軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

玩具王からの献上品1

ワシはジギル=ミスフィリト。ミスフィリト王国の王だ。

王といえば、玉座でふんぞり返っているイメージを持たれているかもしれないが、そんなことはない。

街の治世について大臣や専門家と協議したり、騎士団、冒険者ギルドの報告や書類のチェック、他国との交流や貴族のクレーム処――じゃなくて、陳情処理など。

やることがたくさんあって多忙だ。

王になれば、もっと優雅でダラダラとした生活を送れると思っていたのだが見通しが甘かった。

幼い頃、父上の言葉を真に受けて王様になるだなんて言うんじゃなかった。

これなら王位を継がず、弟のように他国を飛び回って外交をやったり、適当な領地を貰って内政を部下に丸投げしてのんびり過ごせばよかった。

一番高い地位にはいるものの、ふんぞり返っているだけではいられない。

大臣や秘書たちはワシをせっせと働かせようとしてくる。

曰く、ワシが確認しないと進まない案件が溜まっているのだとか。

別にいいじゃん。ワシがチェックしなくても有能なお主たちがチェックして進めてくれれば。

そんなことを言えば、大臣たちは揃って責任を取りたくないとか言う始末。

王なら多少やらかしても誤魔化しが利くので、ワシが責任を負うことが重要らしい。

何という奴等だ。確かにワシがやらかしても、権力のお陰で何とかなってしまう。

先日起きてしまった事件がそうだ。

渡り廊下で休憩しているとうっかりと王の象徴たる王冠を中庭に落としてしまったのである。

そして、中庭で警備をしていた騎士団長のライラが、危険物かと勘違いして落下した王冠を叩き斬ってしまった。

いくら悪気がなくても王の象徴で王冠を叩き斬るなど反逆罪に問われてもおかしくない。

場合によっては本人だけでなく、一族郎党ギロチン処刑待ったなしだ。

とはいえ、これはライラが意図してやったものでもないし、王国最強の女騎士と名高い騎士団長を処刑するわけにはいかない。

元はといえば、高いところから王冠を落としてしまったワシが悪いわけで、王としての権力を使って抑え込ませてもらった。

とはいえ、まったくの処分無しというわけにもいかず、ライラには騎士団長から副騎士団長への降格。年棒の減給となった。

ワシの権力が発動したとはいえ、長年王国の安全を守って貢献していた彼女にだからできた温情だ。

普通の者であれば、よくて本人だけが死刑、あるいは幽閉刑だと大臣に言われ、チクチクとワシの落ち度を責められた。

というか普通の者はゴールディウムでできた王冠を叩き斬ることなど不可能だと思うのだがな。何せ、現存している鉱物の中で最強の硬度だと言われていたのだ。

それがあっさりと斬れてしまったのでワシも驚きだ。

一連の事件のごたごたによるストレスのせいか、頭頂部の辺りが心もとない気がする。

まだ大丈夫だよな? 王冠を被っていれば目立たないよな? 予備の王冠でも被っておくことにしよう。

そんな風に日頃からストレスを抱えているワシだが、最近はどっぷりとハマっているものがある。

それは玩具王の作品だ。

駒、リバーシといった画期的な遊び道具だけでなく、王都で流行りの主食スパゲッティや生活道具であるスライムクッションなどなどと数多の画期的な発明をしている。

まさに発明の王。素朴でありながら無駄のない洗練された玩具はまさに天才的。

未知のものを次々と生み出していくその才能にワシは惚れ、玩具王と名付けた。

玩具王の作り出す玩具は最高だ。とても心がワクワクし、遊んでいると童心に返ったような安らかな気持ちになれるのだ。

ジギル=ミスフィリトではなく、ただのジギルになったような。

ワシに癒しを与えてくれる作品を作り出す職人であるが謎が多い。

トリエラ商会、ラザレス商会と王都で最大勢力を誇る商会と繋がりがあるとは聞いている。

曰く、田舎に住む貴族の少年だとか。

曰く、山奥に暮らす老人だとか。

曰く、既に名を馳せている研究者だとか。

様々な情報が錯綜しており、真偽のほどはわからない。

ただわかっているのは玩具王が極度の引きこもりであり、世俗を嫌っているということである。

故に彼が表舞台に姿を現すことはない。彼のその職人気質な性格を残念に思いながらも、ワシは職人らしいその性格を気に入り、一層信仰を深めた。

のであるが、ある社交界の日にミスフィリト王国でも名高いリーングランデ家とミスフィード家のご令嬢が見慣れぬ玩具を持っているのを目にした。

その素朴でありながら、どこか洗練されている遊び道具を見てワシはピンときた。

――間違いなく玩具王の作品であると。

しかし、二人が手にしている尖った棒に丸い玉がついている玩具は見たことがなかった。

玩具王の新作が出れば、すぐに報告をするようにと部下には伝えてある。それなのにワシの知らない作品が世に出ている?

気になって仕方がなかったワシはリーングランデ家のご令嬢に尋ねた。

すると、とある伝手を使って玩具王の作品(けん玉)を入手したというではないか。

……なんじゃそれ。羨ましい。

玩具王とは人との関わりが嫌いではなかったのか。

もしかしたら、王の権力を使ったらワシでも何とかなるのではないか?

そう思ったワシはトリエラ商会の会長を呼び出して、玩具王に手紙を送ることにした。

すると、玩具王は面倒ごとを確かに嫌っているようであるが、ワシの事を無碍にはしなかった。

玩具を作って欲しいという要望に応えてくれることになったのである。

まさか、あの玩具王がワシだけの玩具を作ってくれるとは。

この嬉しさを共感してもらおうと妻に話したら、冷めた視線で「子供じゃないんですから」などと言われた。

ワシの妻は美人で知的ではあるが、こういうところの理解が足りない。

まあ、別によい。玩具王から特別に玩具を作ってもらえるのだ。

共感されなくても一人で存分に喜んでおくことにしよう

玩具王に新しい玩具の発明を頼んで三週間ほど。

遂に玩具王の新しい玩具が献上された。

「そこに玩具王の新しい玩具が入っているんですね?」

「うむ、そうじゃ」

城内の経理を主に担当しているバルムンクの問いに、ワシは応用に頷く。

他にも外交官であるヴィルム、軍部のレンブラントという三人の大臣が談話室にいた。

この日を待ちに待ったワシは慌てて今日の予定を全てキャンセル。

今日は玩具で遊ぶことにした。バルムンクたちは「ふざけるな」などと文句を垂れていたが、玩具王の発明品が気になるのか強い反対はしなかった。

ふふふ、なんだかんだといって大臣たちも新しい玩具が気になるのだろう。

前に販売されたリバーシは大流行であり、今では貴族の嗜みの一つとして挙げられるくらいであるからな。

お前たちがそれにハマっているのもワシは知っているのだ。

「では、早速俺が開けましょう」

「待て待て。これはワシへの献上品だぞ? どうしてお主が先に開けようとする?」

レンブラントがいきなり開けようとするのでワシは静止する。

一番偉いワシを差し置いて、蓋を開けようとするとは何事か。

「陛下のことですから、どうせロクなチェックもさせずに通したんでしょう?」

「ぐぬぬぬ、それはそうであるが……」

「もしも、この献上品が危険物だったらどうするんです? 俺は軍部担当として陛下の安全のために危険を買って出るんですよ。忠臣でしょう?」

「本当の忠臣は自らを忠臣だとは言わぬ」

レンブラントのニヤリとした笑みが憎らしいが、急ぐあまり確認をさせなかったワシが悪い。

王とはいう地位は便利でもあるが、こういう時は不便であると感じずにはいられない。

どうせ、ワシに危害を加えようとか思う奴なんていないのにな。

口惜しいながらも安全のためにバルムンクに開けさせた。

「なんだこれ? ただの棒か?」

「不思議な形をしている」

「それに鮮やかな装飾がされていますね。それにイラストや小さな文字が描かれています」

蓋を開けるなり、顔を近づけて作品に触れるバルムンク、ヴィルム、レンブラント。

こいつらあれだけ安全安全と主張していたというのに。

「ええい、もういいじゃろう。ワシにも触らせろ」

たむろするオヤジ共を退かせ、ワシは箱の中から玩具王の作品をつかみ取る。

玩具王が作った作品は、細長い棒状のものだ。

しかし、均等に角ができており、その均一さには美しさすら感じる。

そして、上部にはスライムのイラストが描かれており、下部には文字や数字が描かれている。

【スライム ●属性】

全員に十のダメージ

薬草を丸呑み 体力を二十回復

全員に三十のダメージ

体当たり ●に二十のダメージ

体当たり ★に二十のダメージ

ミス

ひとつひとつ手作業でやったのであろう。その豊かな色彩から職人的な技術を感じられる。

よくこのような狭いスペースにイラストや文字や書き込めるものだと感心する。

この単純でありながら洗練されたデザインは間違いなく玩具王のも。

しかし……。

「これは一体、どういう玩具なのだ?」

ここに書かれている文字や数字がキーになるのはわかるのであるが、これでどうやって遊ぶのかワシには皆目見当がつかなかった。