軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

山滑り

「さあ、身体も温まったことだし、そろそろ行こうか」

「やっとね!」

しっとりとした銀世界を眺めながら紅茶を楽しむと、家族でのスキーが始まることになった。

ノルド父さんの一声に退屈そうにしていたエリノラ姉さんが、待ってましたとばかりに言った。

どうも景色を見ながらお茶というのは性根に合わなかったようだ。こんなにも綺麗な景色が広がっているというのに。

「……俺としてはこのまま紅茶を飲んでまったりするだけでいいんだけどね」

「それもいいけど、今日の趣旨はスキーだから」

俺のぼやきを聞いてシルヴィオ兄さんが苦笑いする。

今日は家族皆でスキーをしにやってきたのだ。ここでこれ以上文句を言っても仕方がない。

ここまでやってきたお陰で今度は転移で気軽にやってこれるようになった。次に来るときはワラサビ釣りのようにここにカマクラを作って、のんびりとしてみようかな。

そんなことを考えながら、皆と同じようにスキー板を足に装着。ベルトをしっかりと締めて足がしっかりと固定されているのを確認。

両手にしっかりとストックを持ち、帽子を深く被ってゴーグルも装着。

前世のようにクリアな視界とは言わないが、ゴーグルをつけてもしっかりと視界は確保されていた。

「…………」

隣ではエリノラ姉さんが同じくゴーグルを装着しており、こちらを覗き込んでいた。

「なに? エリノラ姉さん」

「ゴーグルをつけるといつもより凛々しく見えるわね?」

「それは俺の目が普段凛々しさを損なっているとでも?」

などと言い返すと、エリノラ姉さんは興味を失ったのか特に返事はしなかった。

まったく失礼な姉だ。

「父さんと母さんがゴーグルをつけるとなんかカッコいいね」

シルヴィオ兄さんが感嘆の声を上げるので、そちらに視線をやるとノルド父さんとエルナ母さんがバッチリとゴーグルを装着。

いつもの優しい二人の目元が少し見えなくなり、どこか近寄りがたい雰囲気を醸し出していた。

スキー場で見かける「あ、この人たちプロだ……」と一発で思わせるような感じ。

それくらい二人の完全装備は決まっていた。

「こんな風にゴーグルをつけるのはいつ振りかしら?」

「ラズール砂漠に現れた砂嵐を巻き起こす魔物の討伐依頼の時かな」

「あの依頼は大変だったわね」

まるで、昔話に花を咲かせるかのように和やかに語っている二人。

確か気象を操る魔物は最上位に分類される強さだとエルナ母さんの授業で聞いた。となると、一般的に分類される気楽な思い出ではないんだろうな。

「というか、そんな話聞いたことないんだけど、ドラゴンスレイヤーの本に載っていた?」

「いや、アルが王都で買ってきてくれた本の内容は、王国内の冒険ばかりだよ」

気になって小声で尋ねると、シルヴィオ兄さんは首を横に振った。

今の話はミスフィリト王国で起こったものではないしな。

だとすると、本になっていない可能性がある。あるいはラズール王国に行けば、誰かがノルド父さん達の伝説を本に記しているかもしれない。

……今度、ラズール王国に行ったら探してみよう。

「それじゃあ、行こうか」

「ええ」

ノルド父さんとエルナ母さんがストックを使って、一気に斜面を滑り降りていった。

斜面を見下ろしてみると中々の角度だ。

コリアット村や屋敷の周りに作ってあげた斜面とは訳が違う。それなのにためらうことなく滑り降りるとは凄いな。

「ほら、あたしたちも行くわよ!」

エリノラ姉さんはその場でジャンプしてスノボを回転。その勢いを利用して斜面を滑り降りた。

「それじゃあ、シルヴィオ兄さん。俺から離れないようにね。あっ、なんか今の台詞って物語の主人公っぽい」

「最後のがなかったら僕も感動できたかな。ともあれ、よろしくね」

自分でも似合わない台詞を言ってしまったと思ったので仕方がない。こういう歯が浮くような台詞を言うのはシルヴィオ兄さんやノルド父さんの役目だからね。

「じゃあ、行くよ」

「うん」

シルヴィオ兄さんがしっかりと頷いたところで、俺達はストックを使って前に進み出し、斜面を滑り降りた。

すると、斜面の途中ではノルド父さんとエルナ母さん、エリノラ姉さんがこちらを見上げながら後ろ滑りをしていた。

が、俺達が滑ってきた事に気付くと、安心したように前を向いて滑り出した。

慣れないシルヴィオ兄さんもいるし、ちゃんと滑り降りてきているか心配だったのだろう。

というか、三人とも器用なことをするよね。後ろ滑りってかなり難易度高いよ。

斜面を滑り出すと、スキー板が軽快に滑って勢いのままに加速していく。雪山に降り積もった雪をシャーッと滑っていくのが気持ちいい。

少し風が冷たくあるが、ゴーグルや帽子のお陰で支障はない。むしろ、この肌を撫でる冷気もスキーの醍醐味といえるだろう。

氷魔法で作った斜面では長さに限りがあるので、そろそろブレーキをかけないといけないがここでは距離の心配をする必要がない。

その代わりにいつもより遥かにスピードが出てしまう。

さっきまでいた頂上があっという間に置き去りとなって、景色が流れていく。

「シルヴィオ兄さん、速度とか大丈夫?」

「うん、ちょっとスピードが出て驚いたけど、これくらいなら何とかいけそう」

今のところ斜面も真っ直ぐだし、起伏も少ないのでシルヴィオ兄さんも上手く速度をコントロールしながら滑ることができているみたいだ。

ただ、急なカーブや起伏が出てくると厳しいだろうから、そこは俺がサイキックで上手くフォローしてあげよう。

俺はシルヴィオ兄さんの様子を伺いながら滑り降りる。

「うーん! 思いっきり滑れるって最高!」

前方ではエリノラ姉さんがかなりのスピードで滑っていた。

氷魔法で作った傾斜とは違って、思うままに滑ることができるのが嬉しいのだろう。

エリノラ姉さんの下ろした赤茶色の髪がたなびき、雪を舞い上げている。

猛スピード、急ターンを繰り返してとにかく山滑りを堪能しているようだ。

そして、エリノラ姉さんのさらに前方ではノルド父さんとエルナ母さんがスキーで滑り降りている。

豪快な速度任せなエリノラ姉さんとは違い、二人の滑りはとても華麗だ。

まるで板と足が一体化しているかのような静かな滑りをしている。

しかし、そんな静かな滑りを見せたかと思えば、急に雪を削り込むように鋭く、落差の大きい弧を描くような大きな滑りも見せてくる。

それぞれが大回りをして、ターンで交わるのだがそこでぶつかるようなことはない。

美しく豪快に滑り降りるその様は、まるで冬に現れた雪の精霊が二人で舞い踊っているかのよう。

二人の表情までは見えないけど、滑りを見ているだけで二人がスキーを楽しんでいるのがよくわかる。

「父さんと母さんは滑りが綺麗だね」

「うん。あれはもう別格だよ」

二人ともプロのスキーヤーですか? と、問いかけたくなるような見事な滑りだった。

「俺達にはあんな滑りなんて無理だから、まったりと景色を見ながら滑っていこう」

「それもそうだね」

山滑りでの醍醐味は斜面の長さと大きく出せる速度というのもあるが、やっぱり一番は景色の良さだ。

この山の景色を楽しみながら、爽快に滑り降りるのが一番だと俺は思う。

エリノラ姉さん達のようにトップスピードを維持したままターンを決めたりというのは、プロの技なのだ。

俺達は程々の速度で楽しむとするさ。