軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

人形劇に向けて

「で、人形劇の進行についてはどう?」

ラーちゃんがウサッピーの真実を知って気持ちの整理をつけている中、俺とグレゴールは人形劇の進行具合を尋ねた。

「まずは人員についてだが領内から無属性魔法の素養のある者を募っている。だが、なかなかいい人材が集まってこない」

「……それって無属性の適性を持った人が少ないってこと?」

火属性や水属性、風属性などに比べると、無属性の適性を持っている人は少なめだ。

だが、それを加味したとしてもグレゴールほどの大きな領地であれば、適性を持っている領民はそれなりに集まるはずだ。

「いや、募集をかけたら三十人は集まるくらいにはいる」

「だったら十分足りるじゃん」

最初の募集で三十人もやってきたら選び放題だ。

むしろ多くて困るだろう。人員不足に悩む理由がわからない。

「いや、ダメなのだ! どいつもこいつも人形への愛が足りぬ! 人形への接し方、持ち上げ方、置き方……すべてにおいて愛がないのだ! 前にやってきた奴などはウサッピーの片耳をぞんざいに持

ち上げていたのだぞ!? しかも、片耳を! 千切れたらどうするというのだ!」

疑念を抱いていると、グレゴールが熱弁しながらテーブルをドンッと叩いた。

衝撃で紅茶がこぼれそうになったので咄嗟にサイキックで浮かせて置き直す。

惨事を予期していたバスチアンとティクルがタオルを手にして駆け寄りそうになるが、視線で大丈夫だと送ると、二人はホッとした顔で定位置に戻った。

「いくらサイキックが使えたとしても人形が好きじゃない人にはやってほしくないよね」

「そうであろう! そうであろう!? アルフリート殿はわかっている!」

同意すると、グレゴールが嬉しそうな顔で頷いた。

「しかし、私は迷っているのだ。人形劇を成功させるには、そういった私情は捨てるべきではないのかと。無属性の魔法使いは貴重だ。人形劇のためにはそういった部分には目を瞑り、迅速に進めるのが賢い選択なのではないかと……」

などと呟くグレゴールの表情は苦渋に満ちている。その選択に満足していないことは明らかだ。

彼がこんな迷いを抱いたのは、恐らく協同事業になったことだろう。

スケールが大きくなったことでグレゴールに大きな責任が圧し掛かってしまった。

そのプレッシャーのせいで焦っているのかもしれない。

「なに言ってるのさ。そこで拘らなかったら意味ないじゃん。グレゴールの大好きな人形劇を作りあげるんだよ? 拘って拘りまくって最高の劇にしないと勿体ないじゃん」

スケジュールを詰めていいことがないのは前世で身体を壊しているので痛いほどわかっている。無理して働く必要はない。

「アルフリート殿ッ!」

グレゴールが感激の声を漏らし、キラキラとした瞳を向けてくる。

「俺はこの事業が始まるのに五年はかかると思ってるね」

「アルフリート殿はそれほどの準備期間を想定していたというのか!?」

「人形師だけでなく、声優も集め、訓練させないといけない。たった一年や二年じゃできっこないよ」

現実的な問題として魔法使いの育成には時間がかかる上に、声優という職業は俺たちにとっても未知だ。たった一年や二年で王都の目を肥えた観客たちに感動を与えられるとは思えない。

大きなプロジェクトを急ぐと本当にロクなことにならない。

身体を壊さず無理のない範囲で進めていけばいいと思う。

あとこっちが大きな理由になるけど、すぐに公演とか始めちゃうと忙しくなりそうで困る。

先送りになるけど、子供の頃くらいはゆっくりとした時間をおくりたいし。

「なんという拘り! 公演を急いでいた自分が恥ずかしい! アルフリート殿が言ってくれた通り、これからは一切の妥協はせず最高の人形劇を作り上げようと思う!」

俺のそんな本音は露知らず、グレゴールは決意を新たにした。

「うん、それがいいよ」

これからグレゴールと一緒に働く人はすごく大変なことになると思うが、頑張ってもらいたいと思う。

「声優についてはどう?」

「こちらは手探りながらも動き出しているところだ。今回の訪問の目的はバルナーク家への根回し以外にも、王都で声優になり得る人材の確保を目的としている」

俺のアドバイス通り、役者や吟遊詩人といった人たちにアプローチを試みるつもりのようだ。

演技については俺たちが口を出せる部分は少ないし、演技のプロの人を雇って纏めて指導してもらうのがいいだろう。

「声優の育成はいい指導役を見つけられるかどうかだね」

「ああ、興味を持ってもらえるように交渉するつもりだ」

課題は多いがグレゴールの瞳はやる気に満ち溢れていた。

人形劇を完成させるという確固たる意志を感じるな。

グレゴールの人材確保計画は順調のようだ。

前に打ち合わせをしていたとはいえ、ここまで動き出せているのであれば問題はないだろう。

「いいなぁ。二人とも楽しそう……」

なんて話し込んでいると、ラーちゃんが俺たちを見て羨ましそうに言った。

おっと、ウサッピーのショックを受けていたのでそっとしていたとはいえ、さすがに放置し過ぎてしまったかもしれない。

「ラーちゃんも興味があるなら人形劇をやってみる?」

「やりたい!」

「なら、まずはサイキックで人形を動かせるようにならないとね。これからティクルの人形操作を見るからラーちゃんも一緒にやってみようか」

人形劇をやるかどうかは別として、当初の目的通りにラーちゃんに魔法で遊んでもらえる方向に誘導。

「うん!」

魔法で遊ぶのは大好きなラーちゃんは笑顔で頷いてくれた。

「じゃあ、ティクル。修行の成果を見せてくれる?」

「は、はい! 頑張りましゅ!」

言葉を噛みながらもティクルはしっかりと返事をして、部屋のソファーに鎮座している人形を手にした。

服装からして貴族の令嬢をモチーフにした人形かな?

ティクルは人形をカーペットの上に座らせると、サイキックを発動させた。

ティクルの魔力が浸透すると、人形がゆっくりと立ち上がる。」

その動作にはしっかりと溜めがあり、非常に人間らしい自然な起き上がり方だ。

「わっ! お人形さんが動いた!」

サイキックで人形が動く姿を始めてみたのか、ラーちゃんが驚きの声を上げる。

グレゴールは人形が動いているだけで愛おしさが溢れてしまうのか、すごいにやけ顔になっている。

場所が場所なら不審者だと通報されてもおかしくないレベルだ。

人形は俺たちに向かってお辞儀をすると、カーペットの上をゆっくりと歩き出した。

周囲をトコトコと歩き回ると、今度は駆け足になって部屋の中を走り回る。

それらの動きに大きな違和感はなく、切り替えもとてもスムーズだ。

「どうだ! アルフリート殿、ティクルの腕前は!?」

「うん、大分上手くなってるね。半年も経っていないのに、ここまで動かせるようになっているのはすごいよ! 努力したんだね」

「ティクル、すごい!」

「ふ、ふぁい……ありがとうございましゅ。わ、私、すごく頑張りました……ぐすっ」

素直な賞賛の言葉を投げかけると、ティクルは嬉しかったのか涙目になって鼻をすすり始めた。

褒めただけで嬉し泣きをするとは思わなかったので驚く。

泣き出したティクルの頭をラーちゃんがよしよしと撫でていた。母性が高い。

これはもしかすると、普段のグレゴールの言動に問題があるのかもしれない。

ティクルから離れ、俺はグレゴールを少し離れたところへ連れていく。

「ちょっと、グレゴール。ちゃんと普段からティクルを褒めてあげてる? 俺と比べて、不満げな顔を見せたり、ダメだしばっかりとかしてない?」

「むむ……言われてみれば、ティクルには人形を上手に動かしてもらいたい一心であまり褒めていなかったかもしれぬ」

ギクリと大きな身体を震わせ、グレゴールが気まずげに視線を逸らした。

「それじゃあ、ダメだよ。上手くなってもらいたいなら、もっとちゃんとティクルのことを褒めてあげないと。グレゴールだって自分の作った人形が褒められると嬉しくなって、もっといい人形とか作

ってあげたくなるでしょ?」

「おお! それはそうだな!」

具体例を言ってみると、グレゴールの心にも響いたらしい。

「ティクル! よくぞここまで上達した!」

「ありがとうございます、グレゴール様」

グレゴールが褒めると、ティクルが嬉しそうな笑みを浮かべた。

ティクルは人形のことが大好きだが、それ以上にグレゴールに喜んでもらうことが幸せだ。

こんなに頑張っているのにグレゴールから褒めてもらえないなんて不憫過ぎるからね。

ちゃんと褒めてもらえてよかった。