軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

トマト収穫

「よし、アル。次の場所に行くぞ!」

きゅうりを食べ終わり、次はどのような野菜を頂こうかと物色しているとトールがそのように呼びかけてくる。

「ええ? トマトとか水ナスとか他にも夏野菜を食べさせてくれるんじゃなかったの?」

これでは屋敷の中庭で言っていたことと話が違うではないか。

きゅうり以外にも夏野菜を食べさせてほしいのだが……。

「違げえよ。もっと美味しい場所に行くんだよ」

「そうそう」

「……もっと美味しい場所?」

「とりあえず付いて来いよ!」

トールがそう言ってアスモと共に移動を開始するので、俺は首を傾げながら付いて行く。

トールとアスモが向かった先は、さっきの畑よりもより村の外側にある場所。

そこにはだだっ広い畑があり、そこではトマトやとうもろこし、キャベツ、ピーマン、カボチャなどといった沢山の野菜が育てられていた。

どうやらここでは野菜を大量生産しているらしい。

「ここのトマトとトウモロコシは特に美味いからな。早速収穫するとするか」

「え? ちょっと待って。ここって違う人の畑だよね?」

普通に畑へと入っていくトールとアスモを制止する俺。

さっきトールとアスモは細々と野菜を育てていると言った。ここにある畑はどう考えても二人の畑ではないだろう。

「何言ってんだアル。コリアット村に住む村人は、皆昔からここに住んでいてな、助け合って生きているんだ」

「苦楽を共にしてきた村人は、言わば家族のようなもの。家族だから食べ物を共有したりするのは当然」

「なるほど、村ならではの文化だね――なんて納得するわけないじゃん。普通に声をかけて分けてもらおうよ」

俺がそのように言うと、トールとアスモは腕を組んで考え込む。

「……なるほど、貴族であるアルがいれば正面から堂々と食べることができるな」

「さすがアル。権力を使って堂々と貰おうなんて……」

「何を勘違いしているか知らないけど、普通にお金を払うつもりだから」

村人がくれるなら貰うが、こちらから押しかけて無料で寄越せと強請ったりはしないさ。

「すいませーん」

「ああ? って、アルフリート様じゃないですか。こんなところまで、どうしたんです?」

ちょうどトマト畑で収穫している村人がいたので声をかけると、俺に気付いたのかわざわざこちらにやってきてくれる。

「美味しいトマトや水ナスがあるって聞いたから、売ってもらいたいなーと」

「ああ、そうでしたか! なら、ちょうど収穫したのがあるので自由に持っていっていいですよ」

「やりー! アルがいるとやっぱり違うな!」

「普段、イグマはケチなのにね」

村人であるイグマが自由に持っていいと言うと、トールとアスモが喜びの声を上げる。

それを見た瞬間、イグマの表情がイラっとしたのが見えた。

「ただし、トールとアスモは金を払え」

「んだよ、それ! ふざけんなよ!」

「差別は良くない」

「差別じゃなくて区別だ。どうしても食べたいって収穫を手伝え。そうしたら少し分けてやる」

「「ぶーぶー!」」

「文句があるならどっか行け、クソガキ共」

トールとアスモが不満の声を上げるが、イグマは手をシッシと払うような仕草をする。多分、善良なる子供であれば、特に何も言われることなく一個や二個貰うことができたのだろうな。このような対応をされるのは、トールとアスモの普段の行いのせいだろうな。

「まあまあ、ここは収穫を手伝って分けてもらおうよ」

「チッ、しゃあねえな」

「じゃあ、パパっと収穫して貰おうか」

「え? アルフリート様は、こいつらみたいに働いてもらわなくても……」

「いや、俺も収穫してみたいから手伝うよ」

さっき無料で貰うことはあんまりしないみたいな言い方をしたので、ここで俺だけ無料で貰うのも何か情けない。

それに野菜の収穫とかあんまりしたことがないので純粋にやってみたいのだ。屋敷の中庭で家庭菜園をやっているけど、まだまだ収穫までは遠いみたいだし。

「まあ、アルフリート様がいいのなら」

ということで、早速トマトの収穫だ。

俺とトールとアスモはイグマに連れられて、トマト畑へと入る。

するとイグマが屈み、下に実っている赤いトマトを見せる。

「ヘタ際までしっかり赤くなっているものや、ヘタが上に反り返っているものを採ってください。それらは収穫時期なので。後はヘタから簡単に取れるかも完熟具合を示しているので、茎の様子も見てあげてください」

「わかった」

ただ赤くなっているものを収穫すればいいと思っていたが、中々に見分けるポイントがあるようだ。俺が感心しながら返事したが、トールとアスモは当然のような表情だ。

「二人は家でも育てているから知ってるんだね」

「当たり前だろ。というか家で育てていなくても知ってるけどな」

「どうして?」

俺が尋ねると、トールの言葉に同意するように頷いていたアスモが口を開く。

「物々交換で少しでも美味い物を手に入れるためだよ」

ああ、そうか。村では物々交換が主流だし、食材を交換する時は少しでも美味しい物を手に入れたくなるよな。

さすがはアスモ。子供とは思えないくらい食に対しての執着があるな。

「後はちょっくら貰う時に一番美味いものを食べるためだな」

そう言って、トールは赤くなっているトマトをもぎ取って食べる。

そのトマトは見事な赤色でヘタもきちんとせり上がっている。数多のトマトの中から躊躇なく選んだ辺り中々の審美眼を持っているようだ。

「こら! 収穫してからだって言っただろ!」

「へいへい、わかってるよ。ちゃんと収穫しますって」

イグマに怒られながらも手袋を手にして、歩き出すトール。

まったく、あいつは憎たらしい奴だ。

「じゃあ、そんな感じで収穫をお願いしますね。わからないのがあれば、俺か二人に聞いてください」

「わかった」

そう言って、イグマからハサミと手袋を渡されたので、俺とアスモは早速収穫作業へ。

手袋をはめてハサミを持った俺は、早速目の前にあるトマトの列に歩き出す。

「あっ、アルフリート様。収穫用の籠を忘れてますよ」

おっと、しまった。トマトを採ってやることばかり考えていたせいか、すっかり抜けていた。

俺は無魔法のサイキックで離れた場所にある収穫籠を魔力の支配下に置き、それからゆっくりとこちらへ移動させる。

「わー、便利だな」

サイキックの魔法が馴染みないせいか、イグマが呆けながら感想を言う。

ふふふ、無魔法は便利だろ? サイキックさえあれば籠を取りに行く必要も、持っている必要もないのだよ。

「アルの魔法って痒い所に手が届く感じだよね」

「褒められてはいるんだろうけど、その表現はちょっと嬉しくないかも」

「とりあえず、アルの近くにいるよ。近くにいれば籠を持たなくていいし」

そう言って、俺の傍にやってくるアスモ。

まあ、経験者がいるのは心強いからいいけどね。

とりあえずは収穫だ。どうやら下に生っているトマトが収穫時期を迎えて赤くなっているようなので、俺は屈みながら注視する。

生い茂る葉っぱをどかして覗き込むと、そこには赤々しているトマトがいくつもある。太陽の光を反射して光り輝くトマトはとても綺麗だ。

まずは全体が赤く、ちゃんとヘタ際まで赤くなっているか。それとヘタがせり上がっているかを確かめないとな。

俺はトマトを優しく触って確かめる。

「色よし、ヘタよし。これは収穫してもいいよね?」

「うん、問題ないよ」

後ろにいたアスモに見せて尋ねると問題ないと言われたので、俺はハサミを使ってトマトを茎から切り離す。

「あっ」

「あって何? もしかして間違ってた?」

切ったタイミングで言われると怖いんだけど。

「いや、切る時はトマトのヘタの先を残さないように切って。そうしないと籠に入れた時とか他のトマトを傷つけちゃうから」

そう言って、アスモが一つのトマトを見せてくる。

それは実のギリギリのところで茎が切られており、茎はほとんど残っていなかった。

確かにこれだけ長いとぶつかった時に、他のトマトに刺さったりするな。

アスモの言っていることを理解した俺は、長く残っていた茎を実のギリギリで落とす。

すると、アスモは鷹揚に頷いて、自分のトマトの収穫作業に戻った。

手早くトマトを見つけ出して、ハサミでぱちりと切っていくアスモ。

俺もドンドンと収穫していかないとな。

トマトを籠の中に置いた俺は、トマトが赤くなっているか一つ一つ確認して収穫していく。

葉っぱや茎をどけて見つけ出し、収穫の条件を満たしているか見定める作業。

それは単調で葉っぱをかき分ける度に、赤々としたトマトを見つけるのはちょっぴりワクワクして楽しい。他人の畑のトマトを収穫するだけでこれなのだ。自分で一から育てたものであると、その時の感動や楽しさは人一倍大きいのだろうな。

今は中庭にある家庭菜園のほとんどをバルトロに任せているが、俺も少しくらい手伝ってあげようかなと思えるな。