軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エリノラの意識改革

「うううう! こんなにも簡単に負けるなんて!」

「はいはい、悔しがることによりも先に反省よ」

悔しそうに吠えるエリノラ姉さんを宥めるエルナ母さん。

エリノラ姉さんはむくれながらも素直に感情を沈めた。

一応、振り返りの大事さはわかっているようだ。

「アルはどうして最初に風魔法を使ったのかしら?」

反省会を円滑に促すためにエルナ母さんが尋ねてくる。

「エリノラ姉さんがバカみたいに突進してくるのはわかっていたから。効果範囲の広い風魔法で遠くへ押しやったんだよ」

エリノラ姉さんの身体能力を考えると、ファイヤーボールやストーンランスといった点での攻撃は躱される可能性が高い。

だから、避けることの難しい面での攻撃を得意とする風魔法を選択した。

「ば、バカみたいって……」

「現に何も考えずに突っ込んできたじゃん」

「…………」

不満げにしていたエリノラ姉さんだが、正論を前に沈黙した。

「そうね。狡猾な魔法使いを相手にして不用意に突撃するのは良くないわ」

「……うん。確かにちょっと迂闊だった。相手はアルだもん。もっと警戒するべきよね」

なんか色々と言いようが酷いが気にしないことにしよう。

素直に反省しているようだし水を差す必要はない。

「最初の魔法にあたしはどう対処するべきだったの?」

「…………」

「なによ? その驚いた顔は?」

「いや、エリノラ姉さんが素直だなって」

「うるさいわね。教えなさいよ」

思わず茶化すとエリノラ姉さんが顔を赤くする。

これ以上茶化すと物理攻撃を食らいそうなので答える。

「魔力の気配と規模を察知して、瞬時に効果範囲を離脱する」

「あたしにはアルみたいな魔力を感知って言うのはできないんだけど……」

「エリノラの修行不足ね。きちんと魔力と向き合っていれば、完全な察知はできなくても兆候くらいは感じ取れたはずよ」

「そうなんだ……」

赤ん坊の頃から魔力と親しんできたので、エリノラ姉さんの魔力への鈍さが理解できない。普通の人はそんなにも魔力が見えにくいものなのか。

「もし、最初に空に打ち上げられていたら、エリノラはどうやって対処していたんだい?」

「ええ? うーん、身体強化を使って着地を頑張る?」

今度はノルド父さんが問いかけると、エリノラ姉さんが悩みながらも答える。

我が姉ながら何という脳筋具合か……。

「魔法使いが空中で落下していく敵を見逃すと思うかい?」

「うっ、思わない。でも、それならどうすれば?」

「僕なら風魔法がある。落下を減衰させて着地ができるし、風を起こして空中で移動だってできる」

「あたし火魔法しか使えないんだけど……」

属性の違いを理由にするが、それは視野が狭いとしか言えない。

「火魔法だって同じようなことができるじゃん」

「どうやって?」

「火魔法を使って爆風を使えば落下を減衰させられるし、空中で移動だってできるよ」

「……?」

俺がそのように説明するもイメージが湧かないのかエリノラ姉さんは首を傾げる。

仕方なしに俺は風魔法で自らの身体を浮かび上がらせる。

二十メートルほど浮かび上がると、火魔法の爆発を起こし、その反動で横に移動。

うっ、軽く自分でやってみたけど、身体への衝撃がすごいな。内蔵が揺さぶられている感じが半端ない。

不快感を我慢しながら移動し、そのまま落下していくが、今度は下に爆風を放つことで減衰させて着地した。

「ほら、こうすれば空中で移動しながら着地場所を選べる」

「すごい! 火魔法にそんな使い方があったんだ! それを使えば、剣術に応用できるかも!」

確かにエリノラ姉さんの動きに爆発移動なんて加われば厄介だな。

純粋に速度や旋回力が上がるだけでなく、剣の振り落としにも合わせれば攻撃力も上がるだろうな。

エリノラ姉さんの魔法意欲を上げるためとはいえ、余計なことを言ってしまったかもしれない。

傍では目をキラキラとさせながら腕を突き出しているエリノラ姉さん。

早速やってみようとしているところ悪いが、止めてさせてもらう。

「待って。それはもう少し魔法が上手くなってから」

「なんで?」

「下手すると爆発で自分の身体が吹っ飛ぶ」

俺はまだしもエリノラ姉さんは魔力制御が杜撰だ。

爆発の位置や加減を間違えて、自分の手足を吹っ飛ばせるなんてことをやりかねない。

「そうね。今のエリノラの技術では難しい技だわ」

「そ、そうなの。アルは平気な顔でよくやれるわね」

「魔法の扱いには慣れてるから」

伊達に赤ん坊の頃から魔法を使っていないのだ。

「その後に土魔法で拘束されたのは油断ね。魔法使いは常に相手の先を読んで攻撃を組み上げてくるわ。相手の魔法が一回で終わるとは思わないこと。むしろ、二回目、三回目が本命よ」

「剣術と同じだ」

今度はピンとくるようなものがあったらしく、エリノラ姉さんが真面目に頷いている。

たった一回の魔法で仕留められたら一番だけど、そうはいかないことの方が多いからね。

いくつもの魔法を平行して走らせてじわじわと追い詰めることが多いだろう。

剣術も同じで余程実力差が無い限り、一合で決着がつくということはない。

「ちなみにどうしてアルが水球に油を混ぜたと思う?」

「えっと、油で木剣を持てないようにするため?」

「それもあるけど、もう一つの意味があるわ」

さすがはエルナ母さん。俺のもう一手に気付いていたようだ。

「……水をかけて寒さ攻めにする?」

「違うわ」

頭を横に振るエルナ母さん。

エリノラ姉さんはしばらく一人で考え込むが、わからないらしい。

「ヒントは周囲に浮かべている火球」

「もしかして、あたしを引火させて燃やす気だったの!? 卑怯よ! あれは暖をとるために設置しただけでしょ!?」

「戦う前の準備として撒いておいたんだよ。いざとなったら不意打ちできるし」

「アル、性格悪っ!」

「魔法使いの出す魔法を警戒しないエリノラ姉さんが間抜けなんだよ」

己の魔力が付与されたものは全てが武器となる。

それを理解していないエリノラ姉さんが悪い。

「まさか、ここまで考えて魔法を使ってくるなんて……」

「ここまで腹黒い魔法使いは早々いないけど、そう考えて対処すべきなのよ」

賢いって言って欲しい。

というか、水に油を混ぜるやり方はエルナ母さんが教えてくれたのに……。

「さて、全体を振り返ったわけだけど、立ち合いの中で一番悪い点が残っているわ」

「ええ? 今言われたこと以外に?」

エルナ母さんに言われて考え込むエリノラ姉さん。

「エリノラ姉さんには俺の魔法をかけたままだよね?」

「ええ、グラビティってやつでしょ」

「平然と答えてるけど、その状態は喉元に刃を突きつけられてると同じだよ」

重力を上げるのも下げるのもこちらのさじ加減。

既にかかっているために魔法を付与するモーションも必要ない。

そこにある魔力を増大させるだけなのでエリノラ姉さんでも躱すことができない。

「あっ、だから試合前に母さんが声かけてきたんだ」

「そういうこと」

試合前の小さな出来事を思い出し、エルナ母さんが頷く。

「正直、気付いてない時点でエリノラ姉さんの負けは確定だったんだよね」

「ええー、なにそれ。魔法ってズルい」

「それは単にエリノラが知らないからそう思うだけよ。きちんと魔法について勉強し、相手がどんな風に攻めてくるか理解できたら、今回みたいなことにならないと思わない?」

「……確かにそれはそうかも。あたし、魔法の勉強なんて難しくて嫌いだったけど、ちゃんと知らないとこんなにも簡単に負けるんだ」

今回の立ち合いとエルナ母さんの言葉に思うところがあったのか、エリノラ姉さんが素直に反省。

「ええ、わかってくれて嬉しいわ。魔法使いに負けないためにも、エリノラの火魔法を剣術に応用するためにもしっかり勉強していきましょう」

「うん、あたし頑張る! 母さん、早速これから魔法について教えてくれる?」

「ええ、勿論よ。その前に一度お風呂に入ってきなさい。温かいとはいえ、いつまでも水と油まみれじゃ風邪を引いちゃうわ」

エルナ母さんに送り出されて、屋敷へと戻っていくエリノラ姉さん。

魔法に対する意識も変わり、随分と勉強に意欲的になっている。

勉強をやりたがるエリノラ姉さんとか、違和感しかない。

「……エリノラ姉さんが素直になった」

「エリノラは戦いに関することならどこまでも素直でストイックになれる子よ? 魔法を学ぶことも、戦闘において大事だということがわかれば前に進めるわ」

呆然と呟くと隣にいるエルナ母さんがクスリと笑った。

さすがは母親だけあって、エリノラ姉さんのことをよく理解していらっしゃる。

「まあ、普通の魔法使いは、無詠唱で何種類もの属性を平行して使ってこないけどね」

そうかもしれないが、侮るよりも警戒する方がエリノラ姉さんにとってもいいだろう。

「今日はエリノラのためにありがとうね、アル」

「別にエリノラ姉さんのためだけじゃないよ。これでしばらく大人しくなるなら俺にとっても有益だし」

そんな風に答えると、何故かエルナ母さんが微笑む。

なんだかすごく生暖かい眼差しを向けられている気がする。

とにかく、魔法の重要性に気付いたエリノラ姉さんだ。

しばらくは意欲的に取り組んで頑張ってくれるだろう。

その間に俺は悠々とスローライフを謳歌すればいい。

「エリノラが勉強で困っていたら、それとなく力を貸してあげてね。あと息抜きの方も……」

「前者はともかく、後者はちょっと……」

心身のケアは俺にはハードルが高いよ。

また廊下で急に押し倒されたりしないことを祈ろう。