軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

剣士がムキになる言葉

「ふー、実にいいものを食べさせてもらった」

ダリーパンを食べ終わったサルバは横になって満足げにお腹を撫でていた。

ラーシャは食事を終えるなりさっさと店番へと戻り、今はゆったりとした食後の時間が流れていた。

「ねえ、俺に会いにきた用ってなんなの?」

「んん? 特別な用などないさ」

ないんかい。

「滅多に会えない友がいるとわかれば、会いたいと思うのは当然であろう?」

「ふーん、そうなんだ」

恥ずかしがることもなく、そのようなことを言い放つサルバ。

だからこそ、胡散臭いと思ってしまうのは俺の性根が曲がっているからだろうか?

まあ、特別な用事がないのならそれでいい。適当にお茶して、喋ったら適当なタイミングで王都に帰ればいいのだから。

「ねえ、サルバって本当に兵士に剣術を教えているの?」

「ああ、これでも俺は王宮剣術の一級を修めているからな」

「……本当に?」

バグダッドからも同じことを聞いたけど、サルバがそんなすごい剣士だとは思えないのだが。

「俺の力量を疑っているようだな?」

「うん、疑ってる」

ダリーパンを一人でがめつく三個も食べて、お腹を膨らませている放蕩王子がそんな立派な人物であるはずがない。

即答すると寝転がっていたサルバがイラっとした表情を浮かべて立ち上がる。

「いいだろう。ならば、俺と模擬戦をしろアル」

「ええ? なんで? 俺、剣術なんて使えないんだけど?」

「嘘をつくな小僧。身のこなしから剣術を修めているのはお見通しだぞ」

しれっと嘘をついてみるがサルバだけでなく、シャナリアからもそんな追撃の声がかかる。

冗談じゃない。王都に滞在しているお陰で剣から解放されているというのに、どうしてこのような最果ての地で剣をやらなければいけないのか。

「いやー、最初に出会った時からサルバ様は只者ではないと思っていたんですよ! 王宮剣術の一級を修めておられたとは納得です!」

「今更そんなおべんちゃらを並び立てようが無駄だ。砂漠に行くぞ」

「えー」

即座に先ほどの言葉を撤回し、サルバをよいしょする方向に切り替えたのだが遅かったようだ。

「シャナリアさん、王子様が危ないことをしようとしてるよ? 護衛として止めなくていいの?」

「いや、模擬戦なら危なくないだろう?」

シャナリアに縋るように言うが、バッサリと切り捨てられる。

それもそうか。最初に出会ったのが広大な砂漠の遺跡付近だもんな。

それに比べると、ちょっと砂漠に出て剣の模擬戦をすることのなんと安全なことか。

「バグダッド!」

「……サルバ様はアルに実力を認めてもらいたいのだ。その心をわかってやって欲しい」

三人の中で一番話のわかる理解者を頼ってみたが、よくわからない返答をされてしまった。

なんで俺に実力を認めてもらいたいんだ? 意味がわからない。

そんなことをしてサルバと俺に何の得があるのだろう?

最終的に理解できたのは、サルバと剣の模擬戦をする流れが変えられないことだけだった。

魔法ならまだしも、剣は不得意なので憂鬱だ。

ちょっと香辛料を買いにきただけなのに、どうしてこんなことになったのやら。

ラーシャの店を出ると、俺たちは前回と同じように西の砂漠へ移動することになった。

門を出たすぐ傍で第二王子であるサルバと模擬戦でもすれば、妙な注目が集まってしまうからね。

「よし、今回も私の船で――」

「今回は魔力を必要としないので俺の船で移動しますね」

シャナリアが土魔法で船を作り出すよりも早く、俺は自身の魔法で船を作り出した。

「おい!」

「だって、シャナリアさんの船じゃ酔いそうになるんですもん」

シャナリアはまだ操縦技術が拙いせいか、急発進したり、急停止したりする。

振動だって大きいし乗っているだけでお尻が痛くなってしまうからね。

「……小僧」

率直に指摘すると、シャナリアが赤面しながらこちらを睨んでくる。

「ハハハ、アルがお手本を見せてくれると言っているんだ。勉強させてもらえばいい」

サルバが愉快そうに笑って言うと、シャナリアはぷりぷりと怒った様子を見せながら無言で船に乗り込んだ。

「シャナリアにあんな風に言えるのはアルとバグダッドくらいだぞ?」

そういえば、シャナリアもラズールでは王家に仕える由緒正しい家柄の貴族だ。

さらには王宮魔法使いであり、剣術だって間違いなくかなりの使い手。

家柄よし、魔法よし、剣術よしのエリートだ。

今まで真正面からそんな風に言われた経験が少なかったのだろうな。

「身内に言われるより、どこの馬の骨かもわからない年下に言われる方があの人は悔しがって伸びるでしょ?」

「アルと喋っていると同年代、あるいは年上くらいの者と喋っているのではないかと錯覚しそうになるな」

前世の年齢を合わせると、サルバよりも年上だからね。

ちょっとおじさん臭かっただろうか。

サルバとバクダッドが船に乗り込むと、最後に俺も船に乗り込んだ。

土魔法で船の真下にある砂を動かす。

それにより真上にある俺たちの船がゆっくりと前に進んでいく。

徐々に砂を動かす速度を上げていくと、それに伴って船も前へ前へと速度を上げて進んでいく。

先頭に陣取っているシャナリアはそんな一連の動作を食い入るように見つめていた。

俺の船の動かし方や魔力操作を観察し、自身が魔法を使うための糧としているらしい。

文句を言っていたのになんだかんだと真面目だ。

傾斜の激しい砂丘に気を付けながら砂を操作し、船を進めていく。

「前回よりも速度が出ている上に揺れも少ないな」

「操作する砂の特性や、地形に少しだけ慣れてきたからね」

とはいえ、完璧に砂に慣れているわけでもなく、地形を把握しきれているわけではない。

細かいながらも操作に失敗したり、振動が微かにだけど伝わってしまうこともある。

これに関しては長い距離を走らせることで精進するしかない。俺もまだまだだな。

船を走らせていると、不意に視界の右側で大きな砂煙が上がっているのが見えた。

瞳に魔力を集中させて視力を強化すると、岩鎧を身に纏った大きなサイのような魔物がこちらに接近していた。

「ロックドランだ!」

先頭にいたシャナリアが声を上げる。

「適当に撒くよ」

「いや、あいつは執念深い性格をしている。狙われた以上は倒した方がいい」

面倒な性質を持った魔物だ。

「サルバ様、王宮剣術の見せ所ですよ!」

「俺は王族だぞ? 護衛がいるというのになぜやらねばならんのだ?」

ロックドランの相手をさせることによって面倒な模擬戦を回避する目論見だったが、彼の王族マインドによって破綻させられる。

「あんなデカくて硬そうな魔物を斬れたらすごいと思うんだけど……」

「これから模擬戦をするからいいだろ」

模擬戦が避けられないことは理解できたが、ここまで頑なに動いてくれないとサルバのわがままに振り回されているこちらとして面白くない。

よって、俺は剣士を挑発できる台詞ナンバーワンの言葉を放つことにした。

「ふーん、斬れないんだ?」

若干の侮りを込め、絶妙にむかつく表情を浮かべながら言ってやると、サルバの端正な表情が見事に歪んだ。

「……誰が斬れないと言った?」

「え? サルバにあれが斬れるの? 別に無理しなくていいんだよ?」

「……無理などしていない。よかろう。アルは船の操縦に集中しておけ」

「わかったよ」

ほら、引っ掛かった。エリノラ姉さんといい生粋の剣士という奴らはこれを言われると、どうも我慢できないらしい。俺には理解できないな。

「二人とも手を出すな。あれは俺の獲物だ」

「「はっ」」

サルバが立ち上がり、船の右側の縁へと右足をかける。

お言葉に甘えて俺は砂と船の操作に集中。

ロックドランが近づいてくる度に激しく砂が巻い上がる。

鈍重そうな見た目をしているが意外と足が速い。

その気になれば引き離すこともできるが、サルバが斬ってくれるとのことなので敢えてそのままの速度を維持。

全長八メートルくらいあるだろうか。近くで見ると、かなりの迫力だった。

船の縁に立っているサルバはいつもの涼しげな顔をしているが、いつの間にか右手には湾曲したナイフがあった。

確かジャンビーヤナイフと言われる武器だっただろうか。

刃渡りは約十五センチで刃が湾曲している。柄は象牙のような素材で作られており、綺麗な装飾が施されていた。

……いつの間に抜いたんだろ?

あまりに自然的な動作だった気付くことができなかった。

サルバはジャンビーヤナイフを身体の真正面に構えると、左手を背中へと回した。

儀礼のような美しい構えだ。

思わず見惚れていると、サルバのジャンビーヤナイフに魔力が流れた。

次の瞬間、力強い炎が噴き上がり、ナイフへと収束されていく。

さすがは王族だけあって中々の魔力だ。俺やバグダッドに比べると、どうしても劣ってみえるけど魔法使いの中でもかなり上位の魔力保有量ではないだろうか。

ロックドランが大きく顎を開けて迫ってくる中、サルバは目にも止まらない速さで右手を突き出した。

「ラ・ファール・セルガッ!」

収束されていた炎は斬撃と共に解放され、船ごと俺たちを胃袋に収めようとしていたロックドランの額に大きな穴が空いた。

脳天に向こうの景色すら見える大きな穴をあけられたロックドランは生命活動を停止し、その巨体を横たわらせた。

「どうだ?」

ロックドランを倒し、サルバがしたり顔で振り返る。

身体強化に魔力と火属性の付与があるとはいえ、ただのナイフであそこまでの威力が出る意味がわからないや。

「……斬るっていうより突きじゃない?」

「細かいな! お望み通りに俺の剣術で倒しやったのだからいいだろう!」

気になった部分を突っ込むと、サルバはどこか拗ねたように腕を組んで座り込むのであった。