軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

コマの改良案

「コマの調子はどう?」

これまでの暮らしぶりを話し終えて、落ち着いたタイミングで俺はラザレスお爺ちゃんに尋ねる。

俺が開発したコマはラザレス商会から売りに出されている。

スロウレット家に入ってくる金額を確認すると、それなりに潤っていることはわかっていたが徐々に勢いが落ち着いていたのが気になった。

「うむ。娯楽の一つとして王都ですっかり定着した。今では平民だけでなく、商人や貴族の間でも楽しまれるようになったわい」

「それはいい調子だね」

「今は王都の外にも売りに出していっているが、その先がなくてだなぁ」

ラザレスお爺ちゃんが難しい顔をして腕を組む。

コマを回してフィールドでぶつけ合う遊びは爆発的に浸透しているが、そこからの発展がない。コマなんてすぐに壊れるものでもないし、フィールドだって頻繁に買い替えるものではない。

家庭によっては所持しておらず、友人たちと共有して使うことだってあるだろう。ヒモだってその気になれば自分で作って、修繕することもできてしまうので、一度買ってしまえば買い替える必要はあまりない。だからここのところはうちへの入金が横ばいだったのだろう。

「だったらコマを買いたくなるようにすればいいんじゃないの?」

「色をつけたりするのか?」

「そう! できれば、そのコマにしかない強みが欲しいよね。他のコマよりも重くて防御力が高いとか、回転速度が速くて攻撃力が高いとか、パーツを組み合わせて跳ねるようにするとか」

「待て待て! そんな大事な話を適当に言うな! 今、メモする!」

前世であった現代版のコマを参考にしてアイディアを述べると、ラザレスお爺ちゃんがテーブルの上にあったメモへとペンを走らせた。

「しかし、これらの要素を加えるとすれば、今のコマとはまったく別物になるな」

「そうなるね」

今のままだと重くするか、削って形を変える程度のことしかできない。

それじゃあ、一過性の遊びとして過ぎ去るのが精々だ。

それで満足できないのであれば、さらなる先へと挑戦するしかない。

「具体的にそのようなコマを作るにはどうすれば……」

ラザレスお爺ちゃんがメモ用紙をペンで小突きながら頭を悩ませる。

「各部品を組み立てることで完成するコマにすればいいんだよ。生産コストは跳ね上がるかもしれないけど、各部品の組み替えによって自分だけのコマができるとか熱くない?」

「熱い! 男であれば、誰しもが憧れるものだ!」

カスタマイズした自分だけのコマとか全男性にとって嬉しいもの。

誰しもが自分だけの最強のコマを持ちたいと思うはず。

「……そうかしら?」

「私にはよくわからないわ」

エルナ母さんとエレーナお婆ちゃんが俺たちの会話を聞いて、理解できないとばかりに首を傾げている。これだから女性という生き物は。

「これは少年の心を持った者にしかわからないんだよ」

「……それは私たちが年を重ねて心が若くないって言いたいの?」

「あ、いや。そういうわけじゃないです。すみません」

即座にエルナ母さんからのアイアンクローが飛んできて、頭がキリキリとし出したので謝罪する。

久しぶりに食らったけど、やっぱり痛い。頭が変形したんじゃないかって思うほどだ。

「これまでのものに比べて生産コストや技術は跳ね上がるがやってみる価値はあるな!」

「ゆくゆくは大会なんてものも開いて改良性、競争性を発展させたいね」

「ラザレス商会がさらなる飛躍を遂げる道のりが見えたぞ!」

ラザレスお爺ちゃんは目に強い輝きを宿すと、メモ用紙を持って勢いよく外に出ていった。

「え? 今から行っちゃうの?」

「あの人は動くと決めたら止まらないのよ」

まさかすぐに動き出すとは思っておらず呆然とするが、エレーナお婆ちゃんだけはにこやかに笑ってい

た。

これほどのバイタリティを誇っているからこそラザレスお爺ちゃんも若いのだろうな。

「ねえ、アル。ラズールの香辛料を使ったカレーっていうものが食べてみたいわ」

エルナ母さんから話を聞いたのだろうか。エレーナお婆ちゃんが言ってくる。

「こういう時はお婆ちゃんが孫のために手料理を食べさせてくれるものじゃないの?」

娘が夫と孫を連れて実家に帰ってきたんだし、それが定番の流れだと思うんだけど。

「それもいいかもだけど、私としては孫の作った手料理の方が食べたいわ~。もう私もお婆ちゃんだからこの先何度食べられるかわからないもの」

懐疑的な反応を示すと、エレーナお婆ちゃんが俺に抱き着きながら弱った仕草を見せる。

「いや、まだそんな年じゃないよね? まあ、別にいいけど……」

「やった。孫の手料理が食べられるわ」

了承すると、エレーナお婆ちゃんが表情を一転させて喜んだ。

本当に若々しくて見ているこちらがほっこりとする。

一方、エルナ母さんが何か言いたげな視線でこちらを見ていた。

「なに?」

「……アルってば、お母さんには甘いのね?」

「そうかな?」

「私が家で料理を作ってといっても渋るじゃない」

「まあ、滅多に会えないお婆ちゃんからのお願いだから」

前世では若くして亡くなったために祖母にはロクに恩返しをすることができなかった。そういう申し訳なさと後悔もあってか、どうしてもエレーナお婆ちゃんには甘くなってしまうのかもしれないな。

「そういうわけで厨房を借りるね」

「どうぞ~」

「アル、僕も手伝おうか?」

厨房に移動しようとすると、ノルド父さんから声がかかる。

「あー、お願いするよ」

「わかった」

咄嗟に断ろうとしたが、何となくノルド父さんからの救援反応のような気がしたので受け入れることにした。

しかし、旦那との時間も楽しみたいエルナ母さんからすれば、あまり面白くない状況に違いない。俺はエルナ母さんのところに歩み寄ると耳元で囁いた。

「実家でノルド父さんがエプロンして料理する姿ってグッとこない?」

「……グッとくるわね。後で覗きに行くわ」

どうやらこのシチュエーションはエルナ母さんの心に刺さったみたい。

これで全員が心穏やかに過ごせるというものだ。

「……ふう」

厨房に入ると、ノルド父さんが息を漏らした。

「やっぱり、義理の実家となると疲れるもの?」

「まあね」

いくら愛する奥さんの実家とあっても、そこにいる両親からのプレッシャーは感じてしまうのだろう

な。

「ノルド父さん、エプロンだよ」

「食材を切るだけだよね?」

俺もそう思うけど、エルナ母さんのために着てもらう必要があるんだ。

そんなわけで俺は半ば強引に後ろに回ると、俺は厨房にあったエプロンをノルド父さんに着けてあげた。

「スパイスを油で加熱した時に跳ねる可能性があるから。俺のも結んで」

俺もエプロンをつけて背中を見せると、ノルド父さんが大人しく結んでくれる。

ノルド父さんはこういった親子のコミュニケーションに弱いところがあるから、こういう風に物事を進めていくと素直に言う事を聞いてくれるのだ。

「とりあえず、カレーに入れる具材の下処理をお願いするね」

「わかったよ」

誰にだって一息つきたいタイミングはある。

俺はそれ以上の詮索をすることはなく、ノルド父さんに単純な作業を振ることにした。

冒険者時代に何度も野営をしていたからかノルド父さんも料理はできるからね。

安心して食材の下処理に関しては任せて、俺は自分の段取りをする。

俺はスパイスの調合とお米の準備をと……あれ? お米がないぞ?

厨房にある戸棚を漁ってみるが、お米らしきものはない。

隣接している冷暗所も確認してみるが、そちらにもお米らしきものはなかった。

……あれ? もしかして、お米がない?