軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

アルとラーちゃんと秘密の部屋

やたらと長い夜の話し合いを終えた翌朝。

「おはよう、アル!」

自室で朝食を食べ終わると、ラーちゃんが急に扉を開けて入ってきた。

「はひっ!?」

ちょうど空き皿を下げようとしていたミーナが、扉の音に驚いて手から皿を滑らせる。

俺は咄嗟にサイキックでフォローしようとしたが、それよりも早くミーナがダイビングキャッチをして事なきを得た。

「「おおー」」

あまりにも鮮やかな滑り込みに、俺とラーちゃんは思わず拍手。

「はっ、はっ、はっ、はっ!」

肝心の褒められた本人は、顔を真っ青にして必死に空気を取り込んでいる。

まるで死地をギリギリ切り抜けて帰ってきた戦士のようだ。

無理もない。公爵家が客人用に用意している皿だ。

ミーナの年給何年分になるかと考えると、必死になるのも無理はなかった。

「本当に危なかったですけど、なんとかセーフに持ち込めました」

その代わり女性としての尊厳は大きく損なっている気がするが、今さらそこを突っ込む必要はないだろう。

ミーナは赤子のように大事にお皿を抱えると、ワゴンへと慎重に載せた。

「あはは、ミーナは駄メイドだねー」

「駄メイドって呼ばないでください、ラーナ様~」

そのように言うミーナだが、たった今駄メイドであるシーンを見られたのでどうしようもないだろうな。本人もそれがわかっているのか涙目だった。

「おはよう、ラーちゃん。今日は特に用事はないの?」

「ない! だから、一緒にあそぼう!」

「いいよ」

「やったー!」

俺が快諾すると、ラーちゃんは嬉しそうに跳ねた。

白金色のツインテールがぴょんぴょんと揺れる。

「駄メイドも来る?」

「私はお食事を下げたり、色々とお手伝いがあるので」

「わかった。駄メイドはまた今度ね」

「……はい」

駄メイド呼びされたままのミーナは、しょんぼりとした様子で返事した。

ラーちゃんに連れられてひとまず部屋を出る。

「今日はなにする?」

「うーん、何しようかー」

昨日の続きである屋敷内探索をするべきか、それとも何かラーちゃんのやりたいことをするべきか。

廊下を歩きながら考えていると、使用人とは違った知らない男が階段から上ってきた。

銀色の髪に切れ長の瞳をした青年。

シェルカとは少しデザインの違った魔法学園の制服を着ており、黒いマントを纏っている。

恐らく、この人がラーちゃんとシェルカの兄なのだろう。

「ギデオン兄、お帰り!」

「ああ」

ラーちゃんが笑みを浮かべて近寄るも、ギデオンは軽く頷いて通り過ぎる。

あんな可愛らしい笑顔をあっさりと流せるなんてすごいな。

「……誰だお前は?」

感心していると、不意にギデオンが立ち止まってこちらを見た。

「アルフリート=スロウレットと申します。シューゲル様に招かれて、しばらくの間滞在させていただくことになりました」

「あー、父上とシェルカが酷い妄想をしていた事件の関係者か。災難だったな。うちでは好きに過ごすといい」

「ありがとうございます」

あまり気持ちの籠っていない言葉をかけると、ギデオンはそのまま歩き去った。

どうやら他人にあまり興味がないタイプのようだ。

年齢も十歳くらい離れているし、特に話すことはないと思われたのだろう。

「大人びたお兄さんだね」

「でも、魔法が関わると落ち着きがなくなるんだよ」

「そうなんだ」

軽く言葉を交わした感じではかなりドライな性格をしたお兄さんという感じだ。

魔法で落ち着きがなくなるというのが、ピンとこないや。

「今日は三階を案内しようか?」

「いいね。そうしよう」

昨日は三階の案内よりも魔道具の探索を優先してしまったので、未だに三階はどのような構造をしているか知らない。

というわけで、俺とラーちゃんは三階へと上がることにした。

「三階は主にどういうフロアなんだい?」

「主に私たちが生活してる場所だよ!」

ラーちゃんの話を聞く限り、一階は食事や来客のもてなしをするためのフロアで、二階が来客を宿泊させたり、交流をするためのフロアらしい。

そして、三階はミスフィード家の生活をするための空間のようだ。

ラーちゃんに案内されて歩いてみると、他のフロアと違って装飾が落ち着いている。

公爵家の威厳を見せつけるために、一階や二階は調度品を豪華にしているのだろう。

他のフロアに比べて部屋数も落ち着いており、暮らしやすそうな空間だな。

「ちなみにこっちがパパの寝室だよ」

「そうなんだ」

東側にある最奥部分にやってくるとラーちゃんが紹介してくれる。

書斎とか、遊戯部屋ならともかく、シューゲルの寝室を知ったところで何も嬉しくない。

なんて思っているとラーちゃんがガチャリと扉を開けて入ってしまう。

さすがにシューゲルの寝室に俺が入れるわけがない。

「アルもおいで!」

「ええっ!?」

扉の前で困惑して立っていると、ラーちゃんに腕を引っ張られて入ってしまう。

ちょちょ、寝室で寛いでいるシューゲルに会うことになるの? それってどんな状況? シューゲル様は公爵家の当主だし、昨日会ったばかりだかりだ。勘違いですごい手紙を送られたから改めて話すのは気まずいんだけど。

焦りながら視線を巡らせると、寝室には誰もいなかった。

そのことに心からホッとする。

「シューゲル様はいないみたいだね」

「みたいだねー」

俺とは反対にちょっと残念そうに呟くラーちゃん。

この部屋には色々な魔道具が置かれていることだし、俺に魔道具を見せてあげたいと思ったのかもしれない。

とはいえ、家族でもない俺が勝手に人の寝室に入るのはよろしくない。ラーちゃんを諫めて出ていこうとしたが、ふと気になることがあった。

「うーん、変だね」

「なにが?」

「屋敷の構造と部屋の間取りが合わないんだよね。本来ならもうちょっと部屋が広くてもいいはずなんだけど」

ラーちゃんに案内してもらって把握した屋敷の構造と、実際の広さが微妙に合っていなかった。

建築に詳しいわけでもない俺が、こんなことに気付いたのは空間魔法によって空間把握力が上がっているからなのだろう。とにかく、空間の幅が合っていなかった。

「そうなの?」

「うん、こっちに何か空間がないとおかしい気が――」

ぺたぺたと壁を触りながら首を傾げていると、ガコンと壁のブロックが沈んだ。

「あっ」

ただそれだけでは足りない気がしたので、試しに魔力を流してみる。

すると、壁一面に魔法陣が広がり、ブロックがひとりでに左右に動いて新しい扉が出てきた。

「わー! すごーい!」

「おー!」

思わぬ仕掛けを見てラーちゃんだけでなく、俺も感嘆の声を上げてしまった。

空間の幅がおかしいと思っていたが、奥に隠し部屋があるのであれば納得だ。

「アル! 入ってみよ!」

すごく入りたい。でも、寝室の奥にある隠し部屋だなんて、きっと重要な何かがあるに違いない。シューゲルの新しく開発した魔法とか、魔法の法則に関する論文だとか、すごい魔道具だとか。

俺の中の理性がやめておけと叫んでいる。

「アル!」

でも、目の前にいるラーちゃんはすごく入りたそうだ。

こちらを見上げる瞳はとてもキラキラとしている。

俺はラーちゃんの行動力を知っている。

仮にここで俺が諭したところで、ラーちゃんは後日一人で入ってしまうに違いない。

そこでもし事故のようなものが起きてしまえば、すごく後味の悪いことになるだろう。

奥にどんな部屋があるかわからない以上、ラーちゃん一人で行かせるよりも俺が付いていった方がいい気がする。

「奥の部屋には危ない魔道具とか、実験道具があるかもしれない。俺の言う事をちゃんと聞けるなら付いていってあげるよ」

「わかった! アルの言う事ちゃんと聞く!」

「なら、ちょっとだけ冒険してみよう」

ニシシと俺とラーちゃんは笑い合う。

色々と理由をつけてはいるが、俺も隠し部屋というロマンに抗えないのだろう。

こんなカッコイイ魔法的なギミックを施した先に、何があるのか気になるだろう?