軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ティクルの修業

「アルフリート殿の言う通り、私が使えないなら諦めよう。私の代わりに無属性魔法を使える部下を育成することにする」

とりあえず自分ではできないという事に一区切りはつけたのか、次なる方針へと移行するドール子爵。

「ティクル、うちの使用人の中で無属性魔法が使える者は何人いた?」

「え、ええっと、無属性魔法となると私だけだったかと……」

「なんとティクル! お前はサイキックが使えるのか!」

恐る恐る言うティクルの肩を勢いよく掴むドール子爵。

「は、はい、ですが私ではアルフリート様のように到底使いこなすことは……」

「う、うう、羨ましいいいい!」

控えめに言うティクルを見て、ドール子爵が血涙を流さんばかりに表情を歪める。

ああ、やっぱり諦めることなんてできていなかったんだ。本当は自分で動かしたくて堪らないんだな。あれだけ人形が大好きなのだ。すぐに諦めるというのは難しいだろう。

「ああ、ちょっと旦那様! か、肩が! 肩が砕けます!」

「ドール子爵、あまり力を籠めると貴重な人材がダメになりますよ」

「はっ! すまない! ……目の前にいるティクルがサイキックを使えると聞いてつい嫉妬してしまった」

俺が慌てて諫めてやると、ドール子爵は我に返って肩から手を離す。

ティクルがホッとしたように息を吐いていた。

大丈夫かな。ドール子爵の嫉妬を一身に受けて潰されなきゃいいけど。

「とりあえずティクルさんの力量を計る上で、人形にサイキックを使ってみせてもらえますか」

「ティクル、ナイトにサイキックを使うのだ」

「は、はい!」

ドール子爵に言われて少し緊張気味に返事するティクル。

そして、ナイトを見ると深呼吸して手をかざす。

「『我は求める 意思に従い 念動せよ』」

ナイトへとティクルの魔力が包み込まれて支配下に置かれることはなく、弾かれた。

「ふえっ!?」

「むっ? 動かんぞ?」

「あ、あれ? 私の魔力が浸透しない?」

あっ、やってしまった。今のナイトは俺がサイキックで操っているので未だに俺の魔力支配下にあるのだった。

「どういうことだ? もしかしてサイキックを使えないのか?」

「そ、そんなことはないはずです! 重い物は動かせませんが、人形の軽さなら私でも動かせます!」

俺のせいで責められているティクルがいたたまれない。

「あっ、ごめんなさい。俺がサイキックで魔力支配下に置いていたままだったので弾いてしまいました」

「サイキックとは他人が操っている状態だと使えないのか?」

「使えないことはないですが既に魔力によって他人の支配下にあるので、それを無理矢理奪い取って制御下にするのは難しいです。相手の魔力を乗っ取るくらいの魔力量を強引にねじ込めばできるとは思いますが」

サイキックは対象物に己の魔力を浸透させて自在に操る魔法だ。操ろうとする対象が既に誰かの魔力で覆われている場合は、それを上回る魔力で上書きする必要がある。

そんな理由もあってか、魔力が宿っている魔剣や道具などはサイキックで動かせないこともある。

「ほお、そうだったのか」

「周りにサイキックを使える人がいなかったので知りませんでした」

「無属性魔法を使える人は少ないですからね」

無属性魔法を使える人は少ないからな。ドール子爵やティクルがこの事を知らなくても仕方がない。俺も王都でラーちゃんとサイキックで引っ張り合いっこをして初めて気付いたことだし。

とりあえず俺の魔力があってはティクルがサイキックを発動できないので、魔力を霧散させる。

「これで大丈夫ですよ。もう一度お願いします」

「はい! 『我は求める 意思に従い 念動せよ』」

俺がナイトから魔力を解いて、ティクルが再びサイキックを発動。ティクルの魔力は今度こそナイトへと浸透して、ティクルの支配下となった。

ティクルが右手を動かすと、それを追うようにナイトが浮かび上がる。

上へ、右へ、左へ、下へ。ただただ俺達の目の前を人形が浮かんでいる。

これはこれで夜中に見たら不気味そうな光景だな。

「これではただ浮いているだけではないか。ティクル、次は歩かせるのだ」

「え、ええっと、歩かせるってどうやってやるのですか?」

ドール子爵の無茶ぶりを受けて、ティクルが困ったように尋ねてくる。

うーん、どうやって歩かせるか。教えてあげたいけど言葉で説明するのは難しいな。

「人形の手足をバラバラに動かしつつ、重心が崩れないように全身を維持するって感じかな?」

「ふえっ? 手足をバラバラに動かす? そ、そんなことができるのですか?」

「できますよ。ほら」

俺は目の前で見本を見せるようにエリザベスをサイキックで歩かせる。

大きく手を振らず、街を歩く淑女のように小さな歩幅で歩くエリザベス。

きちんと彼女の足はサイキックによって動かされているのだ。動けないことはない。

「え、ええええ?」

歩くエリザベスを見て困惑するティクル。

サイキックを扱うのならこれくらいの魔力操作は出来て当たり前じゃないのだろうか?

「とりあえずやってみせるのだティクル!」

「は、はい」

ドール子爵に促されて、自信なさげに頷くティクル。

宙に浮いていたナイトがゆっくりと床に着地することなく倒れた。

倒れたナイトを再びサイキックで立ち上がらせるティクル。歩かせるために床に立たせようと動かすが、それでもナイトは倒れてしまう。

「あっ、うう、立たせるのも難しい」

人形を立たせることができず苦戦するティクル。

「きちんとナイトを立たせるのだ! 床をよく見ろ!」

目の前でサイキックを使うティクルがもどかしく感じるのか、ドール子爵の声に熱や苛立ちが入る。

ドール子爵のプレッシャーがかけられる中、ティクルが涙目になりながらサイキックに再挑戦。しかし、ナイトはそれに答えることなく、何度も何度も床に倒れる。

「しっかりしないか! 人形が歩く姿が見られるのはもうすぐなのだぞ!」

「まあまあ、ドール子爵、あまりティクルにプレッシャーをかけてはいけませんよ。魔法は使用者の精神にも影響を受けます。それに人形を立たせるということはずっと難しいことなのですよ」

「そ、そうなのか。すまない、つい熱が入ってしまって……ぐぬぬ、私にもサイキックが使えたら」

やっぱりまだまだ引きずってるようだけど、それは時間が解決するものだしな。

「ティクルさん、サイキックで人形を操る際は自分の身体を意識するとイメージしやすいですよ。こうして立っている状態でも重心はどこにあるのか、どこを支えてあげれば倒れることはないのか。それを理解していけば少しずつ上達するはずです」

「は、はい! 自分の身体に意識ですね!」

俺のアドバイスを聞いて、部屋の中を歩いたり重心を確かめたりするティクル。

それをドール子爵がいじらしそうに見ている。

うーん、サイキックで人形を動かすのは魔法に慣れている俺でも一日はかかったし、そう簡単にできるものじゃないんだけど……そんな事を言っても、落ち着いてくれなさそうだな。

ここは別の話題なり、夢中になれることなりを用意して落ち着かせてみるか。

「ところでドール子爵は、人形を作るのが得意なんですよね?」

「む? そうだな。我が領地では綿や布と人形を作るために必要な素材がたくさん手に入る。小さな頃から母上に教わって作っていたから得意だ」

やはり人形について語るのは楽しいのか、ティクルの事を忘れて饒舌に話し始めるドール子爵。

「なるほど、今って人形を作ることってできますか? 人形を作る様子を見たいです」

「勿論いいとも! バスチアン、いつもの裁縫セットを持ってこい!」

「はい、ただいま!」

ドール子爵が叫ぶと、程なくして執事のバスチアンが返事し、大きなバッグを持ってくる。

ドール子爵はそれを受け取ると、慣れた様子で裁縫セットを出し始めた。

凄い。何色もの糸に布、柔らかな綿に針や、ハサミがしっかりと整理されている。

「さて、何を作ろうか。何かリクエストはあるか?」

「……では、ティクルのスリッパのようなカエルを小さく可愛くでお願いします」

「可愛く……それはどのようにすればいい?」

ふむ、そこはお任せでもいいのだが、こっちが要望を言ってるのだし、具体案を出してみるか。

俺は土魔法を発動して真ん丸の土玉を作る。そこにカエルらしい小さな手足を生やして、凹凸は少なくデフォルメしたカエルの顔に整形。

「こんな感じの丸いカエルはどうです? 中に綿を詰めてあげれば柔らかいですし可愛いと思います!」

俺が土魔法で作った、デフォルメカエルフィギアを渡すと、ドール子爵が興奮した様子で持ち上げる。

「お、おお! 現実にいるカエルとは違って真ん丸だ! だが、それが愛らしいポイントだ! アルフリート殿の言うように綿を詰めてやれば柔らかくも愛らしいものになる! 口なんかはわざと開閉できるようにして中に赤い布で縫い付けてやれば、口を開けて楽しむことも軽い物なら入れることもできる!」

「銅貨や銀貨などを入れてあげれば可愛い財布にもなりますね。敢えて綿を詰めないでおいて、自分のお金を入れて丸く太らせる貯金箱みたいにしても面白いかも」

「アルフリート殿は天才か! しばし待て! すぐに作り上げる!」

何だか自分でも考えているうちに面白くなって提案すると、ドール子爵が予想以上に食い付いた。

ドール子爵はカエルに使うだろう緑色の布や赤色の布を並べて選定。そして針に糸を通すと、その大きな巨体に似合わずに物凄いスピードで布に針を潜らせていく。

すげえ、本当に自分で縫う事ができるんだ。

二メートル近くのあるドール子爵が座り込んで、必死にチクチクとやっている様はシュールだ。

ともあれ、ドール子爵も真剣に打ち込むものができて一安心だ。これでしばらくは人形を動かすことだけに意識がいってしまって焦ることもないだろう。