軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

詠唱破棄の訓練

派手に倒れ込んだシェルカはむくりと起き上がると、制服についてしまった土をパンパンと手で叩いて落とした。

それから何故か鋭い視線をこちらに向けてくる。

「アルフリート!」

「いや、その魔法を埋めたのはギデオン様だから!」

他の二十三個の無衝撃球は俺が作ったものであるが、シェルカが踏み抜いたものは断じて俺のものではない。よって俺に罪はないし、言質を取っているギデオンに遠慮なく擦り付ける。

「俺はラーナが作ったものを修正しただけだ」

しかし、ギデオンはシレッとラーちゃんへと流した。

うーん、自分が仕掛けたなどといった都合の悪い事実を除き、自分が責められないような報告をしている。悪い兄だ。

「ラーちゃん!?」

これを作ったのが最愛の妹だと信じられないのか、シェルカが縋るような声を上げた。

「うん、私が作った!」

ラーちゃんの無邪気な笑みと共に放たれた言葉にシェルカが崩れ落ちる。

「……ど、どうしてこんなことを?」

「アルが埋めていて面白そうだったから」

「やっぱりあんたが悪いんじゃないの!」

えー? 結局そういうところに落ち着くの?

俺はただ無衝撃球を地面に埋めて遊んでいただけなのに。

「おかしい。ギデオン様が責任を持つのではなかったのですか?」

「俺はどうにかすると言っただけで責任を持つとは明言していない」

確かにあの時は心強い台詞を言っていたように見えるが、そんなことは一言も言っていなかった気がする。

これが公爵家の次期当主としての力か……せこい。

「……じゃあ、チクリます」

「おい! 俺は公爵家次期当主だぞ!」

こんなところで特権を行使しないでもらいたい。

「生憎と公爵家の友人は間に合っていますので」

本当に公爵家というのはロクな人がいない。

理不尽に怒られたくないために俺は事の経緯をシェルカに語ってやった。

「……それ本当なの?」

「うん、アルは止めたけど、ギデオン兄がどんな風になろうか見ようって」

俺の言葉を疑っていたシェルカだが、ラーちゃんも同意するとあっさりと認めてくれた。

ラーちゃんの証言がないと認めてくれない辺り、俺への信頼値はかなり低い。

「ギデオン兄さん! さいてー!」

「許せ。仕掛けた魔法がどのように作動するのか見てみたかった」

「だからって普通は妹で試す? そんなの適当な魔物で試せばいいじゃないの!」

正論が正論だけにこれにはギデオンも反論をすることができない。

とりあえず、素直にチクったお陰でシェルカに怒られることは回避できたのだった。

ひとしきりギデオンに説教をすると、シェルカはとりあえず溜飲が下がったのかラーちゃんを連れて屋敷へと戻った。

シェルカは学園帰りな上に地雷を踏んづけて転んだせいで土塗れだ。魔法を土に埋めていたラーちゃんもドレスが土で汚れている上に魔力も消耗しているから休憩としてちょうどいいだろう。

「私たちもこの辺りで切り上げませんか?」

「バカを言え。まだ魔力が余っている上に詠唱破棄を習得できていない」

「……もしかして、魔道具が貰えるのってギデオン様が習得してからになります?」

「そこまでとは言わないが、なにかしらの糸口を掴めないとな」

マズい。ギデオンには早急に詠唱破棄習得の糸口をつかんでもらわないといけない。

毎日、この人の魔法訓練に付き合わないといけないなんてゴメンだ。

「ギデオン様、そろそろ本気で練習をいたしましょうか」

「待て。その言い草だとさっきまで手を抜いていたということか?」

「手を抜いていたというより手加減していたのです。しかし、ギデオン様の詠唱破棄を習得したいという熱意は俺の想像を超えるものだったのでより厳しい習得法に移ろうかと思います」

「そ、そうか」

こうやって熱意を試していたと言えば、ギデオンも迂闊にその意見を否定することはできない。現に彼はまんざらでもない表情をしていた。

話しをすり替えることによって俺はギデオンの追求を逃れることに成功した。

エルナ母さんなら絶対に通じない手であるが、まだまだ次期公爵家当主とやらも甘い。

「それでより厳しい習得法とは一体?」

「実戦的な経験を積むことです」

俺は周囲に無衝撃球を大量に生成した。

「この無衝撃球を今からギデオン様にぶつけます。ギデオン様は詠唱破棄をした魔法でこれらを防いでください」

「は?」

これは俺がエリノラ姉さんとの稽古の中で習得した技術。

ああいった常識外れの剣士を相手にするには、魔法を無詠唱、あるいは詠唱破棄で発動しないと到底追いつけない。

やらないと自分が痛い目にある。

それを身体に刻みつけることによって条件反射的に詠唱破棄を身に着ける作戦だ。

「では、いきますよ」

「ちょ、ちょっと待て!」

ギデオンが何かを言いかける前に俺は無衝撃球を飛ばした。彼は慌ててその場から飛び退いて躱す。

最初に魔法で迎撃するのではなく、躱すという選択肢が出ている時点で遠いな。

「躱さないでくださいよ。練習になりませんので」

「だからといって魔法をぶつけてくるのは危険過ぎるだろう!?」

無衝撃球の地雷を妹に踏ませた兄が言う台詞だろうか?

「安心してください。威力はかなり調節しているので軽く吹っ飛ぶくらいです」

「ぐへっ!」

安全であることを理解させるためにギデオンのお腹に無衝撃球を直撃させる。

最低限の衝撃こそ伝わるものの身体が吹っ飛んだり、痣が出来るような威力は含まれていない。その証拠に直撃したギデオンが驚いている様子だった。

「というわけで行きますよ?」

「望むところだ!」

こういった泥くさい訓練はできればやりたくなかったが、俺が速やかに魔道具を手に入れるためなので仕方がない。それにギデオンには俺に頼み込むほどの覚悟ができているからね。

俺は無衝撃球を真っ直ぐに飛ばす。

「【火球】ッ! おぶっ!?」

ギデオンは右手にある杖を掲げて高らかに叫ぶが、詠唱破棄による魔法は発動せずに腹部へと直撃した。

「ちゃんと火球を出さないと迎撃できませんよ?」

「くそ! 【火球】ッ! ぐはっ!?」

続けて無衝撃球を放ってみるが、ギデオンはまたしても詠唱破棄を失敗して額に魔法を受けてしまう。

俺が無衝撃球を放つスピードは詠唱破棄で魔法を発動すれば、ギリギリ迎撃が間に合うくらいのスピードに調節してある。

ちゃんと詠唱破棄ができれば、防ぐことはできるのであるがギデオンは中々詠唱破棄を成功させることができない。

ボンッ、ボンボンッと次々とギデオンの身体に無衝撃球が叩き込まれていく。

こうやって一方的に魔法が直撃する様を見ていると段々と可哀想に――ならないな?

傍若無人な態度でこちらが振り回されているからだろうか? 意外と罪悪感は湧いてこなかった。逆にこう無衝撃球が当たる度にスッキリとする気分だ。

「おい! 魔法の速度が上がっていないか!?」

「ずっと同じ速度だと危機感も出ないかと思いまして」

邪な気持ちが魔法に作用してようなので慌てて理由を付け加える。

相変わらずギデオンは俺の無衝撃球によって滅多打ち状態だ。

無詠唱による魔法が発動する兆候すら見えていない。

俺の時は本気で木剣を振り回してくるエリノラ姉さんが相手だったので、それに比べれば温いと言わざるを得ない状況だ。

やはり本質的な危機感が足りないのだろうか?

無衝撃球の威力を上げて、ギデオンの危機感を高めるか?

いや、さすがにそうは言っても公爵家の時期当主だし、そこまでの過酷な訓練を課すことはできない。なにか別の方法があるはずだ。

「こんな状況でも脳裏に魔法式を浮かべていませんか?」

「ぐっ! チラついていないかと言われれば――はぐっ! 嘘になる」

ギデオンには俺やラーちゃんとは違い、魔法学園とやらで学んだ魔法式が頭の中にある。

それがある限り、詠唱破棄を発動するのは無理だろう。

「もっと脳みそを空っぽにしてください!」

「脳を空っぽにしろと言われても無理があぐっ!? だろ!?」

だったらその頭でっかちな脳を何も考えられないようにすればいいだろう。

俺はさらに無衝撃球の数を増やし、ギデオンをできるだけ追い立てるように動かす。

「おい、なんか数が増えていないか!?」

「気のせいです」

ギデオンが抗議の声を上げるが、俺はそれを無視してひたすらにギデオンの体力を削っていく。

詠唱破棄を発動させる隙間は与えつつも、体力を削るように身体を動かし、無衝撃球をぶつけてやる。

方針を切り替えて派手に動かし続けると、十分もしない内にギデオンが荒い息を漏らし出した。たった十分の運動でここまで息が荒くなるとは、普段から剣の稽古をやらされていないのだろうか。こんな体力じゃエリノラ姉さんの攻撃を相手に一分と逃げ回ることもできない。

だけど、こちらの意図としては好都合だ。

激しく肩を上下させ、息を吸い込むのもやっとの状態では汎用的な魔法式を考えることもできないだろう。

「はぁ、はぁ……アル……ート、待て……までだ」

ギデオンが息も絶え絶えの様子で何かを懇願するように言葉を漏らす。

が、呼吸がままならないせいでまともな言葉になっていない。

訓練を中止するような言葉だとわかっているが、俺は敢えて聞こえないフリをする。

「ほら、無衝撃球がいきますよー! 詠唱破棄の魔法で防いでください!」

疲弊している彼の耳に届くように大きな声で告げ、俺はゆっくりと無衝撃球を放った。

ギデオンの額目掛けてゆっくりと無衝撃球が近づいていく。

疲弊した脳では魔法式を考えることはできない。余計なことは考えず、面倒くさがってただ魔法が発現することだけを願えばいい。

「【火球】」

俺のそんな目論見は通じたのか、ギデオンは詠唱することなく火球を発動させた。

彼の詠唱破棄によって放たれた火球は、俺の無衝撃球を呆気なく蹴散らす。

「――おおっ! やりましたよ! ギデオン様!」

喜びの声を上げて駆け寄ると、ギデオンはふへっと表情を緩めて倒れ込んだ。

詠唱破棄を発動させることに成功したが、追い詰め過ぎてしまったらしい。

俺は慌てて屋敷の使用人を呼び、ギデオンを医務室へと運び込んでもらうのだった。