軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

土魔法談義

「俺はパンを作るからダリーをお願いしてもいい? パンの中に詰めるから水分量は少な目のものでお願いするよ」

「……任せろ」

バグダッドはこくりと頷くと、厨房の棚から鍋を取り出し、ダリー作りに必要な香辛料を集めていく。それを横目に俺は強力粉、薄力粉などのパン作りに必要な食材を用意。

ボウルを取り出すと、強力粉、薄力粉、砂糖、天然酵母、塩を加えるとヘラで混ぜる。

全体にそれぞれが馴染みと、卵に水を加え、水分が行き渡るように切るようにして混ぜていく。

タネが出来上がると、台の上に出して捏ねていく。

五分ほどこねたところで無塩バターを加え、さらに捏ねる。

バターのせいで最初は捏ねずらいけど、馴染んでくると徐々に捏ねやすくなってくる。

しっかりとグルテン膜ができていることを確認すると、表面を張るようにして丸めてあげた。

ボウルの表面に薄く油を塗ると、そこに丸めたタネを置き、できるだけ空気に触れないように布を何重にして覆ってやる。

「パンを発酵させるために室温を調整するよ」

バグダッドに声をかけてから俺は氷魔法を発動し、厨房の空気の温度を下げる。

ラズールの気候だと室温が高過ぎて、一次発酵が進み過ぎてしまうからね。

二十五度くらいを維持していれば、一次発酵は程よく進み、コリアット村で作るよりも早く出来上がるだろう。

「……涼しい。これが氷魔法の恩恵か」

バグダッドが恍惚と表情を浮かべながら静かに呟いた。

「いいでしょ?」

「ああ、素直に羨ましい」

冷たい空気を取り入れるかのようにバグダッドが深呼吸をしていた。

こちらでは冷気に対する真剣度が違うな。

「こっちは発酵待ちなんだけど、手伝うことはある?」

「後は具材を煮込むだけだから不要だ」

ダリーに使う食材の下処理を素手に終わっており、鍋からはダリーのいい香りが漂ってきている。

香辛料の合成や煮込み作業を手伝っても意味はないし、俺にできることはないようだ。

立っているのも疲れたので土魔法でイスを作って腰を下ろす。

そのままぼんやりと厨房内を眺めていると、バグダッドが作業を進めながら話しかけてくる。

「……せっかくアルに会えたことだ。土魔法について語りたい」

「おっ、いいよ」

バグダッドが興味深いテーマを提案してくれたので俺は彼の方に向き直る。

筋骨隆々とした後ろ姿にエプロンがついているのがチャーミングだな。

「俺は長年土魔法を使用しているが、あのように黒く変色した岩のように見たことがない」

「あー、あれは魔力圧縮を高めていくとああいう色になっていくね」

「つまり、極限まで魔力を込められた土魔法はああなると?」

「極限かどうかはわからないけど、一定レベル以上の魔力圧縮を行うと黒くなるのかも」

あそこまで魔力圧縮を高めた土魔法なんてほとんど使ったことがなかったので、俺も細かくは把握していないな。

「気になるからちょっとやってみるよ」

試しに俺は土魔法を発動し、バグダッドが使っていた砂鎧を腕部分だけで再現してみる。

魔力を込め、圧縮を繰り返していって硬度を上げると、徐々に砂色から茶色、濃茶色、赤褐色と変化していき、黒ずんだ色へと変化した。

「やっぱり、魔力圧縮の段階によって変わるみたいだね」

「ということは、俺もその段階に至れば、さらに土魔法のレベルが上がるということか!?」

ダリーを煮込んでいたバグダッドが急にこちらへと詰めてくる。

「ちょっ、ダリーを煮込んでる最中だよ!?」

「す、すまない! つい取り乱してしまった!」

魔道コンロであれば、火の制御も楽なので少しくらいは問題ないが、そうじゃないとちょっとした隙に焦げてしまうからね。

指摘すると、バグダッドは慌てて鍋の方へと戻る。

いつもは冷静なバグダッドであるが、土魔法のことになると興奮するらしい。

グレゴールといい、ギデオンといい、シューゲルといい、俺の周りにいる年上の男はこんな奴らばかりだな。

「魔力圧縮を進められると、少なくとも魔法の質は今よりも段違いに上がると思うよ」

「むむ、魔力圧縮か……」

「バグダッドは魔力をどんなイメージで圧縮しているの?」

「……そうだな。砂鎧の場合はとにかく身体の中心部分に向かって魔力を収束させるイメージだ」

「わかりやすい圧縮だね」

「アルはどのようにやっている?」

「俺の場合も第一段階として同じなんだけど、それを何重にも繰り返して固めていっている感じかな。バグダッドが砂障壁のドームを何重にも形成するように」

「高密度に圧縮したものをさらに小さくして重ね合わせるというのか!? それは魔力操作がかなり困難だ」

「まあ、重ね合わせるごとに難易度は上がるけど、どこまでやれるかの挑戦は楽しいよ?」

「楽しい‥‥なるほど。俺も精進しなければいけないな」

魔力圧縮ってやればやるほどに魔力の消費も激しいから、魔力を増量させるために使い切るのに便利なんだよね。

そんな経緯もあってか俺は人一倍魔力圧縮が得意な自信がある。

「俺もバグダッドに質問していい?」

「なんでも聞いてくれ」

「この砂鎧を纏うのに身体強化は使ってる?」

「いや、使っていない」

「生身でこんな重い砂を纏うの?」

「ああ、そうだ。そのために身体も鍛えている」

えー、右腕にこの少ない質量の砂を纏わせているだけで、かなり重いんだけど。

これを全身に生身で纏うって正気なの?

俺からすれば、魔力圧縮よりもそっちの方がすごいと思ってしまう。

「ただ戦闘を行う場合は補助として身体強化を使っている」

ってことは、ガチで戦う時はあの砂を纏った状態で動き回るんだ。

ダリーのレシピを教えてもらう条件が、ただ魔法を撃ち込むだけの勝負でよかったと俺は心から思った。