軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ドライフルーツ

トントントントン。

廊下を歩いていると厨房の方から食材を切る音が聞こえてきた。

もうすぐおやつの時間だし、バルトロが何か作っているのだろうか。それとも新しい料理の開発かな。

どちらにせよご相伴に預かれる可能性はかなり高いので期待して厨房を覗き込む。

すると、厨房にいたのは筋骨隆々のおっさんとはかけ離れた存在、メイドのサーラであった。厨房を見渡してみるもバルトロはいない。

「あれ? サーラなにしてるの?」

「きゃっ!?」

気になって声をかけると、サーラが短い悲鳴を上げて飛び退った。今のガチの悲鳴だよね。

「そんな風に包丁を持ちながら跳ねたら危ないよ?」

「……それはアルフリート様、こっそりと近付いて驚かすからです」

サーラを気遣って言ったのであるが、何故か白い目を向けられた。

「いやいや、一応気遣って真正面から近付いてきたんだけど?」

入り口から今いる場所は真っ直ぐだ。回り道をしようとしたら、この場所にならないと思う。

「え? 本当ですか? まったく気付きませんでした。申し訳ございません」

俺の言葉で真実性に気付いたのか、サーラが素直に謝る。

素でそんな風に言われる方が地味に傷つくのだが。

包丁を持っている相手を驚かすのは良くないと俺もわかっているので、ちゃんと気を遣って入ったつもりがこれだよ。何とかならないものかな。

「まあ、いいよ。ところでサーラが料理しているなんて珍しいね。何を作ってるの?」

「バルトロさんに厨房をお借りして、ドライフルーツを作っています」

厨房台を覗き込むと、そこには薄くスライスされたリンゴやオレンジが並んでいた。

「ドライフルーツって、切った果物や野菜を天日干しにして乾燥させるやつだよね?」

「はい、冬になると空気が乾燥するので作りやすくなるんです」

確かにこの乾燥した季節であれば、外に干しておけばすぐに乾燥が進むだろう。

それに乾燥させれば日持ちもするし、旨味が凝縮される。

この季節に作るのにはもってこいの食べ物というわけか。

特に複雑な工程も処理も必要ないので作るのも楽しそうだ。

「ねえ、俺も手伝ってもいい?」

「これは私の仕事でもありますから……」

「そんなこと気にしないって知ってるでしょ? 楽しそうだからやりたいんだ」

俺が素直にそう言うと、サーラは柔らかい笑みを浮かべた。

「では、お願いします」

「任せて」

どうせなら家族皆の分も作ってしまおう。

皆、外の気温が寒くなって出不精気味なんだ。食べる人はいくらでもいるしな。

台所で手を洗うと、サーラが台や包丁、まな板を揃えて置いてくれていた。

「じゃあ、俺はリンゴを切っていくね」

「はい、私はオレンジを切ります」

リンゴを手にした俺は、包丁をゆっくりと当てる。

「うーん、そのまま上から切っていこうかな。それとも横にしてお尻の方から切っていくべきかな?」

「……どちらでも結果は同じなのでは?」

「あっ、うん。それはそうなんだけどね……」

そうなんだけど、俺が求めていた会話のキャッチボールはそうじゃないんだよな。

もうちょっと上からの方が切りやすいとか、横から切った方が形が良さそうとか、中身のない平和な会話がしたかったのだが。

「すいません。ミーナであればこういう会話も得意なのですが……」

確かにこういう中身のない会話はミーナが大の得意だ。

その理由を解析して述べるのはあまりに失礼なので、これ以上の理由は考えないようにしている。

「そんな真面目に考えなくてもいいよ。適当に合わせて言ってくれればいいから」

「適当……ですか」

ああ、サーラが難しい顔をしている。

俺と違って真面目なサーラはこんな言葉でさえ、深い意図を読み取ろうとしているに違いない。

「サーラはリンゴを上から切ったリンゴと、横にしてお尻から切ったリンゴをどう思う?」

俺はリンゴを二つとって、それぞれの方法でスライスしたリンゴを見せた。

「どう思うですか……」

「上から切ったものの方がリンゴっぽい形だとか。横から切ったものは丸っこくて可愛いとか」

「なるほど、そのような考え方があるのですね」

俺が例を言ってみると、サーラは感心したように頷いた。

「なんてことのない事を口にするだけで十分なんだよ」

「そう解釈すれば、私でもこういう会話ができそうな気がします」

サーラはそう微笑んでオレンジをスライスしていく。

「綺麗に薄くスライスできると嬉しくなりますね」

「あー、そうそう。そういう感じだよ」

さすがはサーラ。俺の言葉の意味を理解して、実践してくれた。

そのような言葉こそ俺の求めていた返答だ。

人間、どの言葉でも深い意味を持たせると疲れてしまう。

たまにはこうやって中身のない会話の応酬をしていたいものだ。

サーラが迷走しないことに安心した俺は同じようにリンゴをスライス。

ドライフルーツなのでできるだけ薄くすると乾燥しやすくていい。

こうやってリンゴを薄くスライスしていくのって楽しいな。

リンゴにサクッと刃で通す感触や音がとても気持ちいい。

そして、何よりこうして綺麗な女性と肩を並べて調理するのが新鮮だった。

いつもむさ苦しいバルトロと肩を並べていたからな。

結婚して嫁さんができたら、こんな風になるのだろうか。

「あっ、失敗した」

「薄さを極限まで求めようとしましたね」

サーラの言う通りだった。

薄さを求めすぎるあまり、気が付けば刃が斜めに逸れてしまっていた。

妄想をしていたせいというのもあるが、こういう時もあるさ。

端材は自分の胃袋に入れて隠滅だ。

うーん、リンゴのちょうどいい甘さと瑞々しさが堪らない。

「アルフリート様、次はこちらの野菜もお願いできますか?」

二個のリンゴをスライスし終わったところで、サーラからニンジン、タマネギ、カボチャなんかを手渡された。

「おお、野菜も干すんだ」

「はい、保存食だけでなく、半干し状態のものでもスープや炒め物に使えるのですよ」

「へー、それは知らなかったや」

日光で旨味が増しているのでカリカリにまで乾燥させなくても、十分料理の具材として使えるのか。その使い方は知らなかったな。

味噌汁なんかに入れたらより美味しくなりそうだ。

俺は次々と野菜をスライスしていき、サーラはレモンやベリーといった果物をスライスしていく。

それが終わるとスライスしたものを布でしっかりと水分をとり、ザルの上に重ならないように並べていく。

それを日当りのいい中庭に置いて、虫が寄り付かないようにネットを被せれば終了だ。

「後は適当なタイミングで裏返して待つだけですね」

「ほんの少し面倒見るだけで保存食ができるなんて便利だね」

普通、スライスした果物や野菜を干しておこうなんて思わないよ。最初にこの方法を考えた人は天才だと思う。

「アルフリート様、この間作ったドライフルーツを取り込もうと思いますが一緒にどうですか?」

「おお、そういえばもう四日目か。ありがとう、俺も行くよ」

部屋でゴロゴロしているとサーラが呼んでくれたので、俺もドライフルーツを取り込むために中庭に向かった。

サーラがネットを取ると、そこにはすっかり縮んで乾燥したフルーツや野菜が並んでいた。

二日目の時に確認しにきたが、その時よりも断然乾燥が進んでいる。

「実際にカットしたサイズよりかなり小さくなっているね」

「特に水分が多いものはそれが顕著ですね」

まあ、果物や野菜にもたくさんの水分が含まれているので、それがなくなれば萎んでしまうのも当然か。

小さくなっても旨味は凝縮されているということは、初日の夕食に出た半干し野菜の味噌汁で身に染みて理解しているからな。

半干しであの旨味なら、四日近く干した果物や野菜はどうなるのか。

「ちょっと食べてみてもいい?」

「はい、乾燥具合を確かめる意味でも必要ですからね」

大義名分を得た俺は悩みに悩んで自分で切ったリンゴを手に取ってみる。

外側の皮は完全に水分が抜けているようですっかりと硬くなっている。身は曲がったポテトチップスのようで、触ると意外に柔らかい。

身から水分がなくなったザラッとしたスポンジのようだ。

乾燥したリンゴの観察を終えると、ぱくっと食べてみる。

「甘い!」

リンゴ強い甘味が口の中で広がった。

普通に食べるときと違って、水分がないからかより濃厚に味を感じる。

ねっとりとした甘みだ。

「オレンジもいい甘みです」

リンゴの感想を述べると、隣ではサーラがオレンジを口にしていた。

そちらもとても美味しそうで、俺はオレンジにも手を伸ばす。

オレンジはドライフルーツの中であまり萎まずに、形を維持していて綺麗だな。

「あ、水分がないように思えるけど、噛むとじゅわあって果汁が広がってくる」

触り心地や噛んだ感触はドライフルーツ。しかし、噛んでみると濃縮された果汁が一気にやってくる。

乾燥によって凝縮された旨味とわずかな水分が押し寄せてきたような感じだ。

リンゴとオレンジを食べると、次はベリーとレモンを食べてみる。

「んっ! 生のままだと酸っぱく感じたものでも乾燥させるとこんなに甘くなるんだ」

「酸っぱいものほど美味しく感じますね」

酸味が強いという印象があるからか、酸っぱいものが甘く感じるとそれだけ衝撃が大きかった。

他にもカラッカラになったニンジンやカボチャも甘味を増している。ただタマネギは少し辛味も強くなっているように思えた。

「総じて満足のいく出来になっています」

「なら、回収だね」

「はい」

問題なくドライフルーツとして完成しているので、ネットからザルを取り出して引き上げる。

「ねえ、これからまたドライフルーツを作らない?」

出来上がったものを食べて回収したばかりだけど、切って干すだけで出来上がるドライフルーツを魅力に感じていた。

気が早い俺の言葉を聞いて、サーラはクスリと笑た。

「いいですよ。今度は違う食材で試してみましょうか」

「うん」