軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

アルの自動剣術

屋敷の中庭で俺とエリノラ姉さんは向かい合う。

エリノラ姉さんは正面に木剣を構えている。

しかし、相対する俺は木剣を構えるのではなく、サイキックを使って浮遊させていた。

手の中に柄の感触はないが、魔力を伝ってしっかりとした感触はあった。

「いくわよ!」

エリノラ姉さんがバカ丁寧に声を上げて走り出してくれたので、そのタイミングに合わせてサイキックで木剣を前に出して振るった。

「ッ!?」

一瞬にして距離を詰めようとしていたエリノラ姉さんがつんのめるようにして立ち止まり、俺の剣を受け止める。

勿論、俺はスタート位置から動いていない。

エリノラ姉さんが足を止めたのは俺よりも三メートル前の地点。通常の剣の間合いであれば、間違いなく届かない距離。

しかし、サイキックで宙に浮いている剣に通常の間合いなんて関係なかった。

エリノラ姉さんが剣で受け止める中、俺は即座に魔法で剣を横回転させて、薙ぎ払いを放つ。

ノーモーションから放たれる突飛な剣の軌道にエリノラ姉さんは目を大きく見開いた。

かと思いきや、エリノラ姉さんの体内で即座に魔力が活性化して、あり得ない反応速度を見せた。

「あああ! エリノラ姉さんが身体強化使った!」

「そっちだって魔法を使ってるからお相子よ!」

抗議の声を上げるもエリノラ姉さんがそのように言い返してきた。

「ノルド父さんならともかく、俺に身体強化を使うなんて初めてじゃない?」

ノルド父さんとバチバチに稽古をする時は、エリノラ姉さんは身体強化を使って挑む。

しかし、俺やシルヴィオ兄さんといった格下相手にエリノラ姉さんは今までそれを使うことがなかった。

それを指摘してみるとエリノラ姉さんはムッとした顔をした。

「……うるさいわね」

やっぱり、エリノラ姉さんも染み付いた間合いの経験には抗えないらしい。

確かな手応えを感じた俺は、そのまま果敢にエリノラ姉さんを攻め立てる。

動くことなくサイキックで操作してエリノラ姉さんに斬りかかる。

ああ、これはいいね。自らが動く必要がないことがこんなにも楽だなんて。

自ら身体を動かすことのない分、剣にノイズが混じることはない。身体よりも魔力の方が反応が速いので自分の思う通りに剣が動く。

というか、普段なら絶対にできない剣の型だって今なら思い通りだ。

名付けて自動剣術。

これなら俺でもエリノラ姉さん相手でも渡り合えるのではないだろうか。

そんな風に調子に乗っていると、さっきまで防戦一方だったエリノラ姉さんが俺の木剣を吹き飛ばした。

「あれれ?」

「こんなの剣じゃないわ。剣に全然気迫がこもってないし、重みも足りない。突飛な軌道で襲い掛かってくる飛び道具と変わりないわよ」

確かに魔法で剣を動かしている以上、重みも足りないしプレッシャーもないだろう。

しかし、こっちだってそれなりの技術を駆使してやっているので、ただの飛び道具扱いされるのは少し癪だ。

「それだったら次は数を増やすよ」

「どれだけ数が増えても一緒よ。全部へし折ってあげる」

カチンときた俺はサイキックで倉庫の扉を開けて、そこから五本の木剣を追加で加える。

さっき操っていた木剣と数を合わせると今度は六本だ。

四本の剣は攻撃用に、二本の剣をもしもの迎撃用に浮遊させる。

単純計算でさっきの六倍。さすがにエリノラ姉さんでも六本の剣を捌くのは無理だろう。

「いけ」

手始めの攻撃用の四本を飛ばす。

バラバラの角度から迫りくる剣をエリノラ姉さんは身体捌きで回避。どうしても回避できない一本だけを剣で弾いた。

そのままエリノラ姉さんが攻撃用の剣を置き去りに接近してきたので、即座に迎撃用の剣で受け止めた。

「危なっ!」

「……へえ」

眼前に迫るエリノラ姉さん。

このまま近距離戦に持ち込まれたら勝ち目はまずないので、迎撃用の一本で牽制しつつ、攻撃用の四本を急いで引き戻す。

背中から襲い掛かる木剣を屈んで回避すると、エリノラ姉さんは転がりながら後退していった。

迎撃用にきちんと残しておいてよかった。

全部攻撃に回していたら今のでやられていたかもしれない。

これはちょっと六本では足りないかもしれない。

サイキックで倉庫から追加で四本の木剣を取り出して追加する。

迎撃のために二本だけは手元に置いておいて、残りの八本をエリノラ姉さんに向けて射出。

そして、それぞれの角度からタイミングをずらして斬りかかる。

俺のサイキック操作に狂いはない。全てが微妙にタイミングをずらして、攻撃するように操作されている。

しかし、そのことごとくをエリノラ姉さんは自らの体捌きと一本の剣で迎撃していく。

雪が降り積もる中庭の中を縦横無尽に動き回って、襲い掛かる複数の剣を回避していた。

「いくら数を増やしても一緒よ!」

この光景をどこかで見たことがある。そう、去年の雪合戦だ。

あの時、俺は三十以上もの雪玉を操作してエリノラ姉さんに挑んだ。

結果として勝利を納めることはできたものの、俺の魔法技術はたった一本の剣に敗北した。

さすがに俺も同じ過ちで負けるのは良しとしない。

去年よりも俺は魔力もコントロール技術も上がっている。

たった一つの身体と剣に力負けしてたまるか。

ただ単に数を増やしたり、時間差攻撃を繰り出しても防がれるのはわかっている。

だったら、容易にそれをさせないようにすればいい。

俺は八本の木剣を動かしてエリノラ姉さんに斬りかかる。

しかし、そのうちの三つはブラフだ。エリノラ姉さんの攻撃に当たる軌道ではないが、行動範囲を制限するように動かす。

ひとつひとつの剣で精密な動きをするのはかなり難しいが、魔法の練習だけは自主的にこなしているので慣れっこだ。

ブラフを混ぜながらの攻撃にエリノラ姉さんの動きが少し淀む。

迫りくる複数の剣の内、いくつかがブラフだと気付いたのだろう。しかし、気付いたとはいえ、それらを無視することはできない。

いくら超人的な反射神経をもっているエリノラ姉さんでもそれらを瞬時に見極めて迎撃することは少なくない負担になるだろう。

「うっとうしいわね! 吹き飛びなさい!」

エリノラ姉さんが剣に魔力を纏わせて、俺の剣を吹き飛ばそうとする。

が、硬質な音が響いて失敗に終わった。

「硬っ!」

「甘いね。魔力でコーティング済みだよ」

さっきやられたばかりなので対策済みだ。今の俺の剣には相当量の魔力がこもっている。

ちょっとやそっとでは吹き飛ばすことはできない。

体勢の崩れかけたエリノラ姉さん目がけて、俺は怒涛の勢いで剣を躍らせる。

木剣の後ろに木剣を隠し、直前で死角から分裂させるように振るう。

敢えて攻撃を外し、地面にある雪を巻き上げることで視界を制限。

相手を自由にさせない攻撃の数々はかなり効いているようで、エリノラ姉さんは防戦一方だ。

手元には常に二本の木剣が浮遊しており迎撃可能だ。

もしもの時の対応もいつでも可能だ。

「どうエリノラ姉さん? これが俺の自動剣術だよ!」

「あはははははは!」

エリノラ姉さんを挑発するように言ったのだが、当の本人は防戦一方だというのに笑い出した。

どうしたんだ? 遂に頭がおかしくなっちゃったのだろうか?

「いいわね、アル! これ最高よ!」

「はい?」

「この稽古、とっても楽しいわ! まるで騎士団の多人数取りみたい!」

思わず目を丸くしながら聞いていると、エリノラ姉さんは実に楽しそうな笑顔でそう言った。

その表情には余裕があるとはいえないが、とても晴れやかだ。

まるで世界で一番楽しい遊びをやっているかのよう。

……なんだかエリノラ姉さんの笑顔を見ているとバカらしくなってきた。

なんで俺がこんなことをやっているのだろう。別に俺がエリノラ姉さんに勝たなくちゃいけない理由なんてないし、そもそも純粋に勝ちたいのであれば、剣のフィールドなんかで戦いはしない。

そんな当たり前のことに気付いた俺はサイキックをやめた。

「ええ? ちょっと! なんでやめちゃうのよ!」

「だって、寒いし疲れたから。もう終わりでいいかなって」

新しいサイキックの運用方法を見つけたので、つい興奮しちゃったようだ。

浮遊させた木剣をサイキックで倉庫へと突っ込んで元の場所に戻す。

そのままくるりと背を向けて屋敷へと戻ろうとすると、エリノラ姉さんが腕をとってくる。

「ねえ、アル。今のもう一回!」

「やだよ、もう疲れたんだって」

この日からエリノラ姉さんが自主稽古に誘ってくる回数が劇的に増えて、俺はしばらく辟易とするのであった。

……変な剣の運用方法なんて見せるんじゃなかった。