軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

仲睦まじい両親

夕食を食べ終わると、エルナ母さんが先にお風呂に入った。

ミーナは湯浴みを手伝っており、サーラは馬車の食料なんかのチェックのために外に出ている。現在、リビングにいるのは俺とノルド父さんだけだ。

「リビングに僕とアルだけがいるっていうのは新鮮だね」

ノルド父さんもちょうどそんなことを思っていたのだろう。俺が座っているソファーの対面に腰かけながら言った。

若干前のめりな様子が息子とのコミュニケーションを楽しもうとするかのような意思を感じた。

「そうだね」

「屋敷では夕食を食べ終えると、アル達は部屋にこもりがちだからね。僕としてはもう少し皆で団欒を楽しみたいんだけど……」

ノルド父さんの言い分も理解できるが、俺たちを引きこもりのように言うのは納得できない。俺たちがすぐに寝室に向かうのには、ちゃんとした理由がある。

「籠っているんじゃなくて避難してるんだよ」

「避難? それってどういう意味だい?」

俺の言葉を聞いて、ノルド父さんがきょとんとした顔で目を瞬く。

「ノルド父さんとエルナ母さんがイチャイチャするから」

「ええっ!? 夕食後、やたらとアル達が部屋に戻っていくのって僕たちのせいなのかい?」

「うん」

まあ、俺は土魔法でフィギアを作ったりと趣味に興じている部分はあるし、読書好きのシルヴィオ兄さんも籠る理由はわかる。

でも、活動的なエリノラ姉さんまで早く寝室に籠るというのは、リビングに留り難い大きな理由があることを示している。

「子供達の前だし、僕としてはそこまでイチャついているつもりはなかったんだけど……」

薄々思っていたけど、やはり自覚がなかったみたいだ。

「ついさっきも互いに頬を突き合っていたよね?」

雪兎のコンソメスープを作っている時、二人はソファーで大変仲が良さそうにやっていた。

互の頬を突き合ってニコニコと。熱々のカップルくらいしかそんなことしない。

「……あのくらいもダメなのかい?」

「ダメってわけじゃないけど、邪魔しちゃ悪いなって感じになる」

両親の醸し出すイチャイチャとした空気を感じながら、ずっと傍にいたいと思える子供はいないと思う。

「なら、これからは控えるべきかな?」

「そんなことをしたらエルナ母さんが不機嫌になるよ」

今まで夫との時間が確保されていたのに、急になくなれば間違いなく不満に思うのだろう。

「じゃあ、どうすればいいんだい?」

妻との時間をとれば子供達が離れ、子供達をとってしまえば妻が拗ねる。

ノルド父さんが俺に尋ねてしまうのも無理もないほど難題。

そうでなければ「私と仕事、どっちが大事なのよ!」といった台詞が世の中には浸透しないだろう。

「妻と子供との時間を両立するのも父親の腕の見せ所だよ」

俺に父親としての経験があれば、それっぽいアドバイスができたかもしれないが、生憎と独身だったので無理な話だ。

「どうすればいいんだ……」

「強いて言うなら仕事をもっと早く切り上げればいいんじゃない?」

ノルド父さんの仕事時間が多いから、エルナ母さんは貴重な仕事終わりの時間を一緒に過ごしたいと思う。

それならば、もっと仕事を早く終わらせて時間を多く確保すればいい。そうすれば、夫が子供達とのコミュニケーションに時間を割いても不機嫌にはならないはずだ。

「シルヴィオやエルナにも少し手伝ってもらっているんだけど難しくてね。アルも手伝ってくれれば、可能なんだけど……」

「いやあ、難しい問題だね」

縋るようなノルド父さんの視線を受け止めず、サッと視線を逸らしながら投げやりに言った。

ノルド父さんには悪いけど、家族とのコミュニケーションよりも俺のスローライフの方が大事だ。七歳から働くだなんて社畜街道まっしぐら。一度、手伝ってしまえば、なし崩し的に何度も頼まれるのは目に見えている。だから、俺は成人年齢になるまでは絶対に内政の仕事を手伝ったりはしないの

だ。

俺のそんな硬い意思を感じ取ったのか、ノルド父さんが残念そうにため息を吐いた。

「アルフリート様、エルナ様の湯浴みが終わりました」

話題が一区切りついたところで、ミーナがリビングに入ってきた。

「うん。わかった。すぐに行くよ」

これは俺が風呂に入るというわけではない。エルナ母さんの髪を魔法で乾かしてあげるという意味だ。

「ノルド父さん、先に入っていていいよ」

「いや、せっかくだし一緒に入ろう。僕は待ってるよ」

「あ、うん。わかった」

別に一緒じゃなくてもいいのだが、娘ならともかく、七歳児の息子から拒否されると傷つくと思うので素直に頷いておいた。

というわけで、俺だけ先に家を出る。

つい先ほど、玄関から湯船のある小屋まで通路を引いたので、外に出てもあまり寒くない。

「やっぱり、土魔法で通路を作っておいて正解だ」

通路を進んで小屋にたどり着くと、エルナ母さんは脱衣所に作った洗面台にあるイスに腰かけていた。

いつもは結い上げている髪の毛だが、湯上りのために真っ直ぐに下ろされている。

こうして見ると、いつもよりも若々しく見えるな。

「いつものよろしくね。アル」

「はいはい。それじゃあ、失礼しますね」

ミーナが入念にタオルで水気をとってくれたからか、髪はしっとりと濡れている程度。

指で濡れ具合を軽く確認すると、俺は風魔法と火魔法を使って温風を出した。

温かい風が放出されて、エルナ母さんの髪が揺れる。

とても艶やかで綺麗な髪だ。

「俺と同じくせ毛なのに、髪が引っ掛からないってどういうことなんだろう?」

「ふふふ、髪は乙女の命だからね。努力の賜物よ」

なんて言っているが、髪だけじゃなく肌も綺麗だし、スタイルだって崩れることはない。

本当に三十代中頃なのかと疑いたくなる。

「エルナ母さん、実は若返りの魔法とか使っていたりしない?」

「そんなものを使っていたら、私はもっと若々しいわよ」

クスクスと笑うエルナ母さんは、とてもご機嫌のようだ。

「にしても、髪を乾かすのにちょうどいい魔導具とかできないかな?」

「風を放出できるものはあるけど、程よい温風を出せるものはないわね」

結果として俺が魔法で乾かした方が早いということになり、俺はドライヤーのような役割を果たすことになるのだ。

「アイディアだけ提供して、誰かに作ってもらおうかな?」

「魔法学園に通って、作れるようになるっていう選択肢はないのね」

「うん、面倒くさいから」

三年以上通うのは嫌だし、通ったはいいものの魔導具作りの才能がないということもあり得る。それだったら、前世の知識をアイディアとして提供し、プロに作ってもらう方が手っ取り早くていい。幸いにも支援できるくらいのお金も持っていることだし。

「でも、方法としてはアリね。髪を乾かすことのできる魔導具があれば、すごく便利だもの」

「だよね」

なんて会話をしていると、エルナ母さんは髪を乾かすことができた。

「簡単なものであれば、御髪も結い上げますよ?」

「あら、髪まで結えるの?」

「エリノラ姉さんの髪を湯上りにセットしているのは俺だよ?」

なんて答えると、エルナ母さんは頭が痛そうな顔になった。

「娘の女子力の低さを嘆くべきか、息子の優秀さを喜ぶべきか……」

「間違いなく前者だよ」

「夜は綺麗にセットされているから感心していたのに……」

残念、それは弟がやっていたんです。

「まあ、それなら頼もうかしら」

「ポニーテールにしちゃっていい?」

「ええ? さすがに私には似合わないんじゃないかしら?」

「大丈夫、エルナ母さんならいける」

そこらの人なら難しいかもしれないが、エルナ母さんなら十分に似合うと思うんだ。上品に結い上げたいつもの姿もいいけど、ポニーテールも見てみたい。

そんなわけでエルナ母さんの髪をポニーテールにしてみた。

「うん、やっぱり似合うね」

「そ、そうかしら?」

手鏡をサッと差し出すと、エルナ母さんはちょっとまんざらでもない様子だった。

髪を乾かし、セットが終わったところで俺とエルナ母さんはリビングに戻る。

「戻ったわ」

何事もないとばかりの澄ました表情でリビングに戻るエルナ母さん。

しかし、女性の心の機微をわかっている旦那は、すぐに髪型の変化に気付いた。

「おや、エルナ。いつもと髪型が違うね」

「アルが結ってくれたのよ。変じゃないかしら?」

「そんなことないよ。いつもと違う髪型も素敵さ」

シレッとエルナ母さんに近づき、褒めちぎるノルド父さん。

恥ずかしそうにしながらもエルナ母さんも大変嬉しそう。

そこで終わればいいのだがノルド父さんがエルナ母さんの髪を触り始めた。

やれ髪が綺麗だの、うなじが見えて綺麗だの。

さっき注意したばかりなのに子供の目の前で堂々とイチャついている。

これを自覚無しでやっているのというのだから天然だな。

ノルド父さんと一緒に風呂に入る約束だったが、イチャイチャとした空気に耐えられず、俺は逃げるように先に一人で風呂に入るのだった。