軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

三体の氷像

大人達のバイオレンスな雪合戦に混ざることはなく、端っこでとても和やかな雪合戦をした後、俺とトールとアスモは奥の広場へとやって来た。

「よいしょ、よいしょ。ちょっとアスモ! これ転がすのを手伝ってくれよ!」

「大きくしようとして欲張るからだ。しょうがないなあ」

俺達は今、雪だるまを作っている。やはり雪と言ったら雪だるまは外せないな。

俺が黙々と雪を転がして作る中、トールとアスモは何やら大きな雪だるまを作ろうと転がしている。おいおい、あれデカすぎやしないだろうか。あれに何を積み上げると言うのだろうか。

とにかくあの二人のコンセプトは大きくらしいな。ならば俺も対抗して段を重ねていこうじゃないか。全体のバランスが大事だよな。ここはこうして、バランス悪いな。魔法使っちゃうか……

――そうして出来上がった俺の雪だるまは。

「アルの雪だるますげー! 一体いくつ重ねたんだよ!」

「一、二、三……七段!? 何だか人間みたいだな」

俺が魔法をも駆使して作り上げた雪だるま。一つ一つのパーツは勿論全て玉だ。より見栄えがよく見えるように、S字のようにカーブして積み上げている。

どうしてそれで崩れないのかと言うと、そこはこの名匠アルフリートの華麗なテクニックが加えられているためだ。

簡単に説明すると、この七段雪だるまの中には支えになる柱が氷魔法で作られているからだ。その為に、どんなに揺らそうが倒れる事は無い。勿論一番下の雪玉には倒れないように返しまで付けて地面に刺してある。そんなお陰でちょっとやそこらでは倒れないという訳だ。

「すげえな。お前の雪だるま超ナイスバディだぜ」

「ボンキュッボンだな」

なんてアホな事を言いながら、俺の雪だるまをぺたぺたと触るトールとアスモ。

「これだけ出来るんだから雪だるまじゃなくて、人間を作ってみてくれよ!」

トールが急に振り返って叫び出す。

「人間? いいけど作るのに少し時間がかかるよ?」

「おう! 俺達も巨大雪だるまが完成したら手伝いに来るぜ!」

「えー、まだアレ大きくするの?」

アスモが面倒くさそうに視線を向けたのは大きな雪の玉。その大きさは大人の身長にも匹敵するほどだ。もはや重ねるのは不可能なのだと思うのだが。

「よっしゃ! 腰入れて転がすぜ!」

「……しょうがないな」

「……ところでアスモ、お前の腰どこだ?」

「よし、お前を転がして雪だるまにしてやろう」

「うわあっ! じょ、冗談だって――」

さて、こっちもこっちで作ってみますか。誰を作るか。んー、あのお方は外せないしな。

まずは土台となるステージから作るか。

そうして出来上がったのが三体の氷像。

円状の土台に優雅に腰掛けるのはエマお姉様。憂いと儚さが入り混じった表情で遠くを見据えるその姿はどこか男の庇護欲をそそる。

そしてその後ろには、あまり作りたくなかったのだがトールがどうしてもと言うので作った、我が姉ことエリノラ。ブラウスの服にスカートを履き、木刀をかっこよく地面に突き立てて位置する様はまるで戦乙女。これで鎧を着けていたら凛々しい顔立ちをした女騎士のようだ。普段からよく目に入るが故に、一番出来がいいのが腹立たしい。

エマお姉様に一番力を入れたつもりだったのだが……。

そして最後にエリノラ姉さんの氷像の隣に立つは、コリアット村の至宝ことシーラさん。どうせならいつもよく見かける三人組にしてしまえという事で作った。

ふわりとした髪の毛と優しい表情が印象的なシーラさん。笑顔で手を振る姿を再現したつもりだ。一番見る事の少ない人だったので完成度が心配だったのだが、アスモが鷹揚に頷いているので一応は合格ラインを突破したのであろう。

「すげえよアル! 特にこのエリノラ姉様の氷像! 持って帰っていいか!?」

鼻息を荒くして掴みかかるトール。

「冷静に考えろ。こんなの持っていける訳がないだろ」

全く。俺はトールの腕を払って落ち着かせる。

「待て。そういうお前は俺の姉ちゃんの氷像に何する気なんだ?」

「持って帰るに決まっているじゃないか……ってコラ! 何をする! 離せ!」

俺なら空間魔法で持って帰る事ができるんだ。この世に同じ作品は二つと無いんだぞ! こんなの次はいつ作れるか。

「お前こそ持って帰れるわけがないだろう。俺より力が弱い癖に!」

「なんだと!?」

「……どうせ溶けるのに」

トールと言い争う事数分。とにかくこの氷像はここで保存しておく事になった。

多分トールは帰り道にでも寄って持ち運ぶに違いない。そうはさせん。エリノラ姉さんの氷像なんかはくれてやるが、俺の傑作の作品、エマお姉様の回収はさせないからな。

「それにしてもようアル。俺の姉ちゃんの胸盛りすぎじゃねえ?」

トールがエマお姉様の氷像の前で疑問の声を上げる。

「え? 確かこれくらいじゃなかった?」

俺の脳内で美化されてしまっていたのだろうか。いや、しかし俺がエマお姉様の事で間違えるはずが。

俺が過去の記憶を探り思い出している中、トールは氷像に手を出した。

「姉ちゃんはこんくらいだよ。いつもつめてるだけだって」

「うおおおおい! ごっそり削れたぞ! 俺の作品に何て事をする!」

俺はトールを突き飛ばして、慌てて胸元を修正する。全くこれだから素人は困る。

……よし、こんくらいだな。やっぱり物作りは手作業でないといけないな。細かい作業は自分の手でやらないとな。

「まあ、お前がそれで満足するならいいけどよ……シーラ姉ちゃんは足りなくねえか?」

「「だな」」

どこがとは言わないあたりは流石とも言える。

「形を崩すなよ?」

アスモが生真面目な表情で忠告してくる。

フッ……それは当然のことじゃないか。

「「わかっている。バランスが命だからな」」

俺達三人は、仲良く細かな指示を出し合いながら氷像の完成度を上げていくのであった。

× × ×

氷像作りや雪だるま作りにも飽きたので、広場から離れて川の方へと向かう。

そこなら凍った川や坂があるから滑ったりして遊べるとの事。どうやら雪が積もる季節では毎年そこで遊んでいたらしい。

多分エリノラ姉さんに連れられてよく行く川の事だね。そこには傾斜もあったし。

ちなみにトールとアスモが作った、雪だるまになりそこねた巨大な玉は段を重ねる事もせずに、適当に村長の家の前に置いておいた。最初は大きくなりすぎて道の真ん中にあったのだが、これは邪魔だろうと判断して身体強化を使ってなんとか移動させた。

決して収穫祭の時に村長に追い返されたという恨みでやったわけではない。

たまたま邪魔にならない場所に村長の家があっただけだ。

そして川に着いた。

いつも涼し気な音をたてて流れる水の音は聞こえない。この寒い気温のおかげで川は見事一面に氷を張っている。陸から見えた川魚たちも今は見る事ができず、まるで氷によって時が閉ざされたようである。

「ちょ、ちょい。何でこんなバランスの悪い物を生やして滑れるんだよ!」

「トールどうしたの? 腰が引けてるよ?」

「そんな物を足の裏に引っ付けて滑れる意味がわからないんだけど!」

生まれたての小鹿のようにプルプルと震えているトールが、ゆっくりと氷の上を歩く。

その姿はどこかペンギンの様でいてかっこ悪い。

「アスモを見なよ。もうあんな風に華麗に滑っているよ」

俺達の周りをすい―と滑るのはアスモ。俺が氷魔法で靴の裏に生やしたブレードをいとも簡単に使いこなして滑っている。

アスモって見た目の割に運動神経がいいんだな。これが動けるおデブの力とやらか。

「アイツは昔から動けるデブなんだ。俺とは違う! だいたいアスモは脂肪があるから転けても痛くないから遠慮なく……って、おい何だアスモ。俺の背中に手なんか置いて。ちょい、待て! 押すな! うわああああああああああっ!」

思いっきり押されて、運動エネルギーを得たトールはシャーっという音をたてて滑っていく。そうしてトールは本日二度目となる雪への顔面ダイブを決めた。

「冷てえええええええっ! この野郎!」

がばっと雪の中からトールが起き上がり、足の裏のブレードを外してアスモへと駆けだす。

どうやらブレードを着けているアスモを押せば、仕返しが出来ると思ったようだ。

アスモはトールの思惑を察したのか、すぐさまにブレードを取り外し真正面からトールを受け止める。

単純なパワーならアスモの方が有利だが、トールには助走という力がある。

さて、これはどっちが勝つか。

「くたばれアスモ!」

「お前がな!」

トールが助走の力を借りて勢いよくぶつかる。

それをアスモは氷の上ながらも滑る事なく見事に踏ん張り、トールを全力で押し返そうとする。

「ぐぬぬぬぬぬぬぬ」

「トールの癖にちょこざいな!」

あー、こんな氷の上で引き倒されたら痛そうだなー。

二人の意地と矜持をかけた戦いは現在アスモが押し返して有利である。

これはアスモの勝ちかな。

そんな感じで高みの見物を決め込んでいた俺だが、想いもよらない事態が起こる。

ピキピキピキ! パキパキパキキ!

「「「…………」」」

どこからか聞こえる音が場に沈黙を与える。

ピキパキパキ!

その音が聞こえるのはアスモの足元。見ればそこからは蜘蛛の巣が張られたかのように亀裂が入っていた。これから起きる最悪の事態を予想して俺達は思わず唾をのみ込む。

そしてアスモが緊張ゆえか、少し足を動かすと亀裂はさらに広がり俺達を脅かす。

「……アスモ。絶対に動くなよ」

「今お前が動くと割れる」

俺とトールは命惜しさに必死にアスモへと語りかける。

「…………」

ピキピキ

「「誰が動いていいと言った!」」

忍び寄る死の旋律が俺達を震わせる。

その旋律を奏でる中心地点にいる本人と言えば、足元を見て顔をくしゃりと歪ませる。

「ちょっと待てえええ! 何だその黒い笑顔は!」

何て邪悪な笑顔なんだろうか。コイツもしかして自分が助からない事を自覚して、俺達を道ずれにする気か! 待て待て。落ち着け俺。アスモはそんな酷い事を企む奴ではないはずだ。思い出そう。

俺と一緒にトールを穴に突き落として、その後一緒にトールを埋めて、トールを背中から押して滑らせたり――。

駄目だ。コイツはやる。絶対にやる奴だ。

ヤバいぞ。このままだと真冬の水に三人仲良くドボンだ。

幸いにしてここの川は深くはないのだが、この時期に落ちればそれはもう想像を絶する寒さが俺達を襲うだろう。そんな事になったら風邪を引くこと間違いなし。

何としてもそれは避けなければ。

だとすると俺が出来る事はこれだ!

「うわっ! 汚ねえ! アルの奴、自分だけ空に逃げやがった!」

呆然とした表情でトールとアスモが、『シールド』で空中に逃げた俺を見上げる。

悪く思わないでくれ俺はまだ死にたくないんだ。というか元々お前たちが起こしたことなんだ、俺は関係ないと思う。

「なあ、アル」

「何だ?」

「俺だけでもいいから助けてくれないだろうか?」

「自分だけ助かろうだなんて恥ずかしくないのか?」

「お前が言うか! ぶっ飛ばすぞ! ってうわあああああああっ!」

怒りのあまりに地面を強く踏みしめたが故に、トールは真冬の川にドボンした。