軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

貴族交流会

自分の誕生日の日にパーティーがあるって何か嫌だよな。というわけで七才となったアルフリート。誕生日祝いはパーティーのせいでお預け。まあ、年も年だし無くてもいいのだが。

本日は例の招待状、確か名前はリーングランデ公爵主催の貴族交流会の日。

公爵って凄く爵位が高い。王族の縁者やよほどの功績を立てないとなれない。確かユリーナもといロリーナ子爵の嫁さん、リナリア夫人も公爵家だった気がする。

パーティーの主催者なので公爵家の人には必ず挨拶しに行かなければならない。なので、絶対に名前を間違えないこと、失礼の無いようにと釘をさされている。

全くノルド父さんとエルナ母さんは心配性だなぁ。そんな爵位の高い面倒くさそうな人に必要以上に関わるわけがないじゃないか。

すでに俺の中で今日の行動は決まっているのだ。

まず、会場に入るでしょ。

ノルド父さんと、エルナ母さんに注目が集まるでしょ?

ノルド父さん達が囲まれている間に俺は気配を消して端に陣取り、他人の振りをしながらテーブルに並べられた珍味を喰らう。

ふふふ……完璧じゃないか。

後は適当に落ち着いたところで、笑顔を顔に貼り付けて挨拶回りをするのみ。

細かい所はノルド父さんが上手い事やってくれるだろう。

それで今日の戦いは終わりだ。

「アル、何を笑っているの? それにスーツを着ているのにそんな風に座ったらシワが付くわよ?」

べ、別にノルド父さんとエルナ母さんをスケープゴートにしてやろうとか企んでいませんよ?

「……何でもないですよ母上」

俺はスーツの襟を正して背筋を伸ばす。これで少しは貴族らしく見えるだろうか。

しっかし、どうしてこんな息苦しいものを着なければならないのか。会場に入るまではボタンを外しておこう。

「あら、変に間が空いたわね。それにいつもと呼び方が違うわ」

スッと切れ長の瞳を細めるエルナ母さん。

むっ……鋭いな。

「いいえ、これは会場でエルナ母さんと呼んでしまわないように練習をしているのです。つい、いつものようにエルナ母さんと呼びそうになったので、間が空いてしまったのです」

うん。嘘じゃない。

決して生贄にして楽をしてやろうとか考えていたから、焦ったとかではない。

「確かにそれもそうね。アルってばもう、可愛いわね」

俺がそう答えると母上は手を俺の頭に乗せて優しく――アイアンクローがめり込んでるううううううっ!?

「痛いです母上。頭から何か出てしまいそうです」

「あら、そう。悪い事を考える頭はこれかしら?」

「い、いいい、痛いです! 私が何を考えたと!?」

意味が分からない。こんな仕打ちをされる意味が!

「あんな邪悪な笑みを浮かべてよく恍けられるわねえ」

「人には想像の自由というものがあるはずです」

屈しない。屈しないぞ。例え不当な暴力を受けようとも、自分の考えは曲げない。ましてや証拠のない、ただの憶測による裁きなどに膝を折るなど……スロウレットの名が廃れるというもの!

「私を生贄に捧げて楽をするとか聞こえたわ」

「ちゃ、ちゃうねん……」

その日、俺はパーティーが始まるまで外に出してもらえなかった。

宿から貴族街に入り、馬車を揺らすこと数十分。

パーティー会場に着いた。

ここがリーングランデ公爵家の会場か。

白く塗られた上品な三階建ての邸宅。

夜だというのに窓からは多くの光が漏れ出し、楽しげな音楽が流れていた。

緑豊かな庭園にも光源やテーブルが設置されており、そこでは夜ならではのイルミネーションを楽しむことができるようになっていた。

多くの貴族が俺達と同じように馬車でやってくる。まだ開催時間までは時間があるので、今ここに到着しているのは男爵や子爵であろう。地位の低い者はさっさと到着しておくのがルールだ。

その全ての馬車を苦も無く、公爵家の使用人が敷地内へと見事に収納してみせる。

俺達も同様に馬車を使用人に任せて、高級そうな絨毯の上を歩いて入口へと向かう。

圧倒的な敷地の広さだ。

恐らくここはこういった催し物を開くためだけのものであって、公爵家の屋敷はもっとすごいのだろう。

定期的に開く事でうちの家はこれだけ力がありますよ、という示威も兼ねているのだろうな。

前を歩く俺と同年代くらいの男の子なんて、もうカチコチに緊張しているようだ。

手と足が同時に動いてしまっている。

隣の父親がそれに気付いたのか、パシッと頭を叩いた。

それで少年はようやく正常に歩き始める。

「なんか嫌だなー。いきなり威嚇されているようで落ち着かないや」

「鋭いわねアル。リーングランデ公爵家の人は、どのお方も気が強いことで有名よ」

俺の小さな呟きにエルナ母さんが感心したような表情で答える。

やっぱりその人の性格は出てしまうものなんだね。それがわざとなのかは分からないけれども。

「いつも何かあった時は攻める側にいるね。相手が攻めているはずなのに、攻める側が公爵家になっている。または、攻められる前に叩き潰す事が多いかな」

うわ、何その人……物騒だ。

なんて言葉が口から出そうになったのだが、既に敷地内なので堪えた。

とにかく公爵家の人の印象に残らないように気を付けよう。

そう意志を固めて、俺達は会場へと入った。

会場へと入るとそこは世間とは隔絶された別世界のようだった。

何百人もの人間を収容できるような広さ、既に多くの貴族たちが己が存在を主張するように煌びやかなドレスを身に纏っていた。

身体のラインを強調するようなもの、スカートをフリルで華々しく彩るもの、精巧な刺繍を施されたドレスを着るもの。

それらは一目見ただけで相当な値が張る物だと分かった。

天井には多くのシャンデリアが吊るされており、その光源は女性の美しさを際立たせる装飾品を怪しく光らせる。

何だか見ているだけで疲れてきた。

俺達三人が会場へと入ると、瞬く間にノルド父さんへと視線が集まった。

早速何人かのグループがぞろぞろと集まってきた。

今まで和やかに談笑していた貴族令嬢たちも話を切り上げて、雰囲気を一変させる。

よし、今のうちに離脱すれば……。

足音を立てずに、気配を消して後退したところで腕を掴まれた。

「……生贄に出すのはこのタイミングが一番よね」

ニッコリとしながら、俺の手首を抑えるエルナ母さん。

くそ、作戦内容までは吐いていないと言うのにお見通しとは。

「これはお久振りですなあ、スロウレット男爵。最近はどのパーティーにもあまりご出席されていなかったようで」

「お元気そうで何よりです。カボール子爵。所詮、私は成り上がり者ゆえ、こういう催しはどうも苦手でして。ご容赦下さい」

「ご謙遜なさらなくとも。王都でもドラゴンスレイヤーと名高いではないですか」

わあ、いきなり出て来たよその単語。

その後はエルナ母さんの紹介となり、矛先が俺へと。

「ところで、そこにおりますのはご子息で?」

ちらりと視線を向けてくるカボール子爵。

「はじめましてカボール子爵様。スロウレット家次男のアルフリートと申します」

そして丁寧に腰を曲げる俺。

最初に聞いた名前を憶えていた。俺ってば偉い。

「ほう、これが次男ですかな? これはまた……エリノラ殿とシルヴィオ殿とは違った雰囲気をお持ちですなあ」

失礼な視線だ。上から下までジロジロと。

はっきり言ってもいいのですよ? あの姉と兄に比べると地味だとか。

さすがに不細工とか言われるとへこむけれども。

『……あれがエリノラ様の弟君ですの?』

『嘘でしょう? あんな冴えない男が!? 従者か何かかと思いましたわ』

『……シルヴィオ様とは、とても似ているとは言えないですわね』

ごめんなさい。そんなにストレートに言わないで下さい。

泣きたくなってきた。

それにしてもやっぱり女性の目は厳しいと思う。

あそこの華やかな貴族令嬢の所には絶対に近寄らないようにしておこう。

× × ×

『おい見たか、最初の身のこなし。この明るい会場内で闇夜に紛れるように気配を消したぞ』

『申し訳ございませんお父様。私には全く視界に入れる事ができませんでした』

『いや、俺でも気付いたのは偶然だった。あれは平凡な見た目とは違い、異質な者やもしれん……引き続き監視するぞ』

『はい、お父様』