軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

赤ワインのかき氷

朝食を食べ終わり、リビングで食休みした俺は自分の部屋に戻る。

「そろそろお土産を持って行かないと、トールとアスモが突撃してきそうだな」

コリアット村に帰ってきて三日目。うちの馬車は大変目立つし、狭い村社会だ。俺達家族が帰ってきていることくらい村人の皆はとっくに知っているだろう。

都合の良い考えをしている二人は、友達だから絶対にお土産を持ってくるに違いないとか思って楽しみにしているはず。

俺の性格上、帰ってきた初日や二日目は屋敷から出ないことは察しているだろうから、今日ぐらいに来ると思って楽しみにしているのだろうな。そして、その期待を裏切れば屋敷まで押しかけてくることだろ

う。

屋敷に入れるとあいつら寛ぎまくるせいか中々帰ってくれないからな。

外は暑いので出歩きたくはないが、久し振りにコリアット村の風景を楽しみたい思いもある。

やはり、ここらで俺がお土産を持って行ってあげるか。

さて、トールとアスモへのお土産だけど何がいいか。

まずは浜辺で拾った貝殻と魔石の破片だな。食べ物以外で一番海に行ってきたことが伝わるし。

そして次に食料だな。とりあえずエーガルさんから貰った魚の干物と、スモールガニの干物、俺が氷魔法で凍らせた魚で十分だな。

これ以上は贅沢ってものであいつらを調子に乗らせるだけだ。

俺はカバンを取り出して、そこに貝殻と魔石の破片が入った木箱を入れる。

凍らせた魚や干物が入った壺などは後で空間魔法から取り出せばいいや。いちいちカバンの中に入れて持ち歩くと重いし。

お土産の準備が整った俺は、自分の部屋から出て一階にある玄関へ向かう。

そして外靴に履き替えていると、エルナ母さんが後ろから声をかけてきた。

「アル、どこに行くの?」

「トールの家にお土産を渡しに行くー」

「トール君の家に? 屋敷に来てもらうのじゃダメなの?」

「ん? エルナ母さんが客人を呼ぼうとするなんて珍しいね」

エルナ母さんは屋敷でのんびりと過ごしたいと思っているので、どちらかと言うと他人を屋敷に招くのは好きではない方だ。

家でゆっくりしている時に子供の友達がやってきて騒がしくなると気が散るし、招いた側も気を遣わなければいけないからな。

俺も普段は屋敷でゆっくりと過ごしていたく、その気持ちが痛いほどわかるので基本的にトール達を招く事はあまりない。

だからこそ、俺と同じ気持ちのエルナ母さんが必要でもないのに進んでトール達を招こうとしている理由がわからない。

「だって、アルがいなくなると暑くて困るんだもの。アルがいなくなったら誰が氷魔法を使ってくれるの?」

珍しい事を言い出すと思ったら理由はそれか。

「氷の魔導具があるじゃないか。あれで氷を作って部屋にでも置いておけばいいよ」

「それでも涼しいけど、やっぱりアルがいないとダメなの」

「真面目な表情でカッコよく言ってもダメだよ。それじゃあ、俺は行ってくるから」

気持ちはわかるが久し振りにコリアット村を見たいのだ。エルナ母さんに言いくるめられる前に、俺は振り切って外に出る。

すると、温かい空気が俺を迎え入れた。

氷魔法で冷気を振りまいている屋敷とは大違いだ。早くも心がくじけそうになる。

「ほら、外は暑いわよ? 涼しい屋敷の中でゆっくりしましょう?」

エルナ母さんから背後で悪魔の囁きをしてくるが、俺は耳を貸さない。

「大丈夫。俺は魔法で冷気を纏えるから」

俺は氷魔法を発動して自分の周りを漂わせる。それだけで温かい空気は見事に押しやられた。

「くっ、これだからアルは」

氷魔法が使える俺を羨ましそうにするエルナ母さん。

ふふふ、夏であるが故に氷魔法が使える俺の地位はいつもより高いのだ。

とはいえ、俺がいなくなると屋敷が暑くなるという理由は凄くわかるので、応急処置を施す。

土魔法でたくさんのバケツを作って、そこに氷をぶち込んでおく。

「これを置いておくだけで冷気が出て涼しくなるはずだよ」

「あら、ありがとう。気を付けて行ってくるのよ。氷魔法が使えるからといって水分補給を忘れちゃダメよ?」

俺がいなくても暑さ対策ができるとわかると、エルナ母さんはにっこりと笑顔を浮かべて送り出した。

屋敷を出た俺は、冷気を纏いながら一本道を進む。

季節は夏。遠くにある山々は緑色。広がる空は青々しく宙を漂う雲はとても白い。

この色鮮やかな光景こそ夏らしい風景だ。

冷気を纏った俺は暑い気温に負けることなく、景色を楽しみながら悠々と歩く。

道脇に生えている草は青々としており、暑さに負けることなく立派に天を向いている。ところどころ咲いている花々も萎れることなく、綺麗な花を咲かせていた。

「植物は凄いな。こんな炎天下に晒されているというのに萎れないなんて」

勿論、定期的な雨で水を得ているのはわかるが、人間がこのように一日中、水も飲まず日光下にいると間違いなく倒れるだろうな。

花の色を楽しみながら耳で小川の流れる水の音に耳を澄ませる。小川の傍には大きなカエルがいるのか、ウシガエルのような鳴き声が聞こえる。

シルフォード領にはなかった景色に音がどこか懐かしかった。

いつもよりも風景を楽しみながら歩くことしばらく、いつの間にか俺はコリアット村の近くにきていた。

ここまで来ると畑にはチラホラと村人の姿が見えるようになる。

もうじき麦の収穫期であるからか、村人の皆は麦の手入れに余念がないようだ。虫を取ったり、雑草を抜いたりしている。

「あっ! アルフリート様、お帰りなさい!」

「うん、ただいまー」

こちらに気付いて挨拶してくれる村人に返事をしたり、手を振っていると前方にルンバ、ゲイツ、ローランドのおっさんがいるのが見えた。

見ているだけで周囲の気温が上がるようなむさ苦しさだなと思っていると、向こうもこちらに気付いたのか手を振ってくる。

「おっ、アルじゃねえか。久し振りだな! 確かよその貴族の家に遊びに行ってたんだっけ?」

「まあ、そんな感じだね。そっちは?」

「ゲイツとローランドの畑の草むしりを手伝ってやったところだ!」

「フッ、三人がかりで畑の雑草をむしってやったからな。半日もかからずに終わった」

「それでもやっぱり腰が痛ぇな」

ルンバとゲイツがガハハと笑い、おっさんが腰をトントンと叩く。

三人で一緒に草むしりをするとは仲がいいな。

「んで、アルは今日は……」

と、ルンバが言いかけたが何故か口を閉じた。

「ん? どうしたのルンバ?」

「……何かアルの周りだけ涼しくねえか?」

眉をひそめながら言うルンバに俺はドキリとする。鋭いな。

「ん? 本当だな。何故か妙に涼しい……」

「何でアルフリート様の周りだけ?」

ゲイツとおっさんがそう言いながら俺に近付いてくる。

むさ苦しいおっさんが、俺の周りを徘徊しても何も嬉しくない。というか肉食動物にたかられる草食動物のような気分だ。

「あっ! アル、あれだろ! 氷魔法使ってんだろ! それで涼しくできるなら俺達にもやってくれよ!」

俺が微妙な気分でいると、ルンバは思い出したかのように言う。

ルンバは俺が氷魔法を使えると知っているからな。

「ふむ、そのような便利な魔法が使えるなら是非ともかけて欲しい」

「さもないと俺達でアルフリート様に抱き着くハメに……」

「おう、そうだな。体力には自信があるぞ」

両腕を広げてにじり寄りながらとんでもない脅迫をしてくる三人。

転移魔法があるので物陰に隠れればこちらの勝ちだが、ここは生憎麦畑ばかり。遮蔽物がないので転移する場所もない。

俺が一目散に逃げ出しても驚異的な身体能力を誇るルンバに捕まって、おっさん達の猛烈なハグを食らうだけだ。

「ま、魔法をかけるからそれだけは勘弁して」

ここは餌を与えて穏便にやり過ごすことにした俺は、素直に氷魔法を発動して冷気を漂わせる。

「「「ひゃっほーう!」」」

すると、三人は甲高い声を上げて小躍りする。

まるで干ばつの地に、久し振りに雨が降った時のような喜びようだ。

「うおー! 涼しい! 道理でアルが涼しい顔で歩いているわけだ!」

「すげー! 魔法って偉大だな!」

そうそう、魔法とは身近にある不条理を覆す力だしな。暑さも寒さも魔法の力で吹き飛ばしてしまえばいいのだ。

「アル、俺はかき氷が食いたいぞ! あれも作ってくれ!」

「「かき氷って何だ!?」」

ルンバがそのような注文をつけてくると、ゲイツとおっさんが即座に興味を示す。

「もう、しょうがないな。作ってあげるからちょっと待ってて」

このままでは冷気目当てにずっと付いてこられる可能性もあるからな。

ここはかき氷でも与えておさらばさせてもらうとしよう。

そう考えた俺は、土魔法でお椀を作りだし、そこに細かく砕いた氷を入れていく。

すると、みるみるうちにお椀の上にかき氷が積み上がった。

日光に反射してキラキラと輝く白いかき氷は、とても綺麗だ。

「なんか米みたいだな」

「ふむ、氷を細かく砕いたのか。キラキラしていて美しい」

かき氷を初めて見るおっさんとゲイツは物珍しそうにして感嘆の声を漏らしていた。

かき氷が出来上がると、土魔法でスプーンを作ってやる。

「はい、できたよ」

「なあ、前みたいにブドウジュースみたいにかけたら美味しい物とかねえか?」

俺が完成品を差し出すと、ルンバが鞄を見ながら物欲しそうに言う。

「さすがに持ってないよ。今日はトール達にお土産を持ってきただけだから」

鞄を開けて、そのような食料品がないことをアピール。

すると、ルンバはちょっと残念そうにする。

まあ、一度あのかき氷の味を知ってしまえば、もう一度食べたくなってしまう気持ちもわかるな。

「ふむ、氷だけで食っても美味いが、何かをかけて食べるとより美味しくなるという訳か?」

「おう、そうなんだ。蜂蜜とかジャムとかフルーツジュースでもあればいいんだが」

「だとすればいいものがある」

そう言ってゲイツは腰にかけてある水筒を取り出す。

「ん? 水なんかかけても美味くならねえぞ?」

おっさんが訝しみの声を上げるが、ゲイツは勿体ぶったように人差し指を振るう。

「違う。この中身は赤ワインだ」

「お、おお? それはちょっと合いそうだな」

ルンバの言う通り、かき氷に赤ワインとか結構合いそうだな。赤ワインといえば、元はブドウだし普通に美味しそうだ。

「じゃあ、ちょっと入れてみる」

そう言ってゲイツが水筒の蓋を外して、かき氷へと注ぐ。

真っ白な氷が赤いワインの色に染め上げられていく。

しかし、赤ワインの方が温かいせいか、かき氷がパキパキと音を立てて溶けてしまう。

「ぬあああ! しまった! 赤ワインが温かいせいで氷が溶けた!」

「いや、完全に溶けていないシャーベット状だよ! 多分今でも美味しく食べられるよ!」

温かい赤ワインのせいでかき氷は急速に小さくなったが、全部溶けた訳ではない。ちょうどいい感じに溶けてシャーベット状になっているのだ。

頭を抱え込むゲイツに助言を与えると、ゲイツは我に返ってスプーンですくう。

それから赤く染まったシャーベットを口に。

「……確かに。先程よりも食感は落ちたものの、これはこれで良いな」

目を閉じて恍惚の表情を浮かべるゲイツ。軽く顔を上げたせいか、その長い顎がより強調されて見える。

「おお、美味そうだな! ちょっと赤ワインもらうぜ!」

「俺も!」

美味しそうに食べるゲイツを見て、ルンバとおっさんもかき氷に赤ワインをかけていく。

「甘いブドウジュースもいいけど、赤ワインをかけて食べるのもいいな!」

「俺、毎日これ食べてから寝たいぜ!」

暑い夏の夜は冷たいアイスとか食べて眠りたくなるからな。おっさんの言葉は非常に共感できる。俺ってば、最近では毎日のようにアイスを食べて寝ているし。アイスを食べないと一日が終わらないと言っても過言ではないな。

「というか俺も赤ワインをかけて食べたいな」

目の前でこうも美味しそうに食べられると、俺も食べたくなってしまう。これシャーベットとしてだけではなく、赤ワインのカクテルとしても楽しめるではないか。

「んー、アルはまだ子供だしな」

「少しだけならいいんじゃねえの?」

ルンバは微妙そうな顔をするが、おっさんがニヤリと笑って言う。

「もしものことがあったら、俺達では責任がとれないからやめておく方がいいだろう」

まあ、ゲイツの言う通りだよね。俺はまだ七歳だし、少しくらいというノリで飲ませていい年齢とは言い難い。やはり十歳くらいにならないと無理だな。

「そだな。領主様の子供に酒を飲ませたってバレたら何を言われるかわからねえしな。残念だなアルフリート様。赤ワインをかけて食べるのは諦めな! ハハハ!」

とは自分でも納得していたものの、このようにからかわれるとちょっとイラっとする。

「あ、そういえばルンバ。まだ、おっさんに一番美味しいかき氷の食べ方を教えていないんじゃない?」

「お、そうだったな!」

俺の言いたい事が瞬時にわかったルンバは悪戯っ子のような笑み――というレベルを遥かに超えた凶悪そうな笑みを浮かべる。

「なんだなんだ! これ以上に美味い食べ方があるのか?」

俺とルンバの笑みに何かを感じたゲイツは傍観を決め込んだが、おっさんは気付かずに食いついてきた。

それから俺とルンバが、かき氷の一番美味しい食べ方を教えてやると、おっさんは頭を抱えて叫ぶほどに喜んでくれた。