軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

カナヅチ二人

「もっと広いところで思いっきり遊びてえな」

鮎の塩焼きを食べ終わり、足を水に入れて涼んでいると隣でトールが呟いた。

「コリアット村にある川はそこまで大きいものがないからね。あるとしたら湖くらいかな?」

「でも、あんまり深いところは危ないよ?」

アスモの言う通り、湖で遊ぶのは少し危険だ。水深が深いし、浅瀬には水草も生えている。子供が遊ぶにはあまり良くない選択肢だ。

「だあー、ここらにちょうどいい深さの川はないのかよ! こう深さと石とかそういうのに気を付けなくてもいい広くて安全な場所!」

「そんな都合のいい川ある訳ないじゃん」

「無いなら作ろうか」

「「作れるのか!?」」

俺がそう言った瞬間、トールとアスモが驚いた顔をこちらに向けてくる。

別に見られること事態は構わないのだが、二人揃って振り向かれると絵面的に苦しいものがあるな。

「俺には魔法があるからね」

土魔法と水魔法を使えば、水深も一定で、障害物を気にせずにいられるプールが作れるじゃないか。

思い立った俺は早速行動に移すべく、立ち上がる。

川から適度に離れつつ、木々の無い平坦な場所が好ましい。

少し移動すると、草が生えているものの木々の無い平坦な場所を見つけた。

「よし、ここにしようか」

ここなら仮に五十メートルのプールを作ってしまっても問題なさそうだ。

場所を選定した俺は手を地面にかざして土魔法を発動。それにより何もない地面が一気に陥没していく。

「「おおおおおお! すげえ!」」

これにはトールとアスモも驚きの声を上げる。

「今までのアルの魔法の中で一番派手だぞ!」

「うん、何か魔法っぽい!」

おいおい、俺ってばいつも魔法を使っているじゃないか。と思ったが、こいつらの前ではコップや椅子を作ったり、冷気を振りまいたりと割と地味な魔法ばかり使っていた気がする。

そう言われても仕方ないのかもしれないな。

ちょっと悲しくなりながらも俺は土魔法で掘り下げた地面を長方形にしていく。サイズは二十五メートルのもので十分だろう。

簡易的な土台ができたので俺はプールの中に降りて、地面に手をかざして魔力の圧縮で固めていく。

「あっ、何かいつものアルっぽいな」

「よくわかんないけど地味になった」

「土魔法は、魔力の圧縮でむらなく固めるのが大事なんだよ!」

これだけ大きな物になると魔力の圧縮が大変なのだ。そして、きちんとするためには遠くからでも圧縮はできるが、きちんと手を触れてやった方が確実性は上。

そのためにどうしても今の俺の姿は、地面に手をかざして移動するような地味なものになっているのだ。

魔法のことがさっぱりわからないトールとアスモには俺の苦労がわからないようで、ヘラヘラと笑っている。

まあ、いいや。地味だなんだと言われようが俺は俺のやりたいようにやるだけだ。

プールの床に降りたので、上がりやすいように手すりと壁に足をかけられる段差を作る。

足のかけやすさを確認しながら上り、飛び込み台を作っておく。

そして念のためにプールの周りも平らにする。

「後は水魔法で水を入れるだけ!」

飛び込み台の上に乗った俺は、水魔法を発動。空中で水を収束させて、一気にプールへと流し込む。

大量の水が勢いよく流れ込んだお陰か、ドパアと音を立ててプール内で弾ける。

「「おおおおお!」」

また地味だとか言われてはちょっと悔しいので、派手目にしたのだが反応は悪くないようだ。

そのまま水を注ぎ続けるとプール内はあっという間に水で満たされた。

しかし、プールの下が土色なので透けてみえる色も茶色だ。前世のプールのように水色ではないために少し見た目では清涼感が足りない気がする。

「すげえ! これなら思う存分に遊べるな!」

「石も水草もないし、深さにむらもないしね!」

とはいえ、トールやアスモはそこまで気にならないらしく純粋に喜んでくれている。

それなら作った甲斐もあったというものだ。

「それじゃあ、泳ごうか」

「泳ぐ?」

俺が服を脱ぎながら言うと、トールが怪訝そうな表情で言う。

「うん? 泳ぎたいから広い場所が良かったんじゃないの?」

「あ、ああ、そうだな。じゃあ、泳ぐとするか」

俺がそう尋ねるとバツが悪そうに服を脱ぎ始めるトール。

……こいつ、もしかして泳げないのか?

チラリとアスモを見てみると、アスモはニヤリとした笑みを浮かべていた。

そのあくどい顔は雪が積もった時に見たものと同じ。

アスモの笑みでこれからやることを理解した俺はゆっくりと頷く。

アスモが頷いて両手を構えると、俺も同じように両手を構える。

それからタイミングを合わせて、上のシャツを脱ごうとしているトールを思いっきり突き飛ばした。

「「そーれ!」」

「うおっ、わあああああっ!」

トールの悲鳴が上がって、それをかき消すように水飛沫が上がる。

それからブクブクと泡が立って、水面からトールの顔が出てくる。

「あばっ! あばばばっ! 助けてくれ! 俺、泳げねえんだ!」

予想通り、トールは見事にカナヅチなようだ。

バシャバシャと手を動かしながら、トールが悲鳴を上げる。

いつもは強気なトールが、こうもプライドを捨て去って助けを求める様は珍しい。

とはいえ、泳げないトールからすれば、水の中は恐怖以外なにものでもないだろう。

本当にこいつはどうして広い場所で遊びたいなどと言ったのやら。

「ほら、それに掴まって」

手を伸ばしても届かない位置にいるので、俺は土魔法で作った板をトールのところに放り投げる。

すると、トールはすぐさま板に寄りかかって浮かぶことができた。

「はーはー、酷えことしやがるぜ」

「広い場所で遊びたいとか言うから、てっきり泳げるもんだと思っていたよ」

「ははは、ないない。ここには深い川もないから、泳げる村人なんてほとんどいないよ」

俺がそう言うと、アスモが笑いながら答えた。

おや? ということは、ここの村人でもあるアスモも泳げないということでは?

そんな思考がよぎった瞬間、俺は好奇心に突き動かされるようにアスモの後ろに回り込んで、プールへと突き飛ばした。

「どわあっ! アル、裏切ったな!」

そんな捨て台詞のようなものを叫んで、プールに頭から突っ込むアスモ。圧倒的な重さのせいか大きな水飛沫が上がる。

俺は一度としてアスモと組むといった言葉を言った覚えはないのだが。

「ひ、ひいいいーっ! 助けて! 足がつかない!」

どうやら見事にアスモも泳げないらしい。

さっきはまるで泳げるかのような素振りでトールを突き飛ばしていたのにな。

「板! 板をよこせ!」

「バカ! やめろって! お前みたいなデブが無造作に体重をかけると沈むだろうが! 俺の反対側を掴め!」

アスモもトールと同じように板に掴まることによって落ち着くことができたよう。

それから二人はぎこちなく足を動かして、水面を移動してプールサイドにたどり着くことができた。

いつもはバカにしあったりしている二人が、真剣に力を合わせているのを見るのは新鮮だ。それにちょっと面白い。

「おらあ! 覚悟はできてるんだろうなアル!」

「次はお前の番だ!」

俺が二人を見て笑っていると、トールとアスモがこちらにやってきて取り囲んでくる。

道理でスムーズに協力していると思ったら、次に俺を突き飛ばすために結託していたのか。

俺としては魔法で逃げてもいいのだが、それをやってしまうと次に何をされるかわからないし、ずっと背後を警戒しなくてはならなくなる。

別に俺は泳げるのだし、大人しく報復を受けておくか。

とりあえず逃げる素振りだけすると、アスモが素早く前に回り込んで両足を掴んでくる。

「おわっ!?」

足がすくわれて身体が後ろに倒れると、それを受け止めるようにトールがキャッチして俺の両腕を掴んだ。

こ、こいつらガチだ。無駄な時だけスペックの高い連携技を駆使しやがって。

「へへへっ、俺達が力を合わせて遠くまで飛ばしてやるぜ!」

そしてトールがチンピラのような下卑た笑みを浮かべると、二人が俺を手と足を掴みながら勢いをつけるように左右に振る。

手足を掴まれている俺はなすすべもなく左右に揺らされて、勢いがついたところで投げ飛ばされた。

「「おらぁ!」」

勢いよく空中に投げ飛ばされた俺。視界では青い空と白い雲が広がっており、遠くでは緑色の山々が見えておりとても綺麗だ。

空中で景色を見ている時間は一瞬のはずであるが、体感的には長く感じられた。

そして、浮遊の時間の終わりを告げるように俺の身体は重力に引っ張られて勢いよく落下する。

トールやアスモが落ちた時よりも大きな水飛沫が上がると共に、俺は水の中に入る。全身を冷たい水が包み込んで気持ちがいい。

だが、高いところから水面に打ち付けられたせいか、お腹の辺りが少し痛い。

水面というのは高いところから落ちて、広い面積で受けてしまうとどうしてこんなにも痛いのか。パッと見、柔らかそうにしているのだからスライムのように衝撃も受け止めてくれたらいいのに。なんてことを割と本気で思う。

お腹の鈍痛を堪えながら、俺はゆっくりと目を開ける。

俺が作ったプールはしっかりと出来ており、水面の底では光の加減でゆらゆらと揺れる影ができていた。外の音は聞こえずとても静かだ。

微かに流れる水の音に耳を傾けながら、俺はじーっと座り込む。

水の中の世界というのは中々にいいものだ。ずっとここにいたいとさえ思える。

今度シュノーケルのようなものを作って、ローガンにゴーグルを作ってもらおうか。

「おい、アルが上がってこねえぞ! 大丈夫かよ!?」

俺がそのような事を考えていると、外からトールのそんな焦った声が聞こえてくる。

どうやら俺がプールにぶち込まれて、全然上がってこないものだから心配しているらしい。

溺れたなどと誤解されては面倒なので、俺は水の世界に浸るのを中止して浮上する。

「ふう」

「お、アルが出てきた!」

俺が空気を吸って顔を出すと、トールとアスモが板を持って慌てて駆け寄っているところだった。

「ははは、俺はトールやアスモと違って泳げるから問題ないよ」

トールとアスモに問題ないことを証明するように平泳ぎを披露する俺。

「んだよ、泳げんのかよ!」

「……心配して損した」

いつもはバカなことばっかりしてるけど、いざという時はちゃんと心配してくれる二人が少し嬉しかった。

「もがくアルにこの板を渡してやるか、やらないかで苛めてやろうと思ったのによ」

「まさか泳げるとは予想外」

前言撤回。こいつらはクズだ。

「というか泳ぎなんてどこで習ったんだよ?」

「カグラに行く際に海でね」

本当は前世の学校で習い、こちらでも感覚として覚えていただけなんだけど、こっちの方が都合がいい

や。

「俺にも泳ぎを教えろよ! 俺もすーっと水の中を泳げるようになりたいぜ!」

「俺もー」

「しょうがないな。じゃあ、泳ぎ方を教えてあげるよ」