軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

かまくら

「もしかして、エマ達もワラサビを釣ってるの?」

トールとアスモが処置無しとため息を吐くと、エリノラ姉さんが尋ねた。

「はい、この時期にしか獲ることのできない貴重な食材ですから」

「素揚げにすると美味しいんだよね~」

ハキハキと答えるエマお姉様と、想像して頬をだらしなく緩ませているシーラ。

この二人と会うのも久し振りだったが、こちらも相変わらずなようだった。

「エリノラ様やアルフリート様も釣りにきたのですか?」

「ええ、父さんが大好物みたいでね」

エマお姉様の質問にどこか照れくさそうに言うエリノラ姉さん。

「じゃあ、一緒に釣ろうぜ!」

女性同士の会話に遠慮なく割り込んだせいか、エマお姉様やシーラの微妙な視線がトールに突き刺さっていた。

しかし、恋という名の麻薬にどっぷりと浸ってしまっているトールは、そんな状態に気付いている様子はなかった。いや、気付きながらも無視しているのだろうか。

「いいけど、この辺りは釣れるの?」

「結構いい感じだと思う。俺はもう十匹釣れた」

「私は七匹~」

アスモとシーラがワラサビの入った籠を見せてくる。

その中には十センチ程度の小さな魚がちょろちょろと泳ぎ回っていた。

白い体表に微かに黄色っぽい体表が浮かび上がっている。前世で見たワカサギにそっくりだった。

「おお、ここでもちゃんと釣れるみたいだな。なら、試してみるか」

「それでどうやるの?」

「まずは穴を空けることだな。これが一番大変なんだが、俺達には坊主がいる」

エリノラ姉さんの質問に答えたバルトロが俺に視線を向けてくる。

「俺が氷魔法で穴を空ければいいんだね?」

「そういうことだ」

バルトロが頷いたので、俺は氷魔法を使用して足元にある氷を丸い穴の形にくりぬいて持ち上げる。

氷の深さは二メートル近くあったのか、長大な円柱がにょきっと出てきた。

既にある氷を魔法でそのままくり抜くだけなので、非常に楽で魔力消費も少ないな。

適当な場所にコロンと円柱を転がすと、真下には穴が空いており水が見えた。

「見ろよ、アスモ。俺達があんなに苦労して空けた穴を一瞬で作りやがったぜ」

「アルの魔法が反則なのはいつものこと」

綺麗に出来上がった穴を見て、トールとアスモが遠い目をする。

遠くでは村人が螺旋状になっている穴空けドリルを必死に動かして、氷を割ろうとしていた。お世辞にもその進みは速いとは言えず、微々たる量の氷しか削り掘れていない。

電動式のものでもあれば、別なのだろうがこの世界にそんなものがあるはずがなかった。

きっと、トールやアスモは朝早くからやってきて、せっせとアレで氷に穴を空けていたのだろうな。

そんな推測をしながら俺はエリノラ姉さんとバルトロの分の穴を掘る。

「釣り場所を決めたら座るためのイスだな。普通は皆のように小さなイスを持ってくるか地べたに座るもんだが坊主がいれば必要ないな」

「そうだね」

土魔法を使って腰かけやすい小さなイスを作る。氷魔法で作ったらお尻が冷たくなりそうなので土魔法だ。

俺とエリノラ姉さんはそこに腰かける。

「これがワラサビを釣るための釣り竿だ」

バルトロからケースに入った釣り竿を渡されたので受け取る。

「随分短いわね」

それは通常の釣り竿に比べるとかなり短い。三十センチもないほどだ。

「ワラサビは小魚だからな。一般的な魚を釣るような長さも必要ねえんだ」

今回はワラサビしか狙わないからな。ワラサビを釣れるための機能さえあれば十分ということだろう。

「後は針と糸をつけてやるだけだ。付け方を説明するから真似してくれ」

糸と針、重りを手渡された俺達はバルトロの説明に耳を傾けながら、真似して竿に糸を付けていく。

途中でエリノラ姉さんが複数ある針を絡ませるハプニングはあったが、なんとか糸を結ぶことができた。

「餌はこの白虫だ。こいつを半ばから切ってやって針につければそれでいい」

バルトロが籠から取り出したのは小さな白い芋虫。

しかし、田舎育ちで比較的虫に慣れている俺やエリノラ姉さんはその程度で怯むことはない。それはトールやシーラも同じで誰も悲鳴を上げるような軟弱者はここにはいないのだ。

「何で切らないといけないの?」

「白虫の体液が出た方がワラサビが寄ってきやすいからだな」

「へー」

白虫を半ばから切る理由に、ちゃんとした意味があったことに素直に感心した。

うねうねと蠢く白虫をハサミでちょんぎって針につける。ちょっと可哀想であるが許してほしい。

「餌をつけ終わったらゆっくりと沈める。それから上下にくいくいっと三回くらい動かすのを繰り返してワラサビを誘う」

バルトロの言う通りに真似をしてくいくいっと三回ほど上下に振る。それからしばらくして、再び上下にくいくいっと。

「後はワラサビの群れがいる高さを見計らって調整し、当たりがかかるのを待つだけだ」

「ずっと竿を持ってないといけないのが面倒ね」

「それはトール達みたいに竿を置く台を置けばいいぜ」

よく見ればトール達の傍には木製の台がある。そこに竿を置いて、ワラサビがかかるのを待ったり、休憩したりしているようだ。

俺もそれを真似して土魔法で台を作る。そこに竿を置いて、休憩しながら誘う動きをすると気も張らなくて済む。

「後はワラサビを釣るだけだ。坊主と嬢ちゃんはここで釣っていてくれ。俺は他の場所も探ってみるからよ」

「わかった。何かあったら声をかけるよ」

エリノラ姉さんが何か口を開こうとする前に、俺がすぐに返事してあげる。

さすがにこれだけの少年少女を相手にしながら釣りをするのはバルトロも気疲れする。

精神年齢がおっさんの域に達している俺はバルトロの気持ちが非常によくわかったので快く見送ってあげた。

「さーて、釣れるかな」

俺は竿を持ってバルトロに教えてもらった通りに誘いの動きをする。

それを繰り返して、かかれば良し。かからなければ深さを変えるまでだ。

じーっと穴の中の水面を見つめていると、横合いから冷たい風が吹く。

「寒い~」

シーラが身をすくめながらか細い悲鳴を上げる。

しっかりとした防寒着を着ていても完璧というわけではない。

それにじっと座っている分、横合いから吹き付ける冷たい風は余計に寒く思えた。

「一番の敵はワラサビじゃなくて寒さね」

エマお姉様の言う通りだ。ワラサビとの駆け引きというより、これは寒さとの戦いになる気がする。

これではとても針先に集中ができない。

「少し暖かくしようか」

「おっ? アルのいつもの魔法か?」

トールが眉を上げる中、俺は氷魔法を発動。

ドーム状に押し固められた雪は見事に俺達を包み込んだ。

薄暗くなってしまったので上部に灯り兼、暖房の役割として火球を浮かべた。

「雪で作った壁なのに思ったよりも寒くないわね」

「風がこないし温か~い」

エリノラ姉さんの驚きの声とシーラのほっこりとした声は反響する。

そう、俺が作ったのはかまくらだ。こうやって風さえ塞いでしまえば、意外と快適なものだ。

前世でのワカサギ釣りなんかでもこういった室内釣りやテント釣りがあったからな。それを参考にさせてもらった。

「ありがとうございます、アルフリート様」

「いえ、少しでも快適に釣りをするためですから」

エマお姉様に礼を言ってもらえると俺も嬉しい。

これは皆が幸せになる魔法だな。

「こりゃすげえ!」

「さすがアル。一家に一台欲しくなる便利さ!」

余計なはやし立てをする悪友には氷魔法で冷風を送っておいた。