軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔法使いは侮れない

「それじゃあ、稽古は終わりよ。皆集まってちょうだい」

エリックとの戦いのようなものが終わり、一休みしているとエルナ母さんが集合の声を上げた。

すると、それぞれの魔法稽古に励んでいた皆が即座に切り上げて、エルナ母さんの元へ駆け出した。特にエリノラ姉さんが魔法から解放されたような晴れやかな笑顔が印象的だ。

正直立ち上がりたくないが、稽古が終わりと聞くと力が湧いてくるもの。

俺は重い腰をなんとか上げて、皆が集まる場所へと向かう。

今回の集合場所は残念ながら日陰ではなく、日向だ。

多分、具体的な魔法の実演をするために広い場所へ出る必要があったのだろうな。

エルナ母さんと俺のこういう時の思考は似ているので、きっとそうに違いない。

全員がエルナ母さんの前に並ぶと、エルナ母さんは「コホン」と喉の調子を整えるように咳払い。

「はい、今日はお疲れ様。午前から剣の稽古、午後からは魔法の稽古と大変だったけど、よく頑張ったわね」

大変だとわかっているのなら、もうちょっとスケジュールを緩めてもいいと思う。

具体的には午前は休みか、同じく魔法の稽古でよかった。

そうすれば疲れることもなかったのになぁ。

なんて心の中で思いながら、エルナ母さんの触りの挨拶を聞き流す。

「さて、それじゃあそれぞれの総評に移るわね。まずはルーナさん」

「……はい」

「ルーナさんは、魔法の基本部分は押さえられているけど、まだまだ粗削りで自分なりのイメージが掴めていなかったわね。でも、そこはアルに教えてもらっていたみたいで、土弾の圧縮が少しだけできるようになっていたわね」

「……エルナ様とアル君のお陰」

何というかこうも真っすぐに言われると、少し面はゆい気持ちになるな。

「後は魔力の循環を毎日して魔力の制御も高めていけば、もっと魔法をスムーズに使えると思うわ。戦闘でも上手に使えていたし、このまま頑張ってね」

「……はい、頑張ります」

うんうん、ルーナさんは一番魔法の素養があるみたいだし、このまま成長すればいい感じになりそうだ。剣術や体術も凄いし、将来は土魔法を使いこなしながら戦うバランスのいい魔法剣士みたいになりそうだ。

剣術も体術も魔法も隙がないとか、常人は勝てるのだろうか。改めてエリノラ姉さんの友人は凄いと感じられるな。

「次はエリノラね」

「はい!」

「相変わらず身体強化とかの体内系の魔力循環は上手なのに、放出系が苦手なようね。火球を改善できたようだけど、規模の制御や防御系と課題はまだまだあるわね」

「……はい」

おお、さすがに身内だけあってか少々手厳しい。が、次の瞬間エルナ母さんは表情を和らげる。

「でも、魔法の苦手なエリノラが、魔法での一つの武器を手に入れたのは大きな一歩ね。このまま少しずつでいいから使える魔法を増やしていってちょうだい」

「はい!」

確かに有効的な魔法攻撃手段を得たのは事実だな。

あの投げる火球は、無茶苦茶だけど結構な威力があったし、コントロールも問題なかった。

応用性は少ないが、単純な魔法攻撃として十分使えるだろうしな。

「魔法戦闘に関しては、少し考えなしに突っ込み過ぎね。アルみたいな搦め手が得意な相手の場合、様子を見たり、相手の意図を推測して立ち回った方がいいわ」

チラリとこちらを見ながらアドバイスをするエルナ母さん。

自分がそういうタイプだと理解しているが、搦め手と面と向かって言われると複雑な気分だ。

「貴様は狡いからな」

「賢いと言え」

エリックがぼそりと呟いた言葉に即座に反論。

先程、魔法でコテンパンにやられたことを恨んでいるらしい。

最後はやり過ぎては可哀想と思って、少し引きずるだけにしておいたのだが、地中に首ぐらいまで埋めてやればよかった。

俺がそんなことを思っていると、エリノラ姉さんへのアドバイスは終わり、シルヴィオ兄さんへ移る。

「シルヴィオだけど……防御魔法だけ妙に上手いわね? 攻撃魔法もあれくらいそつなくこなせれば、大分バランスがよくなると思うのだけれど……」

シルヴィオ兄さんは防御魔法だけ妙に上手かった。

剣術での盾の扱いといい、剣での防御といい、やっぱりシルヴィオ兄さんには防御の才能があるのではないだろうか。

空気を操る風魔法での障壁はかなり難しいから、きっとそうに違いないな。

「よっ、シルヴィオバリア」

「そんな風魔法はないよ」

「シルヴィオバッシュといい、その言葉は何なのだ?」

「……私も気になる」

俺とシルヴィオ兄さんのやり取りを聞いていて不思議に興味を持ったのか、エリックとルーナさんが尋ねてくる。

「ふふふ、それはねえ――ぶっ」

「教えなくていいから!」

俺が自慢げに教えようとしたら、シルヴィオ兄さんが手で口を押えてきた。

今ここで教えたら拗ねるやつだな。後でエリックが尋ねてきたら、こっそりと教えてあげることにしよう。

「はいはい、まだ話の途中よ」

俺達がそんなことをしていると、エルナ母さんが手を叩いて言った。

すると、各々勝手に動いたり喋っていたりした皆が、即座に定位置に戻る。

エルナ母さんの話し方って、ノルド父さんやエーガルさんに比べると柔らかいから、どうしても気が緩んでしまうな。

「シルヴィオの今後の課題は、攻撃魔法もスムーズに発動できるようになることね。風魔法は他の魔法よりも繊細で難しいから、日頃から空気や風の流れを意識して感じること」

「は、はい、攻撃魔法も頑張ります!」

シルヴィオ兄さんが、威勢よく返事をするとエルナ母さんがエリックに視線を向ける。

すると、エリックは身体をピシッと正して直立した。

「エリック君は……」

「はい!」

返事をするのが速い。

そんなエリックを見て、エルナ母さんは優しく諭すように、

「もっと基礎から頑張りましょうね。まずは魔力循環をして魔力の扱いをスムーズにすること。それができるようになってから一つずつ、魔法を使えるようになりましょうね」

「は、はい……」

その言葉は優しく言われているだけに、一番心に突き刺さるようだった。

そんなエリックを見かねたエルナ母さんが、優しくエリックの頭を撫でる。

「もっと、肩の力を抜いて気楽に魔法を楽しんでね」

「はい!」

おい、なに人の母親を見てデレデレしているんだ。お前はアレイシアさんという高嶺の花一筋じゃなかったのか。

俺がジトッとした視線を送ると、エリックは素知らぬ顔でスルー。

俺が思わず呆れていると、次にエルナ母さんがこちらに視線を向けてきた。

おお、次は俺か。これから何を言われるか少しドキドキしてきたぞ。

「次はアルだけど、さすがに魔法が得意だけあって基本的なことはできているわね。そういうところに関しては、口を出せるところが少ないくらいよ」

「ありがとうございます」

ふふふ、エルナ母さん程の魔法使いに褒められると純粋に嬉しいものだな。

「魔力も多いし、それに胡坐をかいて大雑把な魔法も使うこともない。だけど、なまじ自分の魔力で大抵の魔法ができてしまうせいか、細かな工夫や補うという発想が足りない気がするわ」

「補う発想とは?」

砂移動や砂乗りサーフィンとかでは足りないのだろうか?

俺が疑問に思っていると、エルナ母さんが水魔法を発動して辺りに水流を漂わせる。

「例えば、もし、水魔法が有効的に使える状態で敵が襲ってきたらアルはどうする?」

「うーん、水の質量に物を言わせて吹っ飛ばして気絶させるか、水球を顔に張り付かせて窒息させる」

俺がそう言った瞬間、周りにいるエリノラ姉さん、ルーナさん、エリックがギョッとした反応を見せた。

「あ、あんた水球でやたら顔を狙ってきたのって、そういう意図だったの?」

「……危なかった」

何だよ、水魔法を使うならこの程度の考えは当然だろう。

「そうね。アルの魔力の量ならそう考えるかもしれない。でも、私はそこまで魔力が多くないから魔力を温存して、もっと手間のない方法で無力化するわ」

「もっと手間のない方法? めっちゃ気になります」

今俺が思いついたものも結構楽な処理方法だと思うが、もっと楽な方法があるとなると気になる。

俺が興味津々で尋ねると、エルナ母さんは懐から瓶を取り出す。

「ちょっと物騒になるけど、私なら水魔法に痺れ薬を混ぜるわね」

「おお! なるほど! 水魔法に混ぜて自在に操作して、相手に当てるだけで痺れさせて無力化すると!」

「ええ、雷魔法が使えるならそっちも悪くないけど、こっちは加減も効くし、無色透明だからただの水魔法だと言って油断させることもできるわ」

おお、日頃から母親としてある程度の尊敬はしているが、今日ほど大きな尊敬の念は抱いた事がない気がする。

エルナ母さん、マジで天才か。

俺は他の人に比べると魔力が多い。それは自分がその気にならないと使い切れない程。

魔力が多いせいか、どこか魔法の使い方が雑になってしまっていたかもしれない。

もう少し楽に手間をかけず、足りないなら魔力で補うのではなく、何かと掛け合わせるという発想をすれば広がりがでるのかもしれない。

「……ということは、エリノラ姉さんみたいな剣士相手に戦う時は、水に油を混ぜて当ててやれば剣を握れなくなるんじゃ」

「ええ、剣士殺しにもなるわ」

ふふふ、これでエリノラ姉さんに対する自衛手段が増えたな。

「エルナ、アル、皆がちょっと引いているから」

俺とエルナ母さんが笑い合っていると、見かねたノルド父さんが間に入ってきた。

周囲を見れば、俺が水球で窒息させる云々の時よりも四人がビビっていた。

そんな皆に対して、ノルド父さんが言葉をかける。

「まあ、こういう風に熟練した魔法使いは、思わぬ方法で攻めてくるから決して侮らないようにね」

「「「はい!」」」

ノルド父さんの最後の締めくくりが、皆の心に一番響いていた気がした。