軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

小川でモゾモゾ

「よし、行くか」

トールとアスモと遊ぶことにした俺は、麦わら帽子を被り、タオルをシャツの中に入れ込んで屋敷の外へと出た。

玄関の扉を開くと、むあっとした空気が俺を包み込み、猛烈な日差しが差し込んでくる。

それでも堪えられない暑さなどではない。前世の日本の方がこれの二倍以上は暑くて、不快感が強かった。それに比べれば、これくらいどうってことはない。

そう必死に俺は思い込んで、扉を開けて階段を降り、トールとアスモが待っている中庭に向かう。

「おう、やってきたか! ははは、麦わら帽子が絶妙に似合ってるな!」

「そういうトールは、本当に悪ガキみたいな格好だね」

白いシャツに茶色の短パン。それに麦わら帽子を被っており、さらに虫かごと虫取り網でもあれば、完全に田舎にいる小僧だ。

「何だよ悪ガキみたいな格好って……」

「その言葉そのままの意味」

「うっせえなアスモ。畑にいるおばちゃんみたいな格好しやがって」

「どうとでも言うといいよ。これが涼しいんだから」

アスモの格好もトールと似たようなものであるが、麦わら帽子の下にタオルを入れており、首筋や顔の横顔を日差しから守っているよう。

確かに日差しは防げて少しは涼しいであろうが、そのふくよかな顔立ちも相まって完全に畑にいるおばちゃん状態だな。

「あれ? アル、水筒は持ってきてないの?」

「俺には水魔法があるから」

トールとアスモは革袋の水筒を腰にぶら下げているが、俺にそれはない。

「あー、ずりい!」

「俺は氷魔法を纏ったりしないだけであって、水魔法や風魔法は適度に使うから」

今回はできるだけ自然を楽しむということであって、別に何もかも魔法に頼らずに生活しようという訳ではない。水魔法で水分補給くらいは遠慮なくやる。

「屋敷にくる途中で半分なくなったから、水入れて」

「はいよ」

「ああっ! 俺も!」

結局はトールも水筒の中身が少なくなっていたので、俺は仕方なく二人の分の水を補給してやる。ないとは思うが、水分不足で倒れられたりしたら洒落にならないしな。

「さて、それじゃあ出発しようか」

「そうだな!」

水筒が満タンになったところでトールが先頭を歩いて、俺とアスモがその後ろをついて歩く。

今日も外の天気は良く、屋敷から続く一本道や青々とした平原がよく見える。その奥ではいくつもの山が重なり合っており、その間から入ってくる風が俺達の肌を撫でていく。

「風があると思っていたよりも涼しいもんだね」

最近は氷魔法で冷気を纏って暑さを凌いでいたので、風だけの涼しさというものが随分久し振りのように感じられる。

この感覚に慣れている人からすれば、確かに氷魔法による冷気の涼しさというものは少し違和感を覚えてしまうだろうな。

「ここは何でか風が強いから涼しいんだよな」

「たまにそういう場所があるけど、何でだろうね?」

「地形によって風の通り道ができるからだよ」

「風の通り道? 何だそれ? 風が通る道なんてあんのかよ?」

首を傾げるトールとアスモに、軽く説明してあげるも余計に疑問が広がってしまったよう。

空気の流れとかを仕組み自体を良く知らない二人では難しかったか。とはいえ、一般教養を学んだ程度の俺も、専門家ではないので詳しくは言えないのだが……。

「高い山などが多いと空気の軌道が変わったりするんだ。あの辺とかの山にぶつかった風が、空いているこの平原地帯に流れ込む感じだよ」

「ふうーん、山が多いせいで空いている場所に風が流れ込みやすいって感じかな?」

「うん、そういう感じ。だから、ここは風が吹き込みやすい場所なんだ」

「何かよくわかんねえけど、ここは風が吹きやすくて涼しいってことだな!」

まあ、極論ではあるが、地形によって風が強く吹き込む場所があるってことくらい知ってもらえればいいだろう。

吹き込む風を全身で感じながら道を歩いていると、小さな木製の橋があり、その下では小川が流れている。

俺達は特に声をかけ合うでもなく、その涼しげな水の音に誘われるように近付く。

夏の小川には様々な生物が生息している。草を掻き分けて歩くだけでバッタが跳ね、止まっていた蝶々がヒラヒラと舞い上がる。

水辺を求めるのはやはり生き者の本能なのだろうか。

水面を覗き込むと、小魚が優雅に泳いでおり、石ころの近くや端の方を川エビがひっそりと住んでいる。

そこに手を入れると、暑い夏でも小川の水温は低くて冷たかった。

「手を突っ込んでいるだけで気持ちいいね」

「うん、流れる水が手の平から抜けていく感覚がいいや」

わざと水の流れに抗うように手の平を広げると、そこを流れる水が一気に通っていくのだ。

指の間をすり抜ける心地良さといったら、何とも言葉にできないもの。

「あ、さっきアルが言っていた風の通り道ってやつも、これと似たようなもんか?」

「「…………」」

トールの言った何気ない言葉を聞いて、俺とアスモは絶句する。

「おい、何だよ。その信じられないようなものを見たような顔は?」

「ごめん、控えめに言ってバカだと思っていたトールが、こんなことを言うなんて思わなかったから」

「大丈夫かトール? 暑さで頭がおかしくなった? ……でも、熱はないね?」

アスモが思わず額の熱を手で計るも、異常はなかったようだ。

「むしろ、暑さが一周して賢くなったとか?」

「……あり得る」

「本当に失礼だな、お前ら!」

俺とアスモが真剣に心配していると、トールが急に怒って水をかけてくる。

「冷たくて気持ちいいけど股間は狙わないでよ! わかってはいても、なんか人前を歩きづらいから!」

「ははは、ざまあみろ!」

股間を濡らされると不快感があるし、パッと見お漏らししたように見えるので止めてほしい。

「ひいいっ! なんか身体がモゾモゾする!」

俺がトールに抗議をしていると、同じく被害者であったアスモが突然服を脱ぎ始めた。

汗と水で湿ったシャツの下から、脂身の乗った脂肪がデロリと出てくる。

屋敷から歩いて百メートルも進まないうちに、見苦しいものを見てしまった。

にしても身体がモゾモゾするとは一体……。

俺とトールが驚きながら見守っていると、アスモの身体からピョンピョンと跳ねる何かが見えた。

「何今の?」

「ああ、川エビだな! ははっ、俺が飛ばした水の中に混ざってたみてえだな!」

俺が疑問の声を上げると、跳ねた川エビを指さしながらトールが笑う。

「何だ川エビか。てっきりムカデとか変な虫とか入ってきたかと思った」

服の下に入ってきた存在が川エビとわかり、安心したようにため息を吐くアスモ。

川エビは小さいとはいえ、それなりに足も生えているしな。勘違いしてしまうのも無理はない。というか同じような目に遭えば、俺も同じように勘違いしそうだ。ムカデとかクモなら絶叫ものだな。

「はは、俺のことをバカにするから罰が当たったんだよ」

「だったらアルは?」

「おお、だったらアルの服の下にも川エビ入れとくか!」

まるでジュースでも飲ませるかのような軽い感覚で言うトール。

俺は危険を感じて即座に逃げようとするも、近くにいたアスモにガッチリとホールドされてしまう。

「アル、逃がさないよ」

「うわあっ! というか裸な上に汗と水でぬめってる!」

いつもならこんなシチュエーション嫌がるはずなのに、他人を不幸に落とすためならば自分の不幸すら厭わない。やはりこいつも生粋のクズだ。

「ははは、観念しやがれアル!」

この後、俺もモゾモゾしてアスモと同じように服を脱いだ。