軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

手を振り合う

『おい、エリック様の隣を歩いている人が、この村に来てる貴族様か?』

『そうじゃねえか? だって、メイドさん連れてるし。シルフォード家のメイドさんはあんな服じゃなかったはずだ』

エリックに連れられて村の道を歩いていると、見慣れない俺達が珍しいのか村人がそんな会話をしているのがうっすらと聞こえた。

「何か妙に視線を感じますね? 私達見られています?」

「まあ、そうだね。特に目立つのはミーナだけど」

「え? 私ですか?」

ミーナが不思議そうに首を傾げると、エリックが口を開いた。

「我が領内にスロウレット家が来ていることは周知の事実だからな。俺が見慣れぬメイドと子供を引き連れていれば、二人がスロウレット家の者だとわかるだろう」

何せ俺達はデカデカとドラゴンの紋章を掲げた馬車でこの道を通ったのだからな。エリック家のメイドが村に買い物をしに来ることはあるだろうけど、同じメイド服でもデザインはかなり違うし、顔だって見知ったものではないだろう。

そうなれば、外からきたスロウレット家の貴族だと村人が察するのは当然だ。

「でも、王都に行った時は、そこまで注目されていませんでしたけど……」

「あそこは様々な貴族が集まってくる場所だからな。メイドと貴族が街を歩いていようが誰も気にせん」

「まあ、ミーナが王都の雰囲気でテンションが上がって、気にしていなかったってのもあるけど……」

「しょ、しょうがないじゃないですか! あの時は王都が初めてだったんですから! というかアルフリート様も少しテンション上がってましたよね?」

「俺はそういう視線とかに気付くくらいには落ち着いていたよ」

中性ヨーロッパ的な建造物と巨大な城にこそ圧倒されはしたが、ミーナのようにたくさん人がいるとかではじゃいだりはしていない。

「ぐぬぬ、ここで違うと否定しきれないのが悔しいところです」

ふっ、伊達に前世で通勤ラッシュを潜り抜けてきた訳ではないのだよ。

「まあ、この村の人からすれば、外から来た俺達は物珍しいだけだよ。村人の声なんて放っておけば……」

『あれがスロウレット家の貴族様? 例のドラゴンスレイヤー様の息子さんかな?』

『ドラゴンスレイヤー様のご子息は美男美女って噂で聞いたけど……』

「ちょっと! その続きの言葉は何なの!?」

俺が思わず振り返って叫ぶと、女性の村人が驚いてそそくさ去っていく。

「アルフリート様、気にしないんじゃなかったのですか?」

「いや、今のは気にするでしょ! 気になるでしょ!」

この世界の人々は田舎の地方に住む人ほど、肝が据わっているというか自由というか。そんな傾向がある気がするのは俺だけだろうか?

首を傾げながらそんな事を思っていると、エリックが肩に手を置きながら半笑いで、

「……アルフリート、強く生きろよ」

「うるさい、ぼっち」

俺がそう言った瞬間、エリックが胸倉を掴んできた。

「何だと!? 死んだ魚のような目をしおって!」

「あああ! お前言いやがったな! 朝から俺と遊びたくてずっと廊下をうろうろしていた癖に! ミーナから聞いたから知ってるんだぞ!」

「そ、そんな事あるか! 誰が貴様なんかと遊ぶために――」

『お? エリック様が喧嘩か?』

『スロウレット家の貴族様と仲が悪いってのは本当だったのか?』

俺とエリックが言い合っていると何やら、いつの間にか多くの村人がこちらを見ていることに気付いた。

集まって来る人の多さに思わずビビっているとミーナが俺達の傍に寄って、小さな声で。

「ちょっとちょっと! 二人共! 今回の旅の目的は周囲に友好を示すことじゃなかったんですか!? 喧嘩なんてして不仲な噂が立てば、ご両親に怒られますよ!?」

「「……そ、そうだった」」

いかん、このままではまたシルフォード家とスロウレット家は仲が悪いなどと言われて、ノルド父さんとエルナ母さんに怒られるハメになる。

さすがに二回目は洒落にならない。それはエリックも同じはず。

俺とエリックは即座にアイコンタクトをして頷き合う。

すると、エリックが胸倉を掴んでいた手をスルリと肩へ回してきた。

「ひいっ! 気持ち悪っ!」

「黙れ。俺だって貴様なんぞにやりたくはないわ」

俺が微かな悲鳴を上げると、エリックが即座に言い返してきた。

仕方がない。エリックの腕が巻き付いてきた蛇のようにしか思えないが、ここは我慢してやろう。

「そうさ! 今日は天気もいいしな! 貴様を誘って村へ案内しようと待っていたのだ!」

一瞬、隣で喋っていた奴が誰かわからなくなったが、俺の視界に映っているのは紛れもなくエリックだ。

「何だよ、そうならそうとさっさと起こしてくれればいいのに! 変なところで気を遣いやがって!」

「はははは! まあ、友を待っている時間というのも楽しいものだからな! ところで、アルフリート、川に行かないか? そこらの街にも負けない立派な橋があるのだ! それを是非見せてやりたい!」

「おお、本当か! それは興味がある! 是非連れて行ってくれ!」

俺とエリックは、そんな白々しいやり取りをしながら仲良く肩を組み合って歩いた。

「おい、もういいよな?」

「ああ、周りに村人もいないし十分だろう」

俺とエリックはしばらく歩いたところで、そう言い合い、組んでいた肩を即座に離した。

「さっきの事はなかった。それが俺とエリックにとっても最もいい選択だ」

「ああ、そうだな。だから、さっきの事は触れない気にしないだな」

俺とエリックはお互いにそう頷き合う。違和感のある首周りを拭った。

すると、ミーナが複雑そうな表情で、

「……何だか、二人は仲がいいのか悪いのかわかりませんね。でも、何となく見ていると、トール君とアルフリート様の関係を彷彿とさせます」

まあ、エリックはもう既に奴と同じく悪友カテゴリーだからな。ミーナがそう思ってしまうのも無理もないだろう。

「ん? トールというのは誰のことだ?」

「今度村に来たらわかるよ」

トールという人物については、どんなに口で語ろうとも悪ガキやクズという説明しかできない。そんな不毛な事を言うくらいなら、会って直接会話をさせた方が遥かに楽だ。

エリックとトールを引き合わせると、どのような化学反応が起こるかまったく想像つかないけどな。

「それより、あれがさっき言っていた橋だよな?」

「……おい、さっきのことには触れないのではなかったのか?」

「いや、これはそういう意味で言ったんじゃないし、仕方がないだろう」

確かに触れないとは言ったが、咄嗟に出てしまったものは仕方がないし、そう以外に言う言葉が見当たらなかった。

「まあ、いい。そうだ。あれがうちの村で最大の橋だ」

エリックが指さす先には、大きな川があり、その上にまた大きな橋が架けられていた。

「凄いですね。馬車の窓から見た時よりも、ずっと大きく感じられます」

ミーナの言う通り、馬車で遠目から見るよりも近くで見た方がより立派に感じられる。

馬車が三台横に並んでも問題ないくらいの横幅で、それがずっと奥にある向こう岸まで続いている。

赤レンガが使われていたり、支柱部分がアーチになって装飾が加えられていたりと何ともファンタジー世界を感じさせるな。

「凄いね。どのくらいの長さがあるの?」

「百五十メートルくらいだと父上から聞いた」

おお、その規模の橋が村にあるというのが凄い。

エリックが、そこらの街にある橋にも負けないくらいと言い張るのも納得だ。

大きな橋を一通り眺めると、俺達は直接その上を歩くべく向かう。

橋の真ん中くらいまで歩くのは面倒なので程よい所で止まると、転落防止の柵に寄りかかって景色を眺める。遠くには川の流れる先である海が見え、どこまでもひたすらに青くて綺麗。今日は天気も良く、風も程よいのでいくつかの船が海に出ているみたいだ。

「あ! あの船はエルナ様達が乗っている船じゃないですかね!」

ミーナが元気よく指さす場所を見ると、見覚えのある船が港の方へ帰ってくるのが見えた。

試しに目に魔力を集めて見てみると、船の上では楽しそうに喋っているノルド父さんやエーガルさんが見え、シルヴィオ兄さんはやはり酔ってしまったのかエルナ母さんとナターシャさんに介抱されている様子。

「うん、エルナ母さん達だね。多分、シルヴィオ兄さんが酔ったから早めに引き返してきたんだよ」

「何故そこまでわかる?」

俺が状況を説明すると、エリックが不思議そうに首を傾げる。

「魔力を瞳に集めれば、結構遠くまで見えるものだから」

「え? こんな遠くても見えるんですか? 何かちょっと怖いです」

ミーナ、気持ちはわからないでもないけど、そのちょっと引いたような感じは止めてほしい。必死に弁明したくはあるけど、言っても泥沼にしかならない気がするので俺は何も言わないことにした。

しかし、シルヴィオ兄さんはまた酔っちゃったんだなー。

なんてことを思いながら視線を動かしていると、不意にノルド父さんと目が合った気がした。

「ん?」

気のせいかな? 今ノルド父さんとバッチリ目が合ったような……いやいや、気のせいだよね。きっと村の近くまで帰ってきたから何気なく見える村を眺めていただけだよね?

王都の上空のように視界で見通しもよく目立つ場所ならともかく、お互いに視線がいく場所が多すぎる状況だ。距離だって軽くキロ単位で離れているし目が合うなどということは……。

などと考えていた俺だが、ノルド父さんが苦笑いしながら手を振っていたことでぶっ飛んだ。

思わずエルナ母さんの方に視線をやると柔らかな笑みを浮かべながら手を振っていた。

とりあえず俺は手を振られたので、それに応えるようにして手を振り返す。

「アルフリート様、誰に向かって手を振ってるんですか?」

「ノルド父さんとエルナ母さん」

「まさか、あの二人も魔力を目に集めるとか何とかって方法でこちらが見えるってことですか?」

「多分ね」

あの二人がその程度のことをできないとは思えないし。見られているとわかった瞬間、ミーナの身体が少し強張る。

何も悪いことはしていなくても、上司に当たる人から見られているってわかると緊張するよね。

「と、とりあえず、私も手を振っておきます」

「よくわからんが俺も振っておこう」

俺とミーナとエリックは、遠くにいるノルド父さんとエルナ母さんに向けて仲良く手を振った。

これで少しは仲良しアピールができた気がする。