには弱いらしい。

「シェルカ様はいつもこんな感じじゃないんですか?」

「ええ、あの子は大人しい性格ですから」

……シェルカが大人しい?

彼女の今までの言動とはかけ離れた評価に首を傾げざるを得ない。

ひょっとしたらフローリアの目は節穴なんじゃないか。

「母上の言っていることは事実だ。シェルカは公爵家という家柄や飛び級をしたせいで学園では浮いているからな」

フローリアの言動に猜疑心を抱いていると、横からギデオンがやってくる。

「ふーん、そうなんだ。俺からすれば、到底信じ難い事実だよ」

「それほどシェルカにとってアルフリート君は話しやすい相手ということなのでしょう」

それは信頼っていうより、年齢も家格も明らかに格下な俺が与しやすいと思われているだけではないか? なんて思ったけど、さすがにフローリアの嬉しそうな表情を見ると、咄嗟に反論することは憚られた。

「で、妹が学園で浮いていることを知っている兄貴は、何とかしてやろうと思わないの?」

「どうして俺が妹の友人作りに協力しなければならない?」

「こっちはこっちで公爵家の次期当主ということもあり、まともな友人がいないのです」

フローリアが嘆かわしそうに言う。

なんて冷たい兄なんだと思ったが、こっちもこっちで浮いていて力になれないらしい。

ミスフィード家のコミュニケーション能力不足は深刻だな。

そう考えると、兄姉の中で如何にラーちゃんのコミュニケーション能力が突出しているかわかるというものだ。